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31 世間知

 数日そんな暮らしを続けるうちに、少しずつ手持ちの現金が寂しくなってきた。


 さすがに、このままというわけにはいかないだろう。と、それは静香にも分かる。

 なんらかの生活手段を手に入れないと、このままでは漫画喫茶にいることもできなくなってしまう。

 路上生活をすることになるのだろうか・・・。


 それだけは避けたいと思った。

 これから冬になってゆくのだ。


 だからといって、家に戻るという選択肢はなかった。

 今度こそ、鞭で打たれるだろう。


 教団では、「しつけ」として親が子どもを鞭で打つことも推奨されていた。

 他の子どもたちはよくそうされていたようだったが、幸いなことに静香の母親はそれだけはやらなかった。

 それはありがたいと静香も思うが、ひょっとしたら静香が「いい子」だったからというだけかもしれない。


 しかし、今回は違う。

 親の金を盗み、夜中に家出してきたのだ。

 間違いなく「悪魔を追い出す」と言って鞭で打たれる。

 母親がそれをしなくても、お師さまがそれをするだろう。母親は教団にも行ったりして、騒ぎ回っているに違いないのだから——。


 どうしよう・・・?


 身元の保証なしでも、アルバイトってできるんだろうか?

 学生証はあるが、学校が県外なのだからどう考えたっておかしいんじゃないだろうか?


 静香は静香なりに、考えられる限りの世間知を動員して考えたが、いい考えは浮かばない。


 スマホで「家出」を検索してみようと思い立ったのは、そんな堂々巡りをさんざんやった後だった。


 SNSの着信が増えている。

 どうせ母親だ。


 ・・・・・・・・

 でも、一応見ておけば、今母親がどんな動きをしているかは分かるかもしれない。

 それも逃げるためには必要な情報かもしれない・・・。


 そう思って開いてみた。

 ・・・・・・・・

 母親のものはもちろん来ていたが、予想外に阿形(しのぶ)からのメッセージがいくつもあった。

 最新のものは3日前の彼女からのものだった。

『生きてるよね?』


 教会で、あのニセモノ天使にお祈りしていた時にも、何度も届いていた。

 気がついてなかった・・・。


 ごめん・・・・。

 こんなに心配してくれてたんだ。


 ごめん・・・。

 三谷くんがいなくなって、わたしも突然黙っていなくなったんだもの・・・。

 きっと怒ってるよね?


 ごめん・・・。

 生きてるよ・・・・。


 でも・・・・

 今さら・・・・

 こんなに時間が経っちゃって・・・

 なんて返していいか、分からない・・・。

 言葉が見つからない・・・。


 もし・・・・

 怒ってしまってて、返事もくれなかったらどうしよう・・・?


 静香はスマホの上で指を彷徨(さまよ)わせたあげく、結局そのまま何も返さずに検索画面を開いた。

 既読ついたから、生きてるのは分かる・・・よね?



 「家出」で検索してみた。

 すると、けっこういろいろな情報が出てきた。


 いわく「NETの中にある高額な報酬をうたうアルバイトには絶対に応募してはいけない」

 いわく「親戚や友人で頼れる人がいたら、まずそこに頼ろう」

 いわく「お金はちゃんと事前に準備しておこう」

 虐待する親から逃げ出した子どもを想定したアドバイスが、いくつも見つかった。


 なんで最初からこれ検索しなかったかな・・・。


 でも、わたしの場合、「虐待する親」から逃げ出したことになるんだろうか?

 親戚なんてないし、友人だって今は阿形さんしかいないよ?

 阿形さんに「泊めて」なんて言えるわけないでしょ? そんな迷惑なこと・・・。2週間以上も返信さえしない「友人」が・・・。

 今はもう・・・、向こうは「友人」だなんて思ってないかもしれない・・・。


 一時的に家出した子どもを保護してくれるNPOのサイトもあった。

 隣の県ににあるらしい。

 電話番号も載っていた。


 電話をするべきだろうか・・・?

 結局親に連絡されたりしないだろうか・・・?


 恐る恐る電話をしてみた。

 自動音声の女性の声が流れた。

 その瞬間に、静香は電話を切ってしまった。



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