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慧眼を持つ町 1


 とある平原を穿っていく、一本の舗装された石畳。殆ど歪みも地形に沿うこともなく、馬車などが通ることにも適しているだろう。

そんな一本道を辿って歩く、一つの人影があった。その人影は草臥れた外套を顔すら目深に覆い隠すように羽織り、己の身長ほどもある黒煌の剣を背負ってのんびりも急くわけでもなく歩調を保っている。目指す先は勿論、目前に見える煌びやかな城門だ。

「――それで?次はどんな場所だったっけ?」

と、唐突に人影の背後から剣が話しかけてくる。だが人影はそれに驚く様子もなく普段通りの出来事のように、

「…神聖で最も神に近い、とか言われているらしいけど」

人影が高い声だが低い声色でそう返した。そしてどこか物憂げに溜息を吐き、視線の先の町への入り口を見つめ続ける。それからは、人影の潜んで見えない顔が視認できなくとも不愉快そうに歪んでいることが窺える。

「あぁ。…まぁ、そんな臍を曲げないでよ。耳心地が悪いのは解るけどさ」

ご機嫌斜めな人影を宥めるように剣は明るい口調で諭す。しかしその意見には同感らしく、億劫そうな気配を見せながら更に続けて、

「前に聞いたとこでも言ってただろ?別に悪い人達ではない、って」

「…そういうのが、一番厄介なの」

人影は更に鬱屈な雰囲気を漂わせてぽつりと呟く。ただでさえ俯きがちで仄かに薄暗い顔に、深い陰が落ちたような気がした。

「んま、今の僕達には関係ないことさ。気を揉むことなんてないよ」

そうは言っても苦虫を噛み潰したような不快感が消えるわけでもない。未だ町に到達していないとはいえ、目の前の城門に近づく度にその足取りが重くなっていく。加えて口を固く結んでいるらしく、少なかった口数も段々と減っていく。心なしか身体の動きのぎこちなささえも増していくようだ。

「…ね、そんなに嫌なのかい?」

人影の様子が普段と違う、と怪訝そうに剣が訊ねた。ここまでの反応を何も起こっていないうちから示すのはなかなかどうして珍しい、と。

それに人影は、はぁ、と一際大きな溜息をつき、そして微かに舌打ちらしき音を立てて、

「…それ、私がどう思ってるかなんて、判りきっていることでしょう?」

「――ま、そだね。流石に配慮がなさすぎたかな?」

「はぁ…ったく、もう。あなたが配慮なんてしようとしないじゃない」

「心外だなぁ。これでも僕は君によく気を使っているんだよ?」

「…どうだか」

苛立ちを最早隠そうともしない人影に対して、剣は依然として飄々とした態度を相も変わらず貫き通す。そんな(それ)に対して人影は呆れの多分に混じった溜息を吐くと、正面の城門をしっかりと見据えて歩幅を普段のそれに戻し始める。…どうやら、今のやり取りで余計な力が抜け無駄な緊張も解けたようだ。

それを自覚しているのか否か、人影は歩調を軽く保ったままで城門の受付所らしき場所へと迷わず向かった。そして、

「ようこそお越しいらっしゃいました。旅人様、本日はどのようなご用事で?」

人影の姿を目視したらしく、城門の壁を刳り貫かれたように存在する入城受付所から、門番の役割らしい和やかな微笑みを浮かべる女性が人影に向けて話しかけてくる。しかしというか、やはりというか、人影は言葉を詰まらせ視線を泳がせる。

「あ、え、っと…」

「あぁ!申し訳ございません。愚問でしたね。ここに足を運んでくださった理由なんて、判り切っていることなのに…」

だが受付の女は人影の戸惑う姿を見るや否や、矢鱈大袈裟な身振りとともに驚き謝罪を繰り返す。その彼女の勢いに人影は飲まれ当惑のままに言葉にならない声を漏らすのが精一杯だった。

「では、すみません。身分確認などを行ってもよろしいでしょうか?聖者様達の身の御安全のためですので…」

戸惑いがちに人影は頷き、徐に顔を覆っていた布を捲り上げる。漸く露になったその正体は、黒いざんばら髪と淡い灰色の瞳をした、幼くも落ち着いた雰囲気の少女だった。

「まぁ…!まだお若いというのに。――ですが、ある意味では当然のことでしょうか。我等が聖者様の御助力は、まだまだ成長の期待が籠るお若い方にこそ活きるものでしょうから…」

その後も作業を続けながら、女はにこやかな表情のままで突然に問いかけ、そして何か勝手に納得して何度も頷く。…どうでもいいから、早く済ませて欲しい。少女にとって返答をせずともよい楽な空間であると共に、無性にこの場から立ち去りたくなる苦手な空気でもあった。

「――さて、これで問題ありませんね。おめでとうございます!無事承認されましたよ」

長かったのか短かったのか、とにかく少女にとってようやくという体感の後に女がそう微笑みかける。…それには何も裏はない筈なのに、何故か気持ちのいいものではなかった。

そして少女は女から町中へと視線を移す。豪華絢爛、煌びやかで荘厳な装飾があちらこちらに施された、生活感をあまり感じさせない、”美しい”町だった。

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