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プロローグ ・ 1 キャラクターパン



     = プロローグ =


 子どもはまっさらなまま生まれてきて、世の中の泳ぎ方を最初に親からインプットされる。

 パソコンの基本ソフトみたいなもの、と考えたら近いだろうか。

 人生というゲームを始めるにあたって、最初のカードは親から与えられるのだ。


 もし

 最初に配られたカードが、実はどうしようもないくずカードばかりだと

 気がついてしまったら・・・


 自分を騙しながらそのままゲームを続けるのか・・・


 全部のカードを捨てて、新しいカードで今から再スタートするのか・・・


 それとも・・・・

 いっそ、ゲームを下りるか ・・・・・



   *   *   *   *



     = キャラクターパン =


 不満そうな顔をした70前後のジジイが、スーパーのパンの陳列棚を引っかき回して奥の方から日付けの新しいものを取ろうとしている。

 弾みでいくつかのパンが床に落ちるが、素知らぬ顔でそれを乱雑に棚に戻してそのまま立ち去っていった。

 静香の足元に、落ちたパンの1つがそのまま残されていた。キャラクターの絵が印刷された子ども向けのパンだ。

 静香はそれを拾う。


 子どもはこういうの、袋ごと咥えたりするよね? 床に落ちたもの、不衛生じゃない?

 何なの? あの爺さん。

 他人ひとのことも世の中のことも、なあ〜んにも考えてない。そうやってあの年まで生きてきたんだろう。


 静香は手に持ったキャラクターパンを眺める。

 キャラクターの顔の部分に値引きのシールが貼ってある。

 子どもの頃、こういうものは買ってもらったことがない。

 他の子が買ってもらっているのが羨ましかったのか、わたしはあんなものに目移りしたりしない——と超然とした気分でいたのか、よく分からない。


 静香はそのキャラクターパンをカゴの中に入れた。値引きの食料品ばかりが入ったカゴの中に。

 誰か子どもの手に渡って、おなかこわしたりしたら良くないものね。わたしが買ってあげれば、そういう危険はなくなるもの。

 誰も見ていないけれど、こういう行いはちゃんと神様は見ていてくださる。


 ・・・・・・・・・

 神様って、誰?


 静香はいつも朝一番にスーパーに食品を買い出しに来る。

 朝はパンなどの前日の売れ残りの値引き商品が多い。夕方は惣菜系の値引き商品が多いが、バイトの時間の関係で閉店前に間に合うことが少ない。

 独り暮らしを始めてからも生活は楽ではなく、食費は限界まで切り詰めるようにしている。


 1つくらい、いいよね?

 子どもの頃、買ってもらえなかったキャラクターパン。


 カゴを持ってレジに向かう。


 変に思われるかな? いい大人が・・・。

 子どもがいるフリをすればいいかな?


 静香はセルフレジの方に並んだ。

 持ち手の擦り切れたマイバッグを片方に掛け、カゴから商品を取り出して機械にバーコードを読ませる。

 ピッと音がしたら、マイバッグの方に入れてゆく。

 最初にキャラクターパンはスキャンしない。いくつかの商品をスキャンした途中に、さりげなくスキャンして紛れ込ませた。



 いったんアパートに戻り、冷蔵庫に入れるものを入れた後、すぐに自転車でバイトに出かける。仕事は郵便局の内部の仕分け業務だ。接客しなくていいのが助かる。


 夜、バイトが終わってアパートに帰ると、冷蔵庫の中のもので適当に夕食を済ませる。

 そのあと、朝買ったあのキャラクターパンをテーブルの上に出してお茶も用意してから、しっかりと眺めた。静香の頬がちょっと緩んでいる。


 キャラクターの顔の上に値引きシールが貼ってあって、顔が見えない。


 なんでこういう所に貼るかなぁ。子どもはこれが見たいんだよね? スーパーの店員も、なあ〜んにも考えてない。


 ポケモンの名前のところにはシールはかかっていないけど、静香はポケモンの名前も顔もなんにも知らない。

 だから、名前だけ分かっても、それがどんな顔をしたポケモンなのか、さっぱり分からない。


 静香は爪でシールの端をこそげるようにして、シールをめくろうとし始めた。

 先が少しめくれると、シールのノリの部分が指先にくっつくから、指で擦るようにして少しずつめくれを大きくしてゆく。

 そこそこ大きくなったところで、それを摘んで引っ張った。


 シールは表面の印刷部分と裏にノリのついた紙の部分に別れて剥がれ、2つの三角がくっついたような形で残ってしまった。かえって剥がしにくい状況になってしまった。

 静香は親指の腹で、包装紙に残ったシールの尖った部分を擦り、先端を少しづつ丸めるようにして剥がしてゆく作業を続ける。

 延々と、続ける。


 まだ顔が全部見えない。まだ・・・。


 強く握りしめた左手の中で、少し硬くなったパンが潰れてゆく。

 それでも静香はシールをめくり続けた。


 静香の内部の圧力が上がって、静香の目から水を押し出し、それが頬につたわった。

 涙・・・というのだろうか?


 悲しいの?

 悔しいの?

 腹立たしいの?


 なんだか分からないぐちゃぐちゃな感情の中で、静香はひたすらにシールをめくり続けた。



最初に言っておきます。

ハッピーエンドになります。

だから、もし

3番目の選択肢に目が止まってしまった人がいたら

どうか、最後まで読んでください。


上手く描けるかどうか分かりませんが。


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