第66話・逃避行
雪斎党の鉄砲、それも十字砲火の洗礼を浴びた真田忍芽と吉法師。
その運命は…奇跡を信じ 本文へ
戦国奇聞! 第66話・逃避行
ここは小田井川(現:庄内川)の船着き場である。
そして何処を見ているか判らない目線で佇んでいるのは亮按こと、古澤亮であった。
夜もかなり更けてから辿り着いたのだが、古澤はここが何処だか 今一判っていなかった。
と、云うよりも 古渡城に入った辺りからは、何が起こっているのか、何処へ向かっているのか、理解する前に場面が変わっていく…
まるで字幕の無い洋画を見ている感覚なのであった。
思い返せば…甲斐を出た時は駿河で草薙紗綾を受取るのが目的であった。
随分と昔の事に感じられる…
それで和菓子配って、川遡って、忍者に追われて、温泉入って…
取り敢えず帰国かなぁって思って居たら 紗綾ちゃんを助けるついでに 信長も助けるぞ! となった訳だ。
で、延々とグレードジャーニーで熱田神宮まで来たんだった…
そうしたら “信長は見当たらないけど、その内信長名乗るから信秀を守れ…” って、なんなん?
そんな馬鹿な! と思ったけど、周りも “禰津政直で御座る。神平と呼んで下され” とか言って 通名だか別名だか持つのがこっちじゃ普通みたいだから、そんなもんかなって納得していたんだよ。
そこまでなら、いいさ。 それが…信長は実は吉法師でしたって、何だよ。
織田信長って歴史に興味が無い僕だって知ってる名前だよ。
ゲーマーだった大学の友達が “戦国最凶の武将・信長” って言ってた位、ビックネームでしょ?
…それが子供でしたって反則でしょ!
で、ドタバタと逃げて隠れて 辿り着いたのが 小田井川の船着き場なのだ。
ゆえに古澤亮は “ここ何処?” と魂の抜けた状態なのだ。
そんな古澤は 達川に体を揺さぶられ、魂が戻るのであった。
「ワッ! びっくりした…って、一輝か?なんで居るんだ?」
「先生、何ボーっとしてんの。 紗綾ちゃんだよ、やっと取り返したんだ!」
見ると達川の背後に隠れる様に立つ巫女が見えた。
状況をじんわりと、突然 明確に理解した古澤が
「おお!草薙紗綾…ちゃんか!?」
と、声と共に抱きしめようと近づく所を 千代が制す。
「亮按先生、直ぐに忍芽様や吉法師様もお見えになります。早う あちらの小屋でお出迎えの用意を!」
古澤と達川たちを追い立てる様に、川辺の船頭小屋に向かう千代であった。
と、その時 闇夜に轟音が響いた。
動きを止め、振り返る千代と紗綾。
古澤と達川も音の方向を見るが、何かを思い出し 顔を顰め合った。
二人の様子に気付いた千代が問いかける。
「今のは何で御座りますか?雷とも聞こえましたが、稲光は見えませなんだ…」
千代の問いには答えず達川が確認する様に古澤に訊ねた。
「今のは、鉄砲の音?」
「そうだと思う…一発や二発じゃないな。 イヤな予感がする…取り敢えず、火を起こそう」
古澤と達川は船頭小屋に駆け出した。
―――――――――
船頭小屋の囲炉裏に火を起こし、照明用の灯りと洗浄用の湯を用意している古澤の元に駆け込んで来たのは、何かを背負った望月源三郎であった。
直ぐ後ろからは追手に警戒しながら、禰津神平と坂井忠も駆け入る。
囲炉裏端に下ろされたのは 真田忍芽であった。
古澤が忍芽に呼び掛けるが、反応は無い。
呼吸も浅く血の気は失せ、右肩と左脇腹辺りの装束が裂け、血で染まっている。 これが銃創と言う物であろうか。
イヤな予感が当たってしまった…
差し当たり用意はしていたが、あるのは毒消し薬と消毒用アルコールが精々で、やれる事は限られている。
ここには現代の日本の様な 『救命キット』 などありはしないし、輸血輸液なども望むべくもない。
傷を洗い縫合するのが最大限の治療であった。
神平が古澤に顔を寄せ、訊ねる。
「加減はどうじゃ?…これは、何でやられた傷じゃ?
…これが 鉄砲 なのか?」
古澤だけではなく、神平も思い出していたのだ。
駿河・梅ヶ島に増援部隊が来た時に、鷹羽から預かっていた手紙の事を。
そこには雪斎党は鉄砲を持っていると思われるので、注意しろと書かれていたのだ。
鉄砲がどんな物か知らない神平たちは仕方ないとしても、知っている自分たちは…と、唇を噛む古澤であった。
そうだそうだ、古澤や坂井は何をやっていたのだ、この無能者!
と、思ったそこの読者…それは無理な注文と言う物だ。 (いや、思っていないでしょ)
古澤や坂井は世界有数の治安の良さを誇る、平和国家 日本 で生まれ育ったのである。
銃器が厳しく規制されている現代日本に於いて、銃への対策に思いを馳せる者がどの程度いるであろうか?
例えば街中で破裂音を聞いた時の行動である。
安倍元首相襲撃時の周囲の行動、あれを思い返していただくと判り易い。
大抵の日本人は漫然と周りを見る程度であろう。
これが銃器に 発砲に慣れている国の人間であれば、即座に身を低くし、その上で何が起きたか探るのである。
つまり現代の日本で銃への対処が出来るのは、自衛官や警察関係者などの限られた職業の人間か、春日昌人の様な偏ったミリオタ位なのである。
ましてや今回の相手は火縄銃だ、自衛官であっても大抵は守備範囲外であろう。
一般的な中学生と体育教師に注意喚起された所で、どうせよと言うのか。
ビクビクする位しか対処法は無かったと思われる。
なので読者諸氏に於いては、彼らを責めないで貰いたい。 (だから責めていないでしょ)
暫くすると工藤源左衛門と禰津里美が辿り着いた。
誰のものか判らぬ血を浴び、二人とも赤黒い顔である。
彼らは忍芽たちに雪斎党を近づけない様 煙玉で攪乱したのだが、左右からの十字砲火に打つ手は無かった。
目論み通りに行くはずが、上手の手から水が漏る結果となり、怒りと悔しさを滲ませている。
里美は囲炉裏端の忍芽を見つけると駆け寄り、傍らの古澤に状態を訊ねる目をした。
古澤が目を伏せると無言で頷き 神平の許へ戻った。
源左衛門は神平の正面に座ると、怒りを抑えた声で神平に詫びた。
「我の力及ばず、忍芽様があの様な有様…面目次第も無き事に…」
神平は静かな声で応える。
「源左衛門殿、御手前の働きに落ち度は無い。
我等こそ、あと一歩早く来れて居ったら…
詫びるのはこちらの方である。
して、吉法師様はご無事か?」
源左衛門が無言で首を振った。
神平は眉間に皺を寄せたが、息を整え 表情を戻し訊ねた。
「…吉法師様もか。 …どこをやられたのじゃ?」
「暗く御座ったゆえ、仔細は判りませぬが、駆け付けた時は既に事切れておいででした」
「…遺骸は如何した? お連れしたのであろうな?」
この問いにも源左衛門は首を振り
「否、押切館の門前に そのままに…」
「なんと…」
「我等が逃げ果せる為に御座る。
吉法師様を討ち取るが雪斎党の本懐。 吉法師様が見当たらねば、我等が追い立てられまする」
何か言いたげな表情を見せた神平に源左衛門が言葉を被せた。
「紗綾殿を連れ帰るが我等の本来の目的。
事、ここに至っては、追っ手の数を増やすは得策にあらずと思い…吉法師様の骸は目立つよう置き去りといたしました」
「左様じゃな…彼奴等が吉法師様を認めれば、我らを追う意味も薄れよう…逃げ易くなり申そう」
源左衛門の隣で聞いてた里美が顔を上げ、兄 神平に訊ねた。
「逃げるって…雪斎党はもう追ってこないでありましょ?」
「雪斎党では無い…織田家じゃ…」
神平の言葉を継いで 源左衛門が見通しを話し出した。
「此度の雪斎党の企み、彼奴等が思うが通りとなったのじゃ。
思い返してみよ。
我等は古渡城に乗り込み、織田信秀様に警護が集まる様に働きかけた。
そして狙いが吉法師様と判りし時は遅きに逸し、古渡を脱した我等が期せずして囮となり、兵を街道に集めさせる結果となった。
那古野では吉法師様警護の者共を脅かし追い返し、雷鳴を轟かし、まんまと吉法師様を殺めた。
左様に見えるであろう?
一事が万事、北畠の密書が言う通りと成ってしもうた。
…武田が諏訪で雷玉なる武器を使い、小笠原を打ち破った話しは こちらにも伝わって居ろう。
どこを切っても、武田が手を下したとしか 見えぬではないか」
源左衛門の説明に神平が
「そういう事じゃ。…里美、向こうで千代様を手伝え」
席を立ち 居なくなった里美の場所を見つめ、独り言の様に言葉を続ける。
神平は顔には出さないが、内心 かなり動揺していた。
御屋形、武田晴信の指令で失策を犯したのである。
またそれ以上に盟友であり、一族の長となる真田幸綱の妻女が傷を負い、意識不明なのである。
「こうならぬ様、織田家も巻き込み 雪斎党を迎え撃つ算段の筈が、読み違えであった。
吉法師様のみならず、忍芽様までも…此度は負け戦じゃ。
御屋形様や幸綱様に…詫びようも無い仕儀じゃ」
「然に非ず!」
入口辺りから大きくは無いが、明瞭な否定の声が入った。
戻って来た八幡部隊のサブリーダー、原彦十郎である。
「我等の第一は 草薙紗綾殿の救出。
それは見事、やり仰せて御座る。
織田を守るは第二の命。
それも、国許からの命令は織田信秀様の警護で御座った。
我等は命ぜられた事は遺漏なく、成し遂げ申した。
吉法師様は残念ではありましたが、お子を守るは 本来、織田家が領分。
我等は周囲に気を付け召さる様、忠告したのですから、責められるは筋違いでありましょう。
それに、戦はあれもこれもと 欲をかいては 勝てる物も勝てなくなる…と、父 虎胤も申しておりました。
神平様、隊長が気弱になっては いけませぬ。
まだ先が御座るゆえ、胸張って参りましょうぞ」
と、囲炉裏の奥で隠れる様に座っている 真っ赤な巫女に目をやり、明るい声を上げた。
「そちらに御座すが紗綾殿で御座るか?
我は原康景、彦十郎と呼んでくだされ」
突然呼ばれた紗綾は驚きながらも頭を下げ、弱々しいがハッキリとした声で挨拶した。
「この度は私の為に、皆さん大変なご苦労をして下さり、感謝いたします」
「なんのなんの…ご苦労されたは紗綾殿じゃ。 もう心配はいりませんぞ」
彦十郎は頷きながら 紗綾の側で甲斐甲斐しく世話をしている達川に向けて声を掛けた。
「一輝! お主の目は確かじゃな。 惚れるのも当然の、善きおなごぶりじゃ!」
今度は突然の巻き込まれにアタフタする達川の姿に、重い空気が少し軽くなった。
雰囲気が変ったを見計らい、源左衛門が奥の紗綾に声を掛けた。
「紗綾殿に訊ねたき事があったのじゃが、良いかの?」
紗綾が怯えた様な表情をしながらも頷いたの確認し、源左衛門が言葉を継いだ。
「なぜ雪斎党は吉法師様を狙ったのか…それが一向に判らぬ。
我らは神平様の文で吉法師様を守れと言われ…悔しくも守れ切れなんだが、そもそも命狙われた理由が判らぬ。
雪斎党の内を見ておるやもしれぬ 紗綾殿ゆえ、伺い申す。
知っておれば教えて貰えぬか?
今更知った所で 何になるかも判らぬが このままでは寝覚めが悪い」
源左衛門は以前も草薙紗綾の救出意図に疑問を呈した事があった様に、シニカルな面がある。
紗綾への質問に続き、目線を目の前の神平に移し
「神平様はご存じですかな? 吉法師様が狙われた理由を」
振られた神平は答えようとしたが、思い返すと 確たる理由が出てこない。
古澤の ”信長” なる名前に端を発し、吉法師が真の狙いだ! で、勢いに押され現在に至った。
言い出しっぺの亮按先生を問い詰めようかと目線を動かしたが、先生は忍芽様の治療中で手が離せなそうだ。
改めて囲炉裏の奥で一塊になっている坂井たちに顔を向け、言葉を選ぶようにゆっくりと問いかけた。
「忠継、亮按先生は手を離せぬゆえ、其方に聞く。
城西衆は吉法師様が元服で名乗る筈の名が “信長” である事を どうして知っておったのじゃ?
雪斎党は其方たちと同じ国の者と聞いておる…何故それを知り、何故討たねばならぬと思ったのじゃ?」
いままで横を通り過ぎていた質問のパスがいきなり胸元に突き刺さり、坂井は思わず咽た。
おじいちゃん子で一緒に時代劇をよく見ていた坂井であったが “信長=吉法師” と結びついてはいなかった。
言われてみれば、あぁそうか…程度である。
それを…どう説明すれば良いのであろうか。
ここ迄来て今更 “俺達 未来人なんですぅ。だからですぅ” は通らないだろうな…と、追い詰められる坂井。
救いを求め、達川と紗綾を見ると コソコソと揉めている。
聞き耳を立てると
「え?教頭が狙ってたの、信長じゃないの?」
「え?吉法師って誰?」
ダメだ…こいつ等も判っていない…歴史興味ないんだ。 これじゃこっちの時代の人間と同じようなもんだ。
坂井は揉めてる二人に躙り寄り、小声で解説する。
「吉法師って言うのは、信長の小さい時の名前だよ」
「…じゃ、さっき殺されたのが吉法師って事は…えぇ!信長暗殺じゃん!」
「…そうだよ。 おせぇよ、気付けよ。
…で、信長が今川に狙われた理由、どう説明したらいいんだ?」
改めて顔を見合わせる3人。
達川は目を合わせない…自分はシリマセーンの態度である。
紗綾は坂井の目を見つめ質問して来た。
「忠君、そっちではこういう…微妙と言うかナーバスな話しは どう処理してるの?」
「え?…美月先生は何でもかんでも “お告げ” で通してた、かな?」
「その手だ!」
紗綾はすっくと立ち上がると神平に向かい堂々と話し出す。
「お告げです! きっぽーし が 信長に成ると、お告げが出たのです!」
深紅の巫女装束の美少女が言うと、其れなりに説得力のあるセリフでは、ある。
巫女・美月の奇行で耐性の出来ていた神平は鷹揚に頷いたが、現実的な源左衛門は片眉を上げツッコミを入れた。
「そのお告げは紗綾殿が出されたので? 城西衆の巫女様と同じ お告げが出たと?」
占い師の説得力と言うのは、こういう所が重要である。
美月であれば “そうだ!” と気迫で言い切った所であろう が、紗綾はそこまでのキャリアが出来ていなかった。
口ごもり目が泳ぐ。
と、隣に達川がすっくと立ち上がった。
惚れた女の子の窮地に、さっきは逃げていた達川が助けに入ったのだ。
「“冒険の書” と呼ばれる本があるのです! オレ達の国では皆 これを持って旅に出るのです!」
安直…メーカーどこだよ、そのRPG。
達川の足元で頭を抱える坂井のシルエットが見えた。
源左衛門が笑みを浮かべ、今度は達川にツッコミを入れようとしている所に小屋の戸が開き、影の様に佐野縫殿右衛門尉と海野十座が戻って来た。
雪斎党の追撃を受けぬ様、猟犬たちと川への道を塞いでいたのだが、気配が消えたので撤収して来たのだ。
彼らが八幡部隊の最後である。
急いだ様子で十座が神平の前に進み報告する。
「吉法師の骸を見つけた様じゃ…雪斎党の気配は消えた。
奴等は追っては来ぬが、じゃ…
あの大層な音で街道沿いの村が何事かと、様子を見に来ておった。
遠からず那古野城やら志賀城辺りから、織田の兵が物見に来るじゃろうし、村の者が雪斎党が叫ぶ “吉法師を見つけた” の声に腰を抜かして居ったで、ここにも探索が来よるぞ」
十座の状況報告で小屋の空気が変り、源左衛門のツッコミは霧散した。
今は過去の事よりこれからの事である。
八幡部隊のサブリーダー彦十郎が懐の絵図を広げつつ 神平の前に座り
「こちらも逃げ道は考えて居った。…舟で熱田港に戻り、東海道に向かう手筈じゃ」
彦十郎の言葉に工藤籐七郎が答える。
「それは難儀じやぞ。 我等は顔が割れて居るし、信秀様の軍は抜け目が無い。
東海道に向かうは監視が厳しいぞ」
神平が二人のやり取りに被せる様に
「今は忍芽様は動かせぬ…
暫くはこの近くに身を隠し、余熱が冷めるのを待つ。
新六殿と源三郎殿は隠れ家となる家を捜して呉れ。
彦十郎殿と籐七郎殿は織田の目を晦ます囮となり、川の上下を駆けていただく。
十座と縫殿右衛門尉はここの見張りじゃ。
千代殿と里美は日が明けてから、薬草集めじゃ。
良いか、ここは辛い所であるが、一人も欠ける事無く 乗り切るのじゃ!
亮按殿が傷を塞げば、忠継の時と同様に梅ヶ島に戻り 養生して…」
神平が最適と思える計画を語っている横に、力無く古澤が近づいて来た。
皆の視線を追う様に神平が古澤を見る。
古澤は生気のない顔で絞り出す様に
「忍芽様は…息を…引き取られました」
部屋の奥から千代と里美の嗚咽が響いた。
腰を浮かし掛けた神平が 力無くへたり込んだ。
忍芽が死んだ…
八幡部隊の者は体も心も動くのを拒否する位、大きな喪失感で動けなくなった。
その場に居た者全て、思考が止まり、無限とも思える時が過ぎた。
パチンと薪が爆ぜる音に、呪縛が解けた様に 神平がノロノロと居住まいを正した。
そして自分自身に言い聞かせる様に
「これ以上の犠牲は出さぬ。
一人も欠ける事無く、紗綾殿を国に連れ帰るのじゃ!
ここで織田方に囚われては…忍芽様は犬死じゃ。
この無念はいずれ晴らす!
あれこれ詮議している刻が無い。
皆、気持ちを引き締めよ。指図は一度きりじゃ、よっく聴け。
まずは舟を使うが、向かうは上じゃ。
我らの半分は古渡で顔の割れて居る。
なれば小田井川を上り、美濃に入る。
織田は美濃までは追ってはこれぬ、中山道を使い木曽を抜け、諏訪に逃れる。
東海道より険しい山道なれど、織田と雪斎党の手を避け、紗綾殿を連れ帰るにはこの道を選ぶ。
夜明けと共に動くぞ。 用意いたせ!」
神平の指令が静かに消えていく。
大きな犠牲を無駄にしない様、それぞれが言葉を腹に沈めようと固く口を結び、心に言い聞かせているのだ。
甲斐へ帰る夜明けは近い。
第66話・逃避行 完




