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死が遠い町 5


 その後も度々情報通らしい人物達から聞き込みを続けながら、少女は商店街を渡っていく。先程の店主が名を挙げた住民にも、ふと目に入った商人にも、彼女の可能な範囲で声をかける。…そうして応対をしてくれた人達は、皆快く受け答えをしてくれた。皆、親切だった。人が苦手な彼女がまずまずとはいえ街の隅々まで聞き込みができたほどに。

――しかし、そこには違和感も確かに存在した。

高齢者が殆ど見当たらない。――総じて町民全体が他よりも若い傾向にある。薬屋が街並みの中でなかなか見つからない。――あったとしてもその陳列棚には傷薬等の簡単なものしか並べられていない。病人や怪我人の町民がどこにもいない。――一見してよいことのように思えるが、あまりにもここにはそれがいなさすぎる。

そうして改めて町を見渡し、ようやく気付いた。その光景。彼等にとっての当たり前の日常。しかし、そこにはどこにも、この町のどこにも()()()()が感じ取れなかった。

皆、死という状態から離れすぎているのだ。誰もが活き活きとした様子を醸し出していて、一つの理想形に辿り着いていると言えるだろう。…そのために、”理想”から離れた者を切り捨てることを許容すれば、だが。

「…アンナ?」

ふと、剣が声をかけてくる。彼女はそこで初めて、自分が茫然自失といった様子で町中を眺めていたことに気付く。…やはり、どこかでは彼等の生活様式が気になっているようだ。

「まったく、何度も言っただろ?僕達はただの流浪者だ。只訪れただけの場所の風習にいくら口を出しても無駄なだけさ。…思うだけなら好きにすればいいけどね」

「…わかってる」

少女の返答を待たずして、(それ)がそう釘を刺す。しかし彼女もそんなことは充分に理解している。それでも、彼女とてなんでも無条件に受け入れられるわけではない。

無意識のうちに立ち止まっていた少女はようやく一歩を踏み出す。その後も何かを考え込むように口を固く閉じながら歩みを進める少女だったが、何かふと思い立ったように徐に口を開く。

「――ソード、貴方はどう思う?」

「何が?この町の習慣のことかい?」

「えぇ。…やっぱり、貴方にとっては…」

「そうだね。どうでもいいさ」

「そう…」

案の定、といったところか、迷いの色が滲む少女の声とは対照的に、剣はまさに己を体現するかのようにばっさりと言い捨てる。そのある意味期待通りの返答に少女は小さい呟きのみで返事をし、再び口を噤んで歩みを続ける。しかし彼女の足取りは相変わらず重く、また彼女の注意も町中に散漫となっていた。

「…何がそんなに気になるんだい?」

心ここにあらず、といった様子の続く彼女に剣がそんな質問を投げかける。今朝は茶化していたが、あの彼女がここまで意識をとられているとなるとつい(それ)も気になってしまう。それほどに、興味関心をほぼ持たない彼女がこんな姿を見せたのはかなり珍しいことだった。…まぁ、(それ)が訊ねた理由はただの好奇心なだけなのだが。

「…いえ、ね。あのお爺さんが…」

半日程前まで一緒にいた老人。恐らく終の住まいへと送り届けたのであろう道中に感じた、彼の落ち着きや達観に妙に合点がいきつつもどこか納得がいかない。あの老人はどう思っているのだろうか?…自分の処遇を納得しているのだろうか?

どれだけ思案をしようが彼女に解る筈もなく、ただただ不明瞭さの増す無駄な時間が過ぎる。少女自身もそれは理解できているのだが、どうしても諦めがつかないのか思考を止めようとする気配がない。街を歩く間もずっと煮え切らない少女の態度に我慢が出来なかったのか、剣が大きな溜息の後にある提案をする。

「そんなに気になるなら直接訊けばいいんじゃないの?だったら幾分かはすっきりするかもよ?」

…確かに(こいつ)の言う通りなのだが、こんな繊細な話題を直接本人にぶつけてもよいのだろうか…?

「―でも…」

「向こうが不機嫌になったら逃げればいいさ。どうせ僕達には関係のないことだからね」

普段と何ら変わりなく、(これ)は無神経にもそう言い放つ。流石に剣の発言には賛同しかねる。だが、それでも彼の存在が再び挙げられた以上、あの老人の真意を直接問いただしてそれを(つまび)らかにすることを望む彼女(じぶん)も確かにいた。

「――まぁ、今決めなくてもいいんじゃない?結局、いろいろと集めきるまでこの町には居るんだしさ」

少女はまた、少しの間判断に迷う。ゆっくりと深く息を吸い、そして僅かな静止の後に再びゆっくりと息を吐く。すると、よし、と小さくも力強い呟きで自身を奮い立たせ、

「…そうね」

その足が次に向かう先を定めた。

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