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死が遠い町 4


「――あの爺さんのこと?」

どこか意表を突かれたような表情で少女の質問を繰り返す店主。首を傾げ、まるで疑いもしなかった常識を問われたかのように不思議そうに顔を(しか)める。

「は、はい」

何かまずいことだったか?触れてはいけないことだったのだろうか…?と少女は不安そうに頷く。あの老人と接する態度からも、そんな秘匿するような雰囲気は感じなかったが…。

しかし彼女が不安になるのも束の間、さも当然のことのように店主がこう言った。

「なにって……もうすぐ死ぬからだろ?」

唐突に明かされた事実、しかしそれにはどこにも重苦しさが感じられない。その内容と彼の雰囲気の乖離が、少女の眼にはあまりにも異質に映った。

「え…?」

あまりにもあっけらかんとし過ぎている店主に、今度は彼女の顔が驚きの色に染まる。いくら他人事でもここまで突き放すことはないだろうに…。

困惑と動揺で何もできない少女に少しの間怪訝そうな視線を向けていた店主だったが、ふと何か合点がいったように小さく頷いて、

「――あぁ、もしかしてあんた、知らないのか」

彼女が問う前に店主が何か納得したような様子で呟く。そして、それに当惑しながらも頷いた彼女にこの町の風習を説明し始めた。

「この町では死ぬことが許されてないんだよ。自分ではどうにもならなくなる前に終の住まいに移住するのが決まりなのさ」

死期が近付き、その寿命が尽きることを悟った時にここから離れて大人しく天命を待つ。そしてそれは己自身で尻拭いをできる間に行わなければならない。

…なるほど、確かにその手段を取れば()()()では誰も死なないだろう。ある意味自分達で対処する必要もない、なんとも機能的なものではなかろうか。

「……だから、”死に縁のない町”なんですね」

死に縁のない町。その真相とはひどく現実的で、残酷なまでに合理的なものだった。どこか幻想的で甘美な響きの呼称だけが伝え伝えに外へと広がっていき、実態は徐々に削がれていき誰の耳にも届いていない。果たしてそれは意図的なのか、それとも無作為のうちにそうなった人間の性によるものなのか、それを知る由はない。

「あぁ、そうさ」

少女の言葉に、店主は誇らしそうに返す。まるで何も気に病むことがないように。…いや、本当にそうなのなのだろう。それがこの町の風習なのだから。

「そう、ですか…」

少女はそれ以上深く訊ねようとしない。あくまで自分はただの旅人だ。彼等への過度な干渉も無意味な苦言も極力せざるべきだろう。だって、ここで過ごしてきたのは彼等で、自分はただの赤の他人、もっと言えば邪魔者だから。

少女はもうこの話題に区切りをつけ、本来の自分達の目的である周辺地域のことを中心とした聞き込みへと切り替える。近辺の町や村、ここ最近の情勢、ここに住んでいるが故に把握しているこの辺りの事情など、旅人として必要になるであろうことは漏らすことなく訊ねていく。これを怠れば自らを危険に晒すことになる。時には取り返しのつかない選択肢を選ばざるを得ないことにさえなるだろう。最大の護身は何が危険かを把握すること、それがこれまで様々なことを経験した彼女が得た学びの一つだった。

そして、自身の安全に直接関わってくるからこそ少しでも妥協をすることができない。そのためどうしても最終的には質問攻めをするような形になってしまい、相手によっては苛立ちを覚えられることもしばしばだ。そうならないようにも少女は顔色を窺いながらおずおずと潮時を見計らう。

…しかし、此度はどれほど聞いても嫌な顔一つせず対応してくれた。店の番もあるというのに適当にあしらうことはせず、寧ろより詳しい人物の紹介までしてくれた。手助けをしてくれた礼だからだと彼は言うが、やはり店主ほどの応対はおざなりな態度ではできないだろう。その優しさが、逆に彼の異質さを感じさせる。…こうした面は、ごく一般的な町民に見えるのだが…。

一通り訊き終わった彼女は快く答えてくれた店主に別れを告げ、更に情報を集めるべく彼が名前を挙げた者を主として再び街並みへと踵を返す。多くの人で賑わう繁華街。”そこ”存在する違和感の正体に気付くことができたのは、あの店主との会話があったからだった。

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