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10 健志の過去:復帰への道

それから1週間、先輩は約束通り、俺にトレーニングの方法を教えてくれた。何でも医者のお爺さんから受け継いだメソッドらしい。人体解剖学から学べと本も教えてもらった。


具体的な実戦こそなかったけど、俺は水泳選手の時代に、トレーニングやストレッチを沢山習っていたから、先輩の言っていることは大体よく分かった。


今までの俺は、与えられたトレーニングをひたすらやるだけで、そのトレーニングをやる意味や理由までは考えたことがなかった。


先輩のトレーニングの基礎は人体解剖学からきていて、一つ一つの筋肉には全て意味があることを知れと言われた。トレーニングが人体のどこに影響して、それがどう作用するかを把握しているのとしていないのとでは、結果に大きく差が出ると教えてくれた。


すごく面白かった!

先輩から教えてもらったことを復習して、分からないところを聞くと、先輩は丁寧に教えてくれた。昼は予備校に通うふりをして図書館に通い、先輩から教えてもらったことの復習の時間に充てた。


そして1週間後、約束の時間が来て終わる時、先輩は俺の熱心さと吸収の早さを褒めてくれた。そして「キミだったら、きっと上手くできるよ。頑張って!」と言って笑ってくれた。



俺はずいぶん、先輩と親しく話せるようになったと思う。もうそろそろ、あの事を聞いてみてもいいのでは?2年前、俺を助けてくれた人かどうか…。


うん、明日先輩に聞こう!そしてその時の御礼を言おう!


でも、翌日店に行き、衝撃の事実を知る。

先輩は昨夜で店を辞めていた。ウソだろ?

「あれ?言ってなかったっけ?」と支配人。

はい、聞いてないです。先輩もそんなこと言ってなかったし…。

「そのための引継ぎだったじゃない」


うーん、確かにそんな感じのことは聞いたかもしれないけど…。ああ、だから先輩、俺に教えるの「1週間」って言ってたのか。


でも先輩も冷たいな…。それならそれで、さよならくらい言わせて欲しかった。あるいは、先輩の退職と入れ違いなの、俺が分かった上での態度だと思われたかな…。


はぁ、マジで凹む…俺のバカ!折角のチャンスだったのに!もっと先輩と仲良くなっておけば良かった。せめて連絡先とか聞いておけば…俺は心から後悔をした。


「先輩の連絡先って教えてもらえませんか?」

「ダメに決まっているでしょ。個人情報なんだから!」

…当たり前か…。


では何で、俺は先輩と出会えたんだろう…。

運命論者じゃないけれど、こんな偶然はあり得ないと思う。俺は、命の恩人にお礼を告げる為のめぐり合わせだと思ったけど、そうじゃなかった…。


では何故また出会えたんだ?

そう考えたら、先輩は、俺を助けるために、天が遣わせてくれた天使なのかもしれないと思えてきた。


溺れた俺の命を救ってくれたのが先輩で、そして今度はそのトラウマを克服するために俺の前に現れてくれたとしたら?


きっとそうだ!先輩は天使に違いない。じゃなきゃ、あんなキレイで完璧な人間なんていないものな。


そう結論付けたら、俺のやることは一つ!水泳を復活させる!


俺の命を助けてくれた先輩が、今度は水泳を再開するためのトレーニングを教えてくれたんだから。そうしなければバチが当たってしまう。


善は急げ!翌日実家に戻って、7年通っていた水泳クラブに出向き、プールを使わせてもらうことにした。以前お世話になったコーチに連絡したら、夜開けておくからと言ってくれた。


実家に帰ると、母は目を潤ませて、水着とゴーグルとキャップを渡してくれた。以前の水着は小さいだろうと、いくつか新しい水着を買って用意してくれていた。


指定された時間に水泳クラブに行くと、コーチが俺を待っていてくれた。俺がこの場所に戻ってきたこと、それだけでコーチは喜んでくれた。


誰もいない夜のプールは静まり返り、プールサイドに立つ俺の身体は震えていた。


「行ける…絶対に行けるぞ…」と、心の中で繰り返し自分に言い聞かせた。深呼吸をし、準備を整え、勇気を出して水面に飛び込んだ。


水との最初の触れ合いは冷たく、俺の身体は反射的に震えた。しかし俺は止まることなく、泳ぎ続けた。


久しぶりにも関わらす、俺の体は応えてくれた。

肺は力強く呼吸し、足は連続して力強く水を蹴り、身体は流れるように前進していった。まるで俺は水と一体となり、自分自身を取り戻すかのような感覚だった。


泳ぐことの自由さ、水との調和が、俺に再び希望を与えてくれた。

俺はその瞬間、水と向き合う勇気を持てたこと、俺にそんな勇気を与えてくれた先輩に感謝した。


影で見守ってくれていたコーチも、俺の復活する姿を見て、心から喜んでくれていた。

ごめんなさいコーチ、心配をかけて。俺もう一度水泳を頑張りたい!


こうして俺はトラウマから解放されることができた。もう何も怖くない!


もしかしたら2年の間に、自然とトラウマは薄れていたのかもしれない。

でも俺はそうは思いたくなかった。俺がトラウマを克服できたのは、先輩のお陰だと思いたい。天の采配で俺が水泳に戻れたと思うと、不思議と力が湧いてくるから。


そうだ、レスキューの資格も取ろう!

もう二度とあんな無様なことにはならないように。溺れる人がいたら、自分も相手も安全に助けられるように。


先輩の最後の言葉を思いだした。

「キミだったら、きっと上手くできるよ。頑張って!」


俺はその言葉を何度も噛みしめ、「絶対にやり抜く!」と心に決めた。


大学受験も、レスキューの資格も、全部成功させる!

そして水泳でも、かつての栄光を必ず取り戻してみせる!

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