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第64話・飛んで火に入る押切館

ここ数話 当たり前の様に “(さく)の日” などと言っていたが、意味は伝わっていたであろうか?

前書きで書く話しでは無いが、この機会にザックリご説明しよう。

まず この時代の(こよみ)は陰暦、つまり月の満ち欠けを基準にした暦である。

より詳しく述べれば、陰暦をベースにしながら季節のずれを調整する、太陰太陽暦となるのだが…何れにしても一日(ついたち)は新しい月=新月(しんげつ)なので、どんな晴れた夜でも月は見えない。

因みに煌々とした満月の事は “(ぼう)” と呼ぶ。

なので真田の親戚、望月氏は満月さん と言う事だ。

そんな訳で(さく)の夜は、月の無い真っ暗闇なのである。

闇に紛れてのあんな事こんな事が行われる日であり、雪斎党の一大プロジェクト『青田刈り作戦』の終局の日である。

対する八幡部隊は付け焼き刃の作戦で間に合うであろうか?

興味のある方は…本文へ!

戦国奇聞!(せんごくキブン!) 第64話・飛んで火に入る押切館


【神平組:古渡城】

 晦日(みそか)(月末)の夜更け、動くものも無い古渡(ふるわたり)城である。

 幽閉状態の禰津神平(ねずしんぺい)たちが動いた。

 十座と神平が出入口を監視する兵二人を絞め技で落とし、出口に向かう。

 彼等は忍びの術に長けた者だ。 監視を破るなど、その気になれば いとも簡単なのである。

 それに数日とは言え、城内で暮らしたので方角は判る。

 途中で廊下の蝋燭に油を掛け、火の手を起こした。

 城内に騒動を創出し、混乱に乗じ逃げやすくする為だ。

 館を抜け出し、曲輪を駆け抜け、最後の櫓門が見えた頃になって、城内から大騒ぎの声が聞こえ始めて来た。

 櫓の上の見張りも声に気付き、そちらに気を取られた。

 ここでも櫓を素早くよじ登り、背後から近づいた十座が一瞬の絞め技。

 頸動脈を押さえ騒ぐ暇も与えず気絶させる。

 櫓の下では神平が門番を手早く眠らせた。

 大手門横の潜戸(くぐりど)を開け、古渡城脱出である。

 那古野(なごや)までは一里(4㎞)。 速足ならば半刻(1時間)で着く距離である。

 朔の闇に紛れれば、楽勝と思った矢先、城内から太鼓の音が響いた。

 城外から兵を呼び集める太鼓であろう。 これで暫く城外は手薄になる筈…

 と思ったのも束の間、目の前の町が目覚め、辻ごとに松明(たいまつ)を持った兵が集まって来るのが見えた。

 城内も城外も瞬く間に臨戦態勢となった。

 流石は戦上手で名を上げて来た信秀の軍だ、ここら辺は隙が無い。

 …などと感心している場合では無い。読みが外れたのだ。

 取り敢えず、身を隠せる暗がりを捜し、身を低くする神平たちである。

 と、背後から突然 声が掛かった。


「そちらは禰津神平様で?」


 神平は強い殺気に、襟に隠していた苦無(くない)を声の主に向けた。

 が、声の主はその刃先を指先でヒョイと押しやり 名乗りを上げる。


「我は佐野縫殿右衛門尉さのぬいえもんのじょうで御座る。 お待ちして居りました」


 真田忍芽の連絡文に有った、異様に長い名と瞬時に理解し、神平は苦無を引っ込めた。

 が、毛皮を着込んだ異様なシルエットと獣臭さに一瞬たじろいだ。


「あ…名は知って居る…が、何者か?」

「は? 佐野縫殿右衛門尉さのぬいえもんのじょうで…」

「否、名では無い。 その風体…お主 野盗か?」

「は? 野盗に見えまするか? 我は穴山様配下の猟師で御座る。

猟犬と暮らしておるで…臭うかね?」

「…大事に及ばん…そうか、後ろの気配は犬…か」


 縫殿右衛門尉の背後に感じたのは猟犬が放つ気であった。

 武芸者ならば、アラームがけたたましく作動するであろう程の殺気であるが 縫殿右衛門尉は意に介さず、抑えた声で


「ここでは直ぐに見つかりますで…森や山があれば姿を(くら)ますのは簡単じゃが、この辺りは開け過ぎとりますで。

(とり)の方角(西)へ行けは海に出ますれば、一旦そちらで相手の目を避けましょうぞ。 我に付いて来て下され」


 と、言い置くと縫殿右衛門尉は道の横手、こんもりとした藪に潜り込んで行った。

 神平は周りの彦十郎等に小声で指示し、慌てて後を追った。

 藪に這い入る時、街道沿いに次々と点される篝火をチラと目にし、夜のうちに那古野に着くのは無理かもしれないと思う 神平であった。


―――――――――

【雪斎党:押切館】

 草薙紗綾(くさなぎさや)(あて)がわれた押切館の一番奥の小部屋で目を覚ました。

 明り取りの窓も無い部屋だが、動く人の気配で目が覚めたのだ。

 空気の感じでは夜明け前の感覚だが、館全体がざわめく様な、高揚した様な雰囲気である。

 紗綾はこちらの世界に来てから深く眠れた事は無かった。

 目の前で何人もの友人が命を落とし、守ってくれる筈の先生も頼りにならないと判ってから、常に怯えている。

 その上、生き残った友達からも引き離され “ナゴヤで巫女をする” と言う訳の判らない役を振られたのだ。

 そして逃げ出したり、役を拒否すると、生き残った友達に良くない事が起きるぞ と脅され、監視される生活になった。

 それでも、この前 落雷と共に従兄の坂井忠が 目の前に現れてからは、逃げ出そうとしたのだ…が、一層厳しい監視に置かれ、絶望的状況となった。

 …忠君、私の残したヒント 判ってくれたかな?

 小っちゃい頃から、なぞなぞとか 苦手だったからな…真面目過ぎなんだよな、きっと。

 その後大きな葛籠(つづら)に入れられ、荷車で何日も運ばれ、墓場みたいな ここに連れて来られた。

 紗綾の役目は “とある人物を誘い出すための巫女” と聞かされ、 “剣を持って舞うだけだから心配ない” とも言われたが…ゼッタイ嘘だ。

 見るたびにどんどん悪い顔になってる教頭先生だもの…もっと悪い事を企んでいるに違いない。

 悪事に生徒を巻き込むのって、なんてヤツだ と思っても どうしようもないまま、過ごしてきたのだ。

 それが、昨晩 “最後の夜だから充分に寝ておけ” と告げられたのだ。

 いよいよこの暮らしも終わる。 …どの様に終わるのかは判らないけど。

 希望か絶望か判らない モヤモヤを抱え、部屋の戸が開くのを待つ紗綾であった。


―――――――――

【忍芽組:那古野】

 那古野城下の宿屋で真田忍芽(さなだしのめ)は浅い眠りから目覚めた。

 隣では禰津里美(ねづさとみ)が軽い寝息を立てているが、その奥の望月千代(もちづきちよ)は目覚めている様だ。

 廊下を隔てた望月新六(もちづきしんろく)たちも動き始めた気を感じる。

 遥々(はるばる)追って来た草薙紗綾を取り返す日が来たのだ、忙しい日になる筈だ。

 千代と里美は百姓女に化け、野菜と薪を押切館に売りに行き、雪斎党に変わりが無いか、そして侵入ルート、逃走ルートの調査に行かねばならぬ。

 新六は小田井川で逃走用の舟を手配しなければならないが、深夜に舟を出させるのはハードルの高い交渉である。

 残りの三名は夜中の作戦に向け、体力温存としていたが、織田の御曹司 吉法師を救う手立てが茫として収まりが悪い。

 工藤源左衛門(くどうげんざえもん)を呼び、良い知恵は無いか 問答(ブリーフィング)を始めた。


「昨夜は深くは考えなんだが、吉法師様はどの様な陣容で押切館に赴くであろうか?」


 源左衛門は顎に手を当て、熟考のポーズに入った。

 忍芽が疑問を整理する様に問いかける。


「城より護衛を引き連れて参られるでありょうか?」


 一拍置き、源左衛門が返答する。


「否、雪斎党は大勢で来られぬ様、手を打って居りましょう。

飽くまで秘事の盗み見として、覗きたくなる様な誘いを掛けて居る筈…」

「で、ありましょうな…しかし小勢であれば、押切館は 間違いなく死地。

子を持つ親として元服前の子を死地に追いやるは忍び難い。

…押切館に入る前に追い返すのはどうであろうか?

吉法師様が目の前まで来ておれば、紗綾殿が逃げ出した所で執着はせぬと思うのです。

紗綾殿を取り戻し、吉法師様も逃がせはせぬかえ?」

「…どの様な手立てをお考えで?」

「押切館は元は城。 大手に繋がる道は一本でありましょう? そこで待ち構え、彼らの中に紛れまする。

そして館の前で吉法師様を驚かせ、追い返す…」

「驚かせた位で逃げ帰りましょうや?」

「相手は童、私の術を使えば…。 恐れの心を(くすぐ)れば、逃げ帰らせるは出来るのでは」

「忍芽様は人の心を操る術を使われるとは伺って居りますが…童を操る方が難しいのでは?」

「左様じゃな…童は意のままにはならぬもの。危うさは残ります…」

「しかし、吉法師様一行として動くは良き策と存じます。

今まではコソコソと忍び込む心積もりで御座ったが、堂々と館前まで出向けましょうし、吉法師様がこちらの思い通り 踵を返せばそれはそれで、紗綾殿救出もしやすいやも…」

「吉法師様をお守り致す手段は定かならず…ではありますが、押切館に置き去りの策よりは 心軽く居られます」


 互いに頷き合い、源左衛門とシミュレーションを重ねだす忍芽であった。


―――――――――

 日も傾き、逢魔が時に合わせ 出入りの百姓に交じり千代と新六が 荷車に載せた薪を押切館に運び込んだ。

 作戦通り、紗綾の身代わりで暴れる役の里美を送り込む為だ。

 館の中は妙な高揚感で落ち着きが無い。

 正に本番前の楽屋状態である。

 そんなソワソワした中で新六が薪代をワザと高めに吹っ掛け、ちょっとしたゴタゴタを起こす。

 こちらの予想通り、銭に細かい雪斎党下人は話が違うと揉めだし、そのどさくさに紛れて千代と里美が忍び込み、作戦その1は完了である。

 折良い所で百姓たちは引き上げ、新六は紗綾脱出のサポートとして、押切館の直ぐ外で待機に回った。

 そうこうしているうちに、空には雲が立ち込め出した。

 ただでさえ月が無いのに、星すら見えない真の闇である。


 一方、こちらは押切館に続く道である。

 遥か先に進んで来る一団が見えて来た。

 松明が前後を固めた十人程度の集団である。

 と、手前の闇に ボウと(あか)りが(とも)り、人影が浮かび上がった。

 灯篭(とうろう)を手にした忍芽と、源左衛門である。

 (あか)りに気付いた先頭の男は 正体を確かめようと松明を近づけた。

 忍芽は鮮やかな色の(うちぎ)をからげ、裾をつぼめた壺装束(つぼしょうぞく)に 布を垂らした市女笠(いちめがさ)を被っている。

 源左衛門は墨染小袖に墨染の馬乗り袴、暗闇に紛れ実体が判らない風体だ。

 二人は白い狐の面を被っており、朔の闇から滲み出た、眷属の様相である。

 護衛の男は思わず松明を投げ捨て、刀の(つか)に手を掛け誰何(すいか)した。


「何奴じゃ!」


 地面に落ちた松明に照らされ、期せずして一団の様子が見て取れた。

 先頭に二人、殿(しんがり)に二人 十文字槍だの薙刀だのを担いだ腕が立ちそうな男が、ビンビンに殺気を放っている。

 彼等が護衛なのは言われなくても判る。

 その四人に挟まれ、袖を切り落とした小袖にひっ詰めた袴を履き、腰にしめ縄の様な紐を巻いた、(かぶ)いた(わっぱ)が5~6人。

 今なら穴あきニットにダメージジーンズ、ウォレットチェーンジャラジャラの悪ガキである。

 噂に聞くこの恰好…吉法師一行に間違い無かろう。

 しかしこの童たち、全員が同じ格好で同化している。

 例えるならば 坂道系のアイドルの様に全員同じテイストである。

 吉法師の顔を知らない者には見分けが付かない…いや、この同質感は顔を知っていても 見誤るレベルである。

 多分、護衛をする者が考えたのであろうが、影武者以上の安全装置と言えよう。

 …などと感心している忍芽に再度 誰何が飛ぶ。


「な…名乗らぬか!」

「吉法師様とお見受けいたします。 伊勢より参上いたしました、八咫鏡(やたのかがみ)の使いに御座ります…」

「な…なんと申すか、怪しい奴め!」

「今宵、久方ぶりに天叢雲(あめのむらくもの)(つるぎ)(みま)えるのを楽しみとして参りました」


 先頭の男が刀を抜こうした刹那、忍芽が狐の面をそっと外し、涼しい目で微笑みかけた。

 その目に射抜かれた様に柄の手が止まる。

 通常であれば信じる筈も無い事でも、場の雰囲気で信じてしまうのは良くあることだ。

 それに加え、忍芽は相手の心を操る術を心得ている。

 忍芽は一団を見つめながら蕩ける様な声で 語り掛けた。


「これから参る所は、聖と邪が渦巻いております。

特に若君には禍々しき場所ゆえ、お顔を晒さぬ方が良かろうと存じます。…これを用意いたしました」


 忍芽の言葉に合わせ、墨染の源左衛門が闇から染み出る様に進み出て、手にした狐の面を配り始めた。

 忍芽の人たらしの術に掛ったのか、毒気を抜かれた者たちは素直に面を受取り被った。

 この術が使えるからこそ、吉法師を脅かして逃がす案を立てたのである。

 屈強な男も童たちも狐面を被る中、独りの童が声を上げた。


「儂は付けぬ! 怨念だの霊験だの、この目で見ぬ限り信じぬぞ。

天叢雲だろうと草薙だろうと、雷を落とせなんだら手打ちにして呉れようぞ」


 これが吉法師か…

 ガードすべき童が判った。

 忍芽は声の主に近づき 目一杯の蕩け声で


「吉法師様で御座いますね。 忍芽…とお呼び下され。

御強うござりますが、このままでは周りの者がお役目を果たせませぬ。

御身の為では無くて(のうて)、下の者の為に この(めん)を御付下りませ…

それでは、今宵は忍芽からお離れになりませぬ様に…」

「う…うん」


 マザコンの吉法師は…蕩けた。

 狐面を被った、異様な一団が押切館に向かった。


―――――――――

【雪斎党:押切館】

 押切館の門前は篝火が焚かれ、そこだけが闇夜から浮かび上がっていた。

 焼け落ちたままの櫓門は禍々しく開き その奥の本丸に続く道が篝火に揺れ人を誘っている。

 押切館の中から見張っていた雪斎党の下忍が近づく松明に気付き、伝令を走らせた。

 吉法師を待ち構えていたのは、渋い色の着物で身を包み 丸頭巾に白い布で顔を覆った人物、香山と修験者姿の藤林である。

 二人は本丸跡に急遽作られた物見櫓に上がり、眼下に揺れる松明の列を凝視していた。

 人数などは判らぬが、10人程度と思われる列を見ながら藤林が小声で呟いた。


「導師殿、吉法師が本当に来よったぞ…御手前(おてまえ)の読み、見事じゃ」

「ぐふふ、来る事は判って居ったわ…後はこのまま舞台の前まで上がってくれば…」


 ニヤつきながら目で追っていた松明の列が、篝火に浮かぶ大手門前でピタリと止まった。

 遠目で良くは判らないが、ここ迄来て門を潜るのを逡巡している様に見えた。


「?!何じゃ、どうなって居る?」


 香山と藤林が訝しがりながら、横に控える伝令の下忍に指令を出した。


「舞台で音曲を始めさせよ。 音で誘うのじゃ、そして大手門に迎えに走れ。

早う本丸に上げるのじゃ!」


 と、その間に一団の松明が二、三度激しく揺れると、次々に消えていった。

 目を凝らすと、大手門辺りに小さな炎がチラ付き、シュルシュルシュルと音を引きながら昇って行き、上空で “パン!!” と破裂した。

 打上げ花火である。


 鉄砲の量産を開始し、火薬の存在は知っている藤林だが、火薬利用のバリエーション “花火” はまだ知らない。


「な!なんじゃ? 今のは鉄砲か?先走って撃ちよったか?」

「否、あれは打上げ花火じゃ。 …鷹羽の手の者が来ておるのじゃ! あっ、熱田におった連中じゃ!」


 八幡部隊の存在を認識した香山は慌てて伝令を走らせようと振り返るが、下忍は既に使いに出て誰も居ない。

 仕方なく真っ暗な中、物見櫓から降り出す香山だが、先を降りる藤林に毒づく事も忘れない。


「藤林の阿呆めが、何が心配ないじゃ。 足元まで来ておるでは無いか!」


―――――――――

【里美:押切館】

 敵地に侵入した里美と千代は、紗綾が居る楽屋近くに潜み、忍芽か新六が起こしてくれる騒ぎを待っていた。

 里美は実戦は初めてであったが、極めて落ち着いている。

 忍者の家元、兄 神平に鍛えられ、自分の術には自信があったからである。

 片や千代も百戦錬磨、滅多な事では動じる事も無い。

 手話の様なハンドサインでおしゃべりを続けるくノ一 二人であった。

 さて、ターゲットの紗綾であるが、先ほど楽屋の中を窺い、ロックオンは終わっていた。

 達川一輝の持つ 『すまほ』 なる物で見た少女が、鮮血の様な(くれない)の装束を着、中央に座らされているのを確認済みである。


 肖像より少し(やつ)れた感があったが、憂いを帯び霊験ありそうな面立ちになったとも言えた。

 楽屋内には他にも数人の白装束の巫女が居り、紗綾を囲む様に座っていた。

 白装束は目配り、身のこなしに油断が無い。千代等同様、忍びの術を持つ者であろう。

 里美は持ち込んだ赤い装束を(まと)い、待つ事暫し 部屋の外から足音が近づいて来た。

 戸が開かれ 支度をして舞台に上がれと命じる声が聞こえた。

 紗綾たちが舞台に移動する前に表で騒ぎが起きる筈であったが、何か手違いであろうか…

 このまま舞台に移られると紗綾と入れ替わるのが難しくなる…

 合図を待つか…こちらで勝手に騒ぎを起こすか…千代と里美が目で会話を始めて居ると “パン!!” と音が聞こえた。

 多分これだ! 紗綾奪還の作戦開始だ!

 引き絞った弓を放つように、千代と里美が飛び出した。

 音も無く走り、楽屋に飛び込みつつ煙玉を放り込む。

 部屋いっぱいに白煙が立ち込め、白巫女の姿は掻き消えるが、紗綾のくれないの装束は辛うじて認められる。

 女たちの悲鳴、怒声が飛び交う中、千代が素早く 紗綾に近づき耳元に囁いた。


「紗綾殿じゃな。達川一輝殿に代わり、お助けに参った」

「?達川…だれそれ?」

「… “LINEで告ったけど、既読スルーされた達川” でありますよ」

「…! アイツも来てたんだ…」


 通じた様である。 (ヨカッタヨカッタ)

 と、…ここで切るのかよ! の罵声が聞こえる中 紙面切れである。

 八幡部隊、武闘派抜きで始まってしまった奪還作戦。 紗綾たちの運命は如何に?

 次号に続く。


第64話・飛んで火に入る押切館 完

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