20 累の過去:ダンスに賭けた未来
【風間 累:17歳】
息子のおれが言うのも何だが、親父は凄い男だ。
大学生の時に起業して、すぐに会社を大きくして売却し、その金でまた会社を起業して…今では、幾つもの企業をM&Aで傘下に入れ、押しも押されもせぬ大企業に成長させた。一部上場企業で、業績も株価も右肩上がり。
親父のおかげで、何ひとつ不自由のない生活を送ることができている。
おれは恐らく親父のあとを継ぐんだろうけど、当然今の親父の地位にすぐ就けるわけではなく、どこかの子会社の役員などから始めて、コツコツ登らされていくんだろうな…と思っていた。
凄いのは親父であっておれじゃない…。
小学生の時、そんな人生が面白いのかな…と考えていた。
学校の友達の中には、将来eスポーツのプロになりたいヤツがいて、そっちの方が余程楽しそうだと思ったこともある。
親父からは常々「自分の力だけで何かトップを取れ」と言われていた。
幸いおれは、親父似で頭が良かったから、学校内の成績は常にトップだったが、そんな程度ではダメなことは分かっていた。
ある日、体育の授業でダンスを習った時、初めてでも結構踊れて、ダンスの才能があると褒められたことをきっかけに、ダンスに興味を持った。
何かでトップを取りたかったが、アートや音楽、スポーツなど、一般的なものは分母が多すぎて、道のりが大変そうに思える。
歴史の浅い最近のダンスならば、もしかしたらトップが取りやすいかと思い、ストリートダンスでトップを取ることに決めた。
最初は親父への反発心で始めたが、やるうちにどんどん面白くなり、おれは夢中でダンスのスキルを磨いていった。
家には鏡張りのレッスンルームがあって、そこにダンスの先生を招いて習っていたけど、それだけではダメだと分かった。ダンスは切磋琢磨するライバルや仲間がいないと上手くなれない。
そこでおれは、地元のストリートダンスコミュニティに加入させてもらうことにした。最低限のスキルはあったので、仲間として受け入れてもらえたものの、おれのポジションは、コミュニティでは最低ランクからのスタートだった。
まずは、ローカルなダンスバトルやコンテストに出場し実力を試すが、なかなか良い結果が出せない。
しかし、いつもコミュニティの仲間が励ましてくれて、ワークショップ、公演など多くのイベントにも参加する内に、おれのパフォーマンスは徐々に向上していった。
そして時には別のコミュニティにお世話になることもあった。
ある時入ったコミュニティの練習場所は、なんと駅!改札前の広場のようなところで、夜皆で集まって練習をする。
駅ビルの営業が終わって、店の中のライトが消えると、ガラス張りの店のドアや壁が、鏡のようになって、そこに自分の姿を映しての練習だ。
ダンスに必要なのは、客観的に自分が踊っている姿をチェックすること。もちろん動画撮影してチェックするのもいいけど、鏡に映してその場でチェックするのも効率が良い。
駅から家に帰る人達の中には、立ち止まっておれ達のパフォーマンスを見てくれる人もいて、良いパフォーマンスをすると歓声や拍手が沸き起こり、コンテストでの観客の心を掴む実践の練習としても大きく役立った。
こうして何年か続けていると、やがてローカルで勝てるようになり、都市で開催される大きな大会への出場のチャンスを掴み、少しずつ前に進んでいった。
そしてついに、15歳の秋、大きな大会のキッズ部門でファイナルまで進むことができた。
おれにとっては初めての大舞台で、しかもキッズ部門で挑戦できるのは15歳の今年が最後。めちゃくちゃ緊張したが、全力を出し切ることができ、ついに優勝トロフィーを手に入れることができた!
こうしておれは念願のトップを取ることができたけど、後ろに迫ってくるライバル達の成長は早く、優勝しても止まることなく、更に先に進み続けるしかなかった。それは勿論ダンスの世界だけではなく、いずれのスポーツでも同じだろう。
今まで通り、幾つものコンテストに出場し、ライバル達と切磋琢磨し、新しいスキルと磨いていく。いつまでも続く、終わりの無い戦いのように思えた。
そんな状況に焦りがあったのかもしれない。
あるダンスバトルの決勝で、練習が足りてない大技を試そうと、一回転のジャンプ中、相手ダンサーと接触し落下してしまった。
パフォーマンスは失敗し、優勝を逃しただけでなく、最悪の結果が待っていた。
ステージを去る際に脚に激痛が走った。これは打ち身の痛みではない。翌日病院へ行くと骨折していることが分かった。
その後、骨折自体は完治したが、どんなにリハビリをしても元の体の動きを取り戻せず、ダンスのパフォーマンスは著しく下がった。
親父のコネクションを利用して、評判の良いマッサージや、ストレッチや、整形外科や、鍼灸や、整体や…あらゆるものを片端から試した。しかし、おれの体は元に戻らなかった。
あれほどしなやかに動かせた体が、思い通りに動かない。
もうおれは、トップダンサーではいられないのかと思ったら、急に未来が暗くなってしまった。
己の体だけが資本のスポーツでは、たった一つのケガで資本が失われてしまう…というリスクを知った時だった。
しかし、おれは諦めきれなかった。
どこかに必ず、おれの体を元通りにしてくれる人がいると信じていた。
ある時、芸能人やモデル専用のプライベートレッスンの噂を聞いた。元モデルが教える凄いメニューらしく、確実にキレイな肉体になれると評判だった。
おれはその人の写真を見て、美容目的だけではない本物の何かを感じた。
早速そのメニューを受けたいと思ったけれど、人数制限があり、今は順番待ちとのこと。でも諦めきれず、その人のことを調べたら、面白いことが分かった。
彼は古いジムのオーナーで、そこに元格闘家のカリスマ・トレーナーがいるとのことだった。人体解剖学からの独自のオリジナルのメソッドを持っているらしい。
おれは「これだ!」と思い、早速そのジムを訪ねることにした。




