表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/25

4 お隣君と累

日曜の11時。オレは10分前にジムにやってきた。


ロッカーに入ったら、既にお隣君がいた。会うの久しぶりだな。

オレに気付いてないみたいだったから、後ろから声をかけた。


「よっ、調子どう?」


お隣君、振り返った瞬間、オレを見て驚いて盛大にコケた。


ガッシャーン!


「大丈夫?ロッカーに腕をぶつけてたみたいだけど」

尻もち付いて座りこんでいるお隣君に手を差し出した。


「先輩…」

お隣君が真っ赤な顔で、こちらを見上げてくる。


「だ、大丈夫です…」

って言うけど、キミ、だんだん目が潤んできたよ。


お隣君の手を取って、起こしてあげたら、その手も少し震えてた。

「本当に大丈夫? 痛かったんじゃない?」


でも、お隣君は目を潤ませて震えたまま、オレを無言で見つめるだけ…

まぁ、いいか。特にケガはしてなさそうだし。


「今日、キミのトレーニング見せて」

彼は赤い顔のまま、ボーっとオレを見つめ続けていた。


その時入り口の方から、聞き覚えのある声がした。


「店長、チッース!」

その声に今度はオレが震え上がった。・・・ウソだろ?


「師匠、チッス!誰っスか、そいつ」

はぁー、面倒くさいヤツが来た。店長め、わざとだな!



コイツは風間(かざま) (るい)。17歳の高校生。


ストリートダンス・コンテストで優勝経験もあるダンサーだが、パフォーマンス中の落下事故で骨折したらしく、術後の経過が悪く、リハビリを兼ねてオレのトレーニングを受けるために、ジムに来ていた。


コイツもイケメンでアイドルに居そうなタイプ。

17歳にしては童顔で、金髪のミディアムヘアなので、女の子に受けそうだ。ダンスも上手いから、韓国のアイドルユニットにスカウトされたこともあるらしい。


父親が一代で財を成した企業家らしく、ようは金持ちのボンだ。

住んでいるところは山の手で、わざわざこのジムまで車で通っているらしい。お抱え運転手が、ジムと自宅の送迎をしていて、他の客とは一線を画している。


今夏休みだから、この町に部屋を借りて通っているとか。

車で往復2時間って言ってたから、その方が集中して通いやすいのかもしれないな。聞けば相当豪華なマンションで、オレの部屋なんて、ヤツの部屋のウォークインクローゼット位だっていうから、腹が立つ。


リハビリはもう終えていて、今は全く問題が無い状態。

ダンスのパフォーマンスも元に戻っているらしいのに、まだオレにトレーニング強請ってまとわりついてくる。


その累が、目ざとくお隣君を見つけ、絡んできた。

「そいつ師匠の新しい弟子っスか? でもオレが一番弟子っスよね?」


ああ・・・めんどくせぇ!


おい、これどうにかしてくれ!って店長に目配せしたら、ニヤついてやがる。間違いない…店長め、オレらの予約をわざとバッティングさせたな?


「師匠、ひさしぶりに見てくださいヨー」


「わりぃ!オレ今日彼を見るって約束してて」


「な?」ってお隣君を見やると、驚いた顔でオレを見上げている。


おいおい・・・さっきオレ、トレーニング見せてって言ったよね?空気読んでオレに合わせて?


「まあ、そういうことだから!」

仕方なく彼の背を押して、トレーニングルームに逃げ込んだ。




お隣君のトレーニングを見ていると、着替えた累がやってきた。


「師匠、おれも!見てくださいヨー」

煩いので無視してみた。


「ねーねーねーねー、師匠、いいじゃないスか。おれも見てくださいヨー」

ああ、煩い…余計に煩い…きっと、オレがウンと言わない限り、ずっとゴネ続けそうだな。仕方ない…

「後で見るから…順番な!」


累は隣でトレーニングを始めた。

「師匠、見てください!これでいいっスよねー?」


だーかーらー、順番に見るっていっただろ?ほんと、オマエ聞き分けないなー。


ジムの客は比較的大人が多く、10代は累一人だった。そのせいか、累がごねると、他の客が遠慮して引いてくれたので、コイツは我儘言い放題になっていた。


ため息交じりに「累、後でちゃんと見てやるから、今は一人でやってろ」と告げる。


そんな言い方したのは初めてで、それが気に入らなかったのか、累がむくれて絡んできた。しかもお隣君の方に。


「はぁ??? 何なんスか? こいつ誰スか?マジで」


お隣君は累の方を見たが、オレは首を振りながら、ほっとけというジェスチャーをした。


そしたらお隣君、何を思ったか、トレーニングの手を止めて立ち上がり、累に向かって挨拶を始めた。


「失礼しました。俺、早乙女健志さおとめ けんじと言います」


いやいやいや…なに自己紹介しているの?お隣君、キミはキミで別の意味で空気読めないよね…。


累は名乗りもせず、お隣君にこう言った。

「オレは、師匠の『まなでし』っスからー」

「愛の弟子って書くんスよ」

「師匠にアイされてるっスから!」


オレひとっことも言ってないぞ、そんなこと!そもそも弟子とも言ってない!


誰だよ、コイツにそんなこと吹き込んだヤツは!…って、店長しかいないな。はあ…めんどくせぇ…。


仕方が無いから、お隣君と累をいっしょに見ることにした。そしてやっと、1時間が経過した。長かった…あれっ、今日オレ自分のトレーニングが全然できてないぞ?まぁ、いいか。明日また来て一人でやろう。今日はもう本当に疲れたから…


オレは早く二人から解放されたくて、さっさとシャワールームに逃げ込んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ