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寂れた村 6


「――はっ……!」

次に少女が見た光景は、あの男に案内された小さな家だった。


…夢、だったか…。


そんな安堵とも困惑とおもとれる溜息をつくと、ようやく自分の呼吸が荒く、脂汗もかいていることに気付く。

「アンナ?どうしたの?悪い夢でも見た?」

そんな様子の彼女に剣がそう問いかける。普段は飄々とした雰囲気を漂わせるs(それ)も今は何処か心配そうだ。

「――えぇ…、とっても」

息を整えながら少女はそう答え、何が起こったのかを(それ)に話した。それを一頻り聞いたのち、(それ)は呟くように言う。

「…なるほどねぇ。この村がガルムに…」

「うん。判らないけど、もしこれから起こる事だったら…」

早く村人達に伝えて逃げた方がいい、それが彼女の主張だ。何もかもが裏付けのない推測だが、可能性がある以上対策をしたほうがいい。…少なくとも、彼女はその光景を見た、というのは事実だ。

…しかし、それに対して剣の方はあまり乗り気ではないようで、

「う~ん…、そうは言ってもあくまで君の夢だしねぇ…」

「それは…そうだけど…」

「それに無駄なんじゃないかな?それって」

「無駄…?」

ただ自分の意見を否定するのは分かるが、()()とは…?(それ)がそう表現した意味に違和感を感じる。

「まぁ、あの人に聞いてみればいいんじゃないかな。きっと解ると思うよ」

彼女がそのことについて尋ねるより先に、(それ)がそう言う。それは一体どういう…?

少女が更に問い詰めようとした時、奥から誰かがこちらに来る気配がした。

「…もう起きていたか。流石は旅人だな」

そちらの方へ向くと、やはり声の主はあの男だった。噂をすれば…というか、なんというか、よくもまぁ都合よく来てくれたものだ。

「あ、あの…その…」

「…ん?なんだ?」

小さい弱々しい声だったが、幸いにも彼には聞こえたようだ。そう言って少女を正面に据えるように向きを変える。男に正面から見下ろされる形になったからか、一瞬少女はその身を強張らせる。しかしすぐに意を決したように向き直り、

「あの…!こ、この村が、ガルムに…!」

「――なんだと?」

それを聞いた途端、彼の顔の険しさが更に増す。より一層彼女を威圧するような眼になる。再び身体が硬直する少女だったが持ち直し、真剣な表情で彼を見上げる。そんな彼女の雰囲気から、これは冗談などではないと彼も察したようだ。

「……誰から聞いたか分からんが…。まぁ、いい。ついてこい」

男はそう言うと家の扉に手を掛ける。そして、はっとして立ち上がった少女がこちらに来ることを確認すると、扉を開けて外に出た。

 男は無言のまま何処かへ歩いていく。はっきりとは判らないが、向かう先には樹が生い茂っているようだ。……そんなことよりも、少女には気になることがあった。

「……あれ?、ここって…?」

この村に訪れた時と今、景色の印象がまるで違っていた。ここに来た時はせいぜい人気がないぐらいだった筈だ。…しかし今、改めてみると、()()()()()()()()がそこに広がっているだけだ。そこは長らく人が住んでいた形跡など微塵も感じられない。

…何故?たった一日でこうなるはずが…。

混乱している少女をよそに、男はそのまま歩みを進める。迷いなく何処かを目指している。

そのうち村跡から外れ、森へと入っていく。半ば獣道と変わらない道らしき道を進み、更に奥へと進んでいく。

ふと樹々が開け、足元の草も背が低くなった場所へと辿り着く。そんな明らかな人の手が加わった空間の中心には石碑が立っている。

目を奪われ立ち止まった少女。しかし男は迷わず石碑の前へと向かっていく。そして深く祈りを捧げ始めた。

それに気づいた少女も、彼の邪魔をしないようにと気を付けながら、そっと石碑に近づく。すると、彼女が丁度彼の後ろに来た辺りで、ぽつりぽつりと男が語り始めた。

「……かつてここには小さな村があった。なんの取り柄もない、ただの田舎さ」

彼が言うには、彼は50年ほど前にここにあった村で育ったらしい。そして何もない日常が流れるこの村に嫌気が差し、若気の至りによってこの村を出た。その彼が丁度ここを離れていた時、ここは魔物に襲われていたらしい。

「俺は運よく逃れることができた。だが、村の奴等は全滅だろう。…あんな様子じゃあな…」

そうして彼は、慰霊の意を込めてこの場所に石碑を立てた。再び奴等が来ることを恐れ、敢えてこんな森の中に。そして、今でも度々訪れてここを管理している。ということだった。

「それでな、俺と同じく外に興味を持ってた子供がいたんだ。俺はそいつに、帰ってきたら外の世界の話をする、っていう約束をしてな」

深い溜息の後、短い静寂を挟んでゆっくりと再び語りだす。かなり苦い思い出なのだろう。声色からも辛さが伺える。

「あいつとの約束を守れなかったのが一番心残りだな。あんな子供も犠牲になったかと思うと…」

…何も言えなかった。言葉が思い浮かばなかった。まぁ、ある意味それが正解なのだろう。もとより、決まった台詞などないのだから。


 その後、男に別れを告げて少女は去る。かつて惨劇に見舞われた廃村を。その場にいなかったが、確かに経験したあの日に見舞われた村を。

「まぁ、君が気負うことはないさ。そういう運命だった、ってことで」

あっけらかんと慰めにもならないことをいう(それ)に若干の苛立ちを覚える少女。…せめてあの夢の中だけでも…。そう思いふと村へと振り返る。


――と、少年が一人、こちらに手を振っているような気がした。

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