表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/101

第58話・助ける理由

遠かった尾張・熱田にやっと着きました…

でも 着けば終わりじゃないんです…尾張だけど。

雪斎党から美少女を救い出すのが目的です。

でも 行方が掴めないんです雪斎党…どうしましょ。

どうするの? と思う方は本文へ

戦国奇聞!(せんごくキブン!) 第58話・助ける理由


 ここは尾張、宮宿(みやしゅく)(熱田宿)である。

 禰津神平(ねずしんぺい)八幡(はちまん)部隊の面々は約一月かけて、漸く 宮宿に着いたのだが 望月源三郎(もちづきげんざぶろう)新六(しんろく)兄弟があちこち手を尽くして探りを入れても、雪斎党の手掛かりは掴めずにいた。

 宮宿は熱田神宮の門前町で、港町でもあり、織田家の収入の源泉であった。

 東海道でも最大級の宿場で他所者(よそもの)の商人や参拝客が歓迎される土地である。

 つまり、八幡部隊が紛れやすい宿場ではあった。

 それは雪斎党も紛れやすい場所である訳で、手詰まりの様相を呈しているとも言えた。

 打開策を検討する為、宿場の飯屋の一室で近くの川で採れた鰻をいただきながら、ランチミーティングを開く八幡部隊である。

 まず、望月新六から 宮宿周辺で仕入れて来た噂噺の報告である。


「若い女子と目付きの悪い男たちを見なんだか、と聞いて回ったのじゃが、それらしい(やから)の数が多くて…

曰く有り気(いわくありげ)の者だらけじゃ。

一番目付きが悪いと噂されとった者を、探りに行ったら…兄者と里美であった」


 どっと笑いが起きるテーブル…受けた。 (…バラエティー番組かよ)

 一人苦虫を嚙み潰したような表情で禰津神平が会議を回す。


「この宿場は思った以上の賑わいゆえ、噂を追っても埒が明かぬな。…源三郎殿、熱田神宮の様子はどうじゃ?」

「大宮司の千秋季光(せんしゅうすえみつ)殿を訪ねたが、このお方 宮司というより武将での 美濃やら三河やらの戦に飛び回って居って捕まらぬ…と言う事は、雪斎党も近づけぬのかも知れんな…」

「うぅむ、しかし 我等も物見遊山でここに来た訳では無し…唯 手を(こまぬ)いている訳にもいかぬ。

諸国を回って居った工藤殿、何か手立ては思いつかんか?」


 神平から問われた工藤兄弟であるが、兄の籐七郎(とうしちろう)は腕を組み考え込んだ。

 弟の源左衛門(げんざえもん)は斜め上に目線を向け考え、視線を戻したかと思うと涼やかに喋り出した。


「狙われて居るのは信秀様との事なのでしょう?

ならば直接、ご注進し 周辺に怪しい動きは無いか伺うのは如何でしょうか…」


 …目茶苦茶 ダイレクトな手である。

 逆に今更それを言うか? と言う位、ダイレクトな手である。

 神平が軽くため息をつきながら、何故それをやらなかったかを話しだした。


「いやいや、簡単に言うでない。

先ず、飛ぶ鳥を落とす勢いの若殿様じゃ。 会いたいと申して会える物ではない。

熱田神宮の大宮司ですら、捕まらぬのじゃぞ。

次に会った(おうた)所で、何と話すのじゃ? 雪斎がお命を狙って(ねろうて)いるのでご用心を! か?

それを何故、武田家の者が注進するのじゃ? 誰が信じようか…」

「…なーるほど」


 源左衛門は気にする風でも無く、ニヤリと笑い頷いただけであったが、弟の意見を言下に否定された 兄の籐七郎が反論した。


「左様に申されるが、他に手が御座りますか?

同じ手間をかけるなら、本丸を目指す方が宜しかろうとの意見かと。

言下に否定なさらず、織田信秀に会う算段に知恵を出すは如何か」


 リーダー 神平は周りの顔を見渡し、他の意見が出なさそうな事を悟り頷いた。


「うむ、言葉が足りなんだ様じゃ、許せ。

晴信様…御屋形様は、難題こそ知恵出し合って文殊の助けを借りよ と仰せられておると聞く。

ひとつ信秀様とやらに会う手段を考えて見るか…」


 黙って聞いていたコミュニケーションお化けの古澤先生がおずおずと手を挙げた。


「えーと、すっごく基本的な事ですが…

織田信秀って、誰? どんな人なんすか? 好きな物とか判れば、それ切っ掛けでお近づきになれたり…とか」


 参加者はお互いの顔を見わたしている…どうやら皆も良くは知らないらしい。

 一人 望月源三郎が咳払いをし、注目を促した。


「されば信秀様と織田家について(それがし)から…」


―――――――――

 えーと、中の人です。

 望月源三郎さんから説明して貰っても良いのですが、言葉が難しいので こちらからお話いたしましょう。

 織田信秀…この時点の名乗りでは織田(おだ)三河守(みかわのかみ)信秀(のぶひで) となります。

 三河守を名乗っていますが、三河を実効支配をしている訳では無いのです。

 元々この織田家は下級武士の家柄なんですね。

 話しは古くなりますが、織田氏の発祥は越前国(えちぜんのくに)織田荘(おだのしょう)(つるぎ)神社の神職と言われておりまして、本姓は藤原氏となっているんですが 系図の上では藤原を追っ払った平氏の一門、平資盛(たいらのすけもり)の子孫とも称されていて…真偽不明ですね。

 まぁこの当時の新興勢力は どこの馬の骨か判らないので、勝手にXXの末裔を名乗ったりしてますので、辻褄が合わない家が多いんですよね。

 取り敢えず記録を辿りますと、越前(福井県)に居た織田家は元弘年間(1330年代)の頃、越前 守護職に補任された足利一門の斯波氏(しばし)に家臣団として組み込まれます。

 そして主家斯波氏が尾張 守護にも任じられると、応永年間(1400年代)に守護代として尾張に赴任したのです。

 その後150年ほど尾張の地で暮らすうちに、本家守護代の織田大和守(やまとのかみ)家やら、清州織田家やら、それらの下で家臣をしている織田家やら、有象無象に分家が増えていったのです。

 なのでこの頃の尾張は石を投げれば織田に当たる状況です。

 そして信秀の家は、弾正忠(だんじょうのじょう)を称すのですが、家格としては尾張守護代、織田大和守家の下の 清州織田氏の下の  “清州三奉行” の一角に過ぎないと言う…押しも押されもしない下級から中級の武士だったんです。

 そんな弾正忠家でしたが、先代 織田信定(のぶさだ)が津島の港を手中に収めた事を機に、港の経済力で他の奉行家(因幡守家&藤左衛門家)を抜き去りました。

 で、今の信秀の代では熱田神宮と熱田湊を手に入れ、パワーアップした経済力で主家の守護代、織田大和守家をも凌ぐ力を手に入れつつあると言う、下剋上を絵に描いた様な新興大名なのですね。

 得意げに名乗っている “三河守” は伊勢遷宮の為に献上した、銭700貫と材木の礼に(たまわ)った物で、云わば 買った称号です。

 ちょっと話しはズレますが、XX守(XXのかみ)とは、受領名(ずりょうめい)と言って 本来は国司(県知事)の職名だったんですが、この当時…と言うか、これ以降は名前ばかりの官位として、公家や武士の身分、栄誉の表示になっていました。

 そう言えば原虎胤(はらとらたね)は美濃守を名乗っていますが、領地は甲斐ですし、甲斐国守護の武田晴信ですら正式な表記は  “源朝臣武田信濃守太郎晴信” と、麻雀の役みたいになってます。

 それも本領の甲斐じゃなくて 信濃守なんかーい! とツッコミたくなりますが、甲斐より大きい信濃の方が 押しが強かったんでしょう…

 まぁ多くの場合はこの程度の飾りですので、気にしないで下さい。


 で、話しを戻しまして 織田(おだ)三河守(みかわのかみ)信秀(のぶひで) さんですが、

 対今川で言えば 那古野(なごや)城を今川氏豊(うじとよ)から謀略で奪い、小豆坂で雪斎を破り三河の地を伺っています。

 また、美濃方面では守護vs守護代のゴタゴタに乗じて、利権確保を画策している最中です。

 今風に言えば 一発当てた中小企業の二代目で、会社拡大策が図に当たり 仕事が面白くてしょうがない若社長。

 順風満帆の様ですが綱渡り状態でもある…となりますかね。

 以上、戦国雑記帳でした。


―――――――――

 源三郎の説明を聞き終えた皆であったが、取り付く島は見つからない様であった。

 原彦十郎が 腕を組み直し 呟いた。


「織田弾正忠家…あまり聞いたことの無い家であったが、良く(よう)やるのう…家臣の数も多くは無かろうに…

して、当主信秀は何が好みか、知れておるのか?」


 源三郎が考え考え、呟き返す。


「そうさのう…今は国盗りに夢中…かのう。

先だっても美濃を追い出された土岐頼芸(ときよりのり)様、頼次よりつぐ親子をわざわざ迎え入れたそうじゃ。

美濃守護に返り咲かさせる約束をしたと噂を聞いたわ…正義の為と言うておると。

どうせ、本心では土岐を先兵として美濃に攻め入り、領地を広げる算段じゃろう」


 禰津神平がピクッと反応し、叫ぶように声をあげた。


土岐頼芸(ときよりのり)と申したか?」


 その声に驚いた様に源三郎が返した。


「言ったが何とした? 土岐家と何かあったのか?」

「あ…そうでは無いが、ちと 思いついた…」


 その言葉に皆のキラキラする視線が集まった。

 神平は少し逡巡するような表情で


「否、そう期待されても困るが…

皆も知っておろうが土岐頼芸(ときよりのり)様と申さば、見事な画で名の通ったお人じゃ…」 


 確認する様に回りを見るが、皆 首を傾げている。


「そうか、知らんか…

土岐の家は代々、鷹の画を描くのじゃ。

特に頼芸様の画は “土岐の鷹” と呼ばれる、それは見事な物と聞いて居る。

儂はこう見えて、鷹匠の宗家じゃ。其れなりの鷹を持って居る。

土岐頼芸は良く知らんが、古渡(ふるわたり)城を訪ね鷹を見せれば、画を描きたいと申すのではないか?

それを(えにし)として信秀様に近づけぬかの?」


 神平の話しに新六が大きく頷き、賛同した。


「それは名案! 神平殿の名鷹(めいよう) 『(みさご)丸』 を携えて行けば、必ずやあちらから招き入れるでありましょう。

鷹の画を描くとなれば、神平殿も長逗留でき、信秀様にも目通り叶うでありましょうや。

その刻を逃さず注進と紗綾殿救出の協力を願い出れば…」


 室内に “おお” と納得&感嘆の声が上がった。

 何だかもう、解決した様な雰囲気である。

 が、ここでも一人冷静な工藤源左衛門が問いを発した。


「見事 信秀に会う策は出ましたが、神平殿が御心配された、説得は如何いたしますかな?

信秀様は目に見える利が無ければ、聞く耳を持たぬでしょうな…

大体、草薙紗綾なる女子一人に甲斐武田家が動く事自体、納得が行かぬでしょう?

我等 “八幡部隊” でも不思議と思って居る訳ですから…」


 室内の雰囲気が再び沈みだした時、古澤が静かに喋り出した。


「なぜ 武田は草薙紗綾を助けようとしているのか…

ここに居る人達の中でも疑問を持っているのなら、織田の説得は難しいでしょうから、まずその理由、僕の想いをお話します。

僕たち “城西衆” と呼ばれている者は、ここから遠い国から来ました。

その国では長らく戦を抑え、平和に暮らす事が出来ています。

理由は一つでは無いですが、平和を保つ大きな要素は “信頼感” だと思っています。

上に立つ者は民草の為、一庶民も己の欲はある程度にして、人の事も考える。

それぞれがその様な思いでいると信じで暮らして行ける相互信頼です。

今の戦国の世では夢の話しと思われるでしょうが、私たちの国はそういう国だったのです。

皆さんは目先の損得で付き合いを変える人を信じますか?信じないでしょ。

約束は誠心誠意 果たす努力をする。

利益より信用を大切にする。

騙される者を愚かと笑わず、騙す者を懲らしめる…そんな “信頼感” を持てる国とする事が、戦を抑える効果があると思うのです。

草薙紗綾は私と違う船に乗ってはいましたが、城西衆の一人です。

なので、私たちは何としても草薙紗綾を助けるのです。

生きていると判っている以上、少なくとも救出の努力を続けるのです。

それが “信頼感” を育てる事と信じるからです。

そして武田晴信様はその様な、戦を抑え平和に暮らす国を作りたいと思っているのです!」


 何があったのだ、古澤亮!

 今までの影の消えかけた古澤先生とは思えぬ演説であった。

 “何を青い事を…” と(ひね)くれて受け取られそうな話しであったが、聴衆の大半は若人(わこうど)であり、まだ 理想は目指すべき物 と信じている世代だったので感触は上々だ。

 クールを気取っている様な源左衛門君も、その実 正義を信じたい派 の人間だったので、密かに感激していたりした。

 が、ここで穿(うが)った意見を 他ならぬ城西衆の坂井君が発した。

 因みに “穿(うが)った意見” を捻くれた意見 と思っている方が居る様だが、穿(うが)つ = 穴を掘る の意から、本質を的確に捉える の意味が正解である。 褒め言葉なので間違わない様に…

 …で、坂井君の発言だが


「うちらは紗綾救出の理由に納得したけど、信秀さんが納得するかは どうだろう?

源左衛門さんが言う通り 損得で動く人と思えるけど…」

「うーん、判り易い利益って事?…世界征服する力を持っているから手に入れたい…とか?」

「そんな力 信じるかな? 信じたなら、横取りしたくなるでしょ…かえって面倒な事になるよ」

「だったら、世界を滅ぼす力 とか?」

「全力で殺しに来るでしょ!ダメだってそんなの…」


 あーでもないこーでもない とやっているのを黙って聞いていた禰津里美(ねづさとみ)が、ヒョイと手を挙げ


「皆様、随分と遠回しな事を…

女子(おなご)を追いかける理由など、簡単では御座いませんか?

“御屋形様が見初(みそ)めた巫女が(かどわ)かされゆえ、主命を受け追って居る” と申せば、信じていただけるのでは?

最後に “この件 ご内密に…” とでも付け加えれば、疑う方は居られぬでしょ…」


 男性陣が顔を見合わせた。

 兄でチームリーダーの神平が驚いた様子で


「里美…子供と思って(おもうて)居ったが、いつの間にその様な知恵を…

したが、さも有りなんじゃ。

よし!皆の意見をまとめ、策を組み立てる事とする」

「は!」


 千代と忍芽二人の爆笑が響く中、男性陣が一様に頭を下げる室内であった。


―――――――――

 こうして八幡部隊の方針は決した。

 フラフラした会話で、結局どうなったか判らなかった読者諸氏に作戦を整理すると以下である。

 ①鷹好きの土岐頼芸を利用し、古渡城に入り込み信秀に接近する。

 ②信秀に暗殺計画がある事を注進し、賊の誘い出し協力を要請する。

 ③雪斎党を誘い出し、織田と協力し賊を捕縛し、草薙紗綾を取り戻す。


 ふわっとした作戦の様だが、アウェイの地では現地の力を利用するのが重要なのだ。

 成功の確信を得る為、この手順をサブリーダーの原彦十郎と参謀格の源左衛門に見せる神平である。


斯様(かよう)塩梅(あんばい)と思うが…手抜かりは無いかの?…気付いた事があれば、申してくれ」


 虎胤からは事前に相談などされた経験がなかった彦十郎は、事前相談と言う事だけで感激し


「虎穴に入らずんば虎子を得ず と申します!気合を込めて参りましょうぞ!」


 神平は “…いや、そういう事じゃないんだよな“ と思いつつ頷き返し、源左衛門を見た。

 源左衛門は眉間に皺を寄せ思案し


「後は信秀様にお礼の品を考えねばいけませんな…まぁ、紗綾殿を取り返せれば、の話しですが。

されど、それなりの品はそれなりの手間が掛かりますゆえ、前もっての準備が肝要かと」

「おぉ、左様じゃな。 贈答品は手間を喰うのは身に染みて居る。

③の前に贈答品手配と入れておこう…助かったぞ」


 成功の確率は大して上がったとは思われないが、やれることを着実にこなしていく八幡部隊である。

 さて、①の織田家との接触は成功するのか? 次回へ続く。


第58話・助ける理由 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ