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寂れた村 3


 「それで?その魔物の群れは全部やっつけたの?」

先程の暗い表情はどこへやら、すっかり目の輝きを取り戻した少年が少女にそう詰め寄る。相変わらず彼女は不慣れそうではあるが、それでも彼の期待に応えようとゆっくりでも言葉を紡いでいく。

「う、うん。思ったよりも多かったけど…」

「へぇ…!お姉さんすごいね!」

すっかりその目に輝きを取り戻した少年の勢いに気圧される少女だが、面映ゆくはあるものの嫌な気はしなかった。気恥ずかしさで思わず顔を逸らすが、表情で続きをせがんでくる少年の期待に応えるべく口を開こうとする。

……が、

「あっ…!もうこんな時間だ!」

彼のその言葉で、ようやく辺りが橙光に包まれていることに気付いた。時も忘れてしまうことは珍しくはないが、今回は特に酷いと言える。まいったな…。宵越しの準備はなにも出来ていない。このような集落にも宿があればいいが…。

「ね、ねぇ、この辺りに宿とか…」

「それじゃあね!お姉さん!」

少年に訊ねようとした少女だったが、そのか細い声は元気に走り去っていく彼には届かなかった。

咄嗟に呼び止めようとしたが間に合わず、既に角に隠れた少年へと伸ばし掛けた手をそのままにして呆然と立ち尽くす。

…まぁ、いいか。まだ聞く機会はあるだろうし、最悪でもここらは野宿に問題ない。

そんな深い溜息で気分を紛らわせた後、彼女は少年の軌跡を追うようにゆっくりと歩きだす。

「…ねぇ、ソード。あの子、一体何だったんだと思う?」

入り組んだ路地を見渡し、彼の姿を探しながら少女は独り言のように語り掛ける。

「そうだね、少なくとも、君にとても興味を持ってたのは疑いない事実だね」

「なんでかな…?」

なんとなくだが、彼に対する認識の重さが自分と全く違う気がする。全く、他人事だと思って…。

悩む自分と対照的に気に留める素振りもない背中の(それ)。大した事はない筈だが、自分だけが気苦労をする状況に妙に不満感を覚える。

…といっても、あの少年を厄介に思っているわけではないのだが。

「好奇心旺盛な子だったんじゃない?」

「まぁ、そうかも…」

あっけらかんと言い放つ(それ)の仮定に反論はする彼女。しかし納得はいっている様子ではなく、その後も首を傾げ続ける。

「んま、君って意外とモテるからねぇ」

「…そんなわけ」

「そんなことは後にして、そろそろ本当に宿を見つけないと」

(それ)の戯言にいつもの調子を取り戻してきた少女。確かに(それ)の言う通りだ。もう暗くなってきた現状からもうあまり余裕はないだろう。…相変わらず人気は無いし…。

「…あんた、こんなところでどうした?」

ふと暗闇の向こうから、そんな低いしわがれた声が響く。一気に少女の警戒心が増し、恰好は変わらないもののその周囲からは隙が無くなる。

人気の無いままの、暗く静かな街路の先にあるわずかな気配。確実にこちらに近づいてくる。しかし敵意はない、か…?

気の抜けないままその先へと注意を向けていると、その内にその姿が確認できるまでになる。

それは中年男性だった。不愛想な表情の軽装備の男がこちらに近づいてきていた。

「お前さん、ここに何の用だ?」

改めて男が少女に訊ねる。その様子から、彼もまた少女に対して何かしらの不審感を感じているようだ。

「…えと、その、ここのこと聞いて…」

たどたどしく男に答える少女。事実である筈なのだが、その様子を傍から見ると何かを隠していると勘違いされかねない。

「…こんな所にか?」

案の定男は訝しんでいる。…さて、真実だからこそ疑われると余計に困る。どうしたものか…。

「…まぁいい。来たまえ、このままでは野宿になるぞ」

少ししてから男はそう彼女に言った。取り敢えずは受け入れてもらえたらしい。一旦は助かったか…。

ほっとすると同時に警戒も解ける少女。しかしすぐにはっとして、消えそうになる彼の姿を見失わないように追いかける。彼の口ぶりでは宿にでも案内してくれるみたいだが…。

「……信用できそう?」

「敵意はないね。怪しんではいるけど」

まぁ、無条件で受け入れられる方が信用ならないとも言えるから、今の態度が一番安心できるか。

その後も無言で歩いてゆく彼についていく。一定距離を保ち、付かず離れず彼の後を追う。

そして暫くそのまま歩いたところで彼がふと立ち止まる。それを察した少女が一瞬警戒心を高める。しかし男が意識を向ける先がこちらでないと気付くと、彼のその先へと視線を移す。

それを知ってか知らずか、男はゆっくりとこちらに振り返り、

「…今晩はここで泊まるといい」

小さな一軒家の前で少女にそう言った。

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