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寂れた村 2



 あれから時間は日が傾いた頃まで進む。もう集落も目前まで迫り、ある程度の雰囲気を窺うことが出来るまでになった。やはり丘の上からの予想通りに小規模な村のようで、そこには他の町にあるような夜に向けての活気が見られない。……いや、それどころか…、

「……なんかさ、人いる?ここ」

少女の肩越しに村を窺っていた剣から訊ねられた。そしてその通りに、目の前の集落から人の気配を感じることが出来ない。廃村か…?いや、しかしそれにしては荒れ果てている様子は見受けられない。

「いない、にしては綺麗だけどね」

少女は(それ)にそう返すものの、大きな町ではそも知る人が少なかったことから内心同じように危惧していた。もし的中すればまた野宿することになるが……まぁ、空き家があるだけましな方か。

と、落胆の準備をしていた彼女の目に何かの影が映った。

「ねぇ、ソード。あれって…」

怪訝に思った彼女は(それ)に話し掛けるがその影は返事も待つ暇もなく家屋の死角に隠れ、咄嗟に少女はその影を追う。軽く跳ぶように地面を蹴り、影が曲がった角に駆け寄る。そしてすぐに顔を覗かせその姿を確認する。そこまで時間は経っていないために見失う筈はないが…。

「あれ?お姉さん、外からきた人?」

その角の先には確かに人がいた。それはまだ物心ついた頃ほどの少年で、幼気な眼差しを真っ直ぐに彼女へと向けている。

予想しなかったことに思わずぎょっと身を引く少女。突然のことに思考が止まり、ただそのまま立ち尽くす。

「お姉さん?どうしたの?」

自分の目の前でわたわたと言葉を詰まらせる彼女に、首を傾げて訊ねる少年。そして尚も言葉が思い浮かばない様子を察してか具体的な質問にして再度訊ね直す。

「お姉さんは、どうしてぼくを追いかけてきたの?」

それに促されるようにして漸く少女は口を開く。

「その、ね?この村に着いたときから人影が見えなくて…。そこで君を見かけたものだから…」

なよなよしい声色で呟くようにそう答える彼女。しかし少年の方はその返答を聞くと目を見開いて輝かせ、

「お姉さんって旅人さん?じゃあ世界中を見てきたってこと!?」

と一気に前のめりに少女へと顔を近づける。

「え、えぇ、まぁ…うん」

それに気圧され身体を仰け反らせながらも少女は頷く。そうするや否や少年はより一層目を輝かせて、

「すごい!ぼく、村の外のお話いっぱい聞きたいな!」

「えっ、えっと……その…」

より一層少女に詰め寄る。その後も少年の興味はとどまることを知らず、矢継ぎ早に質問を続けて後ずさる彼女に何する隙も与えない。

その内に背が建物につき、少女の逃げ場は失われる。しかし少年の詰問はそれでも止まることなく彼女は更に追い詰められ、だが上手く静止させる言葉も思い浮かばずただどもり続ける。そして少年の無垢な顔が彼女の眼前を埋め尽くしたとき、その特有の距離感に少女は思わず小さく悲鳴を上げた。

「あっ…、ごめんなさい」

そんな少し怯えた様子に少年は我に返ったのか申し訳なさそうに後ずさりながらそう呟く。流石に自分が興奮しすぎていたことは理解できたようだ。

「いえ、いいの。ちょっとびっくりしちゃっただけだから…」

すっかり意気消沈してしまった少年を慰めるようにぎこちなさの見える笑顔を返す。

しかし、……いや、だからこそなのか、少年はより一層委縮した様に俯き、先程とは打って変わって自発的に質問をする気配を感じられなくなった。途端に静けさがこの場を支配する。


……気まずい。彼に何か言葉をかけるべきだろうか?なんと言えば?…いや、これ以上何か言っても現状が悪化するだけか?しかしこのまま何もしないというのも…、


「…この前行った街の話でもすればいいんじゃない?」

どうすべきか考えあぐねている彼女へ肩越しに届く声。その助け舟に彼女もすぐに自らの過去の記憶を探り出し、

「…えぇっと、大きな街が、あぁ…ここから少し離れたところにね、あって…」

ぽつぽつと語り始める少女。何を話すか迷いながら、不慣れながらも一言ずつ紡いでいく。

やがてその内容に興味を引かれた少年は、伏せていた顔を上げて此方に期待のこもった眼差しを向ける。

「その街ってどんな人がいたの?」


それから空が橙に染まるまで、彼女のささやかな冒険譚は続いた。

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