表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高校生の異世界国家改造計画  作者: 五月雨高雄
5/7

卓上会議

 コンコンち扉を鳴らす音がする。


「どうぞ」


 ガチャリと扉が開いて侍従長が部屋に入ってくる。


「失礼いたします。まもなく式典ですので控室の方にお移りください。それと控室には大臣たちが、総帥に拝謁するのを首を長くして待っていますので何かお一言声をかけてやってください。」


「あー分かった」


(一言ねぇ、一体何喋ろうか)


 初めてこの国の侍従長以外の要人との対面だ。下手なことを言うことはできない。万が一機嫌を損なったら後々面倒なことは目に見えている。


 (まずは親しみやすい好印象を持ってもらって仲良くならなきゃ)


 侍従長に先を歩いてもらい、長い長い真紅のカーペットの廊下を歩いていく。ただ単に二人の足音のみが耳に伝わる。


(考えがまとまんねぇな、変に気張るのも良くないし、、、、、、)


 足音は止まらずに淡々と目的地へと進んでいく。どうも侍従長に助言を乞える空気ではない。


 「不躾ながら申し上げますが、ご自身の素直な気持ちをお言葉になさってはいかがですか。旧友に語るがごとく。」


「、、、、、、」


 そういきなり立ち止まりも振り返りもせずに喋りだしたのだから驚いてしまう。ただ単純にコツコツと歩きながら俺に助言をしてきた。しかし言っている音は至極真っ当で当然といえば当然だ。


 「そうだな。そうするよ助言ありがとう」


 彼は歩みは止めず振り返りもせずにただ少し頷いた。まったくもって不思議な人だと思う。読心術でも極めているんだろうかとも思ってしまう。


 「こちらの部屋でございます」


 案内されたのは、甲冑を着た二人の兵士が門番をしている観音開きの扉の前だった。兵士は侍従長の合図で扉を開ける。


「総帥のご到着です。」


 声とともに椅子が揺れる音がする。


「どうぞ中へお入りください。」


 言われたとおりに部屋に入るとコの字の机を囲んで大臣と思われる人たちが、起立をして頭をこちらに下げていた。うわぉ、絶景


 俺は自席に着いて彼ら彼女らに、頭を上げて座るように伝える。この国の大臣は、老若男女問わず就任していた。まさにダイバーシティ。


「総帥。お言葉をお願いいたします。」


「うん分かった。」


 軽く。ほんとにかるーく壁払いして声を発する。


「はじめまして、私が次期総帥の不知火咲摩です。これからよろしくお願いします。それと、皆にはお願いがあります。今後は公の場を除いて私のことは、下の名前で呼んでください。勿論強制はしないです。そして私も君達のことを下の名前で呼ぶようにします。」


 この言葉には甘い打算的な要因は含まれていない。確かに、フレンドリーな感じのほうが堅苦しい空気よりはパフォーマンスも上がるだろう。しかし俺はほんの数時間前までは一介の高校生に過ぎなかったので、毎度総帥と呼ばれるのはむず痒いのだ。


「あの、よろしいのですか?」


「ん、何が?」


 引っかかるところが侍従長にあったのだろうが、質問の意図には気づかないふりをしておこう。


「、、、、、、いえ、なんでもございませんサクマ様」


 おかげでちゃんと呼んでくれたようだ。他の大臣も俺の発言を聞いたときは、驚いていたが侍従長の態度を見て納得してくれたみたいだ。


「さてサクマ様からのお言葉もいただきましたので、皆さんもご挨拶をお願いします。陸軍大臣からどうぞ」


 「はい。お初にお目にかかりますサクマ様。私は陸軍大将兼陸軍大臣のツァーリ・アームストロングです」


 そう言って陸軍服を着た恰幅の良い茶髪の男。ツァーリは席についた。同時に隣の黒髪ロングの女性が席を立つ。


「私は海軍大将兼海軍大臣のシーナ・クリミヤと申しまわ。よろしくおねがいいたしますねサクマ様」


(美人だなァ。というか俺のタイプど真ん中だよ。軍人なのにめっちゃ綺麗だし何より白の海軍服よく似合うあ)


 実際彼女は海軍にはもったいない程の容姿端麗。黒髪に大きな瞳。まさに絶世の美女、なんで海軍にいるんだろうと不思議なくらいだ。


 その後も同様の挨拶が続いていく。残すはあと一人。


「後は法務大臣か、、、、、、」


 法務大臣にはこの先良いk付き合いをしていくためには、必ずお尋ねすべきことがある。法務大臣が立席して名乗り始める。


「お目にかかれて光栄ですサクマ様。私は法務大臣のキール・クロウと申します。以後よろしくお願いいたします。」


 「よろしくキール。一個聞きたいんだけどいいかな」


 「何でございますでしょうか」


 どうやら心当たりはないらしい、全く失礼なやつだと思う。ふぅ。と一呼吸おいてあからさまな調子でこう尋ねる。


「なーんで俺は召喚された後しばらく独りで、たった独りで薄暗ーい地下部屋に放置されてたんですかねーえ」


 我ながらうまい演技だ。某紅茶を高く入れる刑事の如く手をヒラヒラさせてみる。


(さぁ、どんない言い訳書きが聞けるんだろうか、楽しみだなあ)


 口元を手で隠してニヤけているのを気づかれないようにして、少し困った顔をしている法務大臣に視線を集中させる。


「......サクマ様、大変申し訳ございませんでした。召喚儀式の際に召喚士が魔力不足に陥りまして......」


「手当をしていたと?」


「はい」


「召喚士は何人いたんですか?」


「この国の召喚士全員の三名でございます」


 なるほど。召喚士は随分と貴重な人材らしい、てっきり普通の魔術師が行っていたと思っていたのだが違うようだ。


(召喚に特化したプロということか、それに三人しかいないんだったら誰が来るかわからない勇者より優先するわな。よしこれでこの話は終わりにしよう)


「事情はわかった。この国に三名しかいない召喚士の大事なら仕方ないと思うよ。けど一人くらい使用人を残してくれても良かったんじゃない」


「お辛いお思いをさせて申し訳ございませんでした。」


「分かってくれたのならいいよ。ごめんねこんな皆の前で」


 キールはバツが悪そうにして「いえ、とんでもございません」とはにかんでみせた。大臣たちも少し笑っている。


(さて、と少し場の雰囲気もほぐれたようだから締めに入ろう)


 俺は席を立つと大臣たちも立とうとしてきたので、これを制止する。ここで大臣達に立たれたら少し格好がつかなくなってしまう。


「みんな。俺は国家経営に関しては全くの素人だ。しかも前の世界では最終身分は学生だ。これから色々と面倒なこと、腑に落ちないところもあると思う。だけど、これからの私の人生は皆の支えなしでは成り立たない。だから改めてお願いします。今後とも皆さんのお力を貸してください。」


 頭を下げたまま、しばらくの静寂。なんと気持ちが悪いものだろうか、しかしこの静寂は決して悪いものではない。俺の誠意を皆が咀嚼するのに必要な静寂だからだ。


「サクマ様。お顔をお上げください。」


「皆この国の大臣なのです。この国をそして総帥を補佐するのが私達の役目なのです。ですので私達は粉骨砕身して総帥を補佐するのです」


 産業大臣のパフュー・クローの優しい声が静まり返っていた部屋にしみる。顔をあげると、全員がこちらを向いて彼女の言葉に頷いている。


「パフューありがとう。皆もありがとう!」


 思わず笑みがこぼれてしまう。そんな俺を見て皆の口元も少し緩んでいくのが見て取れた。どうやら皆はこんな素人の俺を支えてくれると決めてくれたようだ。


(良かったぁぁぁどうにかこの場は一段落ついたな)


 しかし安心はできない、なにせこの卓上会議はただの前菜にすぎないのだ。この後のメインディッシュはさらに重たいものとなる。


(持ってくれよ!俺の胃腸!)


 どっかの貴族でおしっこを我慢してお亡くなりになった方がいた気がするが、そんな末路はたどりたくない。俺は絶対畳の上で死ぬと決めている。


 そんな事を考えていると部屋に礼服姿の男が「失礼いたします」と言って入室し侍従長の耳元で何かを伝える。それを聞き終えた侍従長は一つ軽く咳払いをして


「皆様、お時間になりましたので王座の間にご移動お願い致します」


 全員が頷いて侍従長を先頭に俺、大臣たちと続いて退室して王座の間に向かう。使用人やメイドさんは既に皆準備に行っているらしく、誰も廊下にいない。


 玉座の間の前につくと大臣たちとは別れて俺は、玉座のあるひな壇横の舞台袖に待機することになった。しばらくして開式の合図と思われる荘厳な音色が耳に伝わる。


(いよいよか)


 ここにきていよいよだと言うのに不思議と体の震えは全く無く、冷静とも諦めとも言えない妙に冷めた感じが全身を包んでいる。


 チラリと舞台袖から式を見てみると丁度侍従長が登壇するところだった。淡々とこの国の興りや世界に果たす役割、また今回の総帥就任の経緯を諸侯や投影魔法らしき魔道具で、この式典を見ている民衆に向け語っていく。そして最後に


「それではシュタット王国新総帥であられますサクマ シラヌイ様のご入場です。」


 そう言い放つと玉座の間は割れんばかりの大きな拍手の波に包まれていく。








 




 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ