第46話・上原城の解放…し過ぎ
新戦術の進化系で宮川砦を抜いたぞ!
このまま一気に上原城を解放だ!
の回です。 …すんなり行けばいいけどねぇ。
戦国奇聞! 第46話・上原城の解放…し過ぎ
【武田サイド:上原城救援軍】
新戦術で宮川砦を落とした甘利信忠たちは休息中である。
早朝からの戦いが終わり、一服と言うよりも これからの上原城での戦いに向けてのインターバルを取っていたのだ。
戦は勢いも大事だが、勢い任せに敗残兵を追うと、状況が判らない上原城下で敵本隊との遭遇戦となる可能性がある。
宮川砦で小笠原軍の兵を随分減らしたと思うが、長時本体はまだ 2,000以上はいる筈で、救援軍700弱での遭遇戦はリスクが高い。
必殺の飛丸隊と騎馬隊、それに徒士隊の波状攻撃に持ち込む為には、一旦隊列を組み直し 警戒しながらの行軍とするのが確実である。
流石、沈着冷静な大将、甘利信忠なのである。
それとは別件であるが、休息中に思わぬ邂逅があった。
誰かと言うと 10名近い穴山衆にガードされた真田幸綱と中畑美月の一行である。
信忠は真田幸綱が駿河へ出向いていた事は知らなかったので “なぜこんな所に?” の驚きだ。
聞けば、幸綱一行は駿河梅ヶ島から安倍峠経由で梅平に出、穴山衆の城 甲斐下山城までの山道九里(約35㎞)を3日で下り、そこから馬を借り 身延道と甲州街道の二十二里(約85㎞)を2日で走破したのだそうだ。
信忠の背中にしがみ付き、幸綱調略に向かった以前の美月を思えば、驚異的と言える行動力である。
当時を思い出しつつ信忠は美月に声を掛けた。
「いやはや、巫女殿は見違えたわ。あの時は一里行く間に二、三度転げ落ちて御座ったのに…
それに、佐久から戻る折は幸綱殿の馬に相乗りされたが、しがみ付き過ぎてよう動かれんと、相乗りを断られた事も御座ったの。はっはっ、 は!」
上原城救援軍大将、甘利信忠は只ならぬ殺気に口を噤んだ。
目の前の美月が異様な光を放つ目で信忠を直視している。
「(一_一)ギロ 信忠さ~ん、何の話しですか~?」
「あ…いや、…所で幸綱殿、わざわざ大層な護衛付きとは…いつの間に穴山様と懇意となったのじゃ?」
普段何が有っても表情を変えぬ信忠が、美月の殺気に思わず話題を変えた…
幸綱は笑いを堪えながら答えた。
「否、儂なんぞ 御一門衆とそうそう懇意に成れる者では無い。
人気なのは巫女殿じゃ。
何やら美月殿のお告げで金山が見つかったそうで、穴山信友様 直々に礼に見えられた。
お蔭で儂まで馳走になり、至れり尽くせり…楽させて貰ったわい。(※1)
で、今度はこちらから訊くが、上原城はどうなって居る?
本来、あそこを守るお役目であったので、焦って戻ってきた次第での」
「上原城は囲まれておるが、無事の様じゃ」
「それは重畳、…ならば高遠は?」
「高遠は怪しい。が、そこまで我等の手が届くか…まずは、上原城の信繫君、禰々様の確保が先じゃ」
「左様じゃな。まずは上原城へ」
救援軍は上原城へ向かった。
※1:うろ覚えで提案した金山の場所であったが、鉱脈があったらしい。詳しくは第15話参照の事。これでまた神憑り伝説が増えた…
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【小笠原サイド:上原城攻略軍】
ここは上原城近くの小笠原軍本陣である。
長時は城山を見渡せる上川近くに軍を展開し、自身は街道沿いの城下町で接収した数軒の民家を本陣としていた。
住民の大半は避難民として上原城に押し込み、町屋は傭兵が荒らすがままとなっている。
これは長時が乱取りを許した結果である。
そして籠城している諏訪勢には現在も、近隣の村々から女子供、怪我人をせっせと上原城前に送り込むと言う 嫌がらせを続けていた。
10日で落ちると宣言した包囲戦も そろそろ折り返しだ。
1回につき2~300人、それを日に数回。 上原城は既に3,000人を超える避難民を収容している筈である。
真綿がジリジリと敵の首を絞める感覚…嫌いではない長時であった。
武田援軍の足止めも、案外 巧く言っていると報告を受けている。が、何分 水竹の報告だ。
あ奴は忠実だが 粗忽な所がある。 話し半分で聞いておいた方が良いかもしれない…
まぁ、宮川の砦が落ちてもまだ、次がある。
上原城にも仕掛けをして居るし、そうそう簡単にはやられはせぬ。
などと思いを巡らせていると、陣屋の外 街道が騒がしい。
何事かと訝しんでいる所に、噂をすれば影的に 水竹が煤けた姿で飛び込んで来た。
「長時様 と…砦が落ちまして御座ります!
武田は雷を操って御座る。彼奴等は妖に相違ない!」
「…要領を得んな。
昨夜は火の雨が降ったが追い返したゆえ、何の問題も無い と申しておった筈。
…あれは間違いか?どこぞに油断があったのか?」
長時の自分を見る目が細められるのに気付いた水竹は、震えた。
これは良くない目だ…焦った水竹は言い訳を捲し立てた。
「ゆ、油断など滅相も無い!
昨夜は聞きしに勝る火責めを受け申したが、見事追い返し、準備怠りなく備えて居ったのです。
我等 決死の覚悟で守りを固めておりましたが、あれは見た事も聞いたこともない攻め手で御座る!
ひゅるひゅると壺の様な物が飛んで来ると、それが雷なので御座る。
あれは鬼神か妖か…雷に打たれた砦は一溜りもなく…
嘘では御座りません! 実に、まことで御座ります!」
水竹が言うのは多分、高遠頼継から聞いている “飛丸” とかであろう。
頼継も胡散臭い男なので話し半分で聞いていたが、噂通りの物なのかもしれない…
と、するならば、 この貧相な小屋に居るのは危ない…
災いが降りかかりそうな時の危機察知能力はこの所 研ぎ澄まされて来たと自負している。
そんなもの自慢になるか、とも思ったが、生き残りに一番必要な能力かもしれない…
長時の決断は早かった。
「陣を移す!全軍 上社前宮へ移るぞ。 宮川砦から戻った兵も連れてこい」
長時軍に退き太鼓が響いた。
―――――――――
【武田サイド:上原城】
今日も今日とて田中淡路は、避難民の収容を指揮していた。
元々然程広くは無い城である。
馬小屋と言わず、物置小屋と言わず 屋根の付いている場所は避難民でギッチリである所へ、300名程の増加。
横たわると場所を喰うので、膝を抱え座らせて やっとの状況で詰め込んでいるのだが…
怪我人だけは寝かせてやりたい。
既に屋敷内の一部を解放しているが、さらに増やしていただくしか無かろう…
頭の中で使えそうな部屋を思い浮かべながら、武田信繫の許に報連相へ向かう淡路である。
その時、城外で太鼓が鳴りだした。
小笠原軍が打ち鳴らしている様である。
慌てて物見櫓に走り、梯子段を駆け上った。
櫓には早くも信繫たちが上がって居り、敵の様子を伺っている。
忙しそうに各所に伝令を走らせる信繫の邪魔にならない様、すみっこから城下の様子を覗くと、あちこちで砂塵が上がって居り、慌ただしさが見て取れた。
淡路の口から思わず声が出る。
「慌ただしゅう御座いますが、何事でありましょうか?」
「うむ、定かではないが、あれは退き太鼓と思える。
一刻ほど前より、足繁く馬が行き来しているとは聞いて居ったが…時期から見て、甲斐から援軍が届いたのかもしれぬ…」
隅で手をかざし四方を伺っていた信繫側近 山高親之が声を上げた。
「あれを!午の方角(南)に砂煙!かなりの数と思われまする」
「こちらも!正面の小笠原勢、上川を渡り出しましたぞ!まさに退き太鼓で御座る!」
いつの間にか櫓に上がって来た諏訪満隆が、周囲の状況を眺め、吠えた。
「うおぉぉ、この時を待って居ったのじゃ!馬引けぃ!追い打ちじゃ!」
「満隆殿、落ち着き召され。 あの左手の砂塵、武田の物か定かに非ず…」
と、逸る諏訪満隆を信繫が抑える。
まったくこのオヤジ、思い立ったら即走る 猪武者である。 (褒め言葉では無い)
櫓内でわぁわぁやっている横で “ぴぃぃぃ” と甲高い音を立てて鏑矢が飛んだ。 出陣の合図だ。
信繫が慌てて周りを見ると、すみっこで弓を持った淡路が得意顔で頷いた。
…そうだった、満隆と言い淡路と言い、諏訪家の者は 考えが浅い所があったのだ。
門兵は当然の事ながら、鏑矢を信繫の命令と受け取り、間を置かず 上原城の大手門を開いた。
準備はまちまちであったが、満隆勢の諏訪兵が “すわかまくら!” と真っ先に飛び出した。(…言いたかっただけです)
それに負けじと満隣勢が後を追う。
考えは浅いが行動は早いのが、諏訪衆の特徴なのか?
もう、間違いだったと門を閉じる訳にはいかなくなった。
物見櫓から状況を見て取った信繫は、大きく息を吸い、隣に控えた山高親之に命じた。
「我等も出る!隊を二つに分けよ。
一隊は儂が指揮し、長時を追う。
もう一隊は親之が率い、左手の砂塵に向かえ。 相手が武田であれば、事情を伝え我が隊を追え。
相手が敵であれば、足止しつつ鏑矢で知らせよ。 直ぐに駆け戻る。 行け!」
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【武田サイド:上原城救援軍】
救援軍は大半が騎馬と言う事もあり、壮大に砂塵を立てながら、粛々と進んでいた。
街道沿いの家々は皆 荒らされ、人影は見えない。
はるか遠くから太鼓の音が聞こえて来るが、何が起こっているか 様子は見えない。
甘利信忠は自らの駒の足を速め、全軍の速度を上げた。
もう直ぐ 右手の山の中腹に上原城が見えると言う辺りで、鏑矢が鳴った。
遠目にも砂塵が上がるのが見て取れる。
一合戦始まった様だ。 さらに速度を速め、駆歩(時速約20km)で急行する。
目を凝らすと、騎馬の一団がこちらに突進してくるのが見えた。
甘利信忠は速度を落とし、一隊を横手に向かわせ 迎え撃つ体制を取った。
すると、相手も手綱を絞り馬を止め、こちらを伺っている。
そして慌てた様に 武田の旗を頭上に振った。 山高親之である。
再び速度を上げた山高親之は信忠に馬を寄せると、大音声で名乗った。
「甲斐からの援軍とお見受けいたす。 我は信繫様が臣、山高親之で御座る!
信繫様は只今 退く小笠原軍を卯の方角(東)に追って居ります。
今こそ長時を討つ千載一遇なれば、我等と敵を追いつめましょうぞ!」
「承知! して、長時はどこへ落ちるつもりじゃ?」
「この先一里が程の諏訪上社 前宮に陣を築いた由、そこに籠るか、このまま深志へ逃げ戻るか、どちらかと読んで御座る!」
「ふむ、陣があるとなれば、我等の出番じゃ。教来石の飛丸隊を前に持って来い!」
早速、陣形指示に取り掛かる信忠である。
数騎後ろで状況を見ていた真田幸綱が、信忠の横に馬を付け 声を掛けた。
「信忠殿、一戦御供したい所じゃが、巫女殿を戦場に連れて行く訳にもいかぬ。
我は上原城へ巫女殿を送るゆえ、一旦、ここで別れようぞ」
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【武田サイド:上原城】
城内は閑散と…はしていなかった。
何しろ数千人の避難者が犇めいているのである。
が、人口密度は非常に高いが、城を守る人間は殆どいなくなっていた。
ここ数日 長時の嫌がらせに我慢を重ねていた諏訪衆の兵士たちは、復讐の念を晴らすべく 一斉に飛び出して行き、大手門も開けっ放しであった。
敵軍が撤退し、解放されたとは言え、これは解放し過ぎである。
残っているのは家を追われた女子供と怪我人などの避難民だけの筈…で済まないのが、小笠原長時のいやらしさであった。
密命を帯びた伊賀者、楯岡道順の仲間が、怪我人を装い紛れ込んでいたのである。
騒乱を起こすのは透波、乱波のお家芸であり、去り際に諏訪衆にダメージを加える事を目的にしていた。
そして彼等が企てたのは、あろう事か虎王丸誘拐であった。
小笠原軍の退き太鼓を切っ掛けに行動を開始した乱波は、中々の手練れで 城内のどさくさに乗じ 奥の奥、諏訪頼重たちの居住スペースに迄 到達した。
音も無く室内に侵入し、形ばかりの警備兵を苦も無く片付け、虎王丸を確保したのだ。
虎王丸が女官にしがみ付いて離れない為、女官ごと連れ去る事態となったのが計算外であったが、大した事では無い。
誰に誰何されることも無く、奥座敷を出た所で、女官どもに見つかってしまった。
追いすがる女にマキビシを浴びせ、逃げる道すがら あちこちに火をつけつつ 逃げた。
犇めいていた避難者共が煙に気付き、騒ぎが広まる。…逃げるのにお誂え向きだ。
城内に残っていた馬に飛び乗り、虎王丸と拉致してきた女官を小脇に抱え、開け放たれたままの大手門から悠々と脱出する伊賀の乱波であった。
と、それを目撃したのは救援軍と別れ、上原城を目指していた真田幸綱一行であった。
しかし、状況を知らぬ幸綱は飛び出して行った一団を不審とは思ったが、目で追っただけであった。
城内に入るとあちこちの火災で大騒ぎになっており、その対応に追われ、不審な一団の事は忘れた。
火災は幸綱一行の的確な指示で大事には至らず、四半刻(30分程度)で鎮火したが、城内奥では別の騒動が起きていた。
虎王丸が誘拐されたらしく、追いすがった禰々が怪我を負わされたのである。
半狂乱の諏訪頼重と淡路を宥め、事の次第を聞くのだが、要領を得ない。
ここでも幸綱の的確な聞き込みで、下手人は避難民であり、虎王丸と一緒に連れ去られたのは 城西衆・黒島葵である事が判明し、不振な一団が犯人と繋がったのだ。
直ぐに追跡隊を組織する!と言っても まともな兵士は出払っている。
鏑矢を放ち、信繫隊を呼び戻してはいるが、いつ戻るか時間が読めない。
事は一刻を争うのである。 …となれば、幸綱が行くしかあるまい。
甲斐下山城から警護でついて来た、穴山衆と真田幸綱 10名弱で緊急の追跡隊である。
とそこに、朱漆の小札板に赤糸威、赤鎧に身を包んだ女性が入って来た。
諏訪頼重が娘、湖衣姫であった。
後ろには湖衣姫親衛隊?の女武者4名がよく似た鎧を着込み、控えている。
突然の登場に唖然としている幸綱に向かい、姫君が口を開く。 凛とした命令口調である。
「妾も参る。 案内せよ!」
「…姫様! 何と仰せで? …凛々しいお姿では御座いますが、何事…」
完全武装の姫君に、流石の幸綱も取次筋斗である。
湖衣姫の武者姿には訳がある。
虎王丸が生まれるまでは、頼重の子は湖衣姫だけであった。
それが為かは判らないが、湖衣 本人は諏訪の跡取りとして武将となるつもりで居たのだ。
親の頼重も、良く言えばユニーク、判り易く言えば偏屈な変わり者なので、娘の武者修行を止めなかった。
で、出来上がったのが深窓の女武者であった。
もう少し後には “井伊谷城主・井伊直虎” だの “岩村城主・おつやの方” 等、女性城主が登場するので 時代の最先端である。 湖衣姫ガンバ!
「我が弟が拐かされたのじゃ、取り戻すは当然であろう!
それに、今回の騒動、妾が縁談が出汁にされたと言うでは無いか、それも不愉快!
長時に一矢報いるが諏訪の意地、判らぬのか!
刻が無いぞ、早う案内せよ!」
判らぬのか!と一喝されても、諏訪満隆らの謀反の経緯など、今までの事情を知らない幸綱は “判りません” な状態だが、刻が無いのは理解している。
それに鎧姿での立ち居振舞いも堂に入って居り、そこそこ使えそうな一団とも思えた。
同席している頼重も 特に止めもしない…よし、連れて行くか…
「承知。されば早速」
と、そこへ
「じゃぁ、私も」
と美月が名乗りを上げた。
わぁ、また面倒くさい事になりそうだ…と、瞬時に反応する幸綱。
「いやいやいや。しれっと 紛れるでない、巫女殿はダメじゃ!」
「えーなんでですかぁ。一緒に攫われた黒島さんは うちの生徒だし!」
「いやいやいや…」
と、時間が無い中のひと悶着だが、最終的に美月は真田衆への伝言、指示を任された。
別ルートで佐久へ走った海野十座が、手勢を率いて駆け付ける筈である。
それを美月に指揮しろと言うのであるが…大胆と言うか、無鉄砲と言うか。
取り敢えず、美月は この女頭目的役割 に満足したのであった。
いよいよ、真田幸綱と女武者一党が、虎王丸奪還に城を出た!
長時軍だってまだ 打ち破っていないのに、次から次へと… って所で紙面が尽きた。
あっ、そうだ…高遠城もほったらかしだ。
ちなみに 原虎胤らは未だ 行方不明だそうだ…
収集つくのだろうか?
次号を待て。
第46話・上原城の解放…し過ぎ 完




