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襲われた村 4


 娘に必死で訴えかける青年が発した言葉、”あいつ等”。その意味は少女は勿論、娘にもはっきりと伝わっていないらしい。首を傾げて記憶を探るように何処か宙を見上げる娘。そして、

「…あ、もしかして。()()素早い魔獣達のこと?」

「あぁ、そうだよ。……まて、()()ってなんだ?なんで素早いってことを知っている?」

ようやく理解した娘へ食い気味に頷く青年。しかしすぐに彼女の口をついて出た言葉に違和感を持つ。確かにここ最近に村で話題には上がっていたものだ。それ故に”魔獣”のことについて耳にしたことがないということはない筈だ。…だが、逆に噂として拡がっているものばかりでその姿を()()()()()者もほぼいない筈だ。それなのに、まるでつい先ほどその姿を確認したかのような物言いをしている……いや、まさか…。

「…お前、遭ったのか?」

「え?うん」

「はぁ!?」

あっけらかんと言い放つ娘。気に留める必要もない些細な事だとでも言うのか。だが、当然そんな筈はない。魔獣に襲われたと思わしき森の動物の死骸は、切れ味が鋭くしかし鈍い傷口が全身に刻まれてずたずたに引き裂かれていた。その様子はあまりに惨く、奴等に獰猛さが確実に存在することが伺える。そんなものに出会ってしまえば無事で済むわけがない。彼の頭に一瞬、彼女があの動物達のように血塗れの無惨に変わり果てた姿となった映像が(よぎ)り、ひやりと悪寒が走ったと共に緊張感がどこにも見られない彼女に若干の苛立ちを覚える。その勢いに任せて更に彼女に詰め寄ろうする。――だが、

「でも、旅人さんが全部倒してくれたんだよね!」

「――は?」

続けざまに彼女が言ったことに思わず間抜けな息が漏れる。倒した?全て?…どういうことだ?

そして初めて、彼女の背後で距離をとるように立っている見知らぬ草臥れた少女に気付いた。

「あ、あんたは…?」

「えっ、い、いや、その…」

唐突に目が合ったが少女はやはり視線を逸らす。だが先程までの血気盛んな様子を見ていたからか、その眼はいつもより過度に泳いでいるようだった。

「この人はね、この背中の剣で魔獣を何匹もばったばったとやっつけちゃったんだから!凄かったんだよ!」

少女を青年の正面へと手を引きながら何故か誇らしげに語る娘。そんなことをされれば嫌でも彼女に注目が集まる。――そう、彼があまりに声を荒げたせいで、周囲にいた村人はおろか村民のほぼ全員が何事かと聞きつけて人だかりを作っている状況だった。その中心でこうして立たされてたのだ。当然、目立たないわけがない。ただでさえ人と対面することは得意ではないのに、これほどの人数の前に晒された少女は普段より一層委縮していた。

「…ほ、本当に倒したのか…?あんた…」

こんなおどおどした奴が?冗談だろう…?咄嗟に青年は問いかける。己と歳も然して変わらないだろうに、腕に自信があるようにも見えないのに、そう言われてもまるで信じられなかった。故に彼女に対して疑念を持たないわけがない。…だが彼の内情は、少女がぎこちなくも静かに頷いたせいで見事に打ち砕かれる。

「……まじかよ…」

「そうだよ。おかげで私も助かったんだ。ね?」

呆然とする青年と少女の顔を覗き込んで笑顔を見せる娘。そして、会話の一部始終を聞いてざわざわと騒ぎ出す村人達。こうなってしまっては最早逃げ出すことも叶わない。少女は半ば諦めつつ娘に応えながらも、外套を内側から握りしめた。

「……じゃあ、もう心配しなくていいってことか…?」

「そうなんじゃない?だって、あの子が倒してくれたんでしょ?」

「なんだよ。案外あっさり解決しちまったじゃねぇか!」

一部の村人の言葉から徐々にそんな声が波及していき、次第に安堵からの歓声が沸き上がる。やはり村人も皆、どこかしらで村に迫る脅威に不安を感じていたようだ。

「それでね。この人にお礼がしたいんだけど…」

それから娘はそんな提案をする。それはもう青年にだけではなく村全体へと対象を向けていた。流石にこれ以上話題の中心になりたくない。ひっそりと穏便にしたいのだが…。などという少女の淡い期待など露知らず、彼女を祭り上げるように娘の意見に村民達は同意を示す。…勿論純粋な善意や謝意から来ているだろうことは少女にも理解できるが、やはり苦手なものは苦手と言わざるを得なかった。

「なら、今日は宴とでも行こうか!」

…そして、和やかで胸がすくものの筈なのに、少女にとって戦々恐々とした宣言がなされた。

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