表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/25

18 店長の今:新たなサービス

話は3年前に戻るけど、常連の進さんからイチの過去を聞いた時、本当に驚いた。「何それ!?僕よりもっと悲惨じゃない!」って、他人事ながら腹が立ったのを覚えている。


イチと親しくなるほど、過去のイチに対してもやるせなさを感じた。だって、あれだけ恵まれた肉体の持ち主なんだから、もっとやりようがあったんじゃない?もちろん本人には言わないけどさ。



イチが初めて僕の店に来た時のこと。シャワーを直してくれる際、イチは濡れてもいいように、シャツを脱いで上半身裸になった。鍛え上げられたイチの背中を見て、僕は惚れ惚れしたけど、同時に不思議にも思ったんだ。キスマークも爪痕も一つも無かったから。


すごくモテそうなのに、何故かな…と思った。試合のキズはあったけど、人がわざと付ける爪痕はなかった。僕の背中と大違い!誰からもマーキングされてないキレイな背中。


イチ、あれだけの顔と体だよ!?言い寄ってくるヤツらは大勢いたはず…。格闘技の世界はよくわからないけど、金持ちでパトロンになりたい人間は、周りに大勢いたんじゃないのかな?でもイチは、きっとそういう輩には絶対に体を許してないよね?


上手く利用して、金持ちのパトロンの何人か味方に付けておけば、こんなに困らなかったはずなのに…。スキャンダルが起こった時だって、権力がある味方が居たら、何とかしてくれたかもしれなかったんじゃない?


でもイチって世間知らずなとこあるから、そういう人間に言い寄られたとしても、全然気づかなかったんだろうなとも思う。そうだね…きっとイチなら、太ももに手を置かれただけで、無意識でその手を払いのけそう…うーん、目に浮かぶ…。


今更だけど、僕の爪の垢でも煎じて飲ませたい!体なんか幾らでも使いようがあるんだから。トレーニングして鍛えるばかりが体じゃないっていうの!


欲しがる人に与えて、その見返りに地位や仕事を得られるなら、僕なら幾らでもこの体を差し出すよ。実際そうやってきたしね。自分の信念さえ絶対に守っていれば、体が一時汚れようとも心まで汚れはしない。僕はそう信じてる。


でも例え格闘家の未来を保証されても、イチは自分が望まない相手には、絶対に体を差し出すことはしないんだろうな…まぁ、そこがイチの良いところではあるんだろうけど。


それにしても、今まで頑張って経験もスキルを積み上げてきたのに、こんなところでくすぶっているのは勿体ない!イチは凄いトレーニングのメソッド持っていて、教えることも上手いんだから、自分がリングに立たなくたって売るものがあるじゃない!


だから、僕はイチに提案した。

「イチのこのトレーニングのメニュー、商品として売り出そうよ!」

でも良い提案だと思ったのに、イチからはNOの返事。何で?


どうやらイチ、過去の事件がトラウマだったのか、自分の名前や自分自身が、外に出ることをあまり望んでないみたい…。


イチ自身が最高の広告塔になるのに、勿体ない…。


でも仕方ないか。責任感の強いイチだから。日本の家族やロシアの親戚とか、皆に迷惑かけて悲しませたことを、未だに悔いていているのかもしれない。自分で自分が許せないんだろうね。きっと…。


その後も何度かイチに提案したけれど、絶対に首を縦に振ってくれない。ジムの客に教えるだけで十分だって。何それ!?


何度も繰り返し押し問答が続いて…僕はついに決断した。

分かったよ。イチにはこれ以上言っても無理みたいだから、僕一人で勝手にやることに決めた!何と言っても僕は、イチのトレーニング効果の最高のサンプルだからね!


イチは人体解剖学も自力で学んで、基礎の基礎まで全部分かっているから。だからイチのトレーニングは凄いんだよ!正しい筋肉と骨格を手に入れて、勝手にスタイルまで良くなるなんて最高じゃない!僕みたいな体になりたい子はゴマンといるよ!


うん、僕がイチのメソッド売ってみせる!

僕は早速、過去お付き合いした人たちをリストアップして、片端から連絡を取ってみた。


まず最初に会ったのは、モデルのA君。彼は僕の事が好きだから、絶対に会ってくれるのは分かってた。プレゼン場所はホテルの一室。僕の体を直接見せるのが、一番話が早いからね。


シャワーを浴びて一糸まとわぬ姿を見せると、A君が目を丸くした。キミ、僕の体好きだったけど、今はもっとステキでしょ?


当然どうしてなのか聞いてくる。そりゃ興味あるよね。僕と違ってキミは現役のモデルなんだから、こんなキレイな体になりたいでしょ?


そしてダメ押しで、イチから聞いたウンチク語ったら、A君は当然のように食いついてきた。


フォロワー100万以上いる人気モデルだから、A君に広告塔をやってもらおう!ナルシストの彼、自分のシルエットがキレイになったら、SNSで見せびらかしたいに決まってるから。


「特別なメソッドで皆には教えたくないから、今10人だけ特別に募集してるんだ」

「僕がマンツーマンで教えてあげて、1回1時間、週2回、月8回で、税込み33万円ね」

普通の人には高いけど、A君、売れっ子モデルで、ホテルのエステでそれくらい使ってるの知ってるから。乗り換えてくれるなら、その金額でも出してくれるであろうことは計算済み!


そんな感じで他にも色々と10人の客ゲット!月330万ならなかなかイイじゃない?

税金や諸々引いても、これならイチに月80万くらい出せそう!やはり以前の僕の体知っている人には、今の体見せると説得力あるよね。

あー僕って商売上手!…まぁ、イチのメソッドがそれだけ価値があるってことだけどね。


こうして仕事を取ってきてからイチに報告!

「僕が一人でも教えられるように、メニュー考えてよ!イチの名前は出さないからさ!」

「僕を詐欺師にしないで!お願い!」

こう言ったらイチが動いてくれるのも分かってた。

イチって本当に優しくて、頼られると断れない性格なんだよね!


自分って天才って思っていたけど、その2ヵ月後、僕はその考えが誤りだったことに気付く…。イチがお金を受け取ってくれない!僕が直接教えて僕の時間を使って稼いだお金だからって…。


いやいや、イチにメニューを考えてもらってるし、元のメソッドをイチから教えてもらってるんだよ!これがどんなに正当な取り分か説明しても、イチはNOを繰り返す…。


僕はイチの性格を大きく見誤ってた…。今度はお金を受け取らせるための押し問答が続く…。そう言えばイチって、こういうところ頑固だったんだよね。どうすればイイの?


もうこんな状態が5カ月も続いて、イチの取り分は400万円になっている。


毎月支払日近くになると、毎回繰り返される事務所でのやり取り。今日もイチの頑なな拒否で終わるんだろうな…と思っていた時、思いがけない人物が僕たちの話に割って入ってきた。


「その金で株式会社作ったらどうっスか」


えっ?累?

あんた僕達のやり取り見てたの?それより、突然何の話をしてるの?


僕らが驚いているのも気にせず、累は空いてる椅子に座って、僕たちに話をつづけた。


「その金、師匠も店長も今すぐ必要ではないんですよね?」

「じゃあ、その金を資本金にして、株式会社作りましょうよ!」

「おれにも出資させてください。二番弟子も仲間にしましょう。」


累…一体どうしたの?口調が違うよ?

いつも眠そうな顔でダルそうにしてるのに、目と顔もシャキッとして普通の人になってる…。あんた、本当にあの累?


突如人格が変わった累。驚いている僕たちを無視して、説明が止まらない。


それは、イチのトレーニング・メソッドを商品にして売るための、株式会社を作ろうという提案だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ