7 仮病
一方家では、連休中は教団のビラまきを手伝うように母親から言われた。
「しずちゃん、受験中お勤めサボっちゃってるから、挽回しないとね。」
・・・・・・・
断る理由が見つけられない。
でも・・・・。
駅前に立つとなれば、いつどんなふうに旅行に行くクラスメートと鉢合わせるか分からない。静香はそれだけは避けたかった。
今だって、もう十分ミジメなのに・・・。
「きょ・・・教会の方で手伝うことってないのかな?」
「教会の方にはあんまりないでしょう。連休中は出かける人が多いから、ポスティングもあまり意味がないのよ。ああいうくだらないことに興じているような人たちに神様の福音を伝えるには、駅前が一番いいのよ。」
いやだ・・・。
駅前で立つのだけは・・・。
もし高校のクラスメートに見られてしまったら、高校生活もオワってしまう。
せっかく、遠くの高校に入った意味もなくなってしまう・・・。
どうしよう・・・?
しかし・・・。連休は長い。
4月29日から5月5日まで、1週間もある。
30日は学校があるから立たなくていいとしても、1日の土曜日から5日間の連休はどうしよう?
もし高校の誰かに見られたら・・・。
あのグループの誰かに、それとなく聞いてみようか・・・。いつからいつまでの日程なのか。
その初日と最終日を避ければ・・・。
どうやって?
それに他の子が別の日に駅を通るかもしれないじゃない。
どうすればいい?
どうやって駅前のビラ配りを避ける理由を・・・?
仮病・・・。
と、そこに静香の思いが至ったのは、駅前でビラ配りをした29日の夜だった。
29日、静香は帽子を目深にかぶってマスクもしていった。
「マスクしてないと、避ける人いるから。」
という理由にした。
知った顔に会わないかひやひやだったが、どうやら無事に1日終わったようだった。
これがまだ5日も続くのか・・・、とゾッとしていた時、仮病のアイデアを思いついたのだった。
そうだ。家にコロナの検査キットがあったはず。
あれの結果を捏造すれば・・・。
体温は使い捨てカイロで誤魔化せるだろう。
静香の知恵が回り始める。
教団の教えで医者には行かなくていいのだから、1週間くらい誤魔化すことは可能だ。
30日は半日だけ学校があった。
出席者が少ない。が、そこは学校も大目に見ているようだった。
何しろ、今日だけ休めば7連休になるのだ。家族と旅行に行く者も多いだろう——という配慮らしい。
そして、1日の朝、静香は熱を出した。
「ごめんなさい。行けそうにない・・・。てゆうか、行かない方がいいと思う・・・。」
母親は簡単な印を結んで、教団の御神薬を一掬い御神紙に取って静香に手渡した。
静香は母親が目を離した隙に、それをベッドの上にこぼし、水だけを飲んだ。
「仕方ないわね。今日はおとなしく寝てなさい。しずちゃんの分まで頑張って配ってくるから。」
母親が出ていった後、静香はベッドにこぼれた粉を掃除機で吸って証拠を消す。
それからコロナ検査キットに絵の具で偽のラインを描いて、「陽性」の検査結果を作った。
帰ってきた母親に、マスクをした静香はそれを見せる。
母親は無邪気にそれを信じたようだった。
「御神薬のおかげで熱はそんなに上がらないけど、お母さんに感染したらビラ配りできなくなるから・・・。できるだけこの部屋には入らないで。ご飯も扉の外に置いてくれればいいから。」
「大丈夫なの? わたし、休んで看てた方がよくない?」
「御勤め、ちゃんとして。わたしの分も。その方がいいよ。わたしは御神薬があるから大丈夫。」
これで、敬虔な信徒の演技は完璧。
母親がその信心を誉めて出ていった後、静香は急に怖くなった。
こんなことして、神罰が当たったりしないかな・・・?
神様は、これ、見てるよね?
震えが止まらなくなる。
どうしよう・・・。
わたしは地獄に落ちるんだろうか?
違うよ。あんなのインチキ宗教なんだから・・・。この間もテレビで、うちの教団の名前挙げていろいろ言ってた。
だから・・・!
よけい、高校のクラスメートには知られるわけには・・・・。
でも・・・・。
カミサマハ、コレ見テルンダヨネ? ・・・・・