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襲われた村 2

”全身の発達したっ筋肉、幾本もの鋭く尖った牙、左右の手に伸びたまさに鉤爪。”の一文を追加:2025/9/9

”黒く乱れた髪”→”黒い乱れた髪”に訂正:2025/9/10


「ウガウッ…ガァッ!」

明らかに人ではない獰猛さを孕んだ唸り声とともに、両手で抱えられる程度の小さな影が娘の方に飛び掛かる。()()()が娘に狙いを定めているのは明白だろう。はっと振り向く娘。避けられないだろう痛みが予想され、反射的に腕で庇い瞼を閉じて顔を強張らせる。

「ギシャァア……!?」

――しかし代わりに耳を(つんざ)くような悲鳴が聞こえ、娘に来るべき衝撃はいつまで経っても訪れなかった。疑問に思った娘がようやく目を開いて何が起こっているのかを確認する。その眼に映ったのは…、

――()()の脇腹を黒煌の剣で突き刺す外套を纏った人影だった。

「えっ…」

身体を貫かれて力なく悶え苦しみ、そして更に突き飛ばされた勢いのままに向こうへと吹き飛び転がっていくものを無意識のうちに目で追う。全身の発達したっ筋肉、幾本もの鋭く尖った牙、左右の手に伸びたまさに鉤爪。…人の幼児ほどの大きさで更に前屈みの姿勢をしていたそいつは、最早こと切れているようだった。

「…大丈、夫…?」

ふと小さく弱々しい声が聞こえ、娘は我を取り戻す。見上げると黒煌の剣を突き出したままの体勢の人影が話しかけてきたらしい。娘はやっとそれに気づき慌てた様子で、

「へ…?…あ、は、はい。ありがとうございます!」

しかしすぐに娘の表情が驚愕の色に染まる。何故ならば…、

「あっ!あの、まだ…!」

「…うん、わかってる」

そう。彼女を追ってきていたのは一体だけではなかった。この位置を取り囲むように複数の気配が移動していることを人影は既に察知していた。だからこそ、態勢は整えるものの構えは解いていなかった。

こちらを攪乱する意味でもあるのか、全ての気配が距離は一定を保ったままに左右に揺れる。しかしじわじわと接近もしているらしい。確実にこちらを追い込み仕留めるつもりのようだ。

かさかさと草叢(くさむら)が擦れる音に合わせて視線を移動させる娘と、対照的に人影は刃をほぼ水平に構えて身動き一つ取らない。ただ視覚のみに頼ることなく、全ての感覚を研ぎ澄ます。娘を除いた全てが動きを制限されたかのように、呼吸一つでさえ迂闊に行わない。

――この緊迫の糸を引き千切ったのは、人影の背後から襲い掛かる”敵”だった。

「ガアァッ!」

高速の跳躍とともに鋭く伸びた爪が妖しく光を反射する。その鋭利さは触れれば人の肉など容易に引き裂くことのできるものだろう。そんなものが眼に移ってしまった娘から声にならない悲鳴が上がりそうになる。

だがそれは、人影が敢えて誘い込んだ罠だったようだ。人影は片足を引き、軸足を中心にして回転の勢いを乗せ剣を全身で振りかぶる。そして黒く煌めく刃が”やつ”を脇から薙ぎ払う。

一撃。たった一撃で"やつ"は絶命した。刃の触れた場所から一直線にその身体は切断される。その斬撃にはまるで抵抗がなく、途轍もない切れ味があることが否応なく伝わってくる。人影はその勢いを殺さぬまま、更に襲い来る”やつ”等にも刃を浴びせる。切っ先で弧を描くように、ただその肌を撫でるように剣は流れるような人影の動きにただ追従する。

しかし”やつ”等を退けるには充分過ぎたようだ。切っ先の軌跡に沿って”やつ”等の肉は裂かれ、血飛沫が舞う。一体、また一体と飛び掛かりそして刃を浴びせられた順に断末魔の声を上げ飛び掛かった勢いのままに過ぎ去っていきその後に身動ぎ一つしない。その一連の、一瞬の間に既に人影の周囲には幾体もの死骸が転がっていた。

「グ、ウゥゥ…!」

どうやら包囲するほどの数はもう揃っていないらしい。三体が正面に立ち人影の様子を伺っている。人影にも最早その他には気配を感じられない故にそちらに全神経を注ぎ刃を正面に突き立てる。――再び睨み合いが始まった。

だが、今度は破られるまでに時間はそうかからなかった。”やつ”等は同時に動き出す。三つの攻撃への対処は簡単ではない。これまでの猛攻を華麗に躱し更に反撃もこなしていた人影にとっても厳しい状況であると思われた。

しかし、人影は極めて平静のままに重心を移動させた。倒れ込むように身体が傾き、予備動作も確認できない速さで端の一体に斬りかかる。自身の慣性に剣の捻りが加わった袈裟斬りはいともたやすく相手を斬り裂く。そして返す剣ですれ違いざまにもう一体を斬り伏せる。やはり一撃。それだけで”やつ”は脇から千切れかけていた。更に最後の一体が着地をした刹那、そこに生じた一瞬の隙を逃さずに人影が剣を”やつ”の頭上から突き立てる。身体を貫かれ、叩き潰されたように短い四肢が四方に伸びる。最早死は確実だろう。だが人影は容赦なく剣を握る手に力を加え、中心から切り落とすように、外側へと振り上げるように引き抜いた。

「す、凄い…」

目の前で行われた圧倒的な殺陣に口を閉じることも忘れる娘。そんな彼女の前で人影は剣についた鮮血を振るい落とし、徐に頭巾を脱いで娘の方へと向く。

その人影は、黒い乱れた髪と淡い灰色の瞳をした、幼くも落ち着いた雰囲気の少女だった。

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