隔絶された町 4
「さぁ、いらっしゃい!今朝仕入れたばかりの新鮮な肉だよ!」
「道具の品揃えにはどこにも負けねぇ。なんでもあるから見ていってくんな!」
「簡単な傷薬から専門の調合書まで!薬は是非うちに見にきておくれ!」
目まぐるしく人々が行き交う街路。威勢よく呼び込みを続ける露店が脇にずっと並んでいる。その光景は賑わう大都市そのものだった。
「――どこをどう見ても、普通の大都市、ね…」
そんな路地の中心で、周囲を見回しながら少女はぽつりと独り言を呟いた。彼女の記憶と照らし合わせる限り、この町と世界に名を轟かせるそれとに大した遜色は見られない。そのどこにも不自然な点は感じられなかった。まるで何事もなかったかのように。その違和感のなさが、逆に彼女に違和感を与えている。
「…あんなことがあったからね。流石に何かおかしい方がこっちとしても理解できるんだけど」
そして、珍しく少女に同調する剣がため息混じりにそう愚痴を吐く。平時ならばこんな心配などする筈もないのだが、今回ばかりはこの無用な勘繰りをしなければ気が済まない。どこかに不可思議な点はないのか、と普段にも増して街中に余計な警戒を向けてしまう。
それでも、やはり不気味な要素は見受けられなかった。強いていうなれば、建物や構造を含めた町の造りに古めかしい印象を受けることだろうか。しかし、それは歴史の長くなるような大きな都市の特徴としては不思議なことではない。…あとは、恐らくここが繁華街とはいえ、流石に人通りが多い気がすることぐらい、か…?だがそれもここが大都市であるのならば別になんらおかしくもない。
どうしても大都市であるということを裏付けるようなものばかりが目に入り、ますますこの町の情報が一切仕入れることができなかったことに疑問が生じる。
「ん?そこのお嬢ちゃん、そんな道のど真ん中で立ち止まってどうかしたか?」
そんな挙動不審に辺りを確認する少女の様子の方が、傍から見れば怪しいのは自明だろう。怪訝に思ったのか、それとも心配したのか、露店に立つ一人の男が眉を顰めながら少女に話しかけてきた。
「あっ、いえ…その、なんでも、ない、です…」
唐突に声をかけられてびくりと首を竦めて少女は声の方へと振り向く。そして自らに向けられている視線を確認した途端に、今度は眼を伏せて視点の定まらぬまま不必要なほどに釈明の言葉を並べる。
…どこからどう見ても”なんでもない”ようには思えない様子なのだが、と、露店の男の顔に呆れや疑いが混じり始め、相変わらずわたわたとしている少女に首を傾げながら、
「そうかい?この通りにいる奴なんて、大抵目当てのものを買い占められねぇように急ぐようなのばっかりだがなぁ…?」
「えっと…その…」
…まずいな。確実に不審に思われている。正直、町民の一人ぐらいにならば適当にこの場を去ってしまえばいいとは思うが、何分この町に対してこちらが不審感を募らせているためにそんな何か後に響くような行動は避けたいのも本音だ。何か上手く誤魔化せるような台詞でも思いつれけばいいのだが…。
「――もしかして、魔法道具を探しに来たのか?」
と、突然露店の男は何か合点がいったのか、眼差しから疑いのそれを抜いて少女へと問いかける。
「え?…えっ、と…」
少女はまるで予想だにしなかった単語を投げかけられて思わず首を傾げる。…しかし、先程からずっと言い淀んできた彼女の印象に別段大きな変化を与えることはなかったようで、男はそのまま続けざまに、
「だったら、残念だがこの通りじゃないぞ。あそこに大きい塔が見えるだろ?一旦あそこに向かって、そこから東の大通りに沿っていけば見つかるさ」
そう言ってにかっと笑顔を見せた。…どうやら、なんだか勝手に納得してくれたようだ。
「あ、その…ありがとう、ございます…」
敢えて否定する必要性もなく、丁度行き先にも困っていた彼女は流されるままに頭を下げて示された方へと向かう。…まさかのことだったが、まぁ、渡りに舟というやつだ。都合がいいのでその厚意に与るとしようか。
…しかし、魔法道具という単語を聞くことになろうとは…。名の通り魔法を利用している小道具全般を指し、誰もが簡単に使用できるものとして当たり前のように見るときもあった。…だが、今や大量に生産する方法も失われて稀に見る珍品程度の品物になっている。
そうした骨董品を扱うような店がこの町に存在している、ということなのだろうか。まぁ、様々な人も物も流れ着く大都市には、往々にして娯楽目的の変わった店も少なくない。今回もそういった類で有名な店なのだろう。
少女は男が案内したように、まずは街中からでも一際目立つ見張り櫓も兼ねたような塔へと目指す。雑踏と喧騒で忙しない大通りの中を、人の合間を縫うようにして足早に去っていった。




