死が遠い町 3
彼女達が向かうのは、町でも特に賑やかな中心街、特に他の町や国などとの交流の深い卸売店を目指す。彼等は情報網も広く、またその循環も早い。彼女の経験則から言って、こうした手合いの者から聞き出すのが一番手っ取り早く、効率の良い方法だ。
…それに、その職業柄からかこちら側から無理に話しかけなくとも、店先に突っ立っていれば向こうから勝手に声をかけてくる。積極性に欠ける彼女からすれば見逃せない利点の一つだ。それでも、意思疎通はしっかりと行わなければならないのだが。
「アンナ、君ってわざわざ難しいほうに行くよね」
とは言え会話自体は避けることが出来ない。徐々に重くなっていく足取りの少女に、剣がため息交じりにそう話しかける。そして剣は何か言いたげな顔でこちらを睨む彼女へと、もう何度も彼女に提案したものを再三繰り返す。
「だからさ、適当に酒場とかで盗み聞きでもすればいいじゃないか」
対話が負担ならばしなければいい。酒場や様々な会話が飛び交う場所に居座り、そこで彼等のそれに耳を傾ける。欲しい情報が確実に手に入るかどうかは判らないが、身内同士での交流に加え酒による酔いも相まって他人にならばひた隠しにするようなことがぽろりと零れ出るかもしれない。その方が自分達には都合がいいのではないのか?と剣は以前から主張していた。
しかし少女は相変わらず渋い顔のままで剣の提案に対し、
「…だって、そっちの方が厳しいし…」
彼女にとって酒場に入り浸ることは誰かと会話をすることよりも難易度が高いらしい。そうした場所にいる酔っ払いというのは、ただでさえ彼女が苦手な会話を更に困難なものにしてしまう者たちだ。そんな者達は何故か矢鱈とわざわざ面倒な絡み方を彼女に押し付けてくるような印象がある。そうなってしまってはもう盗み聞きで済む程度ではない。その恐れがある故に少女は剣の案に乗り気ではなかった。自分のような者が一人で酒場に入り浸る姿があるならば、何かしらで注目を浴びることからは避けられない。…それに、酒場に入り浸るためにはどのみち注文をしなければならない。
「僕にとっては、販売目的の口上、ってのを聞く方が面倒だと思うけどな」
けれども、彼女が選ぶ商人達との会話でも厄介な部分はある。それは、あくまで商品を売るための交流である、ということだ。こちらが受け答えをする以上向こうは利益に繋がるように誘導し、その誘いに乗らないことが判れば逆に相手にされなくなる。ある意味、彼等から情報を引き出すには高度な技術が必要となるのだ。
「…でも、酔っ払いよりはいい」
それでも彼女にとっては酒の回った相手よりはましなようだ。…どちらにせよ、人と関わることは避けられない。
いくら歩調を遅らせてたとはいえ、進んでいる以上は商店街に辿り着く。…どうせ必要なら、とその入口で一旦彼女は足を止め、深く息を吸い気合いを入れ直す。そして、
「…よし」
再び足を踏み出した。
老人を送る前にも少しだけ足を踏み入れたが、相も変わらず凄い賑わいだ。…この想像しさにはやはり苦手意識があるな…。
「っと、あんた、うちの店に何か用かい?」
ふと、軒先で品定めをするわけでもなくふらふらと左見右見している彼女に、怪訝そうに店主が訊ねてきた。…よし、と深呼吸をして声を振り絞ろうとする少女。
しかし、その少女よりも先に店主が続けた。
「――いや、あんた、さっきの旅人のお嬢ちゃんじゃねぇか」
…そう言えば見覚えがある顔だ。今朝にあの老人を送り届けて欲しいと依頼してきたうちの一人にいた、老人の知り合いらしき者だったはずだ。
「あっ、えっと…」
「いやあ、助かったよ。丁度頼れる人がいなかったからな」
店主はにこやかにそう言う。確か何も返答する暇もなく彼にいつの間にか付き添うことにされていたような気もするが…。そんな少女の疑念を知ってか知らずか、店主は更にこう続けた。
「こっちの頼みも聞いてくれたことだし、折角だからお礼をするぜ。何か安くしておくか?」
どうやらお返しでもしてくれるようだ。これ幸いと少女は、
「じゃ、じゃあ、その…。いくつか、訊きたいことがあって…」
「ん?なんだ?」
さて、訊ねたいことは複数思い浮かぶが、なにから訊こうか…。店主が痺れを切らす前に取り敢えず何かは訊かなければ…。
「あ、えと…。あのお爺さんって、一体…?」
半ば焦った彼女から出た最初の質問は、先程の老人についてのことだった。




