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12 イリイチの過去:格闘家への道

ここからイリイチの過去の話になります。

挿絵(By みてみん)

挿絵は、イリイチが17歳の時、ロシアで撮った写真設定です。

はっきり言ってオレは「爺ちゃんっ子」だ。母方のロシアの爺ちゃん。今はもう亡くなったけど、オレの青春の全ては爺ちゃんと一緒に作られたと言ってもいいだろう…。


爺ちゃんと初めて会ったのは、まだオレが11歳の夏。家族全員でロシアに行った時だ。


それまで飛行機に乗ったことも無かったオレにとって、ロシアは遠い国だった。そんなところに行って、外国人の親戚たちとどう接すればいいのか、そもそもオレは受け入れてもらえるのか、そんな心配が頭の中をグルグルと巡っていた。


でもそんな心配は杞憂だった。


空港のロビーで待っていてくれた爺ちゃんは、オレたちの姿を見つけると、これ以上ないほどの満面の笑みで迎えてくれた。そして、まっすぐにオレに向かって両手を広げ、大きな腕でオレを抱きしめてくれた。その瞬間、言葉が通じなくても、爺ちゃんの愛情を感じることができた。



爺ちゃんの名前は「Илья:イリヤ」

オレの名前「Ильич:イリイチ」は、この爺ちゃんの名前を受け継いだもの。


それはロシアの伝統に則ってつけられたもので、爺ちゃんがずっと前から男の子が生まれたらこの名前を付けたいと思っていたらしい。日本では「イリイチ」は珍しい名前だけど、オレはこの名前が大好きだ。それはオレのルーツを感じさせてくれるからだ。


なぜこの名前がオレの名前になったかというと、母も含めて娘しか生まれなかったから。そして従妹たち、母の姉妹の子供も全員娘。つまりオレが初めての爺ちゃんの直系男子だったから。爺ちゃんが待ち望んだ名前がオレの名前になったんだ。


ずっと長い間男の子が欲しかった爺ちゃん。

しかも、オレは爺ちゃんの幼い頃にそっくりらしい。

だから母は「父があなたをどれだけ好きになるかは、分かっていたわ」とオレに言った。

本当に、爺ちゃんは心の底からオレと会えたことを喜んでくれているようだった。


そして更にオレは爺ちゃんを喜ばせることになる。

爺ちゃんにとって唯一の直系男子のオレの体格が、誰よりも優れていると感じたからだった。


爺ちゃんは整形外科医で、人体解剖学の権威を持っているらしい。そして、オレはとても恵まれた身体をしていて、どんなスポーツでも一流になれる素質を感じると言った。


本当か?オレ、スポーツが大好きだし、一流の選手になってみたい!

でも何のスポーツがいいんだろう?


爺ちゃんは、学生時代にアマチュアレスリングの選手で、格闘技に詳しいらしい。

それならオレ、爺ちゃんから格闘技を習いたい!


「Ильичが望むなら、喜んでトレーニングの方法を教えてあげよう。一流の格闘家になるための道は困難だが、君ならそれを乗り越えることができるだろう」


爺ちゃんの言葉は母の通訳を通してオレに伝えられた。爺ちゃんの信頼と期待に満ちた眼差しは、オレにとって未知の世界への扉を開くかのようだった。


勿論!オレは即座にその提案を受け入れ、オレと母はロシアに残り、夏休みの間中ずっと爺ちゃんの元で暮らした。


翌日からすぐに爺ちゃんの指導のもとトレーニングを始め、それはオレが日本に帰るまで毎日続いた。


爺ちゃんの知識と経験は深く、毎日が新しい学びの連続だった。しかし、それ以上にオレにとって特別だったのは、爺ちゃんとの絆が日々深まることだった。


そしてオレは、その後毎年夏休みには、ロシアを訪ねることとなった。そこはオレにとって第二の故郷だった。


◇◇◇


オレは日本に帰ると、まっさきに図書館へ行き、人体解剖学の本を幾つか借りて、隅々まで読んだ。


勉強が苦手だったオレが、図書館で借りた本を夢中になって読んでいる姿を見て、両親はとても驚いたみたいだ。だろうな。オレ自身、そんな自分の姿が信じられない位だから。


人体って面白い!骨や筋肉が関係しあって人体が動く。どれにも全て意味がある。凄いなって思ったよ。そういうことを知っているのと知らないのとでは、同じトレーニングでも意識が違うんだと、爺ちゃんが言っていた。


毎朝オレは早起きして、ランニングを日課にしていた。ロシアで自然の中を爺ちゃんと走ったのとは、全然環境がちがうけど。でも心の中で爺ちゃんと一緒に走っていると、長い距離の往復も苦にはならなかった。


そして両親に頼んで、ジムに通わせてもらうことにした。


「明確な意図を持って、技の精度、その美しさを磨き上げることが大切だ」

そんな爺ちゃんの言葉を思い出し、丁寧に手足を動かし、しっかりとした呼吸を意識しながら、ひとつひとつの動きを練り直していった。


そして、その成果を爺ちゃんに見せるために、写真や動画を撮って送っていた。


オレが日本でもトレーニングや練習を欠かさず続けていることに、爺ちゃんはとても喜んでくれた。そして的確なアドバイスもくれた。


でも、爺ちゃんの言葉を理解するには母の助けが必要だったから、オレはトレーニング以外にもロシア語を習う時間も加えた。


正直、ロシア語を覚えるのは難しかったけど、爺ちゃんやロシアの親戚たちが、ビデオチャットの会話でサポートしてくれて、オレは徐々にロシア語も理解し話せるようになっていった。


こうしてロシア語が上達したオレは、動画にロシア語の音声も付けられるようになっていた。そして爺ちゃんは、それらをロシアのSNSにアップロードしていた。


爺ちゃんは当初、自分の友人たちに向けて、日本の孫のことを伝えるためにSNSをやっていたようだが、それが友人たちの拡散を通して、他の人たちからの反響ももらうようになり、爺ちゃんはその一つひとつの反応に、誠意を持って返信をしていた。


そうすると、やがてそのSNSは評判になり、オレのことが少しずつロシアの格闘技愛好者の間で広まっていった。こうしてフォロワーは徐々に増えていった。


ある日、日本の格闘技団体から、爺ちゃんのSNSにオレ宛のスカウトのオファーが届いた。爺ちゃんは興奮してその報告をしてくれ、オレはそのニュースに心が躍り、体が震えた!


これはオレの夢への第一歩だ。このチャンスを掴むことで、爺ちゃんの期待に応えることができる!


オレは迷わずその団体に入ることを決意し、高校を卒業すると同時に入団、親元を離れて、その事務所に研修生として所属した。


そこでの生活やトレーニングは厳しく過酷だったけど、それでもオレは格闘技への情熱を胸に、毎日を全力で駆け抜けた。


だが、ある日のことだ。突然の訃報がオレに届けられた。爺ちゃんがこの世を去ったという。その報せを受けた時のショックは計り知れず、オレは何日も泣き続けた。


葬儀には参加できなかったが、父母と一緒にロシアに渡り、爺ちゃんのお墓参りをした。オレは墓の前で、必ずプロの格闘家になると誓った。


過酷なトレーニングの日々が続く中、プロになる夢を実現することが、オレの最大の動力となった。そしてついに、その日が来た。格闘家として成長したオレに、プロデビューの話が持ち上がった。


「爺ちゃん、オレやったよ!ついに夢が叶うんだ!」

それはまさに、爺ちゃんのとオレの夢が一つになった瞬間だった!そうしてオレは、プロの格闘家としての新しい道を歩み始めることになった。

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