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第67話・アツタの鷹

お待たせして申し訳なし。

体調を崩し、書けなかった…なんてこちらの事情は置いといて。

スッキリしない展開が続いているが、打破を試みるので、付いて来てオクレ!

戦国奇聞!(せんごくキブン!) 第67話・アツタの鷹


 …禍々しい(さく)の夜が明ける。

 小田井川(現:庄内川)の河原は数刻前の騒乱が嘘の様に 物音ひとつ無い。

 払暁の船頭小屋は朝靄に半ば隠れ、あの世とこの世の狭間を漂う様であった。

 目覚めた者など居ないと思われたが、小屋の屋根の煙り出しからは煙が上がり、神平たちの出立(しゅったつ)が近い事が知れた。

 真田忍芽(さなだしのめ)を失うと言う大きな痛手を受けても、悲しみに暮れている時間は無いのだ。

 己の悪事の証人を消そうと、雪斎党が襲撃を仕掛けて来るかもしれない。

 それに織田家の追手は確実にやって来る筈だ。

 まずは昨夜に取り決め通り、小田井川を(さかのぼ)り 隣国美濃を目指さねば。

 神平としては忍芽の遺骸も連れ帰りたい所であるが、そう言う訳にもいかない。

 せめて(ねんご)ろに弔いを出したいが、朝っぱらから棺桶の用意も難しい…

 と、色々と考えていると 夜明け前から偵察に出ていた十座が音も無く戻り、神平の前に座った。


「急ぎここを離れたが良いぞ。 卯の方角(東)より多くの灯りが向かってくる」

「卯(東)と言えば…那古野(なごや)城の方角か?」

「そうじゃ、織田の城兵じゃ。 吉法師を捜し回っておるが、追っ付ここにたどり着く。

それに途中の村の者が嫌な声を聞いて居っての…」

「嫌な声?」

「武田が吉法師を討ち取ったぁ! と叫ぶ声」

「…雪斎党め、どこまでも念の入った(なす)り付けを。 …確かに嫌な声じゃ。

我等は古渡(ふるわたり)の城を燃やして来たからの…その叫び声、信じるであろうの…」


 神平と十座は力無く頷き合った。

 と、先程から揉めている様な小声が聞こえていた戸口が開き、新六が入って来た。

 こちらも不宜(よろしからず)であろうか。

 神平が声を掛ける。


「何か揉めて居るのか?」

「…船頭が怯えて、舟は出せぬと申しておる。

昨夜の騒動に恐れをなし、古渡に戻ると言うて居る。

しっかり前金を受け取りながら 何という事じゃ!」


 横手から十座が口を挟む。


「舟だけ取り上げてしまえば良かろう? 舟は盗まれたと言い訳すれば、船頭に責めは及ばぬ」


 神平が数舜考え、首を振りつつ答えた。


「小田井川は水浅く、舟が通れる路が狭いそうじゃ。

それに古渡から来た時より人数が増えるゆえ喫水が下がり、一層 路が狭く(せもう)なる。

慣れた船頭でなければ…我等だけで遡るは難儀じゃな。

…ふむ、如何するかの」


 話声を聞きつけた工藤源左衛門(げんざえもん)が新六の横に座り、会議に参加する。


「川を遡るは止しましょう。 小田井川は川幅も狭く、舟の姿が目立ち申す。 見つかったが最後、逃げ場が無く(のう)御座る。

ここは向こう岸に渡るだけとし、美濃路を進み一宮天神の渡しを目差すが良いと心得ます」


 神平が再び数舜考え、源左衛門に問う。


「確かに一宮天神の渡しの先は美濃。 ここからだと 凡そ三里。 急げば今日中に国を越えられるが…

美濃路は平坦にして身を隠す山も無く、追手も いの一番に探索すると思うが、そこは如何に?」

「左様ですなぁ…使い古された手ではありますが、腕と足に覚えのある方に、囮となっていただきましょうか」

「…ふむ、やはり それじゃな。

織田家には事の真相を語っても、こちらの言い分は信じて貰えまい…

嫡男(ちゃくなん)を討たれた所を、逆撫でする様で気が引けるが、翻弄し引っ張りまわすしか城西衆を逃す手は無いな。

…源左衛門、那古野の織田勢に平手殿は居るかの?」

「は? 平手政秀(ひらてまさひで)様ですか?

…吉法師様の傅役(もりやく)と伺って居りますれば、先陣を切って御座ろうかと」

「そうであろうな。 ならば、儂らが目の前を掠めれば?」

「喰いつきますな…」

「猫に木天蓼(またたび) じゃ」

「猫に鰹節(かつぶし) やも、しれませぬが…」 (※1)

「ふ。 どちらにしても筋は決まった。

儂と…滅多な事では死なぬ者が囮となろう。

では新六殿、船頭には望みの通りに行く先を変えると伝えよ。…逃がすなよ」


 小屋の奥から彦十郎たちも、遅ればせながら話を聞きにやって来た。

 神平が彼らに向かい


「彦十郎殿、いきなりだが 隊を分ける。

儂と源三郎殿、それと 十座に縫殿右衛門尉ぬいえもんのじょうはここに残り、織田の兵を引き受ける。

貴公(きこう)は残りの者を束ね 小田井川を渡り、美濃路を駆け 一宮天神から木曾川を渡るのじゃ。

それと、これは是非ともの願いじゃが…忍芽様を寺に…身分は明かせぬが懇ろに弔う様、寺に頼んで呉れ」


 彦十郎が、そしてその横で千代が大きく頷いた。

 周りの者が皆、喪に服す様に瞑目し出したが、通夜を始める訳には行かない。

 神平が改めて声を張った。


「十座の知らせでは織田の兵が迫って居るそうじゃ。

我等がここで討たれては、忍芽様が犬死となる。

各々、気を引き締めて 動け!」


 ※1:大好物の例えで同じ意味と思われがちだが、木天蓼(またたび)は恍惚な腑抜け状態であるのに対し、鰹節は咥えて持って行かれるから油断できない状態の例えであり、随分と違う。


―――――――――

 ここは押切館に近い小田井川、すっかり日が登った河川敷、船頭小屋の前である。

 神平は、源三郎、十座、縫殿右衛門尉と共に待っていた。

 織田勢が生死不明の吉法師を捜し、ここ 小田井川の河川敷にたどり着くのを。

 忍芽の弔いに出れぬのは心が痛むが、そこは千代や彦十郎に託し、自分たちは見事に囮を演じねばならぬ。

 草薙紗綾(くさなぎさや)たちは早々に向こう岸に渡した。

 織田を惹きつけ、囲まれても死なぬ様 策も用意した。

 川上の美濃で雨が降り出したのであろうか、急に小田井川の水が増したのが気になる所ではあるが、一応 計画通りである。

 そして…大勢の気配が土手の向こうにやって来た時、隣の源三郎がボソリと呟いた。


「彦十郎殿は路銀が足りるかのう…」


 このタイミングで? と思いながら神平が律儀に答える。


「事が穏便に済んだ暁に、信秀様にお渡しするつもりの貢ぎ物を用意して居ったじゃろ?

あれを持たせて居る拠って、切り売りしながら何とかするじゃろ」

「貢ぎ物…全部 持たせたのか?」

「…そうじゃ。足りぬかの?」

「否、我等の路銀は 如何しようかの…」

「…忘れて居った」


 土手の上にワラワラと織田兵が上がって来た。

 皆、早朝からの捜索でテンションが上がっているのか、幼い城主の遺骸を見つけ憤っているのか 判別が付かないが、殺気立っている事は確かである。

 河原に所在なさげに佇むオッサンズを見つけ、明らかな敵意が向けられる。

 数人の兵士が足早にやって来るのを見るともなしに伺っていた神平が、突然 胸を張り 大音声で呼ばわった。


「そこな方々に物申す! 平手政秀様は御出(おいで)であるか? 居られれば、お渡しせねばならぬ物が御座る!

先ずはここにお出ましあれ!!」


 神平たちに向かっていた一般兵士は、いきなり幹部を名指しされ、足が止まった。

 誰だか判らないが、向こうはこっちを知っている風である。

 汚れた格好をしているが、堂々と強そうだし…偉そうである。

 鎧袖一触(がいしゅういっしょく)切り付ける勢いで進んでいた兵士は立ち止まり、周りの兵士と相談を始める。

 ここは粋がって突進せず、政秀様を呼びに行った方が良いのではないか…

 ハッキリ言って神平のブラフ、ハッタリである。 が、この手は現代でも往々にして使われる。

 神平の計算通り、織田兵は遠巻きに囲み、平手を呼びに行った。


 暫し後、馬に乗った平手が土手を駆け上がって来た。

 遠目にも赤ら顔で鬢が逆立っているのが判る。

 正に “怒髪衝天(どはつてんをつく)” である。

 馬上から神平の顔を認めると、更に髪が逆立ち、咆哮した。 (あんた、ゴジラか)


「そこに居るは、武田の鷹使いじゃな!

己らは若に何をした! (はりつけ)にして呉れるに拠って、そこに直れ!」


 平手の姿を認めた神平は懐から書状を取り出すと平手に示した。

 表には 『見舞状』 と書かれている。

 見舞と言いってはいるが、事の次第を書き連ねた書状である。

 このまま吉法師暗殺が武田の所業とされる事に、忸怩たる思いのあった神平が 急ぎ用意した物であった。

 その書状をポイと織田勢の方に放り、平手に負けぬ音声(おんじょう)で叫んだ。


「吉法師様はお気の毒な事である! 心より見舞申し上げる!

弾正忠(だんじょうのじょう)家の方々には老婆心ながら、御注進申し上げる事、これあり。

書状に(しる)したゆえ、御覧(ごろう)じるが宜しかろう。

我等はこれより帰路に付くが、見送り無用で御座る!

さらば!!」


 さらば!! と同時に源三郎と十座が、煙玉を織田勢に向け投げた。

 “お気の毒な事” とはどういう事か? 問い詰めようと土手から駆け降りようとする平手の前に白煙が立ち上った。

 驚いた馬が棒立ちとなり危うく落馬しそうになる平手。

 脇を駆け降りる徒士も煙に巻かれたが、多くの兵は濃い煙の中でも駆け降りる勢いを止められず、雄たけびを上げ 河原に殺到した。

 が、目指す獲物に出会わぬまま、川に転がり落ちた。

 煙幕の中で何とか踏み止まり神平たちを捜す平手の耳に、川の中から自分を呼ぶ声が届く。

 川風に薄れて来た煙の向こうで、ゆっくと手を振る神平が見えた。

 目を凝らすと一艘の小舟が川下に向かい、速度を上げていく様であった。


「くっ、しまった! こちらも舟で追え! 儂は川沿いを駆けるゆえ付いて参れ! 逃すな!!」


―――――――――

 前日の夜、遡る時は急流を綱で引いて上がった小田井川であったが、増水した今はさながら 渓流下りのアクティビティである。

 迫りくる織田の兵からは逃れたが、舟の目の前を塞ぐ数々の巨岩が迫る!

 そこを紙一重で擦り抜け、神平たちは一刻程で古渡まで来ていた。

 このまま熱田(あつた)港まで下がり、一気に東海道に出る手もあったが、神平にはもう一つ 気掛かり事があったのだ。

 名鷹鶚丸(みさごまる)である。

 古渡城脱出では時間が無く、連れて逃げる事が出来なかったのだが、置き土産にして行くには心が残り過ぎる。

 しかし、ここは数日前の火事騒ぎ(神平脱走)から厳戒態勢にあり、那古野の非常事態が伝わっていれば、見附門は全て閉じられ、入るのも出るのも通常技では不可能な状況である。

 そんな ミッションインポッシブル な状況で、鶚丸を救出できるのか!?

 船着き場には見張りの兵が(たむろ)し、殺気立った目を四方に向けている。

 どの様にして上陸し、城下町を抜け 古渡城に潜入するのか?

 ここから始まる神平たちと織田兵の 虚々実々の駆け引き! 錯綜する情報と手に汗握る、時間との闘い! 思わぬ落とし穴と、切り抜ける咄嗟の機転!

 …等々は映像化の時のお愉しみとして ここは神平の鮮やかな作戦と、その成果を報告するに留めよう。

(映像なら3分の所、文字だと最低1話は使うであろうし…やった所で、誰も付いて来て呉れなそうだし…)


 では改めて、奪取ターゲット “鶚丸” の簡単な紹介である。

 名前:鶚丸(みさごまる)

 特徴:猟犬並みの知性を持つ、見目麗しい鷹

 特技:通常音域の鷹笛に加え、人には聞こえない高周波の鷹笛でも調教された数々の技を持つ

 Wiki:鶚丸は根津・諏訪流鷹術(ほうようじゅつ)の伝説である『みさご腹の鷹』に因んだ、宗家の一推しに受け継がれる名

 現状:古渡城 袖曲輪(そでくるわ)の一角に作られた鷹小屋に監禁され、常時お世話係に監視されている


 次に神平の行動を追ってみよう。

 古渡城下に潜入した神平らは、(から)め手(裏門)に近い小藪に潜んだ。

 そして懐から小さな笛を取り出した。 お馴染みの鷹笛である。

 横でそれを目にした十座は力いっぱい、耳を塞いでいる。  (※2)

 神平は大きく息を吸い、鷹笛を咥え、力一杯 長―く 吹いた。 ←①

 四半刻(約30分)経った頃、今度は短く3回、鷹笛を吹いた。 ←②

 隣でウトウトしていた十座が飛び起きたが、神平は気にはしなかった。

 心の内で300程数えた後、長く1回、短く2回 鷹笛を吹いた。 ←③

 先ほど、虚を突かれた十座は用心深く、ずっと耳を押さえていたため、耳が真っ赤になっていた。

 すると…何という事でしょう!

 “キィヤァ〜” という声と共に上空から影が舞い降り、神平の左腕に止まったのである。

 ご存じ “鶚丸” だ!

 何が起こるか聞いていなかった縫殿右衛門尉と犬たちは 腰を抜かしていたが、見事 救出成功である!!


 もう ここに用は無い、一刻も早く尾張を離れるべく…て、あれ 読者諸氏の ジト目が痛い。

 ですよねぇ…承知。 鶚丸に何が有ったか、振り返ってみよう。


 ここからは鶚丸目線である。

 神平たちに取り残された日から出てくる餌は、特別な練り餌となっていたので、エマージェンシーモードとなった事を理解していた鶚丸であったが、周りの馬鹿な人間に警戒感を抱かせない様 平常な行動を心掛けていた。

 準備が出来ている所に指示が来た。 →①

 ①は “暴れろ” の指示である。

   鷹小屋の中で普段出さない声を出し、盛大に羽ばたき、大騒ぎしてやる。

   途端に人間がやって来て、小屋の前で中を覗き込んで来る。

   なので、より盛大に声を出し、飛び跳ね、大騒ぎしてやる。

   随分と人が集まった頃 次の指示が来た →②

 ②は “枝から落ちろ” の指示である。

   鷹としては屈辱的な行動ではあるが、これが出来るのは神平様の鷹たちの中でも精鋭の者だけだ。

   鍛えぬいた技を披露し、小屋の中で地面に(うずくま)って見せてやった。

   すると小屋の前で人間たちが大騒ぎを起こした。

   そして慌てた様子で小屋の戸を開け、恐る恐る寄って来た…所に次の指示だ →③

 ③は “飛び立て” の指示である。

   蹲っていた姿勢から大きく羽ばたき、のけ反り腰を抜かした人間どもの頭を蹴り、開け放たれた戸から外に飛び出した。

   一気に空高く舞い上がり一周すると、当たりを付けていた方角に神平様が見えた!

   神平様も我の姿を見てくれたのであろう、すっと腕を伸ばし “来い” と言って居る!!

   踊る心を抑えつつ、一直線に舞い降りよう!!!


 今度こそ、ここに用は無い、一刻も早く尾張を離れるべく 熱田宮宿に向かう神平たちである。


 ※2:孫悟空には緊箍経(きんこきょう)、十座には鷹笛。 共に無双者のアキレス腱である。 詳細は第62話参照


―――――――――

 さてここで唐突ではあるが、雪斎党の様子を窺ってみたいと思う。

 大ダメージを負わされた悪役共(ヴィランズ)等、見たくも無いわ…と言う方も多かろうが、敵を知り己を知るのが次の勝利への第一歩である。


 多少シナリオと違う展開ではあったが、『青田刈り作戦』を成功させた雪斎党は、迅速に攪乱操作を仕掛けていた。

 武田の連中が逃げたと思われる方角、小田井川に続く道沿いに “吉法師を討ち取った” と触れ回り、(ついで)に吉法師の遺骸を小田井川の少し上流に捨てて来た。

 犯人は武田の者と思わせる為と、自分たちが撤退する時間を稼ぐ為の一手間、伊賀者の仕事である。

 亡骸が発見されるまでは、もう少し時間が掛かるであろうし、織田の捜索は川沿いに流れるであろう。

 そして那古野方面から織田勢が駆け付ける前に、雪斎党本隊は押切館からも小田井川からも1里程離れた大きな農家に撤収を完了させていた。

 ここ那古野城周辺は今川のシンパも多く、一時的に身を潜める場所には 事欠かない土地でもあり、八幡部隊の様な苦労は少ないのであった。

 母屋の囲炉裏端には一段落した香山教頭と藤林保豊(ふじばやしやすとよ)、そして世碌・護碌(よろく・ごろく)が、座り込み茶を啜っていた。

 流石に夜を徹した作戦に疲れの色を見せる香山であるが、世碌と若干揉めている様でもあった。


「導師、約束は約束じゃ。 見事 吉法師を討ち取ったのじゃから、我が一党に全額寄こすが筋であろう」

「だから、払わぬとは 言って居らぬ。 駿河に戻った折に耳を揃えて渡す、と 申しておろうに」

「駿河に戻る? 聞いて居らんぞ。

我等は知っての通り、伊賀の者ぞ。 伊賀の里はここ尾張とは目と鼻の先じゃ。 なんで態々(わざわざ)駿河に戻らねばならぬ。

一仕事終えたのじゃ、里に帰らしてもらう。

保豊様、我等が駿河まで同道する理由など有りましょうや?」


 世碌に詰め寄られ、藤林が曖昧に頷いた。

 その様子を見た香山が藤林に問う。


「おい、お主 契約条件を、伝えて居らぬのか?

何事も戻るまでが一括り。 “帰ってくるまでが遠足” が常識であろう。

証文では手付で半分、駿河に戻ってから残りを支払うとなって居る」

「あぁ…その様な事は下の者共は知らぬで良い事ゆえ…

したが世碌が申す事も (もっと)も。

徒党を組んで東海道を戻るは、折角 武田の所業と思わせる様逸らした耳目を、我等に集める事と成り申そう。

ここは一旦 組を解き、伊賀へ向かうが良い手やも知れんと思いますがの…」

「…組を解くのは良いが、儂はどうするのだ? 伊賀などへは行かんぞ。

藤林、当然 お主が儂を駿河に送り届けるのであろうな?」

「否…(それがし)も、そろそろ里に戻る頃合いと。

そうじゃ、世碌、護碌。 其方等(そなたら)が導師殿をお送りし、残金を頂戴して参れ。

これは命令じゃ!」


 世碌、護碌が明白(あからさま)に顔を(しか)めた。

 が、表立って逆らえないのが忍びの掟である。

 苦虫を嚙み潰したよう表情で会話が終了した所を見ると、『青田刈り作戦』実行部隊は ここ尾張で解体され、大半は伊賀へ里帰り。

 香山教頭と双子の忍者が駿河へ帰途に就くと決した様である。

 こんな、金銭だけの付き合いの連中にしてやられたと思うと、忸怩たる物を感じるが 臥薪嘗胆(がしんしょうたん)、今に見て居れ、 である。 


 さて…尾張からの脱出を図る一行の残りは、原彦十郎をリーダーとした八幡部隊の面々である。

 彼らを追ってみたい所であるが、今回の紙面はここ迄である。

 無事 木曽川を渡り、美濃へ逃れたか 次回を待て。


 第67話・アツタの鷹 完

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