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第5話・ビュンビュン丸と巫女行列

プレゼンに失敗した鷹羽は実機を作成する事に…って、普通はプレゼンに成功したら試作に入れるんだが…

まぁ ここは実力を見せつけるチャンスだ!

ガンバレ城西衆!

戦国奇聞!(せんごくキブン!) 第5話・ビュンビュン丸と巫女行列


 荒地である。

 いや、モトクロスコースか?

 いや、それも違うようだ。

 泥田の様な道を馬の親子が散歩している。 牧歌的とも言える光景である。


 正解は板垣屋敷に隣接している“馬場”である。

 “馬場”と言っても高田でも無ければ、ジャイアントでも無い。(…例えが古いな)

 騎馬隊で有名な甲斐の武田である。

 お馬さんをいっぱい飼っているのである。


 その馬の調練、人員の乗馬訓練、繁殖 等々を行う場所が“馬場”である。

 東京の高田馬場も、徳川三代将軍家光により旗本達の馬術の訓練や流鏑馬などのために造営された馬場であり、元は家康の六男の越後高田藩主 生母、高田殿(茶阿局(あちゃのつぼね))の庭園だった所から、高田馬場と名が付いた(諸説あり)。

 茶阿馬場(あちゃのばばあ)がファンキーで良かったと、個人的には思うのだが。それだと、当時の関連部署に多大な困難が降りかかる事になったのであろう。


 えーと、話がずれたが、甲斐の話しである。

 その馬場、大きな調練所の外周に馬小屋が建っている。

 そして馬小屋の近くには、鞍や(あぶみ)などの馬具を置く納戸や色々の付帯施設が並ぶ。

 が、ここ 板垣屋敷の馬場には場違いな大きさの小屋が出現した。


 『城西衆』収容の為に新築して下さると言われていた建物だ。

 話しが出てから半月程で完成したのだが、流石に武士の約束。仕事が早い。

 もしくは、五月蝿い(うるさい)『城西衆』を 一刻も早く追い出したかったのであろうか。


 元は馬の餌を入れておく馬草小屋(まぐさごや)が、無理やり大増築され、大小7~8の部屋を持つ、それなりの建物となっていた。

 周りを見てみると、建物と調練所の境界線には、申し訳程度の杭と柵が設けられ、小振りではあるが、門も付いており、上には『城西宿房』と大書きされた扁額(へんがく)が掲げられている。

 一応、板垣信方様の(しょ)である。


―――――――――

 柵の内側、庭と呼べるか?の場所で、『城西衆』春日昌人たちが藍染の作務衣を着て、鷹羽設計の“城西式投石器”の試作機を作製している様である。

 宿房だから作務衣…収まりの良い組み合わせに落ち着いた様である。


 数人の職人と男子メンバー数名が共同で部品のすり合わせを行っている“城西式投石器”は、移動用の車輪が付いた頑丈な木製の枠組みの中に、複数の竹と滑車で砲弾を飛ばす、大きな弓の様な機械である。

 弓の巻き上げを楽にするギアを搭載し、機動性を高めるため、1畳程度にコンパクト化した物だが、言葉で説明するのは(いささか)か難しい。

 板垣様へのプレゼンで使用した 鷹羽設計主任直筆の設計図をお見せできれば良かったのだが、人知れず廃棄されてしまい 不可能となったので、NETで拾った古代のカタパルトでイメージを掴んで欲しい。


 挿絵(By みてみん)


 と、イメージを掴んでいただいた所で、城西宿房の庭に視点を戻そう。

 遠方に馬に乗った山本勘助が近づいてくるのが見えた。


 一方こちらは城西宿房内の教師部屋である。

 開け放たれた部屋で鷹羽と明野が何やら実験をしている。

 二人が着ている作務衣は生成(きなり)

 科学者としての白衣へのこだわりである。


 そこへ声を掛けつつ、山本勘助が入って来た。


「何やら皆、変わった衣装を着ておるの」

「中畑先生が女子と一緒に作ってくれたんです。いいでしょ」

 明野は案山子(かかし)の様に両手を水平に伸ばし、勘助に作務衣を見せびらかす。


「変わった衣装、って…これ変ですか?前も着てましたよ…」

 鷹羽も案山子の様に両手を水平に伸ばし、小首をかしげる。


「うーん、そこもとらは(はな)から奇天烈な恰好をしていたで、今更 別に驚かんが…」

「え?“作務衣(さむえ)”ですよこれ。もしかして見た事無いですか?」

 勘助はコクコクと頷く。


 えー、中の人です。

 因みに 今では居酒屋の制服とも言える“作務衣”は比較的新しい和装である。

 原形は着物の上に着た“上っ張り”と“もんぺ”と思われ、一説には昭和40年代発生と言われ、明治以前にさかのぼる記録はない。

 つまり、戦国時代の人々には見た事もない、スタイリッシュなファッション…だったかもしれない。

 もしくは『城西衆』の異様なコスプレと見られていた…かもしれない。

 以上、戦国雑記帳でした。


「衣装が事は良い。 

外で見たが“投石器”は大分(だいぶん)、出来上がってきたのう。

…未だに使い方がよう分からんが」


「移動が楽な様に分解式にしたんですが、強度を出すのが大変なんです。

それに狙いが付けやすい弾は20㎏…えーと、こっちの単位だと六貫程度なんですが、これだと威力が足りない。そこで、火薬を仕込んだ砲弾にしようかって話になって、今 その試作中なんです」

 明野が待ち構えていた様に、解説を始める。


「おう、それは大層な事じゃ、何のことやらよう判らんが」


 明野と勘助さんのやり取りは、親子の様、いや、孫とおじいちゃん…は、勘助さんが可哀そうか。

 鷹羽は二人のを楽しそうに眺めながら、


「今日は何用ですか、勘助さん」

「おう、職人どもへの払いを持ってきた」

 と懐をポンポンと叩く。


「で大輔、“投石器”はいつ披露出来そうじゃ? 板垣様が急いで居て(せいておって)の」

「撃つだけなら直ぐにでも出来るのですが、城取に効果がありそう…と思わせたいのでしょ?」

 と、探りを入れる。


「それは無論じゃ。

大輔の()()()()だけで、板垣様が納得して下されれば、それで終わりのつもりじゃたが。…誰も判らんかったからのう。

まぁ過ぎた事じゃ。気にせんでよい」


 …蒸し返してるの、勘助さんですけどね。 の顔の鷹羽。


「試作で、かなりの銭を使っておるでな。

“城西式投石器”が言葉の通りの働きを見せなんだら、その、なんだ、ヤバイ」

「…でしょうね。判ってます。

なので、今“火薬”を作っているのです」

「…それは昌人が言っていた(もうしておった)“爆裂弾”の事かえ?」

「そうだと思います。大量に作るには時間が足りませんが、デモンストレーション用ならこの周辺で調達出来そうです」

「へ?この辺りで採れるのかえ?」

「へへ、火薬の原料はトイレで採れるから」

「明野! それはトップシークレットだ!」

「??」


 因みに ここで言っている“火薬”は、最も古い歴史を持つと言われる、黒色火薬である。

 成分は木炭と硫黄、そして硝酸カリウム(硝石)。

 木炭は普段使いであるし、温泉の豊富な日本では硫黄は取り放題である。

 問題は硝酸カリウムであるが、これの原料は糞尿。 つまりトイレで採れる。

 馬場周辺には馬糞捨て場やら便所やらが豊富で、取り放題。

 尿素→アンモニア→硝酸塩の科学的変化を亜硝酸菌、硝酸菌などの微生物の働きで行い、硝酸カリウムが作れるのだが、当時の日本人はまだ知らない。

 中国内陸部やインドなど乾燥地帯では、自然結晶(硝石)が採取されるが、日本のように湿潤多雨な地域では結晶が残らず、硝酸カリウムは貴重であった。

 種子島に伝来した、鉄砲も即刻コピーできた日本人であったが、硝石だけは作り方が判らず、高額で火薬(たまぐすり)を輸入していたほどだ。

 しかし、化学専攻の鷹羽大輔は知っている。

 ゆえにトップシークレット事案である。


「…おう、それは大層な事じゃ、何のことやらよう判らんが」

 勘助は繰り返した。


―――――――――

 荒地である。

 いや、馬場か?

 それも違うようだ。

 急造の柵と数体の案山子と旗指物(はたさしもの)っぽい物が立っている。 閉鎖されたフィールドアスレチックとも言える光景である。


 正解は人里はなれた“投石器”実験場である。

 目を凝らすと、200m程離れた場所に設置された“城西式投石器”2台と、覗き窓のある板に囲まれた、観戦ブースが確認できる。


 観戦ブースでは板垣信方と数人の家臣が覗き窓から外を見つつ、山本勘助の口上を聞いている。


「口上はもう良い。 何を申そうと見たがままじゃ。それとこの板囲いはなんじゃ?

誰か射かけてでも来るのか?」


 三度目になると、板垣も流石に勘助の大風呂敷は聞いてくれない。

 狭くて圧迫感のある観戦ブースに押し込められ、機嫌がよろしくない。

 閉所恐怖症なのかもしれない。


「これは、念が為で御座る。

先程も申しました様に、“城西式爆裂弾”は遠く鎌倉が時、博多に襲来いたし蒙古の軍が撃ったとされる“鉄炮(てっぽう)”もかくやで御座りまして…」

 勘助の軍師スイッチは今日も健在である。


「あぁもう良い。よう判った判った」

 手を突き出し、口上を止める板垣。

 やっぱり閉所恐怖症なのかもしれない。


 上司の不機嫌を気にしてか、純粋な疑問かは不明だが、近くにいた家臣が口を開く。


「あの案山子、随分と遠い様に御座るが、如何ほど(いかほど)かの?」

二町(2ちょう)が程」

「二町!それを射抜くと申すか?」

「ま、ま、ご覧あれ」


 刻は良し。勘助は隣に立つ鷹羽を見る。

 鷹羽→射場の古澤亮→各“投石器”の射手(当地の職人)の順にアイコンタクトが通り、頷きが戻って来る。

 準備OKを確認した鷹羽が観戦ブースから一歩 外へ出て、大音声

「よーい、放てー(はなてー)


 2台の“投石器”の発射台に、ボーリング球位の素焼きの壺が乗っている。

 号令に合わせ、ストッパーが外されと、ビュンと風を切り、打ち出された。


 低い弾道を描き飛んでいく壺を全員の眼が追う。

 二町先の右側の案山子の手前に着弾!

 小さい爆発が起こり、轟音と共に赤い粉が巻き上がる。

 次の瞬間、左側の案山子の奥に着弾!

 こちらも爆発が起こり、緑色の粉が巻き上がる。


 観戦ブースの覗き窓に張り付いていた面々、着弾の派手さと爆発音に、皆 後ずさり、息を飲む。


「今のはなんじゃ、勘助!」

 ガマ垣様、(いな) 板垣様は、目を見開き、見事に腰を抜かしている。

 よく腰を抜かす御仁である。


「・・・ゴク。(唾を飲み込み) こ、これこそが…バ、爆裂弾に御座います。」

 勘助も実射を見たのは初めてであった。

 腰を抜かさず、解説を続けたのは、見事といっても良いであろう。


「えー、計算上の最大射程は、360m。えーと、4町弱になります」

 鷹羽も初めての実射である。

 踊り出したい興奮を抑えるため、冷静を装い、聞かれもしないスペックをしゃべり出した。

 そんな理解不能な鷹羽を見つめ、板垣様が一言。


「さ、採用…」


 “城西式投石器”の威力、今度はしっかり伝わった様だ。


 その後、詳細な実況見分、兵器としての効果ありの判定を経て、板垣隊攻城兵器に正式採用となり、“城西式投石器”は“飛丸(とびまる)”、“城西式爆裂弾”は“雷玉(かみなりだま)”と命名された。


―――――――――

 “飛丸”実射実験から半月後の城西宿房である。

 庭には大量生産中の“飛丸”が並んでいる。

 藍染の作務衣を着た『城西衆』と多数の職人がフル稼働である。


 一見順調に見えるが、教師部屋では生産が急がれていた“雷玉(かみなりだま)”に、問題が発生した様である。


「もう限界!臭いし汚いし、彬や翔太も逃げた!」

「手伝うって言ってきたのはそっちだぞ」

古澤先生に付き添われた 藍作務衣の大林渉(おおばやしわたる)が、鷹羽に泣きついている。


「そうだけどぉ。火薬作んの面白そうだったから…。

けど、やるとさ、面倒臭いしホントに臭いし、だって目開けてられないんだよ!」

 完全に泣きが入っている。


「鷹羽先生、噓じゃないって。あれは中学生にやらせる作業じゃないって」

 古澤が援護射撃。

 彼の軽さはヘリウム級だが、生徒のフィジカルチェックの真摯さは本物だ。


「判った。薄々思ってはいたんだ。硝酸カリウム自体は爆発しないが、アンモニアは有害だからな、生徒に危険な事させてた。

オレ達で直接作るのは止めにしよう。

ただ、誰かに頼むとしても、危険な作業だからな。安全講習はやんないとな」


 そんな時に、板戸がドカドカと鳴り、山本勘助が顔を覗かせた。

 生徒たちに戸を開ける前はノックしろと言われ、実践しているのだが、いつも力いっぱい叩くので、討ち入りテイストの登場となる。


「お、渉、久しいの。渉は硝石製造主任殿であったな。元気でやっておるか」

「もう辞めるんだ」 と、目を逸らす。


「なんと、何が起きた?」

「ちょうど良い所でした。硝石製造から火薬製造を頼める人を探して欲しいんです。威力は小さいと言えども危険物なので、生徒の参加は止めようと思いまして」

「ほう、そうであったか。…それは道理じゃ。じゃが、火薬作りは秘伝じゃによって、余程の者でなければの」

「それに臭いし汚いし、我慢強くないとダメだよ」

 多少の負い目を感じるのか、小声でセレクトポイントを伝える。


「…でも火薬の秘密が広まっちゃうの、ヤバくないですか?僕、詳しくないんで自信は無いですが、火縄銃も来ないうちに火薬製造は…」

 古澤が珍しく、まともな意見を言う。


「…お、そうだな。因果関係が変わってしまうか。…勘助さん申し訳ないですが、火薬作りは中止です」

「なんと!それは困る!」

「いえ、止めます。

今が何時(いつ)か判らないで作り出しちゃいましたが、火薬は早すぎました」

「今は天文11年じゃ。止めては困るのじゃ」

「ほう、天文11年…て、聞いても判んないんだよなぁ、鉄砲伝来が何時(いつ)かは」

「“鉄炮”は蒙古来襲じゃから…」

「いやいやいや、そっちじゃ無くて。

ややこしくなるので、説明はしませんが、時期が来るまで火薬は中止です。異論は認めません!」


「…それは困るのじゃ…」

「…火薬が無いと困るって…勘助さん、何 企んでるんですか?」

「企むなどとは聞こえが悪い。元々の筋書きじゃ。われが値打ちは軍師の才。その才を見せる時が来ただけじゃ」

「…いくさですか?」

「かねてより諏訪と揉めておっての、近頃は益々きな臭くなって来た(きよった)のじゃ。

板垣様が先陣となって事を進めるゆえ、城の一つも取ってまいれとの沙汰じゃ」

「…流れは判りましたが、それだけじゃないでしょ? 目が泳いでますよ」


「…いや、大した事では。

飛丸を使えば城など一日で落として見せましょうと…つい…」


―――――――――

 とっぷりと暮れた頃、城西宿坊の教師部屋である。

 数人が集まり、密談か?

 灯火台の灯に人影が揺らぐ。

 メンバーは鷹羽大輔、古澤亮、明野秀哉、春日昌人の4名。

 良い子はお眠の時間だが、兵器開発に遅延は許されない。

 火薬製造中止の影響確認、および、対策協議会の開催である。


「勘助さんも割と、“かます”よね」

「うん、詐欺師だよね」

「悪い人じゃないんだけど信用しちゃダメだよね」

 明野、春日、古澤が、バラエティー番組のひな壇の会話の様なおしゃべり。


「…残念なお知らせだが、オレ達はその山本勘助に、おんぶにだっこ している訳なんだ」

「じゃ、オレオレ詐欺の犯行グループだね、僕達」 (⌒∇⌒) ニコ。

「こら、喜んでんじゃない昌人、詐欺は重罪だぞ」

「違うよ。詐欺じゃない。詐欺は最初から騙すつもりのウソつきだけど、勘助さんはついつい大きい事いっちゃう。…何て言うんだっけ、古澤先生」

「虚言癖?」

「それだ!」

 盛り上がっている 明野、春日、古澤。


「オーイ、何の話をしてるんだ…皆に相談したいのは、火薬以外で使えそうな物を早急に作れるか、だぞ」


「爆裂弾の代わりになりそうな物でしょ…

えーとね、“トレビュシェット”では死んだ牛や馬を丸ごと飛ばしたんだ。

“マンゴネル”では腐敗した動物や人間の死体を撃ち込んだんだよ。

敵側のやる気をなくさせたり、疫病を流行らせたりする為なんだって。

特に人間の頭が効果高いって書いてあった。エグイよね。

あっ“トレビュシェット”と“マンゴネル”って“投石器”、うちらのビュンビュン丸の事ね」


 春日がミリオタ全開の知識を披露する。


「ゲー、死体飛ばすの?それは…エグ。でも、オレ達のビュンビュン丸で人の頭、飛ばすのは嫌だな」

「ちょっとゴメン。 情報多すぎて追い付けない。まず、ビュンビュン丸って何だ?」

 古澤が春日と明野の話に割り込む。


「え、“投石器”。

ガマサマが付けた“飛丸”って、なんか目いっぱい 中二病っぽいから、僕たち“ビュンビュン丸”って呼んでるの。 カワイイでしょ」 (⌒∇⌒) ニコ。

「う、うん。“中二病”が“中一病”位には、カワイクなった気がする。…ガマサマって?」

「え、“板垣のぶ…なんとか様”。いっつも、ギョロって見るじゃん。だから、」

「春日~、ネーミングの件は了解した。後、オレも人の頭は飛ばしたくない。他の案は無いか?」


「火薬が使えないなら、油かなぁ」

 明野が呟いた。


「それはオレも考えた。しかし 今、手に入る油は菜種油とかで、加熱しないと爆発はしないんだ」

「先生ガソリンとか作れないの?」

「ここは中東じゃないからなぁ、井戸掘っても石油でないしなぁ。石油あっても精油しないとガソリン出来ないしなぁ。…無理だ」

「ならアルコールは!アルコールならお酒でしょ?」

 明野が小さく叫んだ。


「エタノールか。この時代なら“どぶろく”は有るな。…そいつを蒸留して濃度を上げれば、不可能ではないな」


「アルコール詰めた壺と、木の枝で作ったボールに火を付けて、両方撃ち込めば」

「わーお、ナパームだ!」

 明野と春日で盛り上がる。 この2人、相性は良いようだ。


「アルコール蒸留、早速試してみよう」

「僕、酒は好きですけど、歴史詳しくないんで…それって、パラドックス起こさないですか?」

「オレも自信は無いが、九州では昔っから焼酎作ってたらしいから、ダイジョブじゃないかな」


「よし!決定!」 明野と春日。


 タイミング良く戸がノックされる。

 常識的な強さなので、勘助ではなさそうだ。

 部屋の外から、中畑が よろしいですか? と、声を掛けて来た。 


「どうぞどうぞ」 と引き戸を開ける古澤。

 濃淡の赤色の作務衣を重ね着した中畑美月が、お盆を手に立っている。


「皆で何の悪巧みですか~。昼間に果物(くだもの)をいただいたので、おすそ分けです」

「悪巧みなんて、人聞き悪い…果物下さい」

「フルーツ! ちょーだい!」 (^O^)/

 明野と春日、コンビ組んだら?


「いっぱいあるからねぇ」 と皆の真ん中に、お盆を置き座り込む。

「そう云えば、最近しょっちゅう出掛けているみたいだけど、どこ行ってるの?」

 物珍しそうに土地の果物を眺めながら、鷹羽が口を開く。


「あれ、鷹羽先生ご存じなかったんですか、美月先生の“巫女行列”」

「止めて下さいよ、その呼び名。誰から聞いたんですか」

「巴」

「あぁ、やっぱりね。あの子は見てきた事全部しゃべるからね~」

「いやいや、あの子がいるから、伝達漏れが無いんでしょ。僕たち皆知ってますもん」


「おーい、置いていくなー」

 鷹羽は知らない人がだったらしい。


「あれ、付いて来ていなかったですか?めずらしい。どこから、こぼれたんですか?巴の伝達力、辺り?」

「…初めから、お願いします」


「判りました。この古澤にお任せください。

まず美月先生と女子生徒達は地元で凄い人気モノなんです」

「僕も聞いた。 ファンクラブが出来てるって」

「フ…ファンクラブ?」

「えーやだー。照れるじゃないですかぁ」


 えー彼らの話は長くなりそうなので、中の人から解説しよう。

 地元で凄い人気となっている『城西衆』女子部の皆さまは、中畑先生を入れて総勢7名である。

 事故発生時、女子生徒はバス後部に乗車していたため、多くが死亡、行方不明となってしまった。

 残ったのが彼女たちである。

 何名かはご紹介しているが、この機会に改めて。


 まず、小藪薫ちゃん。

 スリムと言うより、線の細いという感じ。

 植物を育てる方が好きだけど虫が苦手な、見た目通りのお嬢様。

 一人でやれる作業が好きなので手芸部に入ったけど、大変な凝り性だそうだ。


 次が、大草桜子ちゃん。

 小藪薫ちゃんとは幼稚園から一緒の幼なじみ。

 薫ちゃんに誘われて手芸部に入ったけど、実は大人数でワイワイと何かを作る方が好きとの事。


 そして、度々名前の出てくるのが、大柄で元気で噂話大好きな、御存じ中林巴ちゃん。

 和菓子屋の娘だけど洋菓子の方が好きだとか、良くある話ですね。

 特技はそろばん。 

 最近は少なくなりましたが、昔は習字に算盤が庶民、ピアノにヴァイオリンが山の手のお金持ちの習い事の定番であったとか。


 枚数が行き過ぎたので、今回、紹介はこれ位で


 解説を続けますと、城西宿坊へ移ってから、『城西衆』男子部の面々はビュンビュン丸製造に夢中となっていましたが、女子部の皆さまは作務衣位しか作るものが無い。

 娯楽の少ない時代なので、暇で、ひまで…ならねぇ と、いう状態。 

 誰が思いついたか、元の時代への無事帰還を願い、神社仏閣への参拝へ。


 単に参拝といっても、そこは女の子、オシャレのひとつも、したいじゃありませんか。

 『城西衆』コスチュームとして製作中でした作務衣を、色とりどりに染めまして、淡い桜色の上に桃色、さらに上に朱色の作務衣を重ね着なんかして。

 そんな女子部が、キャワキャワと整列した所へ、薄衣(うすぎぬ)を羽織り、市女笠(いちめがさ)を被った中畑美月先生が、うっすらシャドーなんぞ入れて最前列に立ち、お出掛けになる。

 護衛兼道案内役の騎馬武者に先導され、しゃなりしゃなりと進む行列は、瞬く間に評判となった。


 奇抜なファッションで目を引くだけでなく、山の(やしろ)でお天道様を呼び出した とか、板垣屋敷で破邪の笛で鬼を追い出した とか、噂が噂を呼び、いつの間にやら参道の両脇は人だかり。

 沿道のアイドルとなった巫女行列の後ろをついて回る親衛隊(おおきいおともだち)

 いつしか“親鸞聖人 一向宗、板垣屋敷の 城西宗” と童が囃す(われべがはやす)ありさまとなりましたとさ。

 以上、解説終了。


 話を聞き終わった鷹羽、ポカーンである。


「最近ではお野菜とかお味噌とか、果物が食べ切れないほど届くんです♡」


 手に持っている果物に目を落とした鷹羽、思わず呟いた。


「お供え物か、これ」


第5話・ビュンビュン丸と巫女行列 完







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