第44話・進撃の騎馬軍団
武田が初めて実施する “騎馬隊” 単科運用のデビュー戦!
さあ メリット、デメリットの学習だ!
と、言うお話です。
お、そうだ “運べる君” もデビュー戦だ。
…“運べる君” ってふざけたやつ 誰だよ? と言う方、
本文へ。
戦国奇聞! 第44話・進撃の騎馬軍団
【武田サイド:上原城救援軍】
教来石宿を出た飯富源四郎の騎馬隊は満月の下、街道をひた走った。
“ひた走る” と言っても夜間に全力疾走はしないし、出来ない。
馬は昼行性の生き物であり、夜は動きたがらない。
気持ちは急くが武田騎馬隊は 『湘南爆走族』 じゃないんだから、そんな無謀な事はしないのだ!
と、言う事で源四郎の騎馬隊は常歩(時速4~5㎞)での行軍だ。
明るかった満月は左手の山々の稜線に沈み、右手の空が青く開けて行く払暁である。
教来石宿から上原城へ、半分程進んだ辺りで、先頭を行く源四郎は前方から黒い影が近づいて来るのを感じた。
馬を止め目を凝らすと、先行する斥候の一騎が戻って来たようであった。
源四郎は手を挙げ、隊列を止め 斥候の報告を受けた。
「この先 村落の手前に幾重にも柵が設けられて御座る。村は人の気配は在りませぬが、柵は急拵えで、武田の進軍に備えた物と見受けられ申す」
「早速の邪魔建てであろう。待ち伏せの気配は?」
「一向に…」
「…その柵、幾つ程じゃ?後続の邪魔にもなる。退かせられるか?」
「数はざっと数えて十二、三。 脇に退ける程度なれば、二十人も居れば…」
「…よし、四小隊で柵を退けに行かせよ」
読者の皆さまはお気づきと思うが、この多数の柵、は 伊賀者楯岡道順の作である。(道順の作の柵…言いたくなっちゃった、すまぬ)
設置したのが誰であれ、敵の罠には気を付けるのが戦人の常識なのだが、無防備に手を伸ばしてしまうのが源四郎の経験値の低さなのだろう。
柵の撤去を指示された騎兵は、それぞれの経験値に照らし 警戒しつつ明けきらぬ薄暗い道を進んでいった。
右手は数軒の小屋、その向こうはなだらかな坂が宮川の河原まで続いており、見通しは良い。
左手は小高い丘と段々畑で視界は限られるが敵兵が潜んでいる気配は無い。
前方に見える柵は丸太で組まれ、高さ三尺チョイ(1m程度)で、道の三分の二を塞ぐ程度の大きさである。
隊列が直進出来ない様に左右互い違いに置かれている。
蛇行して進めば通れない事は無いが、速度は落ちるし馬を扱うには厄介である。
最初の柵が置かれている所の右手、川に続く脇路には祠でも在るのか、数本の樹が立ち、藪が濃い。兵を隠すにはお誂え向きだ。
警戒しつつ数人で近づき抱えている槍で藪を突っつく。 幸いに蛇も敵兵も出てこなかったので、槍を置き 柵の撤去に取り掛かった。
柵は見た目より重く、頑丈であった。四人で押したがビクともしない。
馬上で周囲を警戒している同僚に手を貸す様 声を掛け、馬にも綱掛け柵を引かせ 小隊全員で何とか動かした。
周りを見ると、別の小隊も全員で柵に取り付き、片側に寄せている。
四つ五つの柵を動かし、作業に専念しだし警戒心が薄れた頃、その気持ちを見透かした様に左手 段々畑の向こうから矢が襲ってきた。
鎧を着込んでいたので致命傷を受けた者は居なかったが、馬が狙われた様だ。
瞬く間に十頭以上の馬が傷つき、騎馬隊の戦力が削られたのだ。
後方で襲撃に気付いた源四郎が遅ればせながら、左手の丘に騎馬小隊を送り込む。
丘に登った小隊は弓を射る数名の敵影を捉えた。
敵を一掃すべく槍を抱え 襲歩(全速力)で迫る騎馬小隊。
相手も騎馬小隊に気付き、突進する騎馬に向かい弓を射って来るが、騎兵は躊躇などしない。
騎馬の突破力はこの様な時に発揮されるのだ!
敵までの距離 十間(18m)、後一鞭で蹂躙出来る所で馬の脚が空を蹴った。落とし穴だ。
小隊が穴に吸い込まれ、悲鳴が上がった。…これも道順の人を喰った罠であった。
混乱を何とか収拾しようと声を掛け捲る源四郎だが、部隊は右往左往である。
そんな騎馬隊を尻目に、どこからか甲高い呼子が鳴ると、黒い影は一斉に消えた。
後には手負いの馬、騎兵が30騎ほどが残された。…源四郎の初戦は翻弄され終了したのだ。
ここで未熟な指揮官だと、失点を取り戻そうと 闇雲に追撃を命じたりするのだが、そこは武田学校で戦術のいろはを研究しているだけあり、踏みとどまった。
この様な場合、逆上して追撃したり、パニックに陥り退却したりすると敵に付け込まれるのだ。
最適解は敵の襲撃を警戒し部隊を集結させつつ、左右に斥候を出し、見通しを確保しつつ前進を再開する事だ。
その結果、村と付近には誰も居ない事が判った。
村の住民は強制的に追い出されたか連れ去られたのだろう、家財道具が残っている。
他には 道と言わず丘と言わずあちこちに多数の落とし穴が掘られ、家に残された食料には毒が仕込まれ、所々油が撒かれ燃えやすくされているのも確認された。
要所要所には弓矢が多数残され、もっと大規模な邀撃の準備をしていた事もわかった。
しかしこれほどの準備をしておきながら、一撃だけで姿を消したのは、不安を掻き立てるではないか…
警戒心MAXで周囲の探索、妨害施設の撤去をした結果、大幅に時間を喰い、気が付けば太陽は高く昇って居り、後方の本体に追い付かれてしまった。
まんまと足止めされた事に悔しさを滲ませながら、事の顛末を報告する源四郎である。
「斯様な仕儀となり、面目次第も在りませぬ…」
「否…この日数でここまでの陣地を作っておるとは、儂も長時を侮って居った。
小笠原も中々にやり居る。…なぁに、これから巻き返せば良いだけじゃ、源四郎 気に病むなよ」
悄気る源四郎に大将・甘利信忠が風貌からは予想出来ない優しい声を掛ける。
隣の副官・原甚四郎が頷きながらも 疑問を口にした。
「されど、これだけの陣地を拵え乍ら、一の矢を放っただけで姿を消すとは面妖な…」
「ふ、 “然もありなん” じゃ。 源四郎、敵は小勢であろう?」
頷く源四郎。
それが何を意味するのか判らず、さらに首を傾げている甚四郎にニヤリと笑いながら、信忠が解説する。
「騎馬のみでやって来るなんぞ、思いの外であったのだろう…我らの陣立てに読み違えたのじゃ。
源四郎の騎馬隊はその数二百じゃ。 普段の備であれば、長柄隊、弓隊、旗組などが騎馬の七~八倍は居るじゃろ。 さすれば、千五百の徒士が直ぐに押し寄せると考えるが普通。
…これだけの砦を作る者共じゃ、戦慣れしておる筈。 それがゆえ、囲まれる前に大慌てで退いたのじゃろう。
ははは、突飛な事をすると突飛な手柄を拾うものじゃて」
甚四郎&源四郎はやっと腹落ちし、笑った。
「やられたと言えどもかすり傷、こちらにはまだ、五百の騎馬が居る。ここからは小笠原を一揉みじゃ!」
「うおぉぉ!!」
甘利信忠の檄に全員、腕を突き上げ 盛り上がった所に 脇から飛び込んで来た農夫が叫んだ。
「暫し! しば~し!!」
信忠は腕を上げたまま、農夫を凝視し、訊ねた。
「爾は、誰じゃ?」
「は、小笠原の動きを探って居ります者で…仔細は伏せますが、御耳に入れたき義あり、飛び入りました次第」
「…面を上げよ」
勘助や秋山十郎兵衛の所に出入りしている透波は何度か見ている信忠であったが、農夫の顔は、見覚えがある様な無いような…
「取り敢えず、何用じゃ?」
「は、小笠原はこの先 金沢宿、弓振川 宮川の交わる辺り、それに杖突峠の上り口 諏訪大社前宮と、幾重にも陣地を築いております。
お見受けした所、騎馬のみの陣立て。 このままでは苦戦いたすと思われ、しゃしゃり出 申しました」
「ほう、注進、痛み入る。 何ともこちらの手の内を読まれた様な…したが、五百の騎馬でぶつかれば、急拵えの砦なんぞ何ほどの物ぞ…
皆の者、武田の力を見せる刻ぞ!このまま進め!」
騎馬隊の後方から大声が響いた。
信忠が振り向くと飛丸隊の先頭、真新しい “運べる君” で春日昌人が仁王立ちである。
「ま、昌人、なぜここに居る。 お主たちは戦場には出ぬ約定の筈…」
「えー、だって僕が言った作戦だもん、気になるじゃん。 来ちゃった(⌒∇⌒)」
「来ちゃった…て、大輔は知って…居らんだろうな」
城西衆の為来りなのかは知らぬが、大輔らは幼い生徒に戦場などの惨い場面を見せる事を極端に禁じている。
だが生徒たちは日々成長する。彼らはこの隊の副長、源四郎や甚四郎と同じ様な歳である。
若駒をいつまでも小屋から出さぬのは無理と言う物だ。
春日昌人の上気した表情を見て、信忠は思わず微笑んでしまった。
「何笑ってるの信忠さん、作戦変更だよ!今の話しだと、相手は縦深防御戦術で来てる!
馬防柵で迎い討たれるなんて長篠だよ、突っ込んじゃダメ!」
「ばぼう?ながしの?…何の話じゃ?」
「時間が無いから細かい話しは後! とにかく、ビュンビュン丸を積んだコイツ、武田版チャリオット、その名も “マルチャリ” を先頭に進軍! “赤玉” “青玉” で敵陣を粉砕したら騎馬の突進! これがパンツァーギムレットだよ(どや!)」
「…まるちゃり…判らぬ…誰か判る者は居らぬか?」
…読者の皆さ~ん、ついて来てますか~?
春日の話しは長くなるので 取り敢えず端折るが、理解を助ける為 位置関係だけでも整理しておこう。 (図1)
図1:
今現在 騎馬隊が居るのは地図上方の赤字 “青柳村” 辺りである。
上原城救出に向かうには金沢宿、宮川砦、諏訪上社前宮 と防衛線が張られているのがお判りいただけるだろうか。
武田はここを突破して上原城を救い、かつ 杖突街道の先 高遠城にも援軍を送りたいのだ。
この多重防衛線が “縦深防御” の形である。
“縦深防御” は前話で少し触れたが 敵の前進を遅らせる事を目的とし、時間を稼ぎつつ、敵の犠牲者を増加させる陣形なのだ。
誰の発案かは判らぬが、上原城を早急に解放すべく、スピード重視の騎兵主体の編成には厄介な陣形と言える。
まともにぶつかれば、敵の狙い通り甚大な犠牲と多大な時間が奪われるであろう。
では、どうするか?
今の武田にはビュンビュン丸があるではないか!
遠方から砦の防御を破壊し、打って出てきても逃げだしても騎兵で殲滅する作戦である。
単純な作戦と思われるだろうが、これは “アウトレンジ戦法” と言われ、現代戦でも使われている戦術である。
大騒ぎの末、隊列は第一飛丸隊、甚四郎隊、第二飛丸隊、源四郎隊、の順となった。
金沢宿は斥候の報告によると、宿場の顔役 権左衛門が宿場が戦場にならぬ様、小笠原の兵共に銭を与え、引き取らせたそうである。
そうは聞いたが疑心暗鬼の騎馬隊は、数度の偵察隊を出し、ビクビクしながら金沢宿を抜けた。
ここでも思いの外 時間を喰い、日はかなり傾いてしまった。
スピード重視の単科編成が裏目に出た展開である。
宿場を抜けると半里も行かぬうちに、はためく多数の旗指物が見えだした。
透波の言っていた弓振川、宮川の砦であろう。
川には荷車が通れそうな橋が掛かっており、その向こうに急拵えの物見櫓らしき物が立っている。
橋と言うのはいつの時代でも重要なインフラで、橋の取り合いは古今東西、激戦が起きる場所なのだ。
足止め目的の場合、橋を落としてしまうのが普通だが、目の前の敵は腕に覚えがあるのか、武田を誘い込む罠として利用する事にした様である。
騎馬隊の接近を察知した敵は橋の向こうで旗を振り、鉦や太鼓を打ち鳴らし、こちらを煽りだした。
大将 甘利信忠は対岸から弓矢の届かないラインで軍を止め、腕を大きく左右に振った。
その合図で第一飛丸隊が川沿いに展開し、対岸の物見櫓に対峙した。
飛丸隊は今回がデビュー戦の ”運べる君” に荷台発射型飛丸を設置したチャリオットである。
次に信忠は腕を前に振った。
第一飛丸隊のチャリオットから対岸の物見櫓目がけ “青玉” が撃ち出された。
“青玉” は物見櫓の足元に着弾すると、ボンッ と音を立て爆発した。目を凝らすと青白い炎が上がっているのが見え、物見櫓に火が移った。
どさくさの解説となるが “青玉” は、今で言う “焼夷弾” で、 “メタノール” を少量の火薬を仕込んだ陶器の壺に詰めた物だ。 (※1)
ちなみに “赤玉” も焼夷弾であるが、こちらは材料が違う。 “メタノール” の代わりに湿地帯で採取した水苔を油に浸した物で、赤い炎で燃え上がる。
“青玉” の高純度のアルコールは揮発性が高く、芯が無くても引火するので、威力はかなり高いが、製造コストも高いので燃え易い相手には “赤玉” 推奨となっている。
で、宮川砦 の話しだ。
燃え上がる物見櫓に慌てる兵たちが遠目に見えるが、まだ突撃はしない。信忠は再び腕を前に振った。
第一飛丸隊のチャリオットから対岸の火災現場へ “赤玉” が撃ち出された。
消し止めようと奮闘している敵兵には気の毒だが、より燃焼時間の長い燃料が投下され 消火は絶望的となった。
信忠は右腕を大きく振りかぶって、頭上で大きく回した。
第一飛丸隊が下がり、交代する様に甚四郎隊から百騎程が前に出る。
愈々 騎馬隊の突破力を見せる時である。
信忠の大音声が響いた。
「目標、橋向の雑兵。 蹴散らせ!」
※1:木酢液からの生成物である。鷹羽先生の能力は第31話
―――――――――
【武田サイド: 甲斐府中(甲府)】
ここは甲斐、躑躅ヶ崎館の広間である。
騎兵隊は送り出したが、完全な形の軍勢の第2陣を送り出すべく、家中の調整が続いていた。
そんな中を各地からの透波の知らせを受けた秋山十郎兵衛が、勘助に近づいた。
耳元で話を聞いた勘助の顔が明らかに曇った。
そして中央に地図を広げ、検討を続ける重鎮たちに向かい 最新情報を告げるのであった。
「各々方、諏訪からの知らせで御座る。良き知らせが一つ、悪き知らせが三つほど…」
悪き知らせ と聞き、会話が止み 皆の視線が勘助に集まった。
勘助は周りを見ながら話し始めた。
「長時は上原城を遠巻きにしておるだけで、兵糧攻めにするつもりの様で御座る。
上原城の兵糧は信繁君が随分と用意されて居ったゆえ…上原城の信繫君、禰々様、虎王丸様は差し迫っての危険は無い」
皆の安堵の声を聞きながら勘助は言葉を続けた。
「次は悪き知らせとなり申す。
長時は街道に幾重も砦を築いた由、救援の騎馬軍の到着は相当に遅れそうで御座る。
と、なると杖突峠の道も塞がれており、 高遠城への救援も遅れるかと…」
上座で目を閉じ聞いていた晴信が目を開き、勘助に声を掛けた。
「今ので悪き知らせは二つ。…勿体つけるな、残りは何じゃ?」
「高遠城の水の手が切られた と…」
「!!!」
余りの話しに絶句し、広間は静寂に包まれた。
やっとの事で 両職、甘利虎泰が声を絞り出した。
「そ、それは実か? な、何があったのじゃ?」
「…どうやら、高遠頼継めが 城の弱点を突いた様で御座る」
状況を整理する為か、再び静寂に包まれる中、晴信の質問が矢継ぎ早に飛んだ。
「敵の数は如何ほどか? 高遠城の板垣の兵は何人おる? 水の手無しで何日持つ? …落ち伸びる手はあるか?」
皆が言い淀む中、勘助が顎を摩りながら答える。
「寄せ手は凡そ五千、板垣様は…六〇〇が程で守って居られます。…水の手無しでは普通五日、持って六日。
落ち伸びる手を探るはお優しき心使い…なれど、ここは助ける手を先に考えたく御座る」
「左様だな…したが、杖突街道は塞がれ、岡谷道はさらに先。 道が無いぞ勘助」
「騎馬隊を一旦下げ、金沢峠から杖突街道に向かわせれば…」
「騎馬隊だけで峠越えは無理じゃ、それに騎馬隊は精精五百。焼石に水」
考え込む勘助。 静寂に包まれた広間で晴信は皆を見渡し、声をかけた。
「誰か善き手がある者は居らぬか?」
静寂の中に、場の空気にそぐわない 明るい調子の声が響いた。
「なんじゃ…高遠を救えれば ここの皆の鼻を明かし、信方殿に恩が売れる と言う事か?
ならば儂がやらんで誰がやる と言う物じゃ!」
戦の申し子原虎胤である。
晴信が虎胤を見据え、静かに問うた。
「虎胤は高遠を救えると申すか?」
「如何にも」
「うむ、念のために聞くが、どの様な軍略で高遠を救うのじゃ?」
「粘り と 根性 で」
「…それで、救うのじゃな?」
「左様…」
「…それで、何日で救えると申すのか?」
「そうさなぁ…四日と言いたき所であるが、甚四郎が騎馬隊で出払っておるゆえ、手が足りぬ。
お!そうじゃ、誰か手伝っては呉れれば、四日で高遠の囲みを消して見せましょう」
言葉のトーンは裏山に鹿でも狩りに行く様な気軽さである。
「…手伝いがあれば四日で救えるのか?如何ほどの兵が入用か?」
「そうさなぁ…敵が五千で御座ろう? 千ほど居ると心強いが」
と、一人の将の顔を見ながら 誘う様に言った。
「は、は、は。流石は鬼美濃殿じゃ。 儂で良ければ同道させていただけるかな」
名乗りを上げたのは板垣信方と同年配の横田高松であった。
毎話毎話で新キャラ登場となり、追い付けねぇぞ と文句が聞こえそうであるが、武田家には古くから有能な家臣が多く “武田二十四将” と呼ばれるほどキャラ揃いなのだから しょうがない。
こっちはこっちで、書く方も大変なのである。
で、この横田高松は原虎胤より十歳も上であるが、鬼美濃と並ぶ弓矢巧者と評判の老将である。
「おぉ、高松殿であれば、これ以上のお味方は居らぬであろう!御屋形様 是非我等に高遠救出の命をお出しくだされ!」
齢47の虎胤と、齢57の高松のおっさんコンビであるが、この二人は武田家屈指の猛将である。
盛り上がっている二人を見ている晴信は 今一不安を拭えず、横田高松に念を押した。
「虎胤は 粘りと根性 で高遠を四日で救うと言うて居るが、高松も同じか?」
「孫氏曰く “凡そ戦いは、正を以て合い、奇を以て勝つ” と申す。
諏訪の戦は 正を以て受けて居られる。 然らば 我等は伊那で奇を以て勝つ。
兵法の理に適って御座る」
横田高松は晴信と勘助を交互に見て、勿体を付けた声で答え、ニカっと笑った。
やっぱり、喰えぬオヤジである。
なんの説明にもなっていないが、自信満々で言われると、周りが納得してしまう。
晴信は意を決し、下知した。
「原虎胤 並び 横田高松に高遠城救出を命じる。
…四日で板垣のじいを救って欲しい。…是非 我らの鼻を明かして見せて呉れ」
「破!お任せ有れ。我らに手を出した小笠原を後悔させてご覧にいれましょう!」
上原城救援軍に続き、高遠城救援軍が発動した。
期せずして若手中心の新戦術と老兵…元い、ベテランの味が競い合う形となった武田家だが、ここのオッサンたちも中々にファンキーなので、何をやるか 乞うご期待である。
第44話・進撃の騎馬軍団 完




