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慧眼を持つ町 3


 それから日が暮れ、街の活発さも徐々に落ち着いてきた薄暗い頃合い。少女は自らが取った宿の一室で簡単に荷ほどきをしながら、一気に脱力するように大きな溜息を吐いた。そしてそのまま倒れ込むように整えられた柔らかな寝台の上に身を預ける。

「おつかれさま。残念だったね」

滑らかな肌触りの良い感触の中で(うずくま)っているような少女に、枕元の壁に立てかけられた剣が彼女を労うように、しかしどこか他人事のようにで話しかける。

それに少女は軽く溜息を吐き、相変わらずの不愛想な声色で、

「…どうせこうなるとはわかってた。――けど、まさか”こんなもの”があるなんて、ね…」

そう言って彼女は、徐に一枚の掌程度の紙を(かざ)すように取り出した。

それは日常的に用いられているような紙製品よりも上等な素材が使用され、今から三日後の日付やとある神殿の名、仰々しく人名などが記載されている。要するに聖者との面談のための受付用紙だ。

「面白いよね。なるほど、これならより効率的に捌けるってわけだ」

(それ)の言葉に、少女は目の前の(これ)を渡されたときの状況をふと思い出す。

”――こちらが今、直近でご案内できる聖者様のものとなります”

聖者のがいるらしい神殿に訪れた際、この町に訪れた目的でもある聖者の啓示とやらを受けることができなかった。まぁ、飛び入りで参加しようとしたのだからそれもある意味当然の話だ。何せ大抵の来訪者は同じように聖者の啓示(これ)を目的にしているのであり、そもそもこれのためにここに足を運んでいる者達も多い。そのためだろうが、自分を含めた啓示を受け取れなかったもの達も今の時点で空きがある日に再度訪れれば優先して案内される待遇を受けることができる、と説明がなされた。そしてそれと同時に彼等の配布されたのが、今彼女が眺めている紙切れだった。

要するに、この紙一枚で聖者に会う権利が得られるのだ。

「…まるで商売みたいね」

「おやおや、手厳しい意見だ」

合理的な方法ではあるが、それ故にこうして体系化され機能的に運用されている様は”聖者”という言葉に含まれている筈の神秘性を失わせているようだと少女には思えてならなかった。

その構造を、楽観にすぎるらしく肯定的に捉えている剣とどこか恣意的で否定的な少女。どちらが正しいとは一概には言えないが、そのどちらも本質からは()()()()()()()()

「――そういえば、妙に気を張っていたみたいだったけど?そんなに警戒していたのかい?」

すると突然、剣があけすけに少女へ訊ねる。普段とて反応が遅れないよう緊張の糸を弛ませない少女だったが、この町に来てから、特に神殿へと足を踏み入れた時から一段と強くなっていたように剣には感じれたのだった。

唐突とは言え予想ができていた少女は、それに大した動揺などを見せることもなくそのままの姿勢を保ちながら、

「…別にいいでしょ。あなたには関係がないし」

そう突き放すような物言いをする。それと同時に、その手は、その身体はより縮こまるように強張ったように思えた。

しかし、それを気付いているのかいないのか剣の声色は相変わらず明るいままで、

「ま、そうだけどね。一応僕も知らないから聞いてみただけさ」

「…そういって、大体把握しているくせに」

口を尖らせ寝返りをうち、更に(うずくま)るように少女は薄布の上で丸くなる。その様子はどこか弱々しい、痛々しい印象を漂わせていた。…だが、それをまるで気にする気配も見せずに(それ)はとぼけた調子のまま、

「おや?ごめんね。まったく想像つかないや」

「……もういい」

その後も態度を改めようとしない剣に対し、ついに彼女は拗ねて布にくるまり姿を隠してしまった。そしてそのまま剣が何を話しかけても黙りこくり反応を示さなくなる。

「アンナ?アンナ?…あら、不貞寝か。流石にやりすぎたかな?」

久しぶりに彼女の感情が揺さぶられる様を見られる機会を得られたと思ったのだが、どうも彼女はこれ以上付き合ってくれないらしい。ふむ、つまらない…が、仕方ないか。

そのうちすぅすぅと落ち着いた呼吸が部屋の中に微かに響き渡り始める。それを察した剣は何とも言えない溜息らしい声を漏らしたかと思えば、

「今度は本当に寝ちゃったみたいだね。…あ~あ、素直じゃないんだから」

そんな独り言をぽつりと呟く。その声色には先程のような刺々しさも、嘲笑の雰囲気も感じられない。

――そして、

「…おつかれさま、だね。ほんと。――せめてもの安寧を」

それを最後に(それ)も言葉を発さなくなり、薄暗い室内が明るみを取り戻すまでずっと彼女を見守り続けた。

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