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可愛くなりたい私4

 ある程度進んだところで、黒以外の色を見かける。落ちていた気分が浮上する。やった!早足で近付くと、茶色い扉のような物が見え、急いで近付いた。黒以外の色を見て安心する。茶色い木製の丸いドアノブが付いた、縁が金色の扉。開けるかどうか迷ったが、周りには何もないし、この扉以外で外に出れるか分からない。ドアノブを回転させると、ガチャ、と回る。後ろの黒を振り返り、私は思い切って出てみる事にした。ガチャ、と扉を開けると、明るい光が目に入る。目の前が真っ白になった。


 明るい光で目がチカチカする。目を瞑り、慣れるまで待った。暫くして見ると校舎に出たことが分かった。今度は学校?辺りを見回すと、見慣れた校舎が見える。ここ、私の学校か。良かった、知ってる場所で!顔が綻んだ。そこで近くの教室からガチャ、と言う音が鳴る。扉を開けて、制服を着たある人物が出て来た。ミディアムの黒髪に黒い瞳、平均より高めの身長。咲だ!目の前が一気に明るくなり、笑顔が溢れた。


「咲!良かった!何か変な暗いところに寝間着でいて、扉を開けて出たらここだったの。会いたかったよ!」


 彼女に駆け寄って嬉々として大声で話しかける。ニコニコして彼女の横顔を見た。数秒後、おかしい、と首を傾げる。目が全く合わないし何も言わない。こんなに近くだから聞こえていないはずがないのに。普段なら何故寝間着なのかと問われる。そして何かあったのかと聞いて来るはずだ。目線も合わないってことは、まさか私が見えていないってこと?固まっていると、咲は顔を横にずらした。そして、笑顔でそちらに声をかける。


 彼女が呼んだ名前に雷が当たったような衝撃が走った。


「え?」


 咲は向こうに立っている人物の元へ駆けて行った。なのに私の足は棒のように動かない。数秒経ってからギギギと機械のように彼女の方に首を向けると、誰かと笑顔で話している。


 そこにいるのは私達の学校の制服を着た女子だ。ポニーテールの茶髪に黒目の、身長がやや低めの人。あそこにいるのは、先程彼女に呼ばれた人物は。


「私……!?」


 私、渡辺凛だった。


 いや違う!私はここにいる。あの私は全体的に何故か輝いて見える。私にそっくりだけど、私じゃない。まさかドッペルゲンガー?とうとう会ってしまったってこと?でも向こうは私に気付いていない。見えているかも怪しい。今なら逃げれるかも。


 後退りしようとして、それでも、と足は動かさない。咲、それは私じゃないよ。私はここにいるよ。


「私に気付いて!咲!」


 手を伸ばした。大声で叫ぶ。その瞬間、上からシャッターが降りたように、視界が真っ暗になった。


 意識が浮上する。頭が痛い。押されるように痛む頭を手で抑えて周りを見ると、そこは私の部屋だった。寝間着を着ている。時計を見ると、深夜の2時。いつもの光景だ。


「夢だったってこと……?」


 ホッとため息をつく。すると、暖かい水が頬を伝う。手で拭うと、それは涙だった。


「何て夢なの……。」


 私は脱力して、ベットに倒れ込んだ。今日はもう寝れないだろう。


 ちなみに後日咲にこの話をすると、そんなことあるわけがないと笑い飛ばされ、子供のように頭を撫でられた。頰を膨らます私を彼女は微笑んで見ている。彼女の笑顔を見て、安心した。


 最近、色んなことが続いて疲れた。私は不安になり家の洗面所の鏡を覗いた。無機質なガラスに自分の暗い顔が映っている。どうも気分がスッキリせず、少し前に見た夢を思い出す。鏡越しに自身に問いかけた。


「私は私、だよね。」


 呟く声に誰からも返事は返って来ない。自分の顔だけが私を見ている。掴んだ洗面台の縁が氷のように冷たく感じた。


◇◇◇


 授業の合間の休み時間、踊り場で自分の顔を見た。げっそりとしていて、不安そうな顔だ。身体も重い。


「何で私がこんな目に……。誰か他の人なら良いのに。」


 不満を溢し、握り拳を作って俯く。


 その瞬間、誰かに横から凄い勢いで痛いくらいに腕を掴まれる。


 身体がビクッと跳ね、大きな声で叫んだ。


「え?きゃあああ!!!」


 振り払おうとしたけど外れない!横を見ても誰もいない。見えない誰かに掴まれている!ゾッとし、ダラっと流れる冷や汗。ブンブンと手を勢い良く縦に振る。早く離して!


 先程よりグイッと引っ張られ、たたらを踏んで。


ーふっと。意識が闇に呑まれた。


◇◇◇


 静かな踊り場。鏡の前に茶色い、私、凛の鞄が落ちているのを見て拾い上げる。ポンポン、と埃を払い、肩にかけた。


「凛、ここにいたのね。早く行くわよー!」


 咲の声が聞こえる。私を探しに来てくれたみたい。後ろに振り返った。


「うん、行こう。」


 そして、踊り場の鏡を一瞥する。鏡の中の私はここ最近の様子が嘘のように笑顔だ。映る目は透明な色。瞬きをすると黒色に戻る。


 その後、私は振り返らずに立ち去った。


 戻ると、咲は、驚いたように目を見開いた。最近気落ちしていたのに、急に表情が明るくなったからだろう。


「凛、もう大丈夫になったの!?」


 咲が大声で叫んだ。心配したのよ!と腰に手を当てて怒る。


「ごめん、もう大丈夫だよ。」


 にっこり微笑むと、引き寄せられてギュッと抱きしめられる。苦しい。手をポンポン、と叩くと、更に力が強くなった。暫くしてから解放された。苦しかったー!でもそれだけ心配させてしまったのだろう。眉を下げて彼女を見た。教室に帰ると、私と目が合った皆が騒ぎ、友達に囲まれた。随分皆に心配をかけたらしい。なるべく明るく振る舞った。担任の後藤先生からも声をかけられ、心配かけてすみません、と頭を下げた。落ち着いた後、鞄から手鏡を出す。中の私が笑い返している。


 家に帰ると、お父さんとお母さんも驚いた顔をした後、安心された。


「元気になったのね!良かったわ!」


「お母さんと心配していんだぞ。」


()()()()()()()()()()()!」


◇◇◇


 凛が立ち去った後。踊り場には静寂のみが残った。


 鏡の中で白いもやがかかる。霧の中で、真ん中に肌色の人の手のようなものが現れ。その手は、背後から現れた複数の青白い手に引きずり込まれるようにして、消滅した。


 鏡は何事もなかったかのように周りを映し出している。


◆◆◆


 踊り場の鏡の前では時々女の子のか細い泣き声が聞こえるという噂がある。


◆◆◆


ーーー可愛くなりたかった、それだけなのに。私じゃない可愛い"私"がいても、それは私じゃないよ。


◆◆◆


 この前まで怖がってたけど、やっぱりドッペルゲンガーなんているわけがないんだよ。あんなに怖がって損したよ!


 元気が出て、家族や友達、先生、皆も安堵してたし。


 可愛くなった、なんて。嬉しいなあ。これから美容にはもっと気を付けよう!


 私?私は凛ー渡辺凛だよ。


 全く同じ顔をした人なんて、いるわけがないよ!


◇◇◇


(無音)


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