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襲われた村 1


 とあるのどかな昼下がり。爽やかな薫風が森の樹々の葉を微かに揺らすような落ち着いた(とき)。樹に囲まれた小さな小道の上を人影が一つ、ゆったりとした足取りで歩いていた。

その人影は使い込まれた黒い外套を羽織り、外套の頭巾を目深に被った状態でその華奢な身体には似合わない己の身長ほどの刃渡りを持つ黒煌の剣を背負っている。そして時々に訪れる穏やかな風に外套の裾を僅かに靡かせながら、狭い道の更に真ん中から逸れずに進む。

「いやぁ、静かだねぇ…」

ふと何か――剣がぽつりと呟いた。周囲で響く木の葉の擦れる音のように、ただ自然と耳に入ってくる雑音のように不快にならない程度の声量で。

「…そうね」

対して人影は気だるげな声色で仕方なくといった様子で応える。どうやら人影自身はさほど興味がないらしい。むしろ、わざわざ話しかけられてきたことが億劫らしく、端的な返答の後に大きく溜息をついてまた口を堅く結ぶ。

「おや、どうしたんだい?そんな不機嫌そうにしてさ」

剣が今度は明確に話し掛ける。その態度を半ば茶化すように調子を変えて人影への干渉を更に強める。すると人影は再び大きな溜息をついて高い声だが少々低い声色で、

「…あなたがこうして話しかけるから、静かじゃなくなるんでしょ?」

人影は別に静かなことが気にくわないのではなかった。むしろ、耳障りな音に悩まされる必要がないため静寂は好ましいものだった。…なのだが、こうした何もない”暇”な時間を過ごしていると必ずと言っていいほどこの空間を阻害するものが存在する。それが、(こいつ)だ。こちらは何もせずにただ静穏な心地よい環境に浸りたかったのだが、そういうときに限ってよく喋るようになる。元々口が達者なことも加わって喧しさというものに拍車がかかる。どうせ今回もそうなるのだろう。そんなことは容易に想像できたために早々に関わることをやめたつもりだったが……やはりこうなったか。

「えぇ?そんなことはないと思うけどなぁ」

若干怒気が混ざったような人影の威圧を受けてなのか(それ)はお道化たように言う。誤魔化すような態度を取っているがどうせ(こいつ)のことだ、おそらく故意的にこの状況を作り出したのだろうが……全く、己の退屈を解消するために随分と恣意の籠ったことをする…。

「…嘘つき」

苛立ちや呆れからくる不満感を露わにした結果ふと口をついて出た。目深に被った頭巾がより人影の顔に影を落とす。拗ねた子供のように剥れた人影の様子から流石に剣もまずいと感じたらしく、

「悪かったって。そう怒るなよ」

「…やだ」

しかしそう簡単に人影の機嫌が直る訳はない。そっぽを向くように首を振って背後の剣から更に背を向ける。その後も幾度か人影に話し掛ける剣だったが、やはりつれない態度を取り続ける。…そんな彼等にとって普段通りのやり取りがこんな森の中でも相変わらずに行われていた。果たしてこの一人と一振りは仲が良いのか悪いのか…。

――突然何処かの木陰が揺れる。人影も剣も途端に振る舞いを改めそちらへと注目して意識を向ける。

「…ソード」

「わかってるよ」

人影は声色を重々しくして剣へと呼びかけ、(それ)も軽い調子は変えないままだがしかし武器らしく鋭さを含ませた声で応える。その一糸乱れぬ警戒態勢への移行は流石という感想が出る。阿吽の呼吸、といった言葉が適切だろうか。

今度は先程とは別物の冷たい無音が辺りを支配する。たまに響く草木の音がそこに()()が居ることを物語る。そして一人と一振りもそれに応じて間合いを取る。より正確に対処できるように。より確実に仕留められるように。

その()()はこちらに近づいているらしい。次第に音が大きく明晰になっていく。柄にかけた手に力が入り、いつでも振り回すことができるよう身構える。

「――わっ…!」

しかしその木陰から転がり出てきたのは、うら若き少女、という表現の似合う華奢な娘だった。素朴な色合いの衣服と質素な装飾品を身に着けた娘が、裾に足を取られたのか派手に小道の上で転倒する。

「あ痛たたたた…!」

顔を(しか)めて膝を擦る娘。その様子にはどこか気の抜けたような印象が滲み出ている。

大丈夫、なの、か…?と人影は態勢を維持しながらも拍子抜けといった雰囲気のそれにやはり戸惑いは隠せない。だが、娘ははっとしたかと思えば辺りを見回し外套を纏い剣を背負う人影を視認して、

「た、旅人さん!?あっ、えっと…とにかく助けて!」

…娘が発した言葉の意味はすぐに分かった。彼女の後を追うように、再び近づく気配がする。それも一直線に、森の中を全速力で。

人影はすぐさま()()へと意識を向け、再び神経を尖らせた。

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