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第8話・戦支度

“神は細部に宿る” のです。

何事も 準備はおろそかには出来ないのです。

衣装も振り付けも…鷹羽先生ガンバ!

戦国奇聞!(せんごくキブン!)第8話・戦支度(いくさじたく)


 なし崩し的に諏訪攻略に参戦する事となった『城西衆』であるが、参加条件は あくまでも、外交戦限定とした。

 勘助の嵌め手(はめて)軍略であるから“悪魔的外交”かもしれないが、武力を使う(いくさ)には参加させない事が、鷹羽たち教師の譲れない線であった。


 とは言え、威嚇用ビュンビュン丸のメンテナンスや、諏訪頼重を追いつめる為の準備など、城西宿坊は活気に満ちた。

 古澤先生(ドラムメジャー) 監督の下、坂井、猪山、神宮寺トリオおよび、数名の連絡係の若侍が列を作り、『神官行列(カラーガード)』の隊形練習に励み、

 手芸部員、薫ちゃんが中心となった『城西衆』女子部が巫女装束(コスチューム)を作製し、

 山本勘助(ディレクター)指導による、中畑、有希、桜子の立ち稽古。

 文化祭クラス参加のノウハウを生かし、「諏訪攻略大作戦」に一致団結で臨む『城西衆』である。

 日本文部科学省 教育カリキュラムの勝利であった。


 そんな城西宿坊、いつもの教師部屋である。

 教師3名が揃い、定例の「本日の夕刻報告」が行われている。


「はーい、鷹羽です。…ビュンビュン丸のトリセツ作成は一応完成。メンテナンスキットの準備は外注からの部品納品待ち…て、所かな」

「はーい、古澤です。『神官行列』の隊形練習は問題ないんですが、弥次郎君が“あんなチャラチャラした衣装なんか着れるか”と駄々こねていて」

「弥次郎…って誰?」

「連絡係でここに詰めている若武者。 で板垣様のお子さん。体格は良いんだけど、性格がちょっと…。連れて行かない方が良さげ なんですが、板垣様の関係者だし…」

「…勘助さんに相談してみるか。じゃ、中畑先生の進捗は?」

 何か考え込んでいて、反応がない。


「どうしました?トラブルですか?」

「いえ、衣装製作も楽しそうですし、演劇祭みたいだって、ノリノリなんですが…」

「ですが、…どうしたんですか?」


「自分切っ掛けで始まった事で、今更 言うのはどうか、と思ってはいるんですけど…」

「何ですか? 歯切れ悪いっすよ。 らしくない」

「こんなに干渉しちゃったら、元の時代に帰れなくなるんじゃないか…て」


「え、カンショー? って演劇鑑賞?」

「…他人事に口出しする方の“干渉”だと思うよ」

「そっちです」


「干渉するとどうなるって?」

「えーと、お二人は今いる時代がどういう時代か、判ってますよね?」

「戦国時代の甲斐の国」

「そう、私たちは武田信玄が父親・信虎を隣国、駿河の国に追放し、甲斐国主となったばかりの、1540年代の戦国時代に来ちゃってます」


「え!ちょっと待って!父親を追放した“親方”は晴信さんって人でしょ?…晴信さんて“武田信玄”なの!?」

「え!ちょっと待って!気付いてなかったの!?」

 コクコクと頷く古澤先生。 先生…“親方”じゃないですよ、“御屋形”ですよ。 相撲部屋じゃないんだがら。


「オレは薄々そうかなぁ とは思っていたけどね…武田で足が悪い軍師って言えば、黒田勘、すけ? あれ?」

「黒田と言えば黒田官兵衛。 羽柴秀吉の軍師です。

勘助さんは山本勘助で武田信玄の名軍師。 官兵衛とは時代が若干違います!

鷹羽先生も知ったかぶり しないで下さい」


「す、すみません。てか、中畑先生メッチャ詳しいね。」

「…実は私、歴女で。…引かれちゃうんで隠してたんですけど、特に真田推しです。

知ってますか、この時代“真田幸綱”が近くに居るんですよ! 今は敵同士だけど、その内に…」


 堰を切ったようにしゃべりだす、中畑先生。

「だからこの時代良く知ってて、喋りたくて喋りたくてウズウズしていたんです。

でも、歴史の流れとか、誰と誰が戦うとか、誰が誰に殺されちゃうとか しゃべったりしたら歴史への干渉になっちゃうんでしょ、でしょ?」

「まぁ、そうなりますかねぇ」

 あまり、興味なさげに同意する古澤。


「そして、歴史に干渉したら帰れなくなるんでしょ!」 と頭を抱える。


「…なんでそうなるのかな?」

 あまり、ツッコミたくないけど、しょうがねぇなぁ…と鷹羽。


「だって、本で読みましたもん!干渉したら歴史が変わって、干渉した人は消えてしまうって!」

「それ、なんていう ラノベ?」 二人に無視される古澤先生。


「えーとだな、時間を超えたと思える人の話は、ラノベじゃなくても、色々記録されている。

しかし、現代物理学では、時間は不可逆的で過去へは戻れない、とされている。

…でも、オレ達はこうして過去に飛ばされている…」

 と言葉に詰まる。


「…何が言いたいんです?」

「つまり、起きないとされている事が起きちゃっていて…タイムスリップに巻き込まれたのは確実だけど、

…なぜ起きたか? 時間の揺り戻しは起きるのか? 歴史に干渉したら何が起きるのか?…などなど、なーんにも判っていないって事だ。

そもそも、今いる時代の延長がオレ達のいた時代に繋がっているのかも、判らないんだ」

「あっ、僕それ知ってます。 イジゲン世界 だっけ」

「多次元宇宙な。 異次元世界は今いる世界だ」


「じゃあ、干渉したら消えちゃう可能性も あるんでしょ?」

「まぁそれは…可能性で言えば、あるといえば、あるかな…」


「やっぱ、干渉は危ないじゃん」

 納得する中畑先生。


「えーとだな、これは科学を教えている教師として答えるけど、量子力学の世界では、“不確実性理論”と言うのが証明された。

色々小難しい理論だが、要するにどんなに確実と思われる事も、観測と言う干渉を受けるので、結果は不確実だ。って事」

「…ほらぁやっぱり、消えちゃう可能性が消えないじゃないですか!」

 勢いを増して詰め寄る中畑先生。


「いや、そうじゃなくてね。…何をしても確実なことは何も無い…って事を言いたかったんだ」

 反論しようとする中畑先生を制して


「干渉するな、と言ってもオレ達は勘助さんやこの時代の人達と、係わってしまっている。…これは干渉だ。

厳密に言えば、こっちの世界で呼吸して、飯食って、クソしただけで干渉した事になると思うんだ。

解るか?干渉したから戻れないとも言えないし、干渉しなかったら元の世界に戻れるっていう 保障も無いんだ」


「思い出した。こういうの映画で見た! 自衛隊が戦国時代に行っちゃうヤツ」 と古澤。

「それ、元の世界に帰れるの?」

「うーん、確か、帰れた…と思う。ていうか、こっちとあっちが繋がってる ガリバートンネル見たいなのがあって、自由に行き来できてた様な。

でもって、戦車とかヘリでバンバン戦争して…あれ、でも戦っていたのはドラゴンだったかな?」

「えー!干渉しまくってるじゃないですか。 ファンタジーだしそれ…」


「話がブレまくったけど、干渉と帰れるかどうかは“無関係”だと思う。…それと古澤、“タイムトンネル”な。“ガリバートンネル”は ドラえもん だ」

「流石鷹羽先生。聞き逃しませんねぇ」


「今の所の結論は、オレ達が居るのはまだ終わりそうもない、物騒な戦国時代であり、自分たちだけで生き延びるのは無理そうだ、と言う事だけだ」

 古澤と中畑、渋々という感じで頷く。


「…ならば、雨露凌げるこの場所と、餓死する心配が無い、この状況を維持するのが優先だと思う」

 しゃべりながら考えがまとまり、語気強く。


「干渉しないでひーひーひーひーばあちゃんが殺されたら消えちゃうし、干渉したらしたで消えちゃう可能性もある。

中畑先生、どっちを選んでも消えちゃう可能性があるんだったら、最善と思える事をやった方が悔いは残らない、と思うんだが」

 古澤と中畑、覚悟を決め、頷く。


 その時、外から馬の嘶き(いななき)が聞こえ、玄関辺りがうるさくなった。

 誰かが来た雰囲気である。


「何だろう… 誰か来る予定、入ってましたっけ?」

 ドカドカと廊下を歩いてくる足音に続き、板戸が勢いよく開いた。

 勘助が乱入してくる。


「大輔! 御屋形様がお呼びじゃ!支度せい」


――――――――――――

 燭台が並べられた室内に小奇麗な衣装が広げられている。

 勘助が持ち込んだ物である。

 少し開いた板戸から、有希ちゃんや桜子ちゃんたち、数人の『城西衆』女子部も覗いている。

 どうやら、どれを着ていくか選ばせている様である。


早く(はよう)選べ、大輔」

「…話が見えないんですが、これから板垣屋敷へ行くんですか?」

「そうではない。御屋形様、晴信様じゃ」 

 なにやら興奮している様子。


「晴信様って、武田晴信様ですか?」

「そうじゃ。 他に誰が居る(おる)」

「あれ? 晴信様には城取(しろとり)が成功したら、目通りが許される筈じゃ?」

「それは板垣様の考えじゃ。今回は御屋形様 直々(じきじき)のお呼びじゃ」


「え! 何かバレたのかな…」

「美月、何かやらかしたのか?…それでのお(とが)め? あるとすれば…“巫女行列”が派手過ぎた、とか?」

 焦りだす。


「そんな訳ないですよー。 ところで誰がお呼ばれしてるんですかー♡」 誤魔化す。

「お、おぅ。 (われ)と…導師を連れてまいれとの仰せなれば…」 誤魔化された。

「やった。巫女じゃないんだ…」 (´▽`) ホッ


「まずは大輔と…」 考え込む。

「亮は口が軽いゆえ…置いていこう」


 室内を覗き、話を聞いていた有希ちゃんが

「ハイハイハイ!」 と勢いよく手を挙げる。


女子(おなご)はダメじゃ」

「えー、なんでよう。板垣様の時はOKだったじゃん」

「…御屋形様じゃぞ。いかんいかん」

「その女子(おなご)に助けられたのはどなたでしたっけ?勘助さん」 

 …簡単には諦めない。


「そうではない。 有希は機転が利きすぎるのじゃ」 

「!わーお♡」

 予想外の賛辞に無条件に喜ぶ有希ちゃんであった。


「今回は、御屋形様にそこもとらの事は…その、なんだ…フワッとさせて置きたいのじゃ。

有希が居ると予想が付かぬで受け答えを誤りかねん」


「なら、勘助さんと鷹羽先生お二人で」

 中畑が、いかにも残念という体で、決める。


「うむ、そうなるかの。 ならば大輔、これが装束(しょうぞく)じゃ」

 と広げられた衣装を指す。


「せめて浄衣(じょうえ)を用意したかったのじゃが、この辺りの神主は格衣(かくえ)しか、持っておらなんだ。

それでは有難みが薄いゆえ狩衣(かりぎぬ)小直衣(このうし)を板垣様よりお借り申した。

板垣様は武功一辺倒と思っていた(おもおうておった)が、中々の衣装持ちでの。 はっはっは」

 と目的の衣装を広げだす。


 鷹羽は目を(しばたた)かせながら、勘助を見つつ、古澤に小声で


「あれ何語だ?何言ってんだ?」

「おそらく、ですが…鷹羽先生の服のコーディネートに苦労した?…って事ですかね?…多分」

 非常に、曖昧である。


「ささ大輔、着てみよ」 と小直衣(このうし)を手渡す。

「…着た事ないので…着方が判りません…てか、今着替えるんですか?…てか、オレ御屋形様に会って何しゃべるんですか!」

 と小直衣(このうし)を押し返す。


「大輔は…また、片言で問題なかろう。 唐の導師で押し通すで」

 と小直衣(このうし)を手渡す。


「いやいやいや、勘助さんが呼ばれたって事は、諏訪攻めが関係しているでしょうが。

オレに聞かれても何 口走るか、分かんないですよ。ア!春日、春日連れてった方がいいんじゃないかな」

 と小直衣(このうし)を押し返す。


「…ダメじゃ。有希以上に予想が付かぬわ!お主も『城西衆』の頭目じゃろ。覚悟を決めぬか」

「なら、ならば、です。

少なくとも今回の諏訪攻略の状況位は、頭に入れて置かないと、オレが落ち着きません」

「ふうむ、左様か…承知じゃ。 説明いたそう」


 と、いつの間にか部屋の外に集まっていた生徒達に向かい

「着替えは後じゃ。その時になれば皆呼ぶで、“解散”。

さ、大輔と美月は隣の部屋へ。」


――――――――――――

 場所をいつもの教師部屋に移し、諏訪攻略の状況説明を始める勘助である。

 室内には教師3名と勘助、なぜか春日昌人も。


「なんでお前がいるんだ、昌人」

「だって作戦計画が聞きたいんでしょ?勘助さん、言葉固いから、きっと僕が必要になるよ。

それよか、なんで古澤先生も居るの?呼ばれてなかったよ」


 …良いか二人とも、時間が無いでな。 と勘助が喋りだす。


此度(こたび)の諏訪攻めは途中で目当てが変わったでな。 軍略も合わせて変えたのじゃ。

じゃが、その理由はそこもとらの内緒事(ないしょごと)ゆえ、言い様(いいよう)難儀(なんぎ)した。

事の始めは頼重が居城の上原城をいかに囲むか、であったが…」

「センセー、わかりませーん」 古澤である。


「…また、か。 昌人そちがしゃべれ」

「ほーらね」 (⌒∇⌒) 得意顔~


「今回の諏訪攻めは、達成目標が変わってきているんだ。

最初の達成目標は“()()()、諏訪を落とす”だった。 諏訪頼重のお嫁さんは晴信様の妹さんなので、戦いが長引くと殺されちゃう危険があるからね。

で、計画していた作戦は “強力ゴリゴリ攻め”。板垣チームがこだわってた作戦」

 教師3名、頷きながら拝聴している。


「で、次は 僕たちが ビュンビュン丸を作っちゃった事で、達成目標が追加された。

“素早く、()()() 諏訪を落とす”になったんだ。

理由は諏訪撃破の後の高遠軍や金刺軍への威嚇。

今は味方になっているけど、いつ裏切るかわからない人達らしいんで、ビュンビュン丸をビュンビュン撃ちまくって、圧倒的な軍事力を見せつける。

裏切りの芽を摘む“ハデハデビビらせ作戦”。これは、僕が考えた」

 (⌒∇⌒) 得意顔~


「で、最後が美月先生を守る為に 追加されて進化した達成目標。

“素早く、派手に、()()()()()()()()()、諏訪を落とす”になったんだ。

理由は皆知ってるから言わないけど、諏訪頼重のプライドをへし折って、無血開城させる。

その名も“年末大掃除作戦!”」

 どや!


「なんか、最後だけネーミングルール、変わったね」

「何言ってるの。これ付けたの、古澤先生だよ」

「…まさか。覚えが無いぞ」

「この前の全体集会で勘助さんが“周りを囲んで、ホコリを払う!” ってドヤった時、古澤先生が “大掃除ですか?”ってツッコんだヤツ。メッチャ笑っちゃった。えー覚えてないのー」


 う、うん! と鷹羽が咳払い。

「春日、説明ありがとう。大変わかりやすかった。

…勘助さん、晴信様に会うの、やっぱり春日の方が適任じゃないかな」

「…ダメじゃ。そこもとらの言葉では判りやすかろうが、御屋形様には通じぬわ。

それと、これが肝心な所じゃが、美月を救わんが為 というは、『城西衆』が内緒事(ないしょごと)なれば、一寸(いっすん)たりとも漏らすでないぞ」


「では、ガンバって下さい」

 と無責任に古澤がエールを送る。


「あー気が重い。 で、何時(いつ)に出掛けるんですか?」

「お目通りは巳の刻(みのこく)(午前10時)ゆえ、馬を飛ばせば辰の刻(たつのこく)(午前8時)で良いじゃろ」

「あのぉ、自分、馬 乗った事ないんですが…」

「おーおー、左様であったの…ならば、夜明け前に緩々(ゆるゆる)と参るゆえ、さっさと寝るがよかろう…」

「…それと、先程の服。あれ、着ないとダメですか?」

「大輔が言葉は噓くさいでの、装束(しょうぞく)で威厳を出さねば」

 “あなたには言われたくはない”と、抗議の目を向ける鷹羽。

 その目線に気付いた勘助が


「…あの装束(しょうぞく)が不服なれば、飛び丸のプレゼンで着ておった“墨染作務衣”が良いか?」

「ゴホッ、先程の御衣裳、有難く、着させていただきます」


 【第8話・戦支度(いくさじたく) 完】

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