表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/22

寂れた村 5


「ここ、は…?」

気付くと少女は見知らぬ場所に立っていた。何処かののどかな村だろうか…。なんとなく見覚えがあるような気がする風景に感じるが、少なくとも何度も見た場所などでは決してないだろう…。

そうして暫く彷徨っているうち、ある家屋の間の裏路地、その細く入り組んだ曲がり角を見つける。なんだか妙な既視感が…。


…あぁ、思い出した。あの子を追いかけた裏路地……ここは、あの人気のない村だ。


覚えがあった違和感の正体に気付いた彼女は改めて辺りを見回す。微かな記憶だが、確かにここはあの時訪れたばかりの村と一致する。…何故自分はこんなところに…?

「…あれ?お姉さん…?」

ふと声を掛けられた。まさかの事象に驚き振り返る。そこにはまさに、この村で接触した最初の少年が。

「君は…」

思わず声を掛けようとする。前のように彼に駆け寄ろうとする。


――しかし、それは耳を劈くような轟音によって掻き消され、立ち止まらざるを得なかった。


―なんだ!?この声は…!?

一気に彼女の中に緊張が走る。警戒心の強さを最大まで引き上げ、出来る限りで危機を早く察知しようとする。そして背負っている身長大の剣の柄に手を伸ばし…、

「…あれ?」

いない。いつもならこうすれば確実に…、

空を掻いた手に戸惑い背後に顔を向ける。どうしても死角の位置であるために確認はしにくいのだが、いつもは見える(かれ)の影が確かに見当たらなかった。

…まずい。これはちょっとまずい。

少し彼女から焦りの色が見え始める。しかし、ここで慌ててもどうにもならないことも事実。すぐに応戦する選択肢を消して、より状況の把握をすることに努める。

そう彼女が思考を切り替えている間に、村ではあちこちから悲鳴や混乱からくる叫び声が響いていた。いつの間にか道にはその場から逃げるように走る人ばかり。皆、最早他を気にする余裕もないらしく、息を切らしながら早々に立ち去ろうとする。

…なんだ?何が起こっている…?

人々の向かう方向から、その逆を辿って事態の発生源を探ろうと視線を移す。そしてその先には……何か、巨大な影がゆっくりと、……動いている?

時間が経つにつれてその正体が徐々に明らかになる。赤黒く刺々しい印象を与える毛並み、人を越えるほどの体高の狼のような影、ここからでも伺えるほど禍々しい捕食者の眼…。

「…ガルム…!」

ガルム。ブラックドッグやヘルハウンドと呼ばれる狼型の魔物。その中でも特に成長し、群れの長を務めることも多い強個体に使われる名称。彼女の目に映る()()はまさに、彼女の記憶のそれと完全に符合するものだった。

この状況は非常にまずい!ただでさえ厄介なのに…!

そう、ガルムは単体でも戦闘能力は決して低くない。加えてガルムとして成った経緯での経験を活かした狡猾さも備えている、そしてなによりも、狼という動物は群れを成す。それは魔物であろうと例外ではない。

「くっ…!こんなときにソードは何処に…!」

思わず悪態をつく少女。しかし彼女の立場を考えれば無理もない。何せ、この状況から生き残るには、奴等に見つからないように逃げ延びるしかないからだ。

……その時、

「ぎゃあああっっっ……!!」

彼女の背後から誰かの叫び声が聞こえた。それを皮切りに周囲から様々な断末魔が聞こえる。…遂に奴等の”狩り”が始まった…。

どうする…!?かなり絶望的だが…。

奴等は決して無策ではない。つまり、行動に移したということは、もう包囲網は完成されている、ということだろう。この状況から武器もない状態で生き残るのは、彼女の思う通り絶望的だ。

「っ……!?」

しかしのんびり考えている余裕すらない。正面のガルムが確実に近づいてきている。こちらの恐怖を煽るかのように、ゆっくりと一歩ずつ、にじり寄ってくる。そしてその身体が村の大通りに侵入したとほぼ同時、急に奴が隣の家を凝視し始めた。

「た、助けて…っ!!」

突然か細い悲鳴が聞こえた。…まさか、誰かが見つかったのか…?

……どうもそうらしい。奴がその場所を正面に据えたかと思うと、何かを捉えながらそこに近づいてゆく…。


――まずい…!


咄嗟に駆け付けようとするが、自分には抵抗する手段が何もないことを思い出して悔しそうに顔を歪める。……くそっ、どうすることもできないのか…!

「っっ……!!」

次の瞬間、突如として加速した奴の頭はあの家の中へと飛び込む。同時に赤い飛沫が、奴の顔を含めた周囲に飛び散る。そして、獲物をしっかりと持つためか何度か噛み直す仕草を見せる。その後、ようやく頭を建物から引き抜くように戻し、奴に咥えられたのが露わになる。

「っっ……!?!?!?」

それは、虚ろな目をして僅かに痙攣をしている()()()()がいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ