排他的な村 4
「自由に使っていいからね」
どうやらここは客間らしい。…そういえば、確かにここまでの導線も見栄えの良い造りになっていたな。成る程、そう考えればすんなりと客人を受け入れたことにも納得がいく。元々他所からの人間をもてなすことがあったのか…。しかし、それは今現在の村人達と態度が違うことの説明には結びつけることができない。ある程度の予測はたてられるが…。
「そろそろ夕餉にはいい頃合いだから、君も食べないかい?」
再び立ち止まって考えこむ少女に、彼もまたそう微笑みかける。そして、
「ほら、荷物はここに置いておいて問題ないからさ」
彼女の背後の方に目配せをしながらそう促す。
「……ごめん、なさい。これはちょっと…」
すぐに何のことか察した少女は、背負っている剣に軽く手を当てながら申し訳なさそうに視線を落とす。気遣いは有難いが、これは手放したくない。そう彼女は主張していた。
「おや、警戒心が強いね。でも大丈夫、この家にいるのは僕だけだ。盗るなんてしないよ。…それに、食事の邪魔にならないかい?」
再度、彼は問いかける。
…彼の言うことも一理ある。彼女自身の身の丈程の剣だ。通常ならばただでさえ動きが制限されるものだろう。それを屋内で常に背負っておくのは確かに何かしらの弊害になる想像の方がしやすい。…だが、少女はそれでも首を振り、
「…だけど、手放すのは、いや、なんです…」
その声は普段のように小さかった。しかし、その声色は、その眼は揺らぎを見せなかった。
「…わかったよ。僕も無理に手放せとは言わないよ。さ、じゃあ、またついてきて。こっちで食事をしよう」
彼女の様子から、肌身離さず手元に置いておきたいものなのだ、と悟ったらしい青年。わざわざその気持ちを否定する必要もなく、むしろ微笑ましささえ感じた彼はそれ以上強制することもせずに食事に誘う。そして、申し訳なさそうな表情をする少女にもう一度食事の催促をして踵を返した。
台所まではここからそこまで遠くはなかった。殆ど廊下を挟んだすぐそこにあり、そういった造りなどからも。
食事の準備をするから、と席に着くことを促された少女はあまりに好待遇な自分の現状に戸惑いながらもそれに従う。そしてそわそわと落ち着かないのか辺りを見回す。
…食堂、とまではいかないが、やはりただの民家には豪華すぎる印象を受ける。それに先程、この家にいるのは自分一人だ、と彼は言っていた。ならば尚更違和感だ。一人で使うには、そもそもこの家は広すぎる。
「お、お一人、なんですよ、ね…?」
失礼にはあたるかもしれないことだが恐る恐るながらも改めて訊ねる。…一応、先程自ら明かしたことだ。あまり踏み込まないかぎり、これぐらいの確認程度なら問題ないと思うが…。
「うん、そうだよ。ここに移住したときから、ね」
そんな彼女の心配をよそに、青年は食事を用意しながらあっけらかんと答える。…しかし、訊けば訊くほど気になることが増えていくのはどういうことだろうか?今度は、移住してきた、つまり元々村外の人間だったと言っているようだが…。
「え、えと、じゃあ、あなたは…?」
「そうは言っても、もう何年も前のことだよ。流石に十年、とまではいかないけどね。だからまぁ、皆とはそれなりに良い友好関係を結べていると思うよ」
なるほど。彼は見た目ほど若いわけではないらしい。想定よりも年上、ということが有り得るようだ。…いや、正直それはどうでもいい。彼の言葉を真に受けるならば、もう彼もこの村の一員であると言っても過言ではないだろう。これでやっと、疑問が増えることはなくなったか…?
……いや、それだと結局最初の疑問に帰着する。そんな彼は何故、他の村民のような態度を取らずに自分を受け入れたのか。
「え、えっと……じゃあ、なんで…」
「なんで嫌がらないのか、って訊きたいのかな?大丈夫、ちゃんと順を追って話すから。それと一人暮らしのことが少し関係あってね…」
それから青年の言ったことをまとめると、元々彼は旅の商人をしていたらしい。特に拠点となる場所を定めることもなく、あちこちに伝手を拡げながら小さく手堅い取引を続けていた。しかし、そろそろ何処かに落ち着きたい、そう思った時と、かつてこの村にいた資産家の家が空き家になった時、それが丁度重なり、村民と交流も深まった居心地の良い場所になった結果、この場所に腰を下ろすことを決めたのだという。
「それで、ここでもその時の経験を基に商いをしていてね。そのこともあって結構この村は外からの往来が多かったんだ」
どうやら前の街で言っていた、商いのしやすい、というのはこういうことだったらしい。…だとしたら、何故今はあんな態度になったのか…?
そんな少女が質問をする前に、調理を済ませた彼のほうから、配膳をしながらそれへの回答がされた。
「……けど、今から少し前に起こったことが原因でね…」




