タイムマシンが作られない訳
「出来た…ついに完成じゃ!」
声を高らかに上げたのは、白いボサボサ頭の白衣を着た、まさしく博士といった容貌の老人である。そして彼は博士である。
たった今、長年の夢であるタイムマシンを作り上げたのだった。
「これで、念願のマング太郎とハブの戦いを見れるんじゃな。」
マング太郎とは、博士がまだ小学生だった頃に飼っていたマングースの名前である。
マング太郎は筋骨隆々の素晴らしい体をしており、博士の自慢であった。しかし、不幸にも機会に恵まれず、ハブとの対戦でその力を周囲に見せつける事なく老衰してしまったのだった。というのも、博士は東京に住んでいたので、ハブを入手出来なかったのだ。
「これまでマングースは何匹と飼ってきたが…マング太郎を越える逸材には出会えんかった…」
博士は感慨深そうに、研究室の隅のゲージで飼っているマングースへ視線を移す。
愛くるしい瞳が博士を見つめている。
「わし自身、過去を美化してマング太郎を過大評価しているのではないかと思い始めてしまっておる…」
博士の視線が卓上のマング太郎の遺影へと移る。
「マング太郎よ!その力をわしに見せてくれ!わしの目を覚ましておくれ!」
博士はハブをタイムマシンへと入れる。そして颯爽とスイッチの並ぶ機械の前へと移動し、赤いレバーを掴んだ。
「ゴー!ハブ!グッファイッ!マング太郎!」
博士は力強くレバーを下ろす。すると、タイムマシンは眩い光を放つ。ハブは過去の博士の下へと無事送り込まれたのだった。
「出来た…ついに完成じゃ!」
声を高らかに上げたのは、白いボサボサ頭の白衣を着た、まさしく博士といった容貌の老人である。しかし彼は博士ではない。
たった今、長年の夢である「マング太郎の決闘」という小説を書き上げた、小説家だった。
「これで、マング太郎とハブの戦いを後世に伝えられるんじゃな。」
マング太郎とは、老人がまだ小学生だった頃に飼っていたマングースの名前である。
マング太郎は筋骨隆々の素晴らしい体をしており、老人の自慢であった。
そして、ハブとの戦いで見事勝利を収めた強く勇敢なマングースだった。
老人はその勇ましい戦う姿を後世に残すため、その戦いの日以来、加筆と修正を繰り返し小説を書き続けたのだった。
幸か不幸か、タイムマシンを作ろうなどと思うような、悔いある生き方を老人はしなかったのだった。
少なくとも、老人はマング太郎の戦いの記録を書き上げ、自らの人生に満足し、幸せであった。