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隔絶された町 3


「――おや?珍しいね、旅人かな?」

城門に近づいて早々少女は驚きのあまり目を見開く。さも当然のように、城門に常駐する警護兵が居たのだ。…いや、城門に兵士がいるのは当然のことなのだが、てっきり人などもう住んでいないものだと早とちりしていたらしい。常識的に考えれば、取り乱す方がおかしいのだ。

――兵士が怪訝そうにこちらを見ている。下手に怪しまれでもしたらややこしいことになりそうだ。それは避けたい。少女は軽く会釈をしながらその兵士の元へと駆け寄る。

「どうした?一瞬信じられないものを見たような顔をしていたが…」

「い、いえ、なんでも…」

決して何も後ろめたいことはない筈なのに、ただ彼女の態度が普段通りなだけで一層怪しく見えてしまう。余計な事態を招かなければいいが…。

「そうか?…まあ、何かあればすぐに言いたまえ。我々にできることなら尽くそう」

しかし警備の彼は思いのほかあっさりと受け入れてくれた。それもかなり好意的なようだ。

「あ、えと、ありがとう、ござい、ます…」

「…して、わざわざこんな時に何故訪れた?それもそんな軽装で」

…彼の本分が始まったようだ。もし予想の通りにここが大都市ならば、確かに厳重な検問があって然るべきだろう。

「あぁ、ええと、その…旅を、しているだけで…」

「ほう、どこへと向かっているんだ?」

…そう訊ねられても、行く先すらも判らないただ放浪者に答えられるわけがない。さて、どう言ったものか…。と、少女はどもりながら眼を泳がせて言葉を探す。

が、当然そんな様子は傍から見れば怪しいもので、兵士は疑いの色を一切隠そうともせずに、

「…君のような若い娘が、わざわざこんな時期に、かね?」

「えと、はい…」

「ほう…」

兵士にまじまじと見つめられ、思わず少女は顔を背ける。それでも彼は彼女が信用に足るかどうか、この関所を通すに値するかどうかを見定めるかのように少女の全身へくまなく視線を向け続ける。

「…まぁ、いいか。確かに君には挙動不審な点がいくつもあるが、それでも俺の勘は君をあくどい奴だと思わない。だからいいだろう。ここを通そう」

暫しの沈黙の後、軽い溜息とともに兵士が口を開く。…どうやら認めてくれたらしい。何故かは解らない が、こちらとしては変に足止めを喰らうことがなくて幸いだといったところだろう。

「あ、えと、あ、ありがとう、ござい、ます…」

「まぁ、我々とて君のような旅人を虐めたいわけではないからな。この都市に危害を加えない者であるかぎり拒絶する必要もない」

兵士はその凛々しい顔を柔らかく破顔させ、

「この町が、君にとって良い休息場所となることを祈っているよ」

そうして、厳重な城門の奥、城壁の中へと彼女を見送った。

重厚に奥へと深く続き、一度濃い日陰が彼女を包む。ひやりとした独特の空気に覆われ、その温度差に若干肌が寒気立つ。…この感覚はいつも慣れないな…。

ほどなく目前からの天井から、斜めに投射された光が足元に門の形状の光を形作る。薄暗い空間からだと光が注がれてくる出口は、思わず目を細める程に光量が強くその先を視認することが難しい。進む度、出口へと近付く度に足元から脛、太腿へと段々と光の中へと移動していく。日を浴びるようになった位置から心地の良い温もりが伝わってくる。

そして、ついに彼女の顔にまで光が注がれる。一瞬眼の奥が痛くなるほどの光を受けて少女は反射的に腕で顔を覆い、暫しの後にようやく目が慣れゆっくりと目を開く。その眼に映った光景は、

「…凄い」

外壁に負けず劣らない、息を呑むほどに荘厳で活気に溢れている街並みが悠然と拡がっていた。…それこそ、世界有数規模の大都市と同水準だといっても過言ではない。

「…驚いたね、ここまでなんて」

呆気にとられる少女の背後でも、剣が彼女の感想を代弁するかのように呟く。予想はしていたが、まさかここまでとは…。

だが、思わず感嘆の声が漏れるほどの発展具合に、余計にあの疑問が頭を巡りだす。

「…やっぱり、ちょっとおかしい」

――ここまでの規模の都市が在るならば、世界中にその名が轟いてもおかしくない筈なのだ。だというのに、周辺地域にすらその存在の噂の影すらない。そんなことを少女はまるで経験したことがなく、こうなってくるとどうしてもなにか疑いを持ってしまう。

「まぁ、その真実はこの目の前にあるものから探れるだろうさ。だから、取り敢えずは今は気にしなくてもそのうち解るんじゃないかい?」

つい思考に(ふけ)る彼女に対して、兎に角進まないと手に入る情報も手に入らないと剣は語り掛ける。…またよくない癖が出てしまったか、と少女は深く呼吸をして今は邪魔な疑念を振り払い、

「…そうね。行きましょうか」

と、賑やかな雑踏の中へと向かった。

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