初の転移 そして暗闇に
「国家」
人々が集まり個人では、対抗し難いものに対して抗うもために形成するもの。形式は様々で王政、独裁、民主制、連邦制、立憲君主制などがある。
強烈なめまいに襲われて何秒経ったんだろうか。いや、数分かもしれない。とにかく俺は立てなくなり、目を閉じてその場にしゃがみこんでいた。
(だいぶ良くなったな、、、、、、何なんだよこのめまい。寝不足のせいにしちゃあたちが悪いな)
悪態をつきつつ目を開けると目に写った光景は弁財天のお社という綺麗なものだはなく
(はい?)
そこは薄暗く気味の悪い牢屋だった。
目を開けると俺は、社の前ではなく石造りの牢屋にいた。いや、牢屋というよりも某聖杯アニメの蟲部屋みたいな場所にしゃがみこんでいた。
「どこだよここは、誰もいないし、薄暗いし、変な匂いがしないのは救いだけど、好んでここにいたいと思う場所じゃねえ。気味が悪い。」
見知らぬ場所に目を開けたら突然放り込まれた焦りから、体中から嫌な汗が湧き出てる。頭が回らない。頭の中を疑問符が支配していく。ここはどこなのか。なんでここにいるのか。これは夢か、はたまた現実か。等
(何かを考えようにも要素が足りなさすぎる)
そうして牢屋の中をぐるぐる回っても打開策は見つかるわけもなく、独りであーでもないこーでもないと悶々としているうちに、疲れてしまった。なので、仕方なく牢屋の中心に座り、今一度ゆっくりと部屋を見回すことにする。
(部屋の大きさは大体十畳ほどか。天井は、、、、、、だいぶ高くまであるな。壁は石造りで窓はなく、明かりは格子の向こうの廊下から少し見えるほどか。状況は絶望的。としか言えないが、とりあえずは今の持ち物を確認しておこう。)
革の鞄の中を見ると幸いにも中は無事だった。スマホに財布、課題本にICカード、さっき買った甘酒と破魔矢と初売りのカバンが一つ。
(破魔矢さんよ、、、、、、お仕事してくださいよ。今の所魔を払うどころか呼び込んでるじゃないですかぁ)
恨めしそうに見つめても破魔矢に罪はない。多分、、、、、、また念の為、いや、一理の望みをかけてスマホを開く。
圏外
(ですよねー)
ネットや電話は使えないが、写真のフォルダは見ることができた。かといってどうしようもないのは変わらない。状況は災厄、最悪だ。助けを呼ぶにも外界との接触は、不可能に近いものとなってしまった。しかし、ネットが使えないということは、地下あるいは山の中だろうと想定される。今の日本でネットが繋がらないところといえば、だいたいこのくらいのものだ。
誘拐、白昼夢、などなど頭に思いついてはすぐに消えていった。どれも現実味にかける。それに、俺は参拝中だったから人目もあるはず。だから犯罪の線は薄いと思った。
(何が大吉なんでしょうかねえ)
呆れて、疲れて、諦めかけていた俺は古典的な方法を実行することにした。重い腰を上げて立ち上がり、そして息を大きく目一杯吸って、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「オーーーーい!誰かいませんかーーーー返事をしてくださーーーーい、だれかぁぁぁ、、、、、」
結果、応答なし。あるのはただ虚しく、こだましていく綺麗とは言い難い少し掠れた俺の声のみ。
(えー、なんで?誰か必ずいるでしょうが。看守とか、見張りの兵とか)
すでに今日何度目かの絶望、全身から力が受けていく感覚をここまでしっかりと感じたのは初めてだった。崩れるように冷たい温度の石の床にへたり込んだ。
(あーだめだこりゃ。誰も来ねえし寒いし、ここがどこかも一向にわからん。もしもこのままだったら餓死一直線だ。嫌だなあ。餓死は嫌だなあ。苦しいから嫌だなあ)
この状況はもはや詰んだも同然。死ぬ結末まで想像する始末。それに餓死というのは俺が最も恐れる死に方の一つなのと同時に発展途上国を中心に餓死する理由は違えども今でも多くの人が命を落とす原因ともなっている。想像するにその苦しみは相当なものだと思う。
そんなネガティブ思考全開で床に伏していると、、、、、、
(ん?なんだコレ、線?模様か?)
さっきは薄暗くて見えなかったが、だんだん目が暗いのになれたようで、床になんかしらの模様が描かれていることに気がついた
(んー、なんかこういうの見覚えがあるようなないような、魔法陣的な、、、、、、、、?)
頭の中で嫌な予感が駆け巡る。魔法陣みたいな模様、いきなりの場所移動、スマホの使用不可、石造りの薄暗い部屋、、、、、、
(まさかね、ありえないよね、しかもなんで俺なの?俺だよ?しがない高校生だよ?嫌でも なぁ、これが夢じゃなかったら俺はどんな立場になるんだろう)
頭の中でぐるぐるとなんとも言えない感情や思考が駆け巡っている
(実際のところどうなんだろう。異世界転移ってのは)
あまり信じたくないというか、信じられないというか、、、、、、たどり着いた仮説というのは<異世界転移>だった。
<異世界転移>
あのアニメや漫画とかラノベにありがちなにわかには信じられないような、アレだ。しかしながら、まだこれはあくまで俺の「仮説」だし、その域は出ることはない。が、俺だってそっち系のアニメはよく見ていてたので、少しばかりこの「仮説」に納得してしまっている。それともしそうだったとするととてもワクワクする。
コツコツコツ、、、、、、、、、、、、
(おや?)
あれこれ考えていると廊下の方から一人の足音が蝋燭の明かりとともに近づいてきた。どうやらお迎えがきたらしい。
(さて来るのは、王様か、宰相か、魔術師か)
もし本当にここが異世界ならば、こういう時、迎えに来るろは下っ端などではなく、何かしらの偉い人が来るのが定番だ。しかし、誰であろうとまずやることは変わらない。「挨拶」、「自己紹介」、「質問」この3つを俺からする事だ。理由として以下のものが挙げられる。
一つ、、、、、、会話の主導権を渡さないこと
二つ、、、、、、この状況を完全に理解したわけではないの でこれ以上俺を置いてけぼりにさせてたる
か
という半ばプライドの問題とも言える理由があるからだ。
コツコツコツ、、、、、、
だんだん足音が大きくなり、もうすぐ相手の顔が見えると言った距離になった。俺は息を整え、相手を威圧するでもなくへりくだるでもなく、淡々と名乗ろうと決めた。
すると
「長い間、お一人にして申し訳ございません。総帥閣下」
男の声、しかも老人の声がした。ということは、やはり偉い人の可能性が高い。
(総帥閣下って誰のことだ?ってもこの場合俺か、まぁいいや、とりあえず予定どうりにい こう)
少し引っかかるところがあるが、しっかりとハキハキと相手よりも先に名乗っておく。社会で生きていくのには必要不可欠な、そして最低限のマナーだ。
「はじめまして。私は不知火 咲摩です。あなたはどちら様ですか?」
名乗ると同時に軽い会釈をする。そして顔をあげて前を見る。そこには、やはり。と言った感じの風貌の老人が立っていた。背はあまり高くなく痩せ型で、白髪の穏やかな目をした人だ。服装は背広でいかにも文官って感じがする。
老人は少し驚きながら、しかしすぐに冷静に質問に答えた。
「私は王室省所属の侍従長のジル・エルフォートと申します」
侍従長というのは皇族や王族の最側近だ。予想外の役職に少しばかり驚いたが、元々は王様が来るのも想定していたのでどうということはない。問題はそこではなく次だ。
「ではエルフォート侍従長、私はどのようにしてここに呼び出され、そしてなんのためにここに呼び出されたのでしょうか?」
正確な敬語を使えているか不安に思うところがあるが、これがこの場において最も大事な質問だ。大抵この場合は、異世界側の勝手な都合。例えば国家の危機に瀕していたり、魔族と戦うために呼び出される。しかし問題が一つ。
(俺は打算的な高校生に過ぎないし、なにより武闘派じゃないんだけど)
そう、問題は俺が特別頭の良いでもなく、特別武勇に優れているでもないということだ。
(戦えませんって言ったとして、じゃあいらないから死んでください。とかはまじで勘弁してほしいところだし、なにより戦えない人間を呼び出すなよ、、、、、、)
などと勝手に妄想して勝手に批判していてもむず痒いだけだと思い「あ、あのっ」と一言断っておこうとしたとき
「その質問は誠にごもっともな質問でございます。大井市のご質問と致しましては、勇者召喚の儀式でございます」
そう侍従長は答えた。
(うわぁ、やっぱり勇者か、、、、、、どうしようか、、、、、、俺戦えないんだけどなぁ)
困惑するしかない。が、今は動揺を隠すことを優先する。弱腰な勇者だと思われたらどうなるかはわからない。恐らくは価値観も文化も違うだろう。もしかしたら命を軽く奪うなんてこともあるかもしれない。
そして侍従長は続けて、しかし今度は少し申し訳無さそうに答えた。
「それと第二の質問でございますが、この国の国体を守ってほしいからでございます」
やはりか。と思ったが少しおかしい。普通は「国体」ではなく「国」ではないだろうか。「国体」と「国」では少し意味合いが変わってくる気がするのだが、、、、、、とりあえずおいておこう。
「それはまた唐突ですね、、、、、、一応お聞きしますが具体的にはどうやって救えというのですか?」
(頼む! 魔王討伐とかは勘弁してくれ!)
「はい、サクマ様には国家元首になっていただき、この国を治めていたただきたいのです」
(はい?)
呆れて何も言えなくなってしまった。開いた口が塞がらないとはまさにこのことで、国家元首つまり、王様になってくださいということだろう。勇者召喚で召喚した勇者に対して「王座についてください」というのは聞いたことがない。意味不明すぎる。
「先王は、お世継ぎを残さないままにお亡くなりになられました。なのでこの国には今代の王が御不在なのです。そこで勇者様を召喚して、総帥になっていただこう。と考えたのす。」
うんちょっと待て、それはおかしい
「あの、、、、、、エルフォート侍従長殿、普通このような王に世継ぎがいない場合は、先王の兄弟姉妹や他の王族から次期国王を選ぶのではないのですか?」
そう、普通はそうだ。王がいるということは王国なのだろうが、その場合は王家の血筋というのがとても大事になってくる。なのにこの国はそれをなんの血縁もない、外部のしかも異世界人に自国の王を任せようしている。はっきり言って
(正気じゃない。これで国民が納得するとは到底思えない、、、、、、)
非常に困惑している。というか呆れている。そして、質問の答えとしてさらなる爆弾発言が侍従長の口から飛び出す。
「それはできないのです。我が国では王族内の王位継承を巡る争いを防ぐために、先王のご兄弟やご姉妹が王位につくのを法律で禁じているのです。また、法律の変更は、今代の王しかできないこととなっております。加えて先王様はご子息をお一人しかお作りになりませんでしたから、、、、、、」
(えー、なにそれ。王族の義務の一つを放棄するに等しいのに加えて、、、、、、確かに身内同士の内乱は、国内にマイナスの面しか意味ないけどさぁ、どうにかなんなかったの?その法律は、、、、、、)
確かに後継者問題で体制が揺らいだ前例は数多くある。日本では応仁の乱が有名だろう。
その一方で後継者争いがあったのにも関わらず、その後に勢力を伸ばし方異性があるのもまた事実だ。何事もビビりすぎてばかりではいけないのだ。それと、少しだけ気になったことが一つある。
「それで?なんで勇者なんですか?」
「法律により王位継承が困難と判断された場合は、勇者を召喚し国家元首とすると規定されているからです。」
(無茶苦茶だな!この国の法律は!)
なるほど気になっても仕方のないことだったらしい。
となると、この国の王家の血筋とやらはどうなっているんだろうか。「関係ありませんよそんなもの」などは流石にないと思いたい。そうだったら歴史好きとしてなんか悲しい、、、、、、
そんな俺の疑問を知ってか知らずか、侍従長はこういった
「それと、王家の血筋に関しましては、勇者様が王室のどなたかと結婚していただき、そのご子息が次期国王になっていただき、血糖をお守りすることになっております。」
「はぁい?」
ま抜けた声が出てしまった、、、、、、
(つか、今このお人はなんて言った?え?結婚するの?俺が多族の女性と!?)
流石に一度突っ込ませてほしいところだが、すぐにまた「それに」と侍従長は言葉を繋げた。まだなにか隠し玉があるようだ。
「勇者様の前例は、以前にも何回かありますのでお気になさらないでください」
と、侍従長はまたとんでもないことを言った。なんて事だろうか、この世界では勇者は一度きりの存在ではないらしい。すでに何回か勇者が召喚されている。勇者って特別なんじゃないの?奇跡みたいなものなんじゃないの?もう何が何でも情報量が多すぎる。
国家元首になれ?
王族と結婚して王家の血は絶やすな?
勇者は一人ではない?
あれ?並べてみるとそこまで多くはないのか?と思ってしまうがそうではなく、量よりも内容が水で割るタイプの飲料の原液並に濃いのだ、、、、、、あが、dどっちにしろもう俺の頭はパンク寸前だ。
(頭痛い、なんか、思ってたのと違う。異世界転移っていえばさ「俺つえーーー」みたいなのでエージーモードなお気楽なものを期待してたんだけど)
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
様々な感情がごちゃまぜになったそれはそれは深い深ーいため息が出た。
「どうなさいましたか?総帥閣下」
どうもこうもないわ!!!と言いたくなるのをきっちりと抑えた。ん?
(そういえばこの侍従長は俺のことを一度も国王と言っていないよな?。言っていたのは俺だけだ。総帥と国王って何が違うんだ?)
そう、この人とあってから初めての引っかかりはこの呼び方だった。普通は国王。なのにこの侍従長は一度も「国王」と俺を呼んでいない。「総帥」と呼んでいる。
「なぁ、なんで俺を「国王」と呼ばないで「総帥」って呼ぶんだ?」
「「国王」と「総帥」は違うからでございます」
返答はすごく単純明快、端的だった。今まで人に説明するときはわかり易く丁寧に説明しなさいと教わったが、わかり易すぎて丁寧ではなくなってしまっている。しかもわかりやすいのは端的だということのみ、、、、、、つまり
(何もわからない)
こういう事だ
「あ、あのぉ失礼ですが、もっと詳しく教えてくれませんか?」
苦笑いも自然と出るというものだ、声が少し震えている。侍従長は一拍考えるとこう言い出した。
「でしたら場所を変えましょう。いつまでも儀式場にいるのもなんですので、、、、、、そうですね、、、、、、、、、、、、執務室にご案内致します。それと、給仕に紅茶を持って来てもらいます。私についてきてください」
そうだ、怒涛の情報量の重量に押しつぶされて忘れていたのあが、ここは地下牢みたいな儀式場なのだ。
(こりゃだいぶ参ってるな、、、、、、でもまだまだあるんだろうなぁ、知らなくちゃいけないやばい情報が、、、、、、)
肩を落としつつもようやくまともな部屋に行けるとなれば、行くしかない。少し伸びをして気を引き締めてからコツコツと、小気味の良い革靴の音を鳴らして歩く侍従長の後について歩いていく。