元日 そして最期の日常
「教育」
前世代から次世代に受け継ぐ人間の営み。人類の進化の礎と言える。しかし時には国家戦略の一翼を担うことになる。
俺が都内の私立高校に入学してはや三年の月日が過ぎ、気がつけば高校最後の正月三が日を迎えていた。今は、元日の朝なのでテレビからは正月の特番が延々と流れている。俺はそれをなにか情報を得るでもなく、ただただボーッと眺めながら祖母の作ったお雑煮を食べている。俺は推薦で大学の入学がもう決まっているので、この冬休みはとても気楽なものだ。
「高校三年間の校内テストを頑張ってきてよかった」
そう、俺は内申を高くして、推薦受験で楽したいがのために、三年間校内テストでは上位を取り続けた。そして二年間学級委員を努め、部長をし、体育祭の実行委員を努めた。その際に、周りからいくら打算的だと言われても俺はその信念を曲げなかった。そうして目標をかかげ、その目標達成のために手段を問わなかったからこそ、今の安寧があるのだ
しかし、推薦受験が決まったその後も大学に提出する志願書などと格闘し、担任との意見の違いにより、不満を爆発させる。などと言ったこともあったが、今はこうして部屋で惰性を貪っている。幸せだ。
とはいえ、大学側から課題本が出されており、俺はそれらを読んでレポートを書かなくてはならない。
俺は大学で政策学を学ぶので、そうゆう政治経済系や民族関係の本を読むこととなっている。実際に何冊か読んでいるが、なかなか世界は皮肉まみれだと呆れてしまう始末だ。
まぁ、そんな事ががあったとしても、、、、、、
(一般試験組じゃこんなにもストレスフリーな年明けは迎えられないよな、、、、、、そろそろ 初詣に行くか)
この三年間の自分の労をねぎらいつつ外出の準備をする。今日はなんと行っても元日だ。午前三時近くまでアニメを見ていたため少々寝不足気味ではあるが、初詣には元日に行きたい派だ。それもなるべく午前中に行きたい。経験から言って午後になるとどんどんと参拝客が増えるからだ。
今日の行き先は湯島天神で、友人と一緒に行く予定になっている。理由は簡単で、大学に行っても良い成績でありたいし、何より今日一緒に行く友人が一般組だからだ。それに、俺は昨年も湯島天神で初詣をしているので昨年のお礼もしたい。
支度が終わり「いってきまーす」と家族に言うと奥から「甘酒買ってきてねー」という祖母の声が聞こえた。
「はーい。それじゃあいってきます」
「いってらっしゃい」
言葉をかわして外に出ると気温は意外にも暖かかった。目的地は家から自転車と電車を使って小一時間ほどかかる。
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待ち合わせは11時に湯島駅、のはずなのだが
現時刻、11時三分
「まあ少しは遅れても」
現時刻、11時10分
「遅い、、、、、、」
まさかの元日にすっぽかされるのかよ、、、、、、
現時刻、11時15分過ぎ。もう何度目かもわからない電話をやつにかける。
出ない、、、、、、、、、、、、、、、、、、はぁ、とため息を付いて灰色のコートのポケットにスマホをしまう。その時に
ブー
メッセージの通知音がなったので、やっと気がついたか。と思いながらスマホを取り出して画面を見ると
「ごめん今起きた」
(はい?)
おやおや、いつも学校に遅刻してくる奴だけど流石に信じられない、もう一度画面を見てみよう。
「ごめん今起きた」
やはり字面は変わらないままだった。まじで信じられない!!!
「あんのパーマ野郎!」
つい口に出てしまった。数人の歩行者から、何だあいつ、という痛い視線を頂戴した。
まあいい、返信は決まっている。
「家から近いんだから走ってこい!」
と、返信すると
「俺の分まで祈っててくれ」
「親に昼は餅食ってけって言われててさ」
「それに午後から塾もある」
1つ目のメッセージには怒りを覚えたが、2つ目と3つ目にこうと来たものだから怒るにも怒れなくなったので
「わかった、勉強頑張れ」
と震える指先でメッセージを送り、湯島天神へと一人で初詣となった。
道には参拝客が行き来しており、海外からの観光客の姿も多く見られる。そのような往来を街灯から垂らされた日章旗が上から覗いている。
とても正月らしい。
天気もよく、コートを着ていると少し暑いとも言える気温のなか、じんわりと和えを書いてきたのでコートのボタンを外すことにした。そうこうしているうちに参拝客の列が見えてきた。
「結構空いてるな、、、、、、」
今年は、政府から巷で話題の感染症に関する行動制限がされていないのに、例年に比べ空いているのには、少し驚いた。それはさておいて、初詣に行けない友人から頼まれた参拝風景をスマホで撮影し、列に並んで奥に進む。
「いい?神様にお願いごとをするときはね、二礼二拍手一礼ね」
「わかった!」
「じゃあ、パパとママのマネをしてごらん」
親子の微笑ましい会話が聞こえる。作法や風習は次世代に受け継がなくてはならない、それが伝統となり、誇れることのできる、なにか、になるのだから。
「くーくんは何をお願いするの」
母親が尋ねる。この幼稚園児くらいのくーくんと呼ばれる男の子は何をお願いするんだろうか、と少し耳を傾けていると、、、、、、
「お家にいるお化けがいなくなりますようにってお願いするの!」
顔を少し曇らせてこの子は言ったのに対して、親はさも信じてないように微笑んでいる。俺はその類の存在は信じる方なので、気になってもう少し耳を傾ける。
「くーくんはどんなお化けを見たの?」
「見てはいないんだけどね、お休みの日の夜中にね、変な音と苦しいようなた」
母親の質問に対してのこの子の答えは、お化けの定番的な怪談的なものだった。しかしどうやらご両親の様子がおかしい。顔が少しだけ赤いようだ。
なぜ?
ピーン
あー、、、、、、なるほどなるほど。
俺はある一つの答えを見つけて少し苦笑いをする。その子の言うものはお化けではない。確実に。その上、それは、もしかしたら死んでいる者ではなく、生まれる者の音かもしれない。
本当に子供は純粋だと思う。だってこうも簡単に地雷を踏み抜くのだから。それに比べて俺ら高校生はなんてことだろうか。一つ取っ掛かりがあると直ぐに何かと騒ぎ立てて、わざわざ地雷を踏み抜いて相手の意思とは無関係に笑いに変換する。
しかし、この場にそんな空気は存在せず、両親は赤面し、その子は不思議そうに両親を見ている。そんな光景をみんな暖かく見守っている。
(平和だなー)
そんな事を考えていたら参拝の順番がもうすぐだった。
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参拝も終わり、古札を返して新しい破魔矢を購入し、後やるべきことは、、、、、、おみくじだ。おみくじ箱を見つけて百円玉を投入したら穴に手を入れておみくじを選ぶ。
さあ、今年最初のおみくじは
大吉
(よしっ幸先良いぞ!)
新年一発目のおみくじが大吉なのに気分が良くなる。しかし大吉なのは確かに嬉しいが大事なのはここからだ
(内容はと、、、、、、)
方角ー西北
外出ー連れがいればなお良い
(当たってる、、、、、、)
まさかのおみくじよ的中に思わず苦笑いが出てしまう
縁談ー近く来る
等
やはり大吉には良い運勢が書かれていて気分が良い。
その後、神社を出た俺は、頼まれた甘酒を購入するついでに甘酒を飲んで体を温めて、その上で上野の方まで歩いてみることにした。上野には行きつけの美味しいとんかつ屋があるのだ。それに新年でなにかやっているであろうアメ横にも久しぶりに行きたくなった。
が、店は空いておらず、なにかやっているだろうと思って通ったアメ横では初売りのカバンを衝動買いをしてしまった結果、、、、、、財布の野口さん、樋口さん、諭吉先輩は皆さん愛想を尽かして、財布という家から家出されてしまった。
(新年早々の無計画、なんて惨めなんだろう俺って)
自嘲の笑みがカラカラと出てくる。
確かに自分の無計画性は自覚している。けれど、なかなか治ることのない自分の中の不治の病でもある。
(まじでなんとかしないとなぁ)
俺は、そんな軽いとも重いとも言えない思考を彼方に投げ捨て、気分転換を兼ねて上野公園を散策することにした。
雲ひとつない快晴、穏やかな風、日に照らされてキラキラ輝く水面、沿道を歩く人々、我ながらここを選んだのは良かったと思う。気がつくと嫌な気分はなくなっていた。
(久しぶりに来たけどやっぱ広い公園はいいなーうるさく ないし、のどかだし、将来は緑のある郊外に住みたい よ)
田舎ぐらしとは言わないが、静かなところで暮らしたいとはいつも思う。だいたい渋谷とか新宿とかタワマンとか沿岸部に住みたいと思う人の気がしれない。
(南海トラフが来たらどうすんだろ。地価も暴落したりして 建物の商品価値も自身の命もなくなりかなないという のに)
内心でぶつくさ言っていると、不忍池を一周し終えたので、弁財天にもお参りすることにした。途中で屋台の美味しそうな匂いがして、先程の自分の愚行を糾弾しつつ、参拝の列に並ぶ。
(なんか色々疲れたな、、、、、、計画的な人間になれと神様が おっしゃっておられるんだろうか)
列に並びながらそんなことを思った。
シャランシャラン、、、、、、
鈴の音が小気味よく耳に響くと思ったら、順番がもう回ってきていた。やはり夜ふかししたツケが回っているのだろうかわからないが、やけに頭がボーッとする。頭の中に霧が立ち込めているかのような、そんな感覚がする
気持ちを整えて、鈴を鳴らし、お賽銭を三十円(金額は関係ない)入れ、二礼二拍手を行い、目を閉じてお願いをする。
(今年は計画性を持ち、多くの友人に囲まれて良い彼女ができますように)
そう、俺は年齢イコール彼女いない歴、、、、、、ではなく付き合った彼女と3日で別れた男だ。しかも彼女ができたのはそれが一回きりという。
(何卒よろしくお願い致します)
そう願いを込めて目を開けようとしたとき
(うっっ)
強烈なめまいが襲ってきた。
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時を少し戻して、ある国では国王が亡くなった。その国王は世継ぎを病によってなくし、悲しみのあまりに心を病み、他の世継ぎを作らないままにこの世を去った。
少年がめまいに襲われたのと時を同じくして、その国では国体を保つためにある儀式が執り行われていた。
はじめまして、今回が初投稿となります。
なにかご指摘がありましたらよろしくお願いしまします。