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隔絶された町 2


 濃霧の先に浮かび上がった巨大な影。その前に呆然と立ち尽くす、一人の少女がいた。彼女は突如として現れたそれのあまりの迫力に気圧されたのか、その場で見上げたまま小さく呟くことしかできなかった。

「…ここ、は…?」

目前の大きな影は微動だにせず、左右に大きく拡がっていてその果てを窺い知ることは出来なさそうだ。…しかし、その全貌が見えずとも今ここから見えている光景というものには何度も見覚えがある。

「城塞都市、みたいだね」

(それ)が少女の呟きに重ねたように、それは城塞都市の城門前にとてもよく似ている。だとすると、この遥かに(そび)える城壁の規模に相当するほど大都市がここに存在することになる。もしそうならば、こんな場所が周辺で一切認知されていないのは考えにくいのだが…。

「…そんな話、一切聞かなかったけど」

「そうは言っても僕達の目の前にはあるだろ?それともこれは幻なのかな?」

少々言い方は癇に障るが、(それ)の言う通り彼女の目には確かに城壁が映っている。そしてそれには幻惑の類のような怪しさは見られない。…つまりは、この城塞都市は()()()()()しているのだ。

「だったら、誰からもこんな都市の話を聞かなかったのは不思議だけど」

深い霧の中には世界有数とも言える程と思わしき大都市が在った。しかし、それを知っている者は周辺でさえ一人もおらず、むしろ都市どころかこの近辺の地形情報さえまともに伝わっていなかった状況だ。それはあまりにも不自然すぎる。

「不思議なこともあるもんだねぇ」

まるで他人事のようにてきとうな相槌を打つ剣。その我関せずな態度にも半ば慣れた様子で溜息を吐き、

「…まるでどうでもいいみたいじゃない」

「ま、実際どうでもいいからね」

全く(こいつ)は…。もし少女()が旅を続けることが出来なくなったらどうするつもりなのか…。

まるで自分の身を案じていないような(それ)の態度に解っていてもつい頭を抱えてしまう少女。だからこそなのか、彼女は軽く息を吐いた後にはすぐに意識を正面の城門に切り替えており、とにかく進まねばなにも明らかになるまいと、やっと前へと歩き始めた。

当然のことだが、近づくにつれて城門はその輪郭をくっきりと映し出して影の濃さも増していく。そして城壁の外側を囲っているのであろう堀にかかっている大きな石橋が城門との間に現れる。その幅は馬車が同時に行き来しても余裕があるほどに広く、やはりこの都市が小さい地方規模のものではなさそうだということを物語っている。更には堀の規格も尋常のものではないらしい。少女が今まさに足を踏み入れたこの石橋の先さえもこの濃霧で視認できずにいる。何故これほどの都市が知られていないのか……余計に謎は深まるばかりだ…。

「…ねぇ、ソード」

「なんだい?」

「ここってなんだと思う?」

「さぁ?幽霊都市とかじゃない?」

「…何それ」

「あれ?そんな言葉なかったっけ?」

ふとした疑問を剣にぶつける少女だが、そんな彼女の口数も城壁が近付くにつれて段々と増えていく。だがやはり(それ)の態度が普段と変化する様子もなく、剣はあっけらかんとしたままただただ問いに応えていた。

首を傾げながらも城門へと向かうために石橋を渡り続ける少女。そして彼女がその中間ほどに差し掛かった時、この都市の奇妙さを明確にすることが起こった。

ほんの一瞬だった。何かを見逃すほど呆けていた自覚はない。だが、気付いた時にはもう、()()()()()()()()()()()

「…え?」

何が起こったのか解らず少女は困惑のまま辺りを見回す。しかし彼女の目には最早どこにも――そう、どこにも霧がなかった。どこまでも澄み切った青い空が広がっていた。

「一体、なに、が…?」

ついさっきまで自分の視界を遮っていたはずの霧が痕跡もなく消え去った。…いや、初めからなかったという表現の方が近しいかもしれない。そんな現状がすぐに飲み込めるわけもなく、少女は狼狽のあまり視点も定まらずついには自身の正気を疑いだす。

「――流石にこれはあり得ないね。うん、おかしい」

だが、剣が改めてそう言ったことによって少女は落ち着きを取り戻す。…(それ)が何故わざわざ念入りに呟いたのか知る由も探るつもりもないが、おかげで平静になれたのは事実だろう。

「……どうする?」

暫しの思案の後、少女は正面の城門を見据えながら独り言のように呟く。それに対し剣が調子はいつも通り、しかし彼女に言い聞かせるような語気を孕ませて、

「どうって、ここで引き下がるつもりかい?僕達の目的を忘れたわけじゃないんだろ?」

「…そうね、それこそ何か解るかも、ね」

(それ)の言う通りだ。むしろ、こうした未知の場所こそその目で確かめる価値があると言えるだろう…。

少女は深呼吸の後、鋭い眼光で城門を見据える。そして、何が起こっても対処できるように意識を周囲一帯に張り巡らせて、重かった一歩をようやく再び踏み出した。

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