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襲われた村 3


「あ、ありがとう…!強いんだね!」

娘は表情をぱあっと明るくさせた。(くるぶし)まである長いスカートの砂埃を叩いて落としながら立ち上がる。外套に身を包んでいた旅人が自身と歳が近そうだということが判ったからだろうか、嬉々として飛び跳ねるように、剣を拭って仕舞おうとする少女へと駆け寄る。…だが、

「うぇっ…!?えっ……と…そ、その…」

「え、あと、ごめん。びっくりさせちゃった…?」

少女は過剰とも思えるほどに飛び退いた。あまりの対応に娘は驚き首を傾げる。そんな娘の様子から更に少女は平静から遠ざかり、

「いっいやっ、な、なんでも、ない、です…」

声は消え入るように弱々しく震え、眼も泳ぎ続けて合うこともなく、怯えているように小さく縮こまっていてまるで自信があるように見えない…。先程圧巻の立ち回りを見せた凛々しさとは対極的な彼女の態度に娘はどうしても違和感が残る。

「…本当に大丈夫?怪我とかしてない?」

「ほ、本当に、大丈夫、です…」

……その落ち着きのなさを見るにとても大丈夫とは思えないのだが……しかし、この様子だとこれ以上訊いても堂々巡りになりそうだ。それに彼女は自身を助けてくれた恩人であり、あれほどの実力を持った旅人なのだから下手に踏み込むことは余計だろう。とにかく礼はしなければ、と娘は怪訝そうだった表情を綻ばせ、

「――っま、私を助けてくれたのは事実だし、何か恩返ししないとね。村に案内するから、ついてきてよ」

どこか相応しい幼さの見える屈託のない笑顔と仕草で娘は少女に語り掛ける。そしてどうしようかと迷うように未だ視点の定まらない少女の手を半ば強引に取って軽やかな足取りで歩きだす。

「あ、え、ちょ…!?」

「いいからいいから」

突然のことに戸惑いを隠せない少女に相変わらず笑みを浮かべながら娘は道を進む。そのうちに少女はようやく身を任せるようになり、娘もそれに気を良くしたのか更に浮足立たせる。そのおかげと言うべきか、間もなく彼女等は道の先に樹々のない開けた空間へと到着する。そこにはいくつもの小さな家屋がぽつぽつと並んでいる。すると娘は少女から手を離して駆けていく。そして少女の正面に立って振り返り、

「ようこそ!私達の村へ!」

あどけなく、曇りのない笑顔で迎え入れた。

「あ、えっと…」

「ささ、こっちこっち!」

戸惑い立ち止まる少女を急かすように娘は手招きを繰り返す。しかし動き出さない彼女にそのうち待ちきれなくなったのか再び少女に駆け寄って、

「ほら、私の家に案内するから。ね?」

そう言ってまた手を取ろうとする。

「あ、だ、大丈夫…。行く、から…」

流石にこれ以上引っ張られていくことを避けたかった少女はそれを静止する。それを確認した娘は顔を見合わせて、

「じゃ、行こっか!」

と微笑みご機嫌な様子で村の中へと歩き始めた。まるでこちらを意に介さないかように。しかしだからと言ってこのまま立ち止まったままではまた強引にでも連れていかれそうだ。少女も何処か気の引ける思いを感じながらも、時折振り向く娘の背中を追った。

長く艶のある明るい茶髪が、素朴ながらも凝った刺繍の施された長衣の裾が、規則正しく風を孕む。ふわり、ふわりと軽やかに。その大袈裟にも思える動きが彼女の足取りそのものを体現していた。

…何故彼女はここまで機嫌が良さそうなのか。それを未だ少女は分からぬままでいた。命が助かったからなのか?だとしたらここまで積極的に自身の村に案内はしないだろう。他人にあったからだろうか?…いや、見える限りで言えば、この村は小さいとはいえ人もいる。他者との交流がないわけはないだろう。――では、どうして…?

「――っおい!リーゼル!」

突然強い語気を放つ大声が辺りに響いた。びくりと身を竦める少女。最早怒鳴り声と言っても差し支えないようなそれは少女を警戒させるのに充分過ぎるものだった。しかし目の前の娘はむしろ明るい声色のまま、

「あ、ハンス!どうしたの?」

「どうしたじゃねぇよ!こんな危ない時に一人で何処行ってんだ!」

「えっ?どういうこと?」

彼女と同年代ほどの青年が、もう娘に掴みかかる勢いで彼女に詰め寄る。息つく間もなく流れていく目前の展開にまるでついていけない少女は、割り込むべきか否かの逡巡に苛まれている。一旦彼は冷静になった方がいいことは自分から見ても明白なのだが、しかし部外者である自分がここで口を挟んでも火に油を注ぐだけにならないだろうか…?

「どういうって…お前!”あいつ等”の話を知らないのか!?」

困惑は少女だけでなく娘も拡がる。そのことが”あいつ等”という存在が普遍的なものではないと物語っていた。

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