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第51話・小笠原氏の興亡

伊那松尾城の小笠原信定(のぶさだ)は決着した様だが、諏訪大社本宮の小笠原長時(ながとき)はどうなったのか?

12話を費やした諏訪の大変の終局である。

では、本文をどうぞ!

戦国奇聞!(せんごくキブン!) 第51話・小笠原氏の興亡


 長時(ながとき)本人も言っていたが、彼の危機察知能力は鋭敏であり、今回の逃げ足の速さは驚嘆に値するものであった。

 生意気な(戦闘力の高い)乱波(らっぱ)どもがあっさりと討たれ、虎王丸を(さら)われたと見るや、一切後ろを見ず陣地を脱出したのである。

 …虎王丸を攫われた ってのも随分な言い分ではあるが、計画が頓挫したと悟るや 前宮砦で戦っている兵たちに何も告げず、親衛隊にがっちりガードさせ一目散に本拠地・深志を目指した。

 ほったらかしの前宮砦では死闘が続き、武田信繫(のぶしげ)隊が戦いを終わらせる為に声を枯らし、長時逃亡を叫んで回らねばならなかった。


 一方、上原城では虎王丸を連れ帰った湖衣(こい)姫は、正に戦う姫様、ジャンヌダルクかジブリ映画のヒロインか という歓喜で迎えられていた。

 諏訪大社には八坂刀売神(やさかとめのかみ)なる女神も御座(おわ)すのである。

 父、諏訪頼重(よりしげ)が “大祝(おおほうり)で御座い!”  と、現人神(あらひとがみ)の如く ふんぞり返っても “湖衣姫に神が降臨!” の方が、説得力もあるし映えも良い。

 今、新たな諏訪の(あるじ)誕生を目撃した、上原城内の三千を超す避難民は、各地に話しを持ち帰る事になるのだ。

 諏訪安定は約束された様な物である。

 しかし良い事ばかりでは無く、虎王丸の母 禰々(ねね)が危機であった。 

 どうやら乱波の蒔いたマキビシには毒の仕込みもあった様で、重篤な状態に陥っていた。

 そして、田中淡路(重臣A)と湖衣姫から 長時の所業を聞いた美月は怒りに震えていた。

 村々への略奪行為、虎王丸(ようじ)黒島葵(びしょうじょ)誘拐、マキビシの毒(無差別殺人)湖衣姫の侍女の射殺(サイコパス殺人)、と…直接犯は少ないが ほとんど長時の教唆(きょうさ)(他人をそそのかして犯罪実行の決意を起こさせること)である。

 湖衣姫のガード役で戻って来た海野十座(うんのじゅうざ)から、長時は追撃も受けず落ち延びている と聞いた美月は切れた。

 すっくと立ちあがり


「このまま逃がしていい筈ないでしょ! 直ぐに捕まえていらっしゃい!!」


 と、真田忍軍に命じる。

 真田幸綱(さなだゆきつな)から、自分不在の時は美月の命に従え とは言われている十座だが…

 美月の勢いに大きな体を小さくして、小声で答えた。


「…じゃから我は長時を如何するか、信繫様に聞いたのじゃ。

…そうしたら、捨て置け と申され、湖衣姫を城へ届けよ と頼まれたゆえ…」

「それは、順番の話しでしょ! 湖衣姫はこうして送り届け終わったんだから、長時を追えるでしょ?!」

「…まぁ、追えるか? と問われれば、追えるが…捕らえるには真田の数が足らん…」

「真田だけでやれとは言っていないわよ。この城内に誰か居ないの?」

「見た所、使えそうな者は出払って居るで…」


 その時、室内に20~30人の一団の男たちが入って来た。

 皆 多少汚れた(なり)で、大きな(ひつ)を背負っている。

 先頭は見覚えのある顔だ。


「一体どうなっておるのだ?

日も呉れると言うに城の大手は開いたまま、城兵も居らず…誰がこの城を守って…げっ、巫女殿!」


 声の主は秋山十郎兵衛(じゅうべえ)であった。


「あれ…十郎兵衛さん? どうしたんですか…あ!使えそうなヤツ!

十郎兵衛さん、長時を追いかけて!」


 美月はいきなり十郎兵衛に長時追補を命じた。


「だから、一体どうなっておるのだ?」

「…お!皆様背負(せおう)て居るのは鎧で御座るな。十郎兵衛様の手勢がこれだけ居れば、生け捕る事も出来るやも…

さ、さ、早う 出かけまするぞ!」


 十座が美月の言葉を受け、十郎兵衛を()き立てる。

 なんか、美月の指揮に馴染んて来ている真田衆であった。


「だから、信繫様は何処(いづこ)じゃ?せめて真田殿なりと話をせねば…」


 こちらは登場するなり、混乱の秋山十郎兵衛である。

 彼は(一般的には内緒であるが…)甲州透波(すっぱ)の元締めであり、大筋の読みは当たるので、感は良い方なのだが、実行計画には細かな穴が多いのが玉に瑕な男である。

 今回も村上義清(むらかみよしきよ)勢の監視の為 善光寺平の葛尾城(かつらおじょう)近辺に張り付いていたのだが、諏訪に敵が侵攻したとの知らせに手勢を率い、鎧櫃(よろいびつ)を背負い 駆け付けたのだ。

 幸綱調略の時から、なぜか十郎兵衛には気安げな美月が、業者の課長さんに頼む様な感覚でしゃべり掛けた。


「信繫様と幸綱様は小笠原の残党をボコっている最中です。

そして真田隊と湖衣姫様が虎王丸ちゃんを救出してきた所です。

で、その誘拐犯が逃走中なので十座さんに犯人確保をお願いしているんです。 …伝わりました?」


 目が泳ぎつつも美月の言葉を咀嚼し、何とか理解した十郎兵衛が頷いた。

 頷きを確認した美月は重ねて十郎兵衛に命じた。


「よろしい! なら、早く長時を捕まえて。

あいつヒドイ事しておいて、負けそうになったら一人で逃げ出すなんて、教師としては見逃せません!」

「否、我等は信繫様の命でなければ動く訳にはいかぬ」

「えー!何それ。そんな事言ってるから大事な時に遅れるんですよぉ」

「お、遅れる?!」

「そうですよ…十郎兵衛さんはこの前、駿河で草薙さんを捜す時、信濃が忙しいからって、私たちのお願いを断ったでしょ。

それは、まぁいいんですけどね…そちらのお仕事の方が大切なんだなぁと…

それなのに上原城が襲われた時に間に合わなかったんでしょ?何やってんの…って話しじゃないですか。

その上、今 犯罪者を目の前にしながら追おうともしないなんて…人としてダメです!」


 ボクシングのパンチであれば、脳震盪を起こさせそうな鋭い言葉を十郎兵衛に浴びせる美月である。

 十郎兵衛に従う甲州透波たちは(かしら)翻弄(ほんろう)する城西衆を密かに楽しみにしている所があり、黙って成り行きを見ている。


「み…巫女殿は我等を役立たずと申すか!」

「いーえ、そんな事言ってませんって。 皆さんの凄さは知っているんです。

それを使わないのが 何やってんの…って事ですって」

「…ならば、何をせよと申すのだ!」

「十座さん、教えて上げて」


 十郎兵衛は、行動が読めない城西衆は苦手であり、特に女子のくせにズケズケと物言う美月は 近づきたく無い相手ランキングの上位であった。

 今回もいつの間にか、良い様に使われていく流れだし…やはり鬼門である。

 そうは言っても、諜報だとか潜入とかアンダーグラウンドな仕事は根が好きなので、海野十座の状況説明を聞くうちに、今まで積み重ねてきた小笠原長時のプロファイリングを活用し、逃走経路を予測し合う事に夢中になり、合同チームが即行で出来上がった。

 いざ、長時捕縛に出立する真田隊と秋山隊であった。


―――――――――

 さて、武田信繫たちの状況であるが、一言でいえは “怒涛のお片付け” であった。

 勝った方も負けた方も徹夜で動いているで ヘロヘロ状態である。

 大将が逃げ出した小笠原軍は当然ながら瓦解し、軍の中核を成していた傭兵部隊は蜘蛛の子を散らす様に逃げ去り、数千の軍が一夜明けたら数十人となっていた。

 で、その数十人は指揮官クラスの長時親衛隊であったが、みな捕虜となった。

 取り調べの為、上原城大手門内の馬出しに並ばされている捕虜の横を、海野十座と秋山十郎兵衛に縄打たれたた小笠原長時が引き立てられて来たのは、昼前である。

 捕虜たちは自分たちを見捨てて逃げた大将を、諦めとも取れる虚ろな目で見つめるのであった。

 お騒がせな長時が随分あっさりと捕まった物だと、読者諸氏の虚ろな目が見える様であるが、そこはそれ 流石は情報収集&分析の専門家、透波の親玉の仕事…とご理解いただきたい。

 実際の分析&作戦立案、実行の様子を微に入り細に入り 書いても良いのだが…誰も付いて来てくれなさそうなので端折る。

 ここでは長時と信繫、諏訪頼重たちとの面会の様子をお伝えしよう。


―――――――――

 ここは諏訪上原城、広間である。

 上座には名目上領主、諏訪頼重が座り、一段下がり 実質上の主、武田信繫が着座している。

 左右の席には諏訪満隣(みつちか)満隆(みつたか)ら諏訪衆、甘利信忠(あまりのぶただ)ら救援軍の将が並んでいる。

 その中央に後ろ手に縛られた長時が座らされる。

 傲岸不遜(ごうがんふそん)と言う言葉がこれほど似合う表情は無いであろう。

 蛮族を教化する為に降臨した眷属(けんぞく)(神の使い)だって、これに比べれば自愛に満ちた眼差しと思える。

 長時の視線に煽られる様に、諏訪衆の憎悪が燃え上がり、睨んだ対象が着火しそうな目力である。

 場の温度が上がって来るのを感じながらも冷静な声で、信繫が長時に問う。


「小笠原長時、貴君(きくん)は信濃守護の地位にありながら、身分卑しき野盗野臥(のぶせり)を使い、諏訪・高遠に騒乱を起こし、いたずらに民を苦しめた。

したがその企み、己が知恵では無いであろう?

誰の入れ知恵か?素直に申さば元の地位に戻してやるも(やぶさ)かで無し」


 信繁は綺麗ごとだけでは世界が回らない事は理解している。

 特にこの長時は自分こそが信濃の主、諏訪も武田も打ち据えるのが当然と思っている輩である。

 諏訪侵攻を(なじ)った所で、何も感じない事は予想の範囲である。

 ここは諏訪衆の反発は覚悟の上で懐柔案を示し、背後関係を聞き出そうとしているのだ。

 だが、長時は自分の能力を低くみられた事のみに腹を立てていた。


「この長時だけでは諏訪に攻め込む事が出来ぬと申すか?ふん、武田の小僧が小憎(こにく)らしや。

全ては儂が策じゃ」

「…されば、国を安んじるが勤めの守護の()すべきことでは無かろう?

信濃守護を罷免するに充分な所業である。

幕府・朝廷へ訴える所存なれば、覚悟めされよ。申し開きたき事あれば申してみよ」

「笑止!

武田信繫如き小僧が、我が小笠原に意見しようなど笑い種(わらいぐさ)じゃ!

元はと言えば甲斐の山猿が諏訪に手を出したが始まり。

信濃守護は万策を以て、猿から諏訪を取り戻すが道理ではないか!

そこに居並ぶ諏訪の者、まだ目が覚めぬのか?直ぐに武田に喰われる身なのじゃぞ。

…小笠原を罷免するだと? 天下を知らぬ田舎者めが。

幕府・朝廷が武田と小笠原どちらの言い分を聞くか見ものじゃわ!」


 盗人にも三分の理…確かに幕府・朝廷への付け届けは欠かさない小笠原家である。

 長時の申し開きも、話の持って行きようで、言い分が通る可能性も十分にある。

 実際 “100%の悪” な、世界征服を狙うショッカーみたいなモノは、仮面ライダーの世界にしか存在しないのである。

 正義は人の数だけあるのが実社会であり、最大公約数の正義を探りながら道を示すのが、世の政治なのだ。

 何しろ仮面ライダーの世界でさえ、最近は正義の在り方がふらついたりしており…難儀な世の中である。

 おっと、話しがズレそうだ。

 信繫は信濃守護への復帰を条件に黒幕を吐かせようとしたが失敗した。

 長時のプライドと価値観は信繫の想像以上であった。

 初回はドロー(引き分け)、どちらかと言えば長時判定有利的な取り調べで、暫し座敷牢に閉じ込めとし、本国甲府に伺いを立てる信繁であった。


―――――――――

 そんな難物を持て余している最中に、最悪な事態が起きた。

 危篤であった禰々が身罷(みまか)ったのである。

 諏訪頼重は長時憎しの念で、座敷牢襲撃を取り押さえられる有様であった。

 また、長時が武田に討たれたとの噂が広まりだし、府中(深志)小笠原が多数の家臣を失い、機能停止に陥っている事もバレ始め、善光寺平の村上義清が触手を動かしだすのも時間の問題と思われた。

 早い所 小笠原長時の処分を決めないと、更に大きな紛争を呼びそうな状況である。

 躑躅ヶ崎館(つつじがさきやかた)でも事態を重く見た晴信は、全権大使として山本勘助を派遣した。


 諏訪上原城、広間である。

 上座には禰々を失くし、憔悴した諏訪頼重が座り、横には晴信の特使 山本勘助が並んだ。

 左右には諏訪衆と高遠城城代 板垣信方(いたがきのぶかた)が着座していた。

 中央に座らされた長時は月代も髭も伸び、放置された案山子の様な姿だが、周囲を睥睨(へいげい)する表情は相変わらず 不遜であった。

 世間を舐めて掛かる事にかけては引けを取らない勘助が 声を発した。


「小笠原長時。 甲斐国主、武田晴信様の使いとして貴殿に問う。

諏訪に攻め入りし四千が兵を手配したは誰ぞ?

捕らえし雑兵の言葉より小笠原の声掛けでは無き事は明らか。

諏訪侵攻の(くわだ)て、誰の知恵か申せ」


 長時は勘助を一瞥したが無視した。

 勘助は表情を変えず 次の問いを発した。


「晴信様の言葉を伝える。

武田の臣となり、晴信様の命に従うと誓うならば信濃守護の位に戻して(つか)わすとの事。

改めて長時に問う。

晴信様の命に従うと誓うか?」


 長時は横を向き、板垣信方を見付けるとニヤっと笑い 声を掛けた。


「そこに居るのは高遠に籠っておった板垣ではないか?しぶとく生きて居ったか。

己の代わりに将監(しょうげん)が討たれるとは神も見る目が無い物じゃ」

「ほざくな!其方(そなた)こそ、味方を捨てて一人逃げ帰る所を捕らえられたそうでは無いか。

その様な不甲斐なき者を主君とした将監が哀れで成らぬわ!」

「そ!その者の首を刎ねよ!我が領地を荒らし、我妻を殺したその者を!」


 突然、上座の頼重が叫び、後ろの太刀置きから太刀を取り、長時に斬りかかろうとした。

 咄嗟に信繫が頼重に飛びつき押さえ込んだが、満隆ら諏訪衆は口々に長時斬首の声を上げた。

 騒然とした広間で勘助が立ち上がり、喝を入れた。


「諏訪の衆、静まりなされ!

御屋形様のお考えを伝えるによって、各々方(おのおのがた) 静まりなされ」


 頼重は信繫に押さえ込まれたまま、他の一同口を閉ざし、勘助の言葉を待った。


「小笠原長時を殺す事、(まか)り成らぬ。

諏訪の衆が恨みの心、存分に判っては居るが 今この時期に切って捨てるは成らぬとの仰せじゃ!

善光寺平の村上が深志の隙を狙って居るのじゃ、ここは堪えて呉れ」


 勘助の言葉を聞き、長時が哄笑する。


「はっはっはっ、我が小笠原を潰すなど武田如きには出来ぬのじゃ」

「なぜじゃ!悪行の元を成敗するは世を質す事、納得いかぬ!」


 頼重が信繫の下から叫びを上げ、満隆らも腰を浮かす様子を見せた。

 小笠原家当主を討つ行為が、中央政府に与える影響を考えての方針だと、信繫は理解できるが このままでは諏訪衆の反発は抑え切れないだろう。

 甲府の晴信にはこちらの温度感が伝わっていないのだ。

 何か皆を納得させる手は…

 瞬間閃いた言葉を、藁を掴む思いで信繫が口にした。


「巫女殿を呼べ!神の御託宣を受けるのじゃ!」


―――――――――

 中畑美月(巫女殿)は未だ上原城に居た。

 上原救援軍の引き上げと共に甲府に戻る予定であったが、禰々の危篤やら黒島葵と虎王丸のケアやらで残っていたのである。

 正体を知る者(十郎兵衛など)には、突拍子もない事を言い出す迷惑な城西衆であるが、事情を知らぬ諏訪衆や民衆からすれば 驚異の的中率を誇る神憑りの巫女様、美月様だ。

 そして美月は虎王丸救出で一躍神格化した湖衣姫と すっかり仲良くなり、今や諏訪の女神の双璧であった。

 武田信繫は小笠原長時の処遇をそんな美月に丸投げしたのである。

 困ったときの神頼み とは言え、大胆な…

 いきなり呼ばれた美月は 広間に入りその異様な空気にたじろいだ。


「な…何なんですか?あ!長時…これは裁判?」


 戸惑う美月に信繫が説明を始める。


「呼び立てて済まぬが、巫女殿にどうしても卦を立てて貰わねば成らぬ事となった。

…ここな長時の首を刎ねるか刎ねぬか、御託宣を頂戴したい」

「長時の首を…え!何言ってんですか?!やです、そんなの、私が決められる事じゃない」

「じゃから、神の御託宣…」

「いやいや、誘拐や強盗のそそのかしは許せないけど、私の一存で死刑ってのは…あ!そうだ。

神平さんから人攫(ひとさら)いは流罪って聞いたんだ… (※1)

決めました。長時は “島流し” です」

「ほう、神幣(しんぺい)(神道の祭祀で用いられる道具)での御託宣で…」


 ※1:禰津神平から教わった “賊盗律” である。詳しくは第34話参照。


 広間の者は皆 一瞬考え、取り敢えず頷いた。

 殺したいのは山々だが、晴信の有耶無耶(うやむや)に放免する指示よりは納得が行く。

 信繫も大きく頷いた。

 直感的閃きであったが、美月に託したのは打算もあったのだ。

 城西衆の言動を聞くに付け感じ入ったのは、驚くほど命を大切にする事であった。

 彼らであれば、如何な場合でも首を刎ねる選択は避けると読んだのだ。

 これで何とかなりそうと、ほくそ笑む信繫に勘助がヒヤッとする言葉を発した。


「島流し…と言われても、信濃 甲斐には海も島は御座らんぞ」


 慌てて信繫が口を出す。


「そこは…今川にひと肌脱いでいただこう」

「おぉ、それは名案!」

「ちょっと待て!ならば深志の小笠原をどうするつもりじゃ!」


 追放…それも遠隔地への遠流(おんる)ではなく、生還の難しい海の向こうへ流す話となって来ている。

 家名に頼り先程まで勝ち誇っていた長時が慌てて声を出した。

 長時に対して無表情を通していた勘助がニヤつきながら返答した。


「心配召さるな。小笠原を名乗る者が多いのは貴殿も承知して居ろう。

家名は残して進ぜよう程に、心置きなく旅立たれるが良かろう」


 ここに長時の運命は決したのであった。(いやー長かった)



第51話・小笠原氏の興亡 完

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