〜番外編〜年明けお世継ぎ騒動?!
今回は、またまた番外編で御座います。
二人の旅路は続くよ何処までも。
でもでも、今回はちょっと幸せの予感が致します?!
何十回目なのか、二人で迎える正月。
外は雪が無くなり、すっかり春か夏の様。蝉さえ鳴いていないが、辺り一面は青々とした木々や草が生い茂り、全く冬とは真逆の季節である。
あー
「気持ちいい!!さいっこう!」
すっきりとした風に吹かれ、縁側で大の字になって手足を広げているのは、いわずとしれたあかねだ。この頃の季節が好きだ。いや、大好きだ!丁度いいどころか、何処にいても、”寒くない!!”のだから。
でも、
「正月時期に雪がなくなるなんて、桜の丘と一緒なんだな。あっ、今回は桜の丘で宴会しよう?」
ごろん
と身を反転させて部屋の中に向かって声をかける。勿論相手は侍だ。板敷きの部屋に、珍しく大きな机を持ってこさせて仕事をしている。机の上に山の様に積み上げられた書類の隙間から顔だけが少し見える。
そうだな
短く返事をした。目は書類に落としたままだ。侍が一体何の仕事をしているのか、あかねは何度聞いても理解できなかった。ここ何日も紙に齧りつく様ににらめっこをしては、署名したり何かの判子を押したりしている。
(そもそも、会社?だっけ?それが分かんないんだよ。何であんな紙に名前書くだけのが仕事なのか……。)
うん。気にしない。方がいいに決まっている。侍の事について、深く悩んでいい結果になった試しがない。
それに、今年は別に侍に告げなくてはならない事もある。
ゆっくりと日付けが変わっていく。侍が仕事をするうちに、人間達の住む世界では日付けが変わり年が明けた。
だが、ここでは昼なのか夜なのか、それすらも分からない。常に昼の様に明るく、時間の流れ自体がないのだから。
あかねがここへ来てからは、人の時間に合わせて鐘が鳴らされるようになった。だからといって、ここの時間が流れるわけではないのだが、何も無いとあかねが気持ち悪がってだんだん落ち着かなくなってしまい鳴らされるようになった。
その鐘が鳴り終わって、暫くしてから漸く侍の仕事が終わった。
すまんな
「……ふぅ。」
侍の大きな肩をほぐしながらあかねは、魔力を流し込んでいく。本来なら、”肩をほぐす”等という行為は侍には不要なものだが、あかは”触れる”ことで魔力を相手に渡せる。ただ触れるだけでもいいのだが、それだけでは何だか味気ないというか”達成感”が無い。あれこれ考えた結果、”身体をほぐす”という行為を付けることにした。効果が増すかどうかは別として、あかね自身がそれで納得しているのだから、無理に止めさせる必要もない。むしろ、彼女なりに精一杯気を使ってくれていることが、侍には嬉しかった。
身体的には老いも疲労もしない侍だが、常に乾いている。この乾きにあかね魔力は有効だ。その乾きに応えるように、あかねからはおびただしい量の魔力が侍に向かって放出された後、侍の身体を撫でるように滑り吸収されていく。
侍はその満たされる感覚に内心震えた。
ぞくり
としたものが胸を駆け巡り、つい引き寄せたくなる。が、それに辛うじて耐える。何故だか今の彼女は引き寄せてはいけない、そんな感覚も同時に湧き上がってくる。
何となく、心当たりはある。近頃あかねの魔力の動きが妙なのだ。身体の中心に向けて流れている。
あかねは動きを止め侍の正面に立つ。
叱られている子供ではないが、そういう構図に見える。
あ
「あ…の…さ、え、っと。」
彼女にしては珍しくどもっている。
焦ってはいけない、こういう時こそ長い年月を生きてきた方が年配者としての余裕を見せなくてはならない。
縋るように近寄って来た彼女の手を取り
そ
っと口付ける。
何時もより優しく、何時もより愛情を込めて。
それを受けてか否か
き
っとあかねの瞳が強い光を帯びる。
こ
「子供が出来た。」
思わず目を見開いた。そんなはずはない、この閉ざされた時の止まった空間で起こるはずはない。空間だけではない。ここに足を踏み入れ住人となった者は皆、成長することも老いることもなく永遠とも言える時の中で生きている。
と
「、思うんだ…。」
うん?
「待て、玄庵に診せたのではないのか?」
玄庵とは、この空間に居る医師の一人だ。
診て
「もらったよ。でも、小さ過ぎてまだ確定じゃないって。”未来”のきかいってやつで、診てもらえって言われた。」
溜まった息と共に、
そうか
と吐き出した。まだ、確定ではない。喜ぶのは、それからでも遅くはないだろう。
あかね
「直ぐに行くか?」
「行きたい。」
侍は手を差し出す。何時もなら抱き上げてしまう所だが、今は流石にそれは出来ない。
あかねが手を乗せると、もう一方の手で肩を引き寄せる。そしてそのまま二人の姿は掻き消えた。
まだ日が昇らず、辺りは薄っすらと明るくなってきたばかりの日本のとある場所のとある屋敷。
小さな部屋の一角から不思議な光が漏れている。部屋の持ち主は目を覚ましたばかりで、しっかりと目が開いていない。
ええ?
「今からですか?…それは構いませんが、原祖様…あ、いえ、旦那様。そう慌てずとも、御子は逃げたりいたしませんよ。」
倫太郎
「そういうことではない。まだしっかり頭が働いていないようだな。お前達にも関わる事だというのに。」
そりゃあ
言葉と共に大欠伸をして、身体を伸ばし眼鏡をかける。今まで見ていた鏡を再び覗き込んで、驚いた。
お
「…奥様!!まさか奥様がご一緒とは。原祖さ…あ、いえ旦那様、早く言って下さいよ!」
先程の態度とは全く違う。
さあさあ
「早く此方へ、いらして下さい。」
鏡からは眩い光が溢れ、鏡の向こうに居たはずの男女が現れる。
やあ!
「倫太郎、久しぶり。無理言ってごめんね。」
何を
「仰います。奥様なら真夜中であろうと、大歓迎でございます。さあ、この地はお寒いでしょう。こちらを。」
と分厚いブランケットを肩に掛ける。
倫太郎
「気遣いは不要だ。」
おや
「原…いえ、旦那様は守りの魔法があるとはいえ、婦人を気遣う精神さえ無くなったのですか?それでは奥様の事を任せるわけには参りませんなあ。」
む
「何を言う。常にあかねを守っているのはこの私なのだ。寒さどころか、ありとあらゆる病からー。」
ふふふ
2人のやり取りに、つい笑みが溢れる。この笑顔に口喧嘩でも起こしそうな2人は、頭を冷やしたようだった。
まあ
「2人共、それくらいにしてね。ごめんね、倫太郎お腹診てくれるかな。」
はい
「是非にも。こちらへ、奥様。」
別部屋の、分厚い機械仕掛けの寝台の様なものに横たわる。
ちょっと
「あったかいんだな。」
はい
「患者の事を考え、出来るだけ緊張を取り除くよう努めました。寝心地は如何で御座いますか?」
妙な澄まし声に再び微笑む。
ふふ
「布団やベッドと違うけど、診察台よりずっと良いよ。」
それは
「よろしゅう御座いました。では、気をお楽になさってください。」
うん
横たわって元気に返事する人を見つつ何も無い空間に構える。
ウィンド オープン
「スキャン スタート」
その命令とともに、台は青白い光を放ち頭から足先までを何度も往復する。ゆっくり動く光とは裏腹に、倫太郎と呼ばれた人物は忙しく空中に浮かぶキーボードを叩く。
暫くそれが続いてから、
はい
「もう、起き上がって頂いてもよろしゅうございますよ。」
ありがとう
「それで?どうだった?」
その問いに、
にっこり
と笑顔で返して、頭を下げた。
おめでとう
「ございます。ご懐妊です。」
あかねの顔に
ぱ
っと華が咲く。そして、次の瞬間、あろうことか飛び上がったのである。
やっっっったー
「あああ、え?あ、ごめん。」
「あかね、勘弁してくれ。子がいるのだぞ。」
嬉しさのあまり、飛び上がったあかねをそのまま空中で静止させ、ゆっくりと台へ下ろす。
ははは
「相変わらずですね。奥様は。」
へへへ
少女の様に照れ笑いをするあかねに二人は、同じ意味合いを込めた視線で見つめる。
倫太郎
「私の妻だぞ。いい加減諦めろ。」
と侍が釘を刺せば、
いえいえ
「繋がりがあるとはいえ、はるか昔の何十代も前の事。もう、他人も同然なのです。私にだって、まだチャンスはあります。」
と返す始末。あかねを巡っての口喧嘩に、当の本人は気が付かずに、微笑ましく聞いている。
2人が一頻りじゃれ合いしている間に、機械での処理が終わったらしく空中PCの画面には、あかねによく似た映像が浮かび上がる。
あ、
「暇を潰している間に出来上がりましたね。お二人共、こちらに…?旦那様、何をブツブツ言っておいでです?もう、放っといて奥様だけに話しますよ!」
くっ
「倫太郎、覚えていろよ。」
何故だか負けた感が強い侍を他所に、あかねにざっくりとした体の説明をしていく。
きらきら
した眼をしながら聞き入っているのを見て、少し脱線しそうになりながらも進める。
と、
「では、肝心の奥様の子宮を見てまいりましょう。…さあ、お腹の少し奥に入った所に、見えてきました、これが奥様の子宮です。大変美しい形をしてらっしゃいます。そして、その中。」
説明と共に実際に体の中に入ったかの様な映像が、動いていく。
見えますか?
「これが、今現在の御子の姿です。」
小さな、豆粒の様な物を
そっ
と掌ですくう。すると、その豆粒だけが取り出される。
「このままでは、わかりにくいので、大きく致しますね。」
豆粒に向かって、指を閉じた状態から開く。それに応えるように、豆粒が大きくなり人の形を成した。
わあ
「可愛い。」
はい
「とてもお可愛らしい御子で御座います。…っと念の為に申し上げますが、通常の人間の胎児とは状態が異なります。奥様の御子は、原祖さ…いえ、旦那様の御子でもあられます。ですから、旦那様の血を色濃く受け継いでいるとお考え下さい。」
倫太郎が話すうちに、大きくされた子は突然
か
っと目を見開く。
え?
「何?どうしたの?」
そのまま左右に視線を動かしている。
ああ、
「おそらく、先程のスキャンを察知されたのでしょう。賢い御子です。映し出されているのは、先程スキャンした時の御子の状態ですから。」
そう
「なんだ。びっくりしたろうね。ごねんね。」
映し出された映像を、撫でるようになぞる。
が
映し出された映像の子が、その途端、
ぎろ
っと、あかねを見つめた。
え??
視線が合った気がした。いや、気の所為ではないだろう。確実にこちらを見、眼を細めたのだから。
あ、
「ねえ、倫太郎、見た?あんたも見た?笑ってくれたのかな?見た?見た?」
はしゃいでいるあかねを他所に、二人は眉間に皺を寄せる。
あり得ない
いくら異世界の胎児であってもあり得ないのだ。
ああ
「見えたぞ。」
は
「はい、とても、元気な御子で御座います。」
話は合わせたが、こちらの会話や行動を見聞きしているかのようだ。
倫太郎が
侍に耳打ちする。
原祖様
「こういったことは、そちらの世界ではよくあるのですか?」
…
「いや、”神族”であってもこういったことはない。私の子だからな、何が出来ても可怪しくはないが。」
そうですか
「分かりました。ここは原祖様の御子であるから、何でもあり、ということに致しましょう。」
分かった
侍に対し少し嫌味を込めた台詞なのだが、しかしそうでなくては説明がつかないのも事実だ。2カ月を思わせる大きさの胎児が、腹の外の世界とコミュニケーションを取るなどあり得ないのだから。それも、機械越しに。
奥様
「先程申し上げました通り人の子とは違い、もう御子は臓器、手足、目、耳、鼻、とほぼ全ての身体の部位が揃っておられ、大きさ以外の成長度合いは7,8ヶ月といったところです。ですが、大きさは未だ2ヶ月弱ですので、」
旦那様
「”神族”の妊娠期間は?おおよそで結構ですので。」
思い出すように、腕を組む。流石に侍であっても男性である故に
つらつら
出てくる訳が無い。
確か
「部族によって、極端に差はあるが11カ月から長くて24カ月のはずだ。」
2年
「ですか、長いですね。…では奥様の妊娠期間は、仮に15カ月と致しましょう。」
うん?
「期間が短い様に感じるが、あかねの事を考慮して、か?」
はい
「奥様は人。であれば、”神族”よりも妊娠期間は短いのが必然。」
うんうん
あかねは真剣になって聞いている。
旦那様
「ご両親の種族の妊娠期間は?」
うん?
「確か、12ヶ月から19ヶ月だったはずだ。」
ぱちん
と指を鳴らす。
であれば
「私の読み通りです。奥様、後13カ月程で御子にお会いになれますよ。御子の気が早ければ、1年待たずとも。」
あかねはもう、顔を
くしゃくしゃ
にして、侍の胸に(かなり、大胆に頭をぶつける様に)飛びつく。いきなり
わ
っと感情を爆発させるのはいつものことだが、今は心臓に悪い。
ひやり
としながらも、胸の中の人を抱き締める。
感動的
「なシーンはそれ位にしていただいて、ここからが本題です。」
眉の端をひくつかせ、少し”ドス”の効いた声を出している。
む?
本題?
二人は顔を見合わせる。これ以上に本題など無いはずだが。
いいえ!
「むしろここからが重大かつ最・重・要!」
いいですか、奥様。
眼鏡のずれを
くい
と直し、徐ろに咳払いを一つする。
これから
「私と一緒に暮らしましょう。」
何!
「倫太郎、貴様まさか私とあかねを引き離そうというのか?!」
まさか
「旦那様も一緒に住んで頂きます。勿論別部屋で。」
あの
「一緒が良いんだけど。駄目かな?隣にいてくれるだけで、凄く心強いから。」
まださっきの嬉し涙が残る目に見つめられて、危うく心を持っていかれそうになる。
くっ
「奥様、そのお顔はズルいですよ。分かりました。但し、ベッドだけは別にして頂きます。いいですね。」
うん、分かった。
どうやら侍の意見は挟まる隙間が無いらしい。すっかりあかねと倫太郎の間だけで話が進んでいく。
ですので
「旦那様。…?旦那様!だーんなーさまー。」
ん?
「何か言ったか?」
奥様の
「これからの生活や健康管理の事についてです。」
全く、これだから年寄りは。
勿論、最後の部分は小声である。だがしっかり聞こえていたようで、侍の顳顬に薄っすら青筋が見える。
ほう
「倫太郎、小童の分際でこの私を年寄り呼ばわりか。面白い、そろそろ仕置きが必要なようだな。」
旦那様
「こそ、笑っていられるのも今の内ですよ。近頃身体が鈍ってきたと感じていた所なんですよ。お年寄り相手なら丁度いい運動になることでしょう。旦那様を打ちのめし、私は奥様の御子を見事取り上げる。奥様の絶対的な信頼を得て、”愛”を獲得する。これ以上美しい物語があるでしょうか。」
ふふふ
「倫太郎、張り切ってくれてありがとう。」
2人の”虚しい闘い”に審判を下した人は、言う迄も無いあかねだ。
あんたも。
「頼りにしてるよ。”旦那様”。」
2人が同時に顔を赤くしたのはいうまでもない。
さて
「あかね。真実を聞こうか?」
うん
「望んだのだな?子を。」
そう
「だよ。」
「いつだ?」
え
「っと、夜叉王の赤ちゃんを抱いた時、かな。それから、すごく、気になって。」
「願ってしまった、と?」
うん
「思ったら、止まらなくなって。」
「責めているわけではない。私も心底嬉しいのだ。」
でも
「ほんとに出来るなんて思わなかった。嬉しい。…あ、ごめんね、勝手に。」
「謝らないでくれ。私も望んでいたことだ。だがしかし、これで再び証明されてしまったな。お前が望む事は全て叶えられると。」
そう
「だけど、悪い事したかなぁ赤ん坊に。」
あかね
「それはない。私達が暮らす世界は時が止められた世界なのだから、この様な型でしか子が出来る事はない。」
しかし、
「通常の夫婦であっても、子を望み成すものだ。私達も同じく子を望んだ。そこには、何も”違い”はないだろう?望まれて生まれてくる子程、幸せなものはない。」
うん うんうん
「ぐすっ……。うん、ぜっだいぢあばぜにずる。」
ああ
「私達の力の及ぶ限り。」




