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第1話 魅入られたきっかけ

 いつの頃だったか。茉歩(まほ)はとある記憶を『正確に』思い出すことが出来ないでいた。それでも大人になった今では、時折夢にてそれらを思い出そうとしている。


 幼い頃に出会い、感じた。あの鮮やかできらびやかな感情と光景を。黒いだけの塊が、道具で打てば赤く燃え上がり形を変え。とても美しい『業物』となっていく光景を。


 その段階まで夢で思い出すことが出来、かつ現実でも記憶に残っていたときに端末で調べた結果。


「……刀、鍛冶?」


 しかも、作り手が人間でないことまで思い出せたのは。トピックに『AI導入』が多く掲示されていたからだ。大きさこそは人間と同等であれ、彼らは十数年前に研究者により試験的に導入されたロボット紛い。


 そしてそれらの『機械』を正式に導入したのは、自分よりも少し歳上の男性だとわかった時には……驚き以上に懐かしいと思ったのは何故か。


 具体的には無理だったが、調べ終えたあとにひとつ決断したことがある。記憶とは関係なしに、男性には別件で用事があったからだ。引き受けたときには上司の命令だからと頷くしかなかったが。探せと言われた張本人がその男性だった。


多知獺(たちかわ)柊司(しゅうじ)】。



 僅か、二十八歳の若さにして……実用化可能にしたAIをほぼひとりで開発したのだが。その実用が運行されてすぐに、所属研究施設をあっさりと退職。遠方へ移り済んだとされていたとしか茉歩は上司から渡された情報でも、一応聞いてはいた。


 それだとしても、茉歩自身の記憶と該当する仕事に関わっていただなんて、と。トピックの詳細を調べて行くうちに……茉歩は散らかしていた荷物をボストンバックではなく、キャリーバックに詰めるだけ詰めるまで意欲的に動いていた。



「上役の命令はついで。確かに行かなくちゃ」



 偶然だとしても、あの記憶は確かめたかった。ここのところ、もやもやしていたものが引っかかって嫌だったのが……態度に出ていて、上司から雑用紛いの捜索依頼をされたけれども。


 もともと、退職は考えていたのと。半分旅行ついででいいような命令ならば。辞める前に有給ついでと楽しんでしまえばいいのだ。今時、退職直前に有給消化として数週間の旅行へ行く元社員は意外にも多い。世間的に、退職志願者がそうすることも知っている。


 茉歩もそうしているだけだ。そう思うことにした。


 引越しも前提にしてたから、散らかしまくっていた荷物はケースに詰めても大して減っていなかったが。暇つぶしにネットサーフィンしていただけなのに、ここまで行動力を起こすとは。


 小さいアパートだが、ここにもAIは少し設備としてあるので。留守中のセキュリティを任せてから、部屋を飛び出した。新幹線もだが、ローカルな電車も乗り継ぎ……その場所へと向かう。


 岐阜の山奥のひとつ。刀鍛冶の里のひとつとされる……関市へ。


 会いに行くために、東京から数時間かけて茉歩は大移動を始めたのだ。

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