可愛くなりたい私3
長いので流石に二つに分けざるを得なかったです。
そのようなことが何回か起きた。暫くして。
「凛、最近貴方顔が暗いけどどうしたの?」
眉を顰め、心配そうな瞳の咲に聞かれた。それにはあー、と大きなため息をつく。
「どうしたの……、って。色々ありすぎなんだよー。」
両腕を摩り最近起きた事を一つずつ説明していった。
「どれもこれも身に覚えがないのに、皆私を見たって言うんだもの。」
「そう、確かに変ね……。何なら、私も前にいないはずの貴方を見たし。」
寒気が走る。気味の悪い話だ。それに普通に怖い。眉を寄せ憂鬱な顔をする。
「姉妹とか?でも貴方、いないものね。」
「うん、いないよ。」
咲は自分で自分の案を否定した。私もそれに同意する。私に兄弟姉妹はいない、一人っ子なのだ。彼女は暫く考え込んだ後、何かを思い出したようにパ、と顔を上げた。
「それドッペルゲンガーじゃない?」
「ドッペルゲンガー?」
首を横に傾ける。良く聞くあれかな?自分と同じ顔を持つ、ってやつ。でもあれって確か……。口を一文字に結ぶ。
「自分と同じ顔を持つ人に会ったら死ぬらしいわね。」
背筋が凍った。表情が凍りつく。咲は更に続けた。
「ドッペルゲンガーならどうしようもないわよ、外に出ないわけには行かないし、学校もあるから。会わないように祈るしかないわね。」
固まり何も言えない私を見て、咲は肩を竦めた。そして、優しい声でフォローが入れられる。
「分からないわ。何だったら向こうが消えるかもしれないわよ。」
「それは……分からないけれど。確かにあり得るかも。」
咲の言葉に頷く。気分が上向きになる。そうだよね。私が消えるとは限らないよね。彼女は片手を顔の前に上げ、横に振った。
「ドッペルゲンガーに会うなんて、まして死ぬなんて、ないわ。気にしすぎない方が良いわ。その方が早死にするわよ。」
明るい声で軽く笑われた。肩の重さがスッと消える。少し気分が軽くなり、目を細め笑みが浮かんだ。
「そうだね。ありがとう。」
部活動が終わり、暗い青が辺りを包む中、私は帰り道を歩いていた。普段からこれくらいの時間帯に変えることがあるので平気だ。
歩道で前だけを見ていたその時、後ろからコツ、コツ、と歩く足音。音からして大人か学生かな。そのまま足を進めていたのだけど。一緒の方角なのか、足音がずっと付いてくる。交差点で逸れるかと思ったけど一緒だ。そんなこともあるだろうな、と思っていたけれど。辺りが暗いせいか、少々不安になって来た。周りの黒がより一層濃く見える。この近くに住んでる人?もしくは私の家の近く?それにしても、ずっと一定の速度で足音がするって、何だか不気味だ。
少し早足になる。後ろの人が普通の人だったら、前の人が早足になったところで気にも留めないだろうし、問題ない。しかし。
後ろの足音がコッ、コッ、と急に変わった。そう、まるで相手も早足になったような……。やっぱり!これもはや確定だよ!私に付いて来てる!速度まで合わせて!友達、知り合いやご近所さん、と言う線はない。それなら普通に声をかければいい話だ。相手が早足になったら尚更。わざわざ速度まで合わせて追いかける必要はない。音からして子供の悪戯と言う可能性はない。友人や知り合いの悪戯にしても悪質だ。
バッと後ろを振り返る。誰もいない。それに走る寒気。私が振り返ると分かってて隠れたってこと?
私はもはや走っていた。足音はタッ、タッ、と走って付いて来る。何?ストーカー?姿が見えなかったけれど。離れて付いて来てるとか?それとも……。友達の言葉を思い出す。まさか。乱れる息の中、閉口した。まさか、ドッペルゲンガー?それが、今私の後ろに?
走りながら、鞄からスマホを取り出す。速度を保ったまま、小道に逸れた。後ろに立たれないように、民家の壁に背中をピッタリと付ける。途端に聞こえなくなる足音。私はスマホを自分の後ろに向けて写真を撮れるようにし、周りに向けた。誰もいないし動物もいない。周りにあるのは柵の向こうの木や家の壁などといったものだけ。
背後に誰もいないことを確認してから、そろそろと小さな歩幅で道に出て、周辺をカメラ越しに覗いた。影を見つけ、拡大すると遠く離れたところに人の姿はあった。また広範囲を撮れるようにする。近くには誰も写っていない。車道にはエンジン音が聞こえ、車は通っている。でも近くに駐車されている車はゼロだ。ぐるりと回転して自分の背後を写す。目線だけじゃなく、下から覗いたり、上から写したりした。人や動物の影もない。何だ、誰もいないじゃん。スマホを下ろして鞄に仕舞う。ホッとため息を付いた。
それでも、と思う。誰もいないし動物も写らないとしたら、あの足音は何だったの?ずっと一緒について来て、早足になると向こうも合わせて。一緒に走ってさえいた。全然安心出来ない。不安で怖かった。暫くキョロキョロした後、家に向かって歩き出す。早く家に帰って暖かい飲み物でも飲んで落ち着きたかった。足音の正体がドッペルゲンガーなのかストーカーなのかはもはやどうでも良かった。でももしドッペルゲンガーだとしたら、会わなくて良かったと思う。
次の日、咲達に昨日あったことを言うと悲鳴を上げられた。大変心配された。ドッペルゲンガーの不安だけじゃなく、ストーカーにも合ってるなんて、とのことだ。
「足音が付いてきた!?誰もいなかったですって!?大丈夫なの?怪我してないわよね?」
咲は鬼気迫る顔で私の体をあちこち触って無事を確認している。彼女の腕をポンポン、と叩いた。
「怪我はしてないよ。」
「ドッペルゲンガーかと思った?冗談でしょ?立派なストーカーじゃない!」
「凛、先生や警察に相談したら?何かあってからじゃ遅いのよ、私達女の子なんだから。何されるか分からないよ。相手は不審者なのよ?」
一人の友達は頰に両手を当て目を見開いた。もう一人は私の手を握り、真剣な目で言い聞かせるように言った。後の友達は怖い、と身を寄せ合っている。
騒いでいる私達に、他のクラスメイトは何だ何だと身を乗り出してこちらを見ている。友達が女の子達数人を手招きし、事情を説明した。
結局、そこから先生に伝わり、不審者の張り紙がされることになった。警察が近くの見回りをしてくれることになった。大事になっちゃった、と思うけど内心安心だ。お母さん達には、私がストーカーに会ったことを言うと凄く心配された。ここ暫く顔色が悪いのも指摘される。暫く部活を休むなりして誰かと行き来した方が、とも言われた。咲達は部活がない日は一緒に帰った方が良い、とのことで、暫く一緒に帰ることになった。
ストーカーだった場合はともかく、ドッペルゲンガーだった場合のことを考えると、不安は残ったままだ。何せスマホに何も映らなかったんだから。お化けや幽霊はスマホに写る、って良く言うけど、ドッペルゲンガーってどうなの?
目が覚めると、私は暗い闇の中に立っていた。ここは何処だろう?服装はゆったりとした部屋着。寝間着として着ているものだ。外なのにこの格好?顔が赤くなり、腕の前で両腕を掴んで隠した。誰も見てないよね、と視線を巡らすも、辺りは黒のみで、人は愚か何も見えない。服装の心配はないが、暗すぎるので段々不安と恐怖の感情が襲って来る。全てを飲み込みそうな、息苦しく感じる黒だ。良く分からないけれど、知ってる場所でないことは確かなので、適当に歩くことにした。両手を前に出してそろりと手探りで足を進める。歩いていればいつか外に出れるだろう。