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16 店長の過去:モデルからジムへ

松村まつむら 優吏ゆうり:25歳】


僕は10才の時、モデルにスカウトされた。かなり有名な大手の事務所で、父も母も賛成してくれて、モデルの道を歩き始めた。


美人の母に似て女の子みたいな顔立ちで、自分で言うのも何だけど、僕は相当な美少年だったと思うよ。


14歳の時、ある人気少女雑誌のBFコンテストで優勝!その後もいくつかのCMに出演させてもらい、そこそこ人気があった。


他校の女子学生がわざわざ僕の学校まで来て、僕の姿を見ては騒いでいたからね。僕は社交的な性格で、誰とでも仲良く話せたし、そんな女の子達への気配りも欠かさなかったよ。


だからいつも誰かからラブレターをもらっていて、告白をされたりもした。中学の頃はガールフレンドが何人もいて、モテる自分に酔っていたんだと思う。


今思うと、その頃が僕の絶頂期だったのかもしれない…。

事務所から演技の練習をして俳優にもチャレンジしないかと言われたけど、僕はそれを断った。


自分の声があまり好きではなかったし、世界的なショーモデルになりたかったから。


俳優になったら、髪を切ったり痩せたり太ったり、様々なことを要求されるかもしれないし、それに役によってはケガをすることもあるかもしれないから。


実際、事務所の先輩モデルが役者に挑戦するのを見てきて、必ずしも皆が成功するわけではないことは知っていた。逆に悪い役のイメージがついて、CM出演が減った人もみてきたしね。


僕の父は190cmもあって、キレイな骨格で、息子の僕も見惚れるほどの体形だった。だから僕も大人になれば、背が高くなり、父のような体形になるものと信じてたんだ。父の姿を見て、背の高い海外のショーモデルの姿を重ね、自分の将来を夢見ていた。


でも、僕の身長は高校生以降ほとんど伸びなくなってしまった。


良く考えれば分かること。僕の顔は母親似だったから、身体だってそういうこと。母は決して背は高くなく、むしろ小柄な方だったから、母親似の僕がそうなるのは当たり前だった。


こうしてショーモデルの道が閉ざされた。ショーモデルになるには、ある一定の身長が必要だったけど、僕には遠く及ばない数字だった。


高校卒業後は大学に行かずに、モデルの仕事に専念した。しかし、僕は相変わらず女性みたいな顔つきで、だんだんと普通のモデルの仕事からも声がかからなくなってきた。男性ファッション誌のモデルをやりたかったけど、もっと男らしい顔つきや体形の子が望まれた。


メーカーのCMや雑誌の仕事から干されはじめ、どんどん地方の仕事が多くなってきた。地方の小さなスーパーのチラシとか、中には村の公民館でのカラオケ大会で商品を渡すだけ、なんていう仕事もあった。


それでも何としてもモデルで成功したかった。絶対に僕にしかできない仕事があるはず!長くモデルの仕事をしてきて、このまま尻すぼみで終わりたくはなかった。それは僕の意地のようなものだった。


僕は下心丸出しで、少しでも仕事にありつけそうなら、どんな人とも付き合った。そんな欲が透けて見えていたせいか、僕に仕事をちらつかせて体を要求する奴らも現れてきた。


僕は比較的性には開放的で、性別関係なく、複数の子と付き合っていた。だから、俗に言う『枕営業』は僕にはさほど苦痛ではなかった。体一つで仕事が取れるなら安いもの。


どんな言葉をかけて何を差し出せば相手が喜ぶか、僕は良く知っていた。

泥水を啜っても、泥ごと口に入れてもいいと思ってた。


でもそんなことをして得られる仕事も大したことはなかった。


大きな仕事の場合、最後には必ずオーディションがあって、コネだけではどうしようもない世界。コネはあくまでオーディションに参加するためのチケット止まり。その先で選ばれなければ、何も無かったのと一緒だった。


僕はモデルとしての限界を自分で感じていたんだと思う。だから父が亡くなって、ジムを引き継ぐと決めた時、本当はモデルの世界から逃げたかっただけなのかもしれない。


ジムの経営も、マシンの使い方も、トレーニングの仕方も、何も知らないくせにジムを継いだのがその証拠。


ゲイだのホモだの噂されたのも、僕が誰彼構わず枕営業していた結果だから、文句は言えない。客が離れていくのは当たり前だった。


父の愛したジムを潰したくはなかった…でも潰れるのは時間の問題だった。イチが入ってくれるまでは…。


ジムの古くからの客に、大の格闘技ファンの進さんという人がいて、イチの姿を見て興奮していた。

「優吏君、なんでジムに彼がいるの?」


僕は格闘技のことも、イチが何者かも知らなかったから、質問の意味すら分かってなかった。

「えっ?新しいメンバーさんだけど?」


そう言うと、進さんはひっくり返るほど驚いて、その後涙を流して喜んでいた。


そして僕は進さんから、イチの話の一部始終を聞いてとても驚いた。


進さんはデビュー前からイチのことを知っていて、応援していたらしい。そして、イチが格闘技の世界から消えてしまったことをとても嘆いていたらしい。事件を起こしたけどイチは悪くないし、スキャンダルもデマだと怒っていた。


進さんはとても大人で、イチの過去の全てを知っていたから、イチが嫌がりそうな話題は避けて、彼と上手くコミュニケーションを取っていった。


イチは面倒見が良くて、頼まれるとイヤと言えない性格のようで、進さんにトレーニングを見て欲しいと頼まれると、熱心にアドバイスをしてくれた。


そう言えば、初めてジムに来た時も、シャワーの修理で困っていた僕を手伝ってくれたっけ…イチって本当に優しい男なんだよね。


そんな様子を見ていた他の客達も、オレもオレもと、イチに声をかけてトレーニングを見てもらうようになった。イチはオリジナルのトレーニングのメソッドを持っているらしく、それを惜しみなく皆に教えていた。


その頃から「有名な元格闘家が直接指導してくれるジム」という評判が立ち、辞めていった客が戻ってきた上に、更に新規の客も増えるようになった。こうして僕のジムは復活し、父の頃よりも更に繁盛することになった。


これは全てイチのおかげ。


イチは新しい客達には、マシンの使い方まで教えてくれていたので、トレーナーとして雇いたいと言ったけどそれは断られた。


イチは自分の好きな時に来て、好きなペースでやって、その時余裕があればついでにトレーニングやマシンを教えるという、今のやり方が気に入っているようだった。


僕は提案を変えて、イチがジムに居てくれる時間を、時給で払うと言ったけど、「自分が好きでやっていることだから…」と、イチはお金を受け取ることを断った。


「僕もトレーニングを受けたいから、お金を受け取ってもらわないと困る」といって、なんとか承知してもらったんだ。だから僕も、遠慮なくイチにトレーニングを教えてもらうことにした!

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