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排他的な村 1


 昼下がりののどかな丘。そこに伸びる一本の道。そんなゆったりとした道を歩く人影が一人いた。

その人影は身長大の剣を背負い、暗い色の外套を羽織って、昼の陽気に欠伸を漏らしながら歩いている、黒いざんばら髪と淡い灰色の瞳をした、幼くも落ち着いた少女だった。

「いやぁ、気が抜けてるねぇ」

そんな人影、もとい少女の様子を揶揄うように、背負われた剣がそう話し掛けてきた。それに人影はもう一発欠伸をかました後で、

「…別にいいでしょ。この辺りは危なくもないんだし」

と、高いが低い声色で気だるそうに答えた。

「まぁ、そうだけどね。こういう所を敢えて狙うって場合もあるよ」

「だとしても、こんな見通しのいい場所だったら心配ない」

(それ)の意見は杞憂だと言わんばかりに突き放すような言い方をする少女。しかし実際に彼女の言うことは間違いではなく、ここまで死角がない位置では何かを見逃す方が逆に難しいだろう。暗闇ならば視界もある程度誤魔化せるとは思うが、生憎今は真昼間だ。日が沈むまでにも時間があり、この状態から視覚を奪うなど不可能に等しい。

「それもそうだね。並の実力じゃ、僕達に敵う筈ないし」

あっさりと認めた(それ)は簡単に引き下がる。…確かにこんな無駄な論議をする必要性は皆無に等しい。だがそれでも、こうもあっさりと降参されると何だかやるせない気分になる。……全く、だったら最初から仕掛けないで欲しいものだ。…いや、そんなことを(こいつ)に期待するのも無駄か。

彼女もそんな何度目かも分からない反省を、溜息と共に再びしたところで道の先へと歩みを進める。

彼らが辿る道の先にあるらしいのは、前の街で話題に出た村。なんでも、以前までは愛想の良い、行商のしやすい村の一つであったのに、ここ最近になって急に余所者に当たりが強くなった…、という噂がにわかに囁かれていた。

「……これから向かう村、どう思う?」

少しの沈黙の後、彼女は引っ掛かっていた疑問を(それ)にぶつける。それに剣は少し迷ったように唸り声を上げた後、

「…まぁ、人の話には尾ひれがつくものだからあんまり気にしなくてもいい、ってのも言えるけど…」

「…だけど、火のない所に煙は立たない、ってのもある……」

「…そ。そういうこと」

途中で(それ)の言わんとしていることが解った少女はそれを口に出し、彼女が言い当てたことにさして驚きもせずに剣は肯定をする。そう考えると余計に判断に困ってくる。さて、今から向かう村の実情は一体どうなっているのやら…。

「んま、どうせ行くんだからそのうち判るでしょ」

……結局は、いつも通りにその場で判断、か…。なんとなくは予想しつつも、それ以外を期待していた答えに行き着いてしまったことに、安堵か落胆かが入り混じったような複雑な心境になりながら、

「……そうね。正直、そうだと思った」

と返した。

「…それで、君の意見はどうなの?」

「はぁ…、それが判らないから聞いたんだけど…?」

「でも、大体人って少しくらいどっちかには寄ってるでしょ?完全にどっちつかずってないと思うなぁ?」

「うるさい。そんなこと話しても意味ないでしょうが」

「でも僕は知りたいなぁ。こんな何にもない場所の暇つぶしに、さ」

「じゃあ、ソードが先に言ってよ」

「僕は言ったじゃない。”どうせ行くんだからそのうち判る”って」

「だったら私もそうよ」

「えぇ?それはないんじゃじゃない?」

「あるの。…そもそも、そんなこと考えてどうするの」

「君が聞いてきたんじゃないか」

「…うるさい」

また始まったようだ。なんだかんだで彼等もそんなやり取りをも飽きないらしい。…まぁ、結局、彼女もああ言いながら(それ)を完全に蔑ろにはできないようだ。……だからこそ、剣は余計につけあがるのだろうが。

……さて、彼等がそうこうしている間にも、着々と目的地へと近づいていく一人と一振り。仕入れた情報が正しければ、そろそろ件の村が遠目に確認できるはずだが…。

「……ん?ねぇ、アンナ。あれが噂の村じゃない?」

彼女の口撃をのらりくらりと躱していた剣が、ふとそんなことを言う。一瞬ただの意識逸らしのために言ったものかと勘違いした少女だったが、どうも違うらしい。(それ)の言う通りに道の先を見ると確かに家屋の影のようなものがぽつぽつと伺える。

「……かもね」

「…あれ?もしかして、不貞腐れてる?」

「…うるさい」

……なにはともあれ、彼等はまた、新しい村へと向かっていった。

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