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寂れた村 4


「…何をしている?早く上がれ」

暫くぼうっと立ち尽くしていると、男がそう催促してきた。はっとした少女は駆け足で開かれたままの扉へと向かう。

外からの印象通り、家の中はこじんまりとしていて人一人が住むのに丁度よい。…裏を返せば、それより多い人数で住むには適していない。つまり…、

「あなたは一人でここに?」

「ああ、そうだ」

やはり一人暮らしか。別に彼のような年齢の男性が一人で住んでいること自体は不思議な事ではない。が、

「ここは一体…?」

やはり何故いるかは気になるところだ。特にやたらと人気の無いこの村ではそもそも一人でいることの方が不自然に思える。

「…ここは俺の家だった。だから好きに使ってもらって構わん」

男は何か片付けながら、こちらに背を向けたままそう答える。…といっても少女が望んでた回答とは少しずれているのだが。

「だった…?」

「そこに並べたのは自由に使っていいものだ。俺は奥にいるから、何かあったら好きに呼べ」

引っ掛かった言葉に言及しようとしたが、それより先に彼に遮られてしまった。…いや、というより、ただ彼女の声が小さすぎただけというのが客観的事実である気がするが。

とにかく、好意的ではある内容だが不愛想な態度のまま、男は奥へと消えてしまった。静止の声を上げようとする少女だったが、それも空しく間に合わなかった。

「あらら、行っちゃったね」

「うん…。ねぇ、ソード、あれって…」

「ん?自由に使っていい常備品のこと?結構手入れはされているみたいだよ。安心して使えるね」

「違う。そっちじゃない。…”俺の家だった”って…」

真剣に訊ねたつもりだったのにわざと外して返された。全く、本物の剣のくせして…。

そんな彼女の溜息を感じたのか、(それ)もちゃんと問いに答え始める。

「ん~、単純に、今は住んでないってだけなら、いくらでもあり得るんじゃないかな。村を出るって、珍しいことではないでしょ?」

「それは……そうだけど…、そこだけじゃない、というか…」

なんとも煮え切らない言葉を返す少女。しかし剣の方は大して気に留める様子も無く、

「んま、今はここに泊まれることに感謝した方がいいんじゃない?しかもタダで」

「確かにそれは……そうだね」

ある意味では、(それ)の方がよほど現実が見えているようだ。野暮な詮索をするよりかは、厚意に与らせてもらうことを素直に喜んだほうがいいかもしれない。そんな(それ)の持論に納得のいった少女は、宵越しの準備を始めた。

そして簡単に寝床を整えた少女は、一息つくために温かい飲み物を用意する。

「…ふぅ」

「ここでは収獲はなさそうだね」

就寝前のちょっとした会議を行う一人と一振り。少女は熱を持ったコップを両手で包むように持ち、剣は彼女の正面で向かい合うように立てかけられている。

「みたいね。どうしようか…」

「あの人に聞いてみるしかないけど」

「それで何も出でこなかったら…また、一から、か…」

「ま、それが本来の僕達だよ。当てもなく彷徨うのが、さ」

「…んま、そっか。そういうものか」

「そそ、そういうものそういうもの」

気休めになっているのかいないのか分からないような(それ)の言葉に、少し励まされたような気になる少女。そんな作戦会議という名目の、いつもと遜色のない会話を何度か繰り返した後、ふと少女が欠伸をかます。気付けば目もとろんとしていて、明らかに眠そうだ。

「どう?そろそろ寝ようか?」

うつらうつらとしている彼女に(それ)がそう問いかけると、少し時間が空いた後に少女は首を縦に振り、

「…そうね。そろそろ寝よう」

そう言って再度欠伸をかました後、徐に用意した寝床に入り、そしてそれ程経たないうちにすぅすぅと寝息を立て始めた。

「お休み、アンナ」

彼女には聞こえていないだろうが、そんな少女に(それ)は優しい声色でそう呟く。そして、

「今日は久しぶりに安心して寝られるからね…。ゆっくり寝るといいよ」

それ以降(それ)も眠ったのか、一切言葉を発さなくなった。




しかし、彼女は夢を見る。何処かにぽつんと立っている夢。何処かを彷徨う夢。そして、その何処かが何かに襲われている夢…。それはとても、安眠できるような夢ではなかった。その事は、夢から覚めた彼女が呼吸を荒げていた様子からも伺うことができた。

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