隔絶された町 5
それから、少女は見知らぬ場所であるにも関わらず大した問題も生じることなく道を進んでいく。計画的に建造され、整備も丁寧に行われているからだろう。露店の男が示していた道がどれなのか、直感的に判った。
…それよりも、彼女が気になっていたのは”魔法道具”という言葉だった。
別に、この単語が彼女にとってまるで聞き覚えの無い未知のものだったからではない。彼女の記憶が正しければ、確かそれに相当するものは現在は魔法技具と呼ばれることが多い筈だ。その生産技術の損失、量産性の低下、そしてそれによる希少性と神秘性の向上から一般的にありふれているという感覚が徐々に薄れていき、逆にその貴重さを強調する語意を含むものへと変化していった…と、そう記憶している。つまり、魔法道具という呼称はかつて使われていたものであり、現在ではそれ単語自体も珍しいものになった、ということだ。…今では全く聞かないというわけでもないのだが、古い慣習でそう呼んでいる程度の場所でしかそれは定着していない。
そうした点からもやはりこの町は歴史が深そうだという考察とも齟齬がなく、不思議そうに首を傾げながら少女は道を進む。…彼の言った通りならば、そろそろ目的地に到着してもよい頃合いなのだが…。
そう若干の不安に駆られながらも彼女はとある辻を左に曲がった。そこには一際大きな街路が通り、そ賑わいも勢いを増していた。
――少女は、この通りこそが目的の場所だと直感した。そう、確信した。
ここにも多くの店が道に沿って連なっていた。…しかし露店などではなく、そこに建てられている石造りの建築物として構えられている。それのどれもが、こうして見える限りでも繁盛しているのだ。
「―えっ…?」
そして、その全ては魔法道具を取り扱っている店だった。ちょっとした要素を孕んでいる程度ではない。専門店といっていい程度には品揃えの種類も幅も広く、まるで世界中からこの場所に全てのそれが集結しているようだ。
流石にここまでの水準の都市は彼女にとっても稀な存在だ。なかなか見られない光景に目を丸くして困惑を隠せないでいる。
「これは…すごいね」
そしてそれは黒煌の剣にとっても驚くべきものだったらしい。普段よりも一段と調子の高い声色が、彼女の背中越しに聞こえてくる。
「えぇ…、こんなに沢山あるとは思わなかったわ」
「想像以上だね。今みたいな世の中で」
呆然、といった様子でその街並みに視線を巡らせながら、ゆっくりと誘われるように足を踏み出す少女。路地を進む間にもその眼に映る左右の店は、やはりどこも人の出入りが頻繁に行われ賑わいを見せている。
――と、ふと少女の目に留まった店があった。別段他の店と変わった様子があるわけでもないのだが、偶然にもその瞬間にはその店に他人がいなかったこと、そして何かがそこから少女の気を引くような感覚が彼女の意識をその店へと注目させる。一度気になってしまい、更に今早急に行うべき事柄も存在しない以上好奇心に抗って通り過ぎる必要もない。無意識のうちに彼女のつま先はその店へと向いていた。
「…あら、いらっしゃい」
少女が店の扉を開けると、その揺れに応じて甲高い金属の接触音が鳴り響く。それを聞きつけた受付台の向こう側に立つ何やら作業中の中年の女性が、少女の姿をちらと確認してから穏やかな口調でそう声をかけてきた。
少女は女性の姿を確認すると小さい会釈で応え、そして店内を軽く見回し様子を伺う。
…今のところ、やはり骨董品として扱っているようには思えない。それほどに入手方法が安定しているとでもいうのだろうか…?
「何か探しているものでもあるのかい?」
きょろきょろと忙しなく視線を動かしている少女に、女性は微笑みを浮かべながらそう訊ねる。目当ての品が見当たらない。そう予想するのは店員として当然だろう。だが、特に目的もなくふらりと立ち寄った程度の少女にはその質問は答え辛いもの以外の何物でもなく、
「え、そ、その…」
と探すものを変えて再び視線を泳がせる。
「どうしたんだい?取り敢えず言ってみな?」
何かしらに迷っている様子の少女に、女性は怪訝そうに首を傾げて訊ねる。女性の態度は優しく促すようなものだったが、少女は逆に催促されたように焦りなんとか言葉を捻りだそうとして、
「あの…こ、ここの品揃えって…」
「あぁ、すまないね。ちょっと少ないだろ?魔王軍との戦いで兵士さん達への供給の方が優先されているみたいでさ、このギーク王都ではこれぐらいが仕入れられる限度さ」
申し訳なさそうなどこか卑下するように苦笑を浮かべる女性。驚いたように目を見開く少女に対して重ねて謝罪を述べている。…しかし、少女の驚愕の理由はそれではない。少女にとってなによりも衝撃的な単語がそこに含まれていた。
「ま、魔王…?」
「あぁ。―ったく、厄介なもんだね。あれのせいで物騒な世の中になっているってんだからさ」




