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第4話・城西衆

雨露しのぐ場所は手に入れた。

次は追い出されない為の売り込みだ!

ここは未来人の知恵の見せどころだが…

戦国奇聞!(せんごくキブン!) 第4話・城西衆


 山本勘助の手引きで板垣屋敷に潜り込んだ『城西衆』であるが…

 こう書くと『雲霧仁左衛門』の盗人集団か『講談本』の忍者軍団の様だな。

 なんか、高級な作品になった様でドキドキするが、この小説はラノベであるので、それ程期待せず、寝っ転がって読もうか、位のスタンスで読んでいただけると、幸甚(こうじん)である。


 で、城西学院中等部の面々が、紆余曲折の末、武田家重鎮:板垣信方屋敷に住むようになり『城西衆』と呼ばれる事になったのである。

 が、実際は20名を超える居候が一気にやって来たのだ。

 そうそう部屋が空いている筈もない。

 取り敢えず、数人ごとに寝る場所を当てがわれたが、迷子になり進入禁止区域に踏み入る者多数。

 屋敷内を混乱に陥れた。

 対策として『城西衆』をまとめて置くために、家人、下男、女中の部屋割り変更やら、引っ越しやらで大騒ぎの数日間であった。

 ようやく『城西衆』には、板敷の小さい部屋:1 と中くらいの部屋:3 が割り当てられ、小さい部屋は教師部屋、中くらいの続き部屋:2が男部屋、残りの 中くらいの部屋:1を女部屋とし使用する事となった。


 男子生徒が新しく割り当てられた部屋を物色している最中に、山本勘助が入って来た。


「おー、皆まとまったか。 まずは重畳(ちょうじょう)

「あ、随分と会ってなかった様な気がします。 それと、おめでとうございます」

 と古澤。


「あぁ、有希ちゃんから聞きましたよ」

 と中畑がいたずらっぽく笑う。


「何事じゃ!?」

「防災グッズのサイレンで仕官が決まったそうじゃないですか。おめでとうございます」

「おう、まぁそうじゃな。 あの音には肝を冷やしたが…有希には助けられたかの」

 少しばつが悪そうである。

 話題を変える様に鷹羽に体を向け


「早速だが鷹羽先生、頼み事が御座っての」

 と教師部屋に誘った。


 勘助が壁を背に座り、囲むように鷹羽、古澤、中畑が座り込む。


「なんですか? 加持祈禱なんて出来ませんよ」

 鷹羽が若干の非難を滲ませ予防線を張る。


「いやいや、それは頼まないが(たのまんが)、そなたらは城取(しろとり)の知恵は持っておるかの?」

「…白鳥(しらとり)のチエ?漫画のタイトルですか?」

 古澤がナイスなボケを入れる。


「し・ろ・と・りの知恵、じゃ」

「え?城取(しろとり)って、まさか私達に戦え と?」

 古澤から笑顔が消える。


「戦い? ダメです!いくら戦国時代だからって、戦争なんてオレ達は断固、無理です」

 鷹羽も取り付く島を見せない。


「生徒たちを危険な目に合わせるなんて、冗談じゃない」

 中畑の目が吊り上がった。


「待て待て、そんな話しは しておらんで…少々急ぎすぎた様じゃ、すまなんだ」

 流石は軍師、瞬時に攻め時 引き時を掴む。


「今の話は無しじゃ。 では、次へ参ろう」

 と教師たちに、にこやかな表情を向ける。


「次って、まだ あるんですか?」

 鷹羽は警戒を解かない。


「次の頼み事、というか相談なんじゃが、」

「言葉を変えてもダメですよ。 聞けませんよ…」

「いやいや、軽いことじゃ。そこもとの呼び方の事での。 

今までは皆に合わせて“鷹羽先生”と呼んでおったが、屋敷内の者から、(われ)は あの良く喋れない(ようしゃべれん)導師の弟子と思われておるのじゃ。

まぁ(われ)は、その様な事、気にはせんのじゃが、屋敷内の者らの扱いが、その面倒になるよって… 今から後は“大輔”と、名で呼んでも構わんじゃろうか…」

「…いいですよ。勘助さんはどう見ても歳上ですし。

オレの呼び方なんて、どーせ 軽い事だし…気にしませんから」

  気にしてるじゃん。


「おう、決まりじゃ。 大輔、今後も宜しく(よろしゅうに)な」


「じゃ、僕も“大輔”呼びでいいですか?」

 間髪入れず古澤が乱入。ノリと反射神経は見事である。


「おまえはダメだろう。 歳下だし、腹立つから」


―――――――――

 板垣屋敷での暮らしも十日を超え、生活のリズムが掴めて来た。

 中庭では『城西衆』男子生徒10名ほどと、酔狂な家人数名が、古澤指導の下、エクササイズとも体力測定とも判らぬ運動をしている。

 女部屋では『城西衆』女子生徒6名と中畑が、屋敷の女中に和裁を習っている。

 教師部屋では鷹羽が文机に座り、何やら思案しつつ、記録を付けている。

 板垣屋敷、平穏の日々である。


 そんな平穏を乱す存在が廊下の向こうからやって来る。

 山本勘助と春日昌人である。

 勘助が昌人を従がえ、両名とも左足を引きずって歩いてくる。

 教師部屋を覗き込み、鷹羽の姿を認めるとニカッと笑い、都合も聞かず、室内に入る。


「おう居た居た(おったおった)

 鷹羽の前に座り込む。

 続いて春日も“イテテ”とか言いながら勘助の横に座り込む。

 二人とも左足を投げ出しているので、三角形の様な 妙なフォーメーションである。


 鷹羽は記録付けの手を止め、春日の足を見ながら


「もう歩いて大丈夫なのか?」

「うん。熱は引いてる」

「傷は塞がったのか?」

「うーん。まだジクジクしてるかな。

こっちの薬草使ってるんで、直りが遅いんだって言われたけど、大丈夫」


 山本勘助に目線を移し、微笑みながら

「…で、二人して何でしょう?」


 山本勘助は 春日の頭をポンポンし、

「おう、この坊主だれから軍略を習った(なろうた)のじゃ、大輔か?

中々の軍師の才じゃ」

 とニコニコしている。

 春日は得意げである。


 鷹羽は微笑を引っ込め


「…春日、お前、何をしゃべった?…嫌な予感がする。ちょっとこっち来い!」

 と、春日を横に引っ張った。


「痛い!イタイって先生」

「あ、ゴメン」

 と手を止め、立ち上がり春日の横、勘助から見えない方に回り込む。


「春日お前、確か、ミリオタだったよな?」

「うん!謙信推し!」


 あちゃ~と、両のコメカミを押さえながら


「まさか、戦国時代の推移とか、話して な・い・よ・な」

 と凄む。


「まさか~。 僕だってタイムパラドックス位知ってるよ。このテーマのラノベ、多いから」

「じゃ、何を話したんだ? 勘助さんに」

「うん、西洋の攻城兵器。 “投石器”とか“爆裂弾”とか。

鷹羽先生なら作れるって言ったら、頼んでみようってなってさ(⌒∇⌒)ニコ」


 にこ じゃねーよ。頭を抱える鷹羽。

 そのままの姿勢で


「春日、流れは判ったから、君は部屋に帰っていなさい。

先生はこれから勘助さんと、大人の話をしなくちゃいけないんだ」

「え、僕からも先生にお願いしたい。 作ってほしい物が沢山あるんだ」

「春日~、今はダメだ~。 いいから部屋に戻れ~」

「…判った」

 渋々戻っていく春日。


 文机に座り直し、目の前の山本勘助を睨む。


「生徒達には(いくさ)をさせる気も、見せる気も無いと、申し上げましたよね。

勘助さんも防災サイレンで軍師になれたんだから目標達成でしょ。 巻き込まないで下さい」


 勘助も居住まいを正し、

「その様なつもりでは無いのじゃが…それがじゃのー、まだ、見習いなんじゃ」

 と頭をかく。


「見習い?」

「うむ。有希の一撃で、こうして板垣屋敷には 入れていただけた。

が、晴信様への目通りはまだじゃ。

あの後 板垣様は“軍師を求めておったが、何やら 怪しい巫女に謀られた(たばかられた)”との申され様での。

この勘助が事は、見習いとの事じゃ。

採用、と言うたが手前、屋敷には置くが、軍師としての力を見せぬ限り、晴信様への目通りは叶わんと…」

「わー、予想以上にシビアですね」

「そこもとらを(いくさ)に連れていくは勿論、戦場(いくさば)も見せるつもりは御座らん。

これは勝てると思わせる軍略を 絵に描いて見せれば良いのじゃ」


 部屋に戻った春日を追うように廊下に目線を外し


「昌人の知恵は面白い。じゃが奇想天外すぎて信じられん。

あれが言う武具が本当に作れると見せれば、そこもとらも併せて晴信様直参(じきさん)に成れるのじゃ。

ほれ大輔が言うところの“安全性”が上がるのじゃ」


 勘助は再度 居住まいを正し、鷹羽の目を見つめ


「力を貸してくれぬか…頼む大輔」


 鷹羽は考えこむ。

 勘助さんの言う事も判るが、これ以上関わるのも…


「うーん。オレ一人では回答できません。 皆で相談するので、一両日 時間を下さい」

「うむ、良かろう」 


 ヨイショ、と立ち上がった所で


「おう、そうじゃ、一つ良い知らせがござった。

今のままでは手狭じゃろうと『城西衆』に小屋を建てて下さるそうじゃ」

「それは有難い。…ですが、見習いなんでしょ? オレたちも。

そんなに金 掛けられたら、コワいです」

「あー、それはそうじゃが…“神官どもが屋敷内を走り回り、五月蝿く(うるさく)て叶わん” そうでの、追い出したいのじゃろ ハハ」

「…それはどうも、お恥ずかしい。

生徒達にはいつも“廊下は走るな”と、注意していたのですが…ハハ」


 力無く笑う。


―――――――――

 その日の夕刻、板戸が閉められた教師部屋で教師3名が密談している。

 勘助の依頼を受けるべきか、春日昌人の暴走にどう対処すべきか、小屋新設のお礼はどうすべきか、討議する事が山ほどある。


 まず、第1議案:勘助の依頼対応である。


「理由は判るけど、私達が武器を作るって事でしょ? 抵抗あるなぁ」

 中畑は反対寄り。


「そうですよ。 生徒達にさんざん“ケンカはイケない、戦争は良くない”って指導して来て、今更 どう説明するんですか?」

 お、古澤も反対派か?


「うん、オレも抵抗はある。

ただ、この屋敷から追い出されない為には“軍師・山本勘助”を もっと売込む必要があるのも判る」

 妥協点を探るのか、鷹羽。


「勘助さんは元々、軍師になりたくて諸国放浪していたんだから、実力で成るべきですよ。

私達の未来の知識をアテにするなんて、いい歳のオッサンが恥ずかしい」

 中畑、一刀両断である。


「そうですよ。 生徒達にはさんざん“付け焼刃はダメだ、コツコツ努力しろ”って指導して来て、今更、」

 古澤、乗っかった!


「うん、オレも気にはするよ。 言ってた事とやる事がムジュンするよなぁって。

ただ、勘助さんがオレ達抜きで、ガンガン“軍師・山本勘助”やれたら、オレ達要らない と思われない?」

 お、鷹羽の別視点からの分析が入った。


「…それは、そうかも…」 

 中畑、誘導されるか?


「そうですよ。 僕達あっての“軍師・山本勘助”と見せないと追い出されます」

「…古澤、お前もいい大人なんだから、自分の意見を言えよ。 ったく」

 鷹羽、よく言った!


「でも、でも、ですよ。依頼を受けるにしろ鷹羽先生なんかに作れるんですか? そんな凄い兵器が」

 中畑、論点を変える作戦か?


「あれ、今 “鷹羽先生なんかに”って言った?」

「え、… いや~無意識でしたから。 …言ったかなぁ、言ってない ですよ」

 論点が変わりすぎて、…


「言った、言った」

 古澤の裏切り。 中畑は古澤を睨む。


「春日が喋っちまった“投石器”は物理の初等知識があれば、原理は簡単だ」

 と講義口調になる鷹羽。


「そうそう、デッカイ パチンコみたいなもんだ。 問題無い」

 とパチンコで狙いを付ける動作をしながら、なぜか得意げな古澤。


「…いや、ゴムが無いから、この時代。多分お前のイメージの物は出来ない」

「それ位、私だって知ってます。 梃子の原理ですよね」

 講義に参加する中畑。


「そう、そういうのも在る。だけど、オレが作ればもっと高性能なヤツが作れると思う。

理科教諭を舐めてもらっては困る」

 ヨッ、マッドサイエンティスト!


 ところで…論点は、ずれまくって来たが、戻さなくて良いのか?


「…あれ鷹羽先生は、本音では武器作りたいんですか?」

 違うぞ古澤。 それでは煽りだ。


「率先して作りたい訳じゃない…生徒と自分の安全確保が第一なのが本音だ。

正直、判らんから、相談している。

…古澤先生、まず君から意見を聞かせてくれ」

 おー、軌道修正された。


「えっと…僕の目標は、“人生を安全に楽しむ”です。

なので自分の体を最高の状態に保つ為のスポーツ医学や、ライフセイバー技術、救命術を学んだんです。

この知識や技術で生徒や周りの人達が喜んでくれたら、すごく楽しい。

こっちの時代は元の時代より、役立ちそうだとは思えていたので、今ワクワクしてます。

(いくさ)は望んでいないけど、怪我人の救護、治癒後のリハビリは任せろと思ってました。

僕はフィジカルシンキングなんで、理屈や分析は鷹羽先生にお任せします」

 え。やればできる子 だったの古澤君


「ちょっと、びっくりした。

…私も決めました。

いつ帰れるか判らない状態で、今の安全を守る為なら、勘助さんの願いを聞いてあげましょ。

私は音楽教師なので、兵器製造は鷹羽先生にお任せします」

 「オレもスゲェびっくりした。 けど、スッキリした気がする。

方向性は“今の状態維持の為、兵器製造の依頼を受ける”でいいな。

頑張るのは、…オレだけみたいだけど」


 次、第2議案:春日昌人の暴走対応


「今まで、ふわっと みんな判ってるだろ? で 来ていたけど、ルール決めないとマズイと思うんだ」

「春日君て、学校では引っ込み思案で、ほとんどしゃべらない印象でしたけど…

大怪我して、おしゃべり菌に感染しちゃったのかしら」

「おしゃべり菌って、面白いじゃないですか」

「でしょ? 巴ちゃんも感染してるわね、きっと」

「あー、ご歓談中悪いが、進めていいか?

自分も含めてだが、未来の事は見せるな、しゃべるな と言いても、判断に困る。

既にバスだの制服だの見られているし、日常会話の中に未来情報が紛れている事もある。

生徒に何ていえば、伝わるんだ?」

「言葉は要らない。体で伝えろ! …なんちゃって」

「ポカリのCMか! 却下だ」

「実名、土地名は言わない。 それから、予想としてしゃべる と言うのはどうでしょうか」

「…政治家の答弁みたいだが、良さげだな。 よし、明日の朝礼で伝えよう」


 最後、第3議案:小屋新設のお礼


 “しらばっくれる”で、意見の一致を見た。


―――――――――

 方針が決まった所で 鷹羽と春日、サポート明野 のチームで、“ボクの考えた最強の投石器”作りが開始された。

 教師部屋に籠り、数多くの投石器のアイデアを吟味し、図面に引いていくのだが、慣れぬ筆での製図は、貴重な時間と彼らの体力を奪っていった。

 また、春日はカッコ良さにこだわり、明野は実用性にこだわった為、線1本引くのにも数時間を要した。

 設計は遅々として進まなかった。

 最終的には鷹羽設計主任が メインコンセプトを決め、それに沿ったラインでまとめる方針となった。

 鷹羽は熟考の末、メインコンセプトは 強いインパクトが期待できる“とにかく強そう”に決定した。

 鷹羽の脳内には中島みゆきの“地上の星”が響いていた。

 …判るかな~


 1か月後、板垣屋敷で城攻め用新兵器のプレゼンが、板垣信方と側近向けに開催された。

 鷹羽は密かに燃えていた。

 思い返せば、生徒とこんなにも集中して課題に取り組んだ事は、初めてだったかもしれない。

 そして学生の頃、父親から言われた言葉が蘇ったのである。

 “大輔、やるんなら、徹底してやれ。 それが鷹羽家の家訓だ!”

 その時 初めて聞かされ、父親もほろ酔いで口走ったので、気にも留めずにいた言葉であったが、突然、思い出したのである。

 OK、徹底してやってやろうじゃないか!


 中畑にお願いして今日用に、墨染めの作務衣を新調した。

 髭もおしゃれ無精に整えた。

 気持ちはカリスマプレゼンテーターのスティーブジョブズである。

 いざ、プレゼン!


 広間中央に大きな紙に描かれた“城西式投石器”の設計図が置かれ、周囲に板垣信方と数人の側近が取り囲んでいる。


 図面はメインコンセプトを体現した荒々しいタッチで描かれており、素晴らしい出来と鷹羽は自負していた。

 力強さと勢いが十分に伝わり、見る者の魂が震えるハズである。

 が、先程から設計図を覗き込んでいる板垣たちの反応は、薄い。


 表向き 本日のプレゼンの主催者である 山本勘助は、顔に笑顔を張り付けたままである。

 ここ数日、大輔の様子がおかしかったのだが、板垣様とのスケジュール調整で忙しく、最終確認の手が回らなかった事が悔やまれる。

 鷹羽が自信満々だったので、そのまま 持ち込んだが、製図技術が無く、太筆フリーハンドで書いた図は、勘助がひいき目で見ても、酔っ払いが描いた様な 残念な図であり、説得力は ない。

 やはり この絵は差し替えるべきだったのだ。


 だが、想定外の事が起きるのは 戦では当たり前である。

 この程度で狼狽えては、軍師失格である。 

 ここは、鷹羽の知識溢れる解説だ。 それに賭けるしかない。


 顔に笑顔を張り付けたまま

「大輔、絵図は堪能いただけた様じゃ。今度は どの様な働きをするか、ご説明 致せ」


「OK 喜んで」

 …スタイリッシュ居酒屋か。


「この“城西式投石器”は コンパクトにして堅牢。 飛距離、命中率ともに驚異的な性能を持つ、投石機業界に 一石を投じる、画期的な兵器です!」


 鷹羽はジョブスが乗り移ったかの様に、広間を歩きながら、微笑み、語りかける。

 それにしても、投石機業界って、ナンダよ。

 しかし、板垣様と側近たちの頭上には?しか浮かんでいない。

 当然である。


「…繰り返しとなりますが、複数の竹の弾性を効率よくカタパルト、あ、この添え木ですね、このカタパルトに伝えるのは、滑車とギア? こちらの言葉では…歯車? をブロック化し、コンパクトにまとめました。 以上概略ですが、質問などあれば、お答えいたします。」


 どうだ! やり切ったぞ。と 満足げな鷹羽大輔。

 勘助は先程から床を見たまま、顔を上げなくなっている。


「…あーその、なんじゃ…」

 流石、一軍を率いる将である板垣様が 重い沈黙を破り、発言する。


(なんじ)の言葉は初めて聞くモノが多く、ようわからん。誰ぞ判るよう言うてくれんか」

「我らもその、“とーせきき”なる物を知らず、何に“魂魄を込めた”ことやら」


 周りの側近も、どこから手を付けて良いかすら判らない。


「いえいえ、魂魄では無くですね、コンパクト…」

 にこやかに回答する鷹羽であるが…


「これ勘助、お主の郎党であろう。 判る様に語らんか」

「…あい済みませぬ。 しかしながら かの国の言葉ゆえ、日本(ひのもと)には無い言葉も御座りまして。…さすれば、実際に作った物をご覧いただくのは如何かと…」

「おう、そうせよ。 実物を見た方が良く判る(ようわかる)わい」


 もう、理解しようとする努力は、放棄された。


―――――――――

 教師部屋である。

 ぐったりした鷹羽、はしゃいでいる春日、冷静な明野が座っている。


「ダ~、疲れた。

日常会話は何とかなって来たから、自信を持って堂々とやれば行けるかと思ってたが、まったく通じない。

ってか、単位の変換しながら、言葉の変換もして、理解したかどうかの表情まで読める訳ないって。

だろう?」

 と明野に同意を求める。


「それをやるのが“教師”だと思ってました」

「うわー、嫌いだー。 正論しか言わない奴って嫌いだー」

「それよか鷹羽先生、作るんでしょ。すぐ始めよ」

 はしゃいでたのはこれね。 


「よいか」

 と、これまた疲れた声の勘助が入って来た。

 “勝ち負けは兵家の常”軍師たる者、負けた者を責めても虚しかろう。 前向いて行こう!


「…取り敢えず、“投石器”試作の裁可は貰った(もろうた)

が、如何(いか)ほど掛かるか、尋ねられ申した。

物の値段など、大輔が判ろう筈も無し。

如何申すかの、ふう」


「そうですね。物の値段は誰に聞けばいいのかなぁ。町の職人かなぁ

使う素材はフレーム部分の硬い木、竹、滑車、スットパの金具、ギアにロープ、丈夫なワイヤは手に入るかな…」

「それじゃ通じないよ、先生…」

 明野もあきれた。


第4話・城西衆 完


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