聖夜に送る〜番外編〜
今回は、本編よりもずっとずっと後のお話です。
2人が大分もやっとも仲良くなった(あかねがデレるようになってくれた)後です。
贈り物をし合う事になった2人がそれぞれ用意した物とは?!中々厳しい(デレてくれない)妻の心を蕩けさせる秘策は侍にあるのか?!
満点の星空の下、2人は
ゆらゆら
揺られている。春のような穏やかな風が心地良く吹く、空の上で。今、この空に広がった海原を行くのは、2人が乗る大きな船しかいない。が、それが地上から見える事は無い。そして、船の上からは星空が映る海の様に見え、地上が見えることはないのだ。
船の上に
ふかふか
の”ネメア”の毛皮で出来た敷物を敷き、その上に幾つも大きな座布団を置き、それに半ば埋もれるように抱き合って座る。いや、正しくは侍に抱き寄せられている。2人は何時もの和装ではない。船の雰囲気に合わせ、夜叉王から贈られた衣装を纏っている。
「急拵えで悪いが。」
と、申し訳なさそうに言っていたくせに、その造りも生地も王族が着ている物となんら変わりない。なので、今夜の2人は何処かの見知らぬ国の王と王妃?(いや、もしかすると侍女)に見えるかもしれない。
優雅に進んで行くその船上で、2人はただただ、その時が来るのを待った。
そして、日付が変わるのと同時に”時の鐘”が鳴り響く。
ごーーーん ごーーーん
うりゃー
「あたしが先!!」
さっきまでの雰囲気は何処へ行ったのやら…。
勝った!
確かに僅かの差で、あかねが勝った。
抱き締めていた侍の手を振りほどき、もう少しこの甘い雰囲気に浸っていたいと思う侍そっちのけで。いや、本来はどちらが先か、などと争っていた訳では無い。恥ずかしいから、先に出した方が相手より先に贈り物を送る。といい出したのは、あかねである。
侍は、
ふわり
と笑みを浮かべ降参の意を示す。
ん
「じゃ、あたしから。」
と小さな”箱”を差し出す。綺麗に包装されたそれを丁寧に解いていく。
中から、意外な物が出てくる。
…
「…これは。」
あかねは答えない。蛸のように赤くなって膝を抱えている。
出てきたのは対になる指輪だった。派手な装飾はないが、太陽と月を思わせる金属が絡み合い、内側に青い宝石が埋め込まれている。一途な愛を誓う宝石だ。
流石にこれにはやられた。指輪自体もただの飾りではない。魔道具になっており、強力な守りの魔力が感じられる。あかね特有のものだということは、手にしただけで分かる。
…
無言の彼女を抱き寄せ、口づける。それをはめる時は今ではないのはわかっているが、つい手にとってしまう。まさかとは思うが、一度はめれば取れない仕組みになっているのだろうか?そう思い、
じっ
と見つめると、堪りかねたあかねが自供する。
取れなく
「なんてならないからね。さすけさん達が面白がってあれやこれや勧めてくれただけで。」
なら
「安心だな。」
と早速あかねの指にはめてしまう。そしてそのまま二度目の口づけへ…いこうとしたが、あかねに口元を押さえられてしまう。
まだ
「あんたのしてない!」
と怒られてしまう。こんな時には素直に従うのが得策である。
す
っと手を差し出す。あかねは少し戸惑いながらも侍の指にはめる。相変わらず、腹が立つ位に美しい手だ。指も、あかねの掌よりも長い。
指輪は何の抵抗もなくはまり、守りの力が発動する。薄い金色の光が溢れ、身体を包む。
(心地良い。)
あかねの魔力は何処までも深く、優しい。この娘の小さな身体からは想像も出来ない程の大きな愛情が、魔力となって溢れている。それが、この指輪からも感じられる。
光は
きらきら
踊るように身体を包んだ後、身体の内側へと入っていく。
じんわり
入り込んできた魔力は侍の渇きを癒してくれる。
いつも
「お前の魔力は心地良い。全てを受け入れ、癒してくれる。」
そう言ってあかねの指に光る指輪に口づける。掌、腕と、徐々に真ん中へ向かって口づけていく。だが、急にそれを止めて身体を離す。
忘れてはいけない。後手に回されてしまったが、侍からも贈り物がある。
何処に隠していたんだと言いたくなるほど、大きな箱を2つ差し出す。
どうも、考えていた事は2人共同じだったらしい。中からは一見白く見えるが、光を当てる角度で七色に輝くドレスと着物が出てくる。どちらも絹よりも手触りが良く柔らかい。恐らく異界で手に入れていたあの貴重な、数千年に一度の周期でしか採れない”パルカルコ”から出来る糸で出来ていることは間違いない。
あの時は、その辺り一体を採り尽くしていたので世界に、いや異世界においても同じ糸で出来た衣装はない。その貴重な糸で出来た布地をふんだんに使ったドレスは肩から羽根の様な袖があり、細かい刺繍の所々に宝石が縫い付けられている。
それだけでもうっとりする程なのに、
するり
取り出された全体を見て、あかねは息を飲んだ。
こ
「れ、あの時の…?」
未来の世界で見た。模擬結婚式で新婦が纏っていたマーメイドスタイルのドレスだ。膝辺りまでは
ぴったり
と身体に沿うように、そこから裾に向かって長く引きずる様に伸びている。
唯一、あかねが綺麗だと言ったドレスだ。
「どうだ?」
侍はドレスをあかねにあて、正面に鏡を生み出す。映し出された姿は少し幼いようにも見えるが、意思の強そうな瞳がその幼さを上手く隠している。
似合う。
身長は低いのだが、平均女性よりも手も脚も腰回りも細い。華奢な身体に、「どうだ!」と言わんばかりの大きな胸がその不利を埋めている。
その体つきが一番似合う様にドレスが仕上げられている。
あかねは見惚れたままだ。その肩にきつく跡が残るように口づける。気持ちとしては、噛み跡さえ残したい程だ。自分のものだということを、この娘の身体に刻みたい。その衝動に辛うじて耐える。
あかね
耳元で囁かれた。それに、つい身体が反応してしまう。しかし、ここで負けては駄目だ。
ん
「もう!」
と、わざと突き放す。いつもそっちの方向にもっていきたがる侍の悪い癖だ。諌められた侍は仕方なく箱からもう一つを取り出す。出された物を見て、肌がざわつくのを覚えた。
広げて羽織らせてみる。
美しい。
一見、ただの白無垢だが、一面に”鳳凰”が織り込んである。光を当てる角度で、その”鳳凰”が浮いても沈んでも見える。相当な技術を持って作られた事は誰の目にも明らかだ。こんなにも手間暇をかけて作られた反物で出来た着物を見たことがない。
あかねは自分がどれだけ侍に大事に思わているのかを再認識する。どちらも、細部にまで自分の事を思いながら仕立てられたのが分かる。
それから
「もう一つある。」
妙に照れくさそうに言う。丸い箱に入ったものだ。
蓋を開けると、不思議な物が出てくる。これも、白っぽくは見えるが向こう側が透けて見え、光を受けて色を変えていく。
綺麗だ
ぽつり
呟いたあかねの言葉に侍は密かに安堵する。
それは、長く、ドレスと同じように裾に行くほど広がって所々に施された刺繍の美しさはつい、
うっとり
見惚れてしまう程だ。花だろうか、蝶だろうか、そう思いながら触れた。
(…っこれ。)
触れてみて、感じた。
この布に施された刺繍からは、侍の魔力が微かに感じられる。まさかとは思うが、侍の方を見る。初めて見せる、照れているとも焦っているとも取れるような表情で視線だけを逸らした。その肩に腕を回す。
がっちり
首根っこを押さえてから”尋問”だ。
これ
「何?」
侍は視線を逸らしたままだ。それを強制的にこちらに向かせる。侍は渋々答える。
それは
「ヴェールと言って、花嫁に被せるものだ。綿帽子と同じだ。」
うん
それで?と、あかねの視線が「言え。」と半ば脅す様に
ぎろ
っと光る。逃げることは許されない。(逃げれば後でどんな目に遭わされるか分かったものではない。ついこの間も鼻や耳の中を観察されたばかりだ。)
流石に
「手でするのは不可能だったのでな、魔法で刺繍を……な。…模様は、その…世界樹の花を基礎としている。」
あかねは、
うんうん
と聞きながら広げて見ている。刺繍は複雑な模様で美しく仕上がっている。魔法でやったにしても相当な美的センスが必要のはずだ。侍の才はどうやら、こちら方面にもあるようだ。それに加えて、それを自在に針や糸に伝える魔力も必要だ。手で刺すよりも、難しいのではないだろうか?
ね、
「これ、どうやって着けるんだ?」
……はぁ
息をついて教える。中から現れた金具を外しながら説明する。
この
「金具を髪に止めて、短い部分を前に……。」
ふんふん
と聞きながら侍の頭に着けていく。
分かっていた。これが今回の贖罪なのだろう。侍は大人しく着けられていく。
”大きな花嫁さん”が出来た。だが、その花嫁は以外にもそのヴェールが似合うのだ。
綺麗
「だな、こいつ。」
半ばヴェールに顔が隠れた状態の侍は何処か神秘的で、今着ている物のとよく合って神々しくさえ見える。
垂れ下がったヴェールから見える唇は何時もより魅力的に見えるし、光を帯びて幾重にも輝くせいで、瞳はその比ではない。
ん
と咳払いを一つして平静を保とうとする。
どれだけ侍が綺麗であろうと、気にしない事にしたばかりだ。元のというか、素材が違うのだ。
で?
「ここから、どうするんだ?」
指輪の交換の後、このヴェールを取り、誓いの”キス”をする。と、正直に答えた。
ぱ
っと侍の指輪を取る。
ふーん
と、口で言いながら
「こんな風に?」
と指輪をゆっくりとはめていく。手を逃さないように掴み、指を絡めるように努める。もう片方の手でヴェールを上げる。
綺麗だ。
誰が何と言おうと、綺麗だ。こんな風に遊ばれても尚、男性としての美しさを損なわずにいる。
”大きな花嫁さん”は抵抗しない。かわりに、待っている。
(ふーーん。もうちょっと、無理言っても良かったかも。)
と白無垢姿の花婿は考える。
ちゃんと
「あの時の”約束”守ってね。」
”花嫁”にそう言って誓いの”キス”をした。
明るく光る星空の下、2人の速まる鼓動だけがその世界を支配する。




