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第36話・追跡

いよいよ、本格的な追跡に入った美月たち。

手掛かりは繋がるのか?

そして読者の興味は続くのか?

作者も読者もドキドキである。

戦国奇聞!(せんごくキブン!) 第36話・追跡


 ここは駿河 安倍川沿いの脇街道である。

 中畑美月たちが草薙紗綾を連れ去ったと思われる一団を追い、駿河の暴れ川を遡上しているのだ。

 先頭で痕跡を追うのは鷹匠兼 甲陽流忍術の家元、禰津神平である。

 捜索隊の陣容は、禰津神平、真田幸綱、古澤亮、坂井忠 そして 中畑美月だ。

 これに手頃な爺さんを加えれば、パチモンの水戸黄門漫遊記が完成である。 (時代が違うだろ)

 竜爪山(りゅうそうざん)を右手に見て左岸を進んでいた一行は、津渡野(つどの)近くの小さな(ほこら)で休息を取っていた。

 真田幸綱が握り飯を頬張りながら神平に話しかけた。


「それにしても思った(おもうた)以上の出来であったな、施菓子会(せがしえ)

「うん?施餓鬼会(せがきえ)? そんな季節か?」

「そうではないわ。 “せ がし え” じゃ。 尼さんに山ほどの菓子を振舞った(ふるもうた)奴じゃ。

駿府では皆、施菓子会(せがしえ)と呼んでおる。 巧い事言う物じゃ、ははは」

「…笑い事では無かったわ。儂も忠殿も数多(あまた)の尼に囲まれて、地獄か極楽か判らんかった…」

「いやいや、その甲斐あって色々と手掛かりが掴めたではないか、そうであろう坂井殿」

「…オボエテイナイ」


 こうして草薙紗綾を追えるのも、禰津神平苦労の結晶 “施菓子会(せがしえ)” の成果(製菓?)である。

 “施菓子会…なんて聞いたこと無いぞ?”  と思った読者さん。 よろしい、ご説明しよう。

 開催までの経緯は前話を見返していただくとして、会場の様子は以下の有様であった。


―――――――――

 まず 今川屋敷近くの浅間(せんげん)神社の神宮寺・玄陽院(げんよういん)に、駿府近在の尼、200人余りを招いた。

 会場の斡旋、招待客のセレクトは寿桂尼(じゅけいに)様の全面協力である。

 尼である寿桂尼様も嬉々として参加されたのは、言うまでもなく、招待されワクワクドキドキの尼さんに、見たことも無い様な菓子が配られ、御礼の会(施菓子会)が始まった。

 普段は戒律を重んじ、慎ましさを旨とする尼さんにとって、高級食材の砂糖をふんだんに使った “甘露” な菓子は、正しく極楽 であった。

 そして脳内幸せ物質、ドーパミン出まくりで、飲酒以上の酩酊状態となった尼さんの間を、菓子が盛られた大盆を捧げ持った禰津神平と坂井忠が練り歩き、中畑美月がお菓子の御代わりを配りつつ お話するのである。

 “御代わりいかがですかぁ” と声を掛ける美月に “お名前は?” から始まり、“お肌きれいね”、“いえいえそちらこそ”、“あなたも尼?”、“巫女ですぅ”、云々(うんぬん)かんぬんさのよいよい であった。 (分かるかっ) 


 この会は国主 今川義元公のご母堂、寿桂尼様 直々の呼びかけの催しで、寿桂尼様も大層(はしゃ)いで居られる。

 多少 羽目を外してもOK と、判断した尼さんは まるで自白剤を貪り食った様な状態で、美月の質問には期待以上の情報を答えたくれた。

 その結果、集まった紗綾関連情報は次の物であった。

  手掛かり1:草薙紗綾を連れ出したのは山伏の集団。

  手掛かり2:山伏の恰好はしていたが、目付きが悪く、きっと偽物。

  手掛かり3:山伏の言葉に山城(京都南部)に近い訛りがあった。

  手掛かり4:紗綾と思える女子を囲んだ山伏が安倍川を上って行ったのを見た。

 また、関係は定かではないが次の雑多な噂話が収集された。

  噂1:山村の(きこり)が山伏に雇われた。

  噂2:山村で眼が光る天狗が目撃された。

  噂3:駿府でも皿を巻いた天狗が目撃された。

  噂4:近隣の村からも鍛冶職人が消えた。

  噂5:駿府と町から刀鍛冶が消えた。

 最後に、振舞われた菓子への賞賛の紹介で会場レポートを終了しよう。

  賞賛1:余りの美味しさに涙が止まらない。

  賞賛2:この菓子が食べられるなら戒律など糞くらえだ。

  賞賛3:先頃異国人から献上された毬栗(いがぐり)の様な菓子より美味しかった。(寿桂尼様からのお言葉)


 膨大な経費が掛かった施菓子会(せがしえ)でこの程度かと思う方も居るであろうが、雪斎党の妨害が予想される中では、期待以上と言えるであろう。

 何より、施菓子会主催の美月は 鷹使いのワイルド系武士(もののふ):禰津神平と、惣髪(ポニーテール)の若侍:坂井忠を従がえた姿が大いに受けた。

 特に 何か自分に重ねる所が在ったのであろう、寿桂尼様は大絶賛で、“甲斐国一の巫女” の称号& “寿桂尼様への目通り自由” の特権を手に入れたのである。

 『大成功』と、言う事で 話を(ほこら)前に戻そう。


―――――――――

 幸綱は握り飯を食べ終わり、寛いだ様子で古澤に喋りかけた。


「いやぁ、巫女殿の晴れ姿、この目で見たく(みとう)御座ったなぁ。古澤殿はご覧になったのであろう? 如何で御座ったか?」

「は?僕は神平さんと菓子職人さんに こき使われてましたよ。台所でお菓子が出来上がると広間に運び、食べ終わった(ちまき)の笹やら皿やらを下げて…大変だったんですから~。

そう言う真田さんはどこに行ってたんです?なんか逃げ足早いんだもんなぁ、 痛っ」


 美月が後ろから古澤の足を蹴った。推しへの批判(ディスり)は見逃さないのだ。


「はは、逃げた訳では御座らぬぞ。玄陽院げんよういんの出入りを見張って居ったのじゃ。

寿桂尼様肝入りじゃで、雪斎党は邪魔建てできぬが、放っておくとも思われん。

中の様子を探り、どこぞに知らせに行くじゃろうと思うての」

「なーるほど。 で、来てたんですか藤堂先生とか」

「それは、見分けが付かぬで判らんが、怪しい奴柄があちこちへ走って行ったわ。それを我の手の者が付けて行き、目印を置いてきた。

施菓子会で得た手掛かりがは貴重じゃ、が 十分吟味せねば役に立たん。

したが、派手な仕掛けは雪斎党を炙り出すのに役立ったという事じゃ」

「オーそこまで読んでたんすか、ホンモンだ!」

「…?何の門かは知らぬが、ほれ この祠の中にも、書付が有るじゃろ?

この向こう岸、津渡野(つどの)に、あ奴等が何やら集まって(あつもうて)在ると、書いてあるわ。

尻尾を掴んだ様じゃ」

「ワーオ、さっそく見に行きましょうよ」

「駄目じゃ、川を渡るのは目立つ。 奴等も其れなりに見張って居ろうから、川向うは監視も強かろう。

暫くすれば、先に潜った手の者が帰って来るじゃろ。その者の知らせを聞いてから、再度 策を練るが良かろう。

取り敢えず、近所に身を隠せる所を探すぞ」


―――――――――

 身を落ち着ける場所を探し、上流に進むと大樹が見えて来た。周りの木々の中でも一際大きい(くすのき)である。

 大樹の側には大概、(やしろ)がある。

 近づくと予想通り、神社があった。郷島浅間神社である。

 ここで身を休めつつ、手持ちの情報精査を行い、敵の意図を探ってみる事にした。

 幸綱と神平だけであれば、躊躇なく津渡野(つどの)に潜入するのだが、危機意識も個人戦闘力も低い城西衆は、危険地帯には連れて行きたくないのが、幸綱の本音である。

 が、彼らだけを残していくのも度胸が居る。

 向こうに何があるか、多少なりとも予測がつかねば 作戦が立たない。焦りは禁物である。

 (やしろ)内が無人であるのを確かめ、幸綱が皆を集めた。


「さて、皆に訊ねるが、相手の山伏どもは何者と見るかな?」

「えー?山伏に化けるのは忍者ってルールでしょ?違うんですか?」

「聞くまでも無いよね。道筋にマキビシが撒かれて無いから、チョット迷うけど!」


 坂井と古澤が即答し、中畑も当然 の顔で頷いて見せる。

 彼らの言動に神平は眉間を揉みながら呟く。


「何やら城西衆の方々は、透波(すっぱ)に対して思い込みが強く(つよう)御座るな…

したが尼様の証言 “山城辺りの言葉訛り” と言えは伊州も似ておる…、伊賀者と思うて間違い無かろう…」


 幸綱も頷き、次の問いかけである。


「ここまで紗綾殿を連れて来て、何をするつもりじゃろう?」

「藤堂が草薙神社の巫女装束を持ってったんでしょ?普通に考えれば、紗綾に着させるよね?」

「うむ、紗綾殿を巫女に仕立てて何をするのじゃ…」

「…」


 …行き詰る。

 と、坂井が意を決した様に立ち上がり


「何を企んでるかなんて、どうでもいいよ!その津渡野(つどの)に乗り込んで 紗綾を取り返せば良いだけだろ!」

「気持ちは判るが落ち着きなされ。紗綾殿がどちらに居るか、まだはっきりせん」

「また神平さん…じゃぁどうするのさ!」


 と、部屋の奥で戸が開く音がして、浄衣(じょうえ)を着た(じいさん)が顔を覗かせた。


「何やら物音がすると思った(おもうた)ら、誰じゃお主等は…狐が狸か!」


 幸綱が咄嗟の笑顔を(じいさん)に向け、(ほが)らかな声を掛けた。


「これはこれは…この(やしろ)宮司(ぐうじ)様か?

勝手に入り込み申し訳ござらぬ。 儂らは旅の途中で、怪しい者では御座らぬ」

「…わしゃ、禰宜(ねぎ)じゃ」


 禰宜(ねぎ)(じい)は、おもいっきりの疑いの目で幸綱たちを睨んだ。

 旅の者 と言われても、幸綱たちは各人が醸す空気が馴染んでおらず、確かに疑わしい。


「偽りを申すな!最近 この辺りはお主等の様な怪しき者が跋扈しており、村人も怯えて居るのじゃ!早々に立ち去って貰おう!」

「いやいや、偽りでは御座らぬ…美月殿、証拠の品、手形をこれに」


 幸綱は美月に手を差し出した。

 美月は思わず頬を赤らめ…て、もうそれはいいから!

 美月は懐から丁寧に折り畳んだ証文を取り出し、幸綱に渡した。

 施菓子会の際 “甲斐国一の巫女” の称号を得たのは前述の通りだが、多幸感に包まれた寿桂尼様におねだりし、ちゃっかり駿河の国フリーパス、 通行手形を頂戴していた。

 その上 神社仏閣は失礼無く(もてなす)事 の但し書き付きだ。


「ひやぁ…寿桂尼様お墨付きの巫女様で御座いましたか! 恐れ入りましたぁ!」


 腰を抜かしひっくり返った禰宜(じいさま)を助け起こす幸綱である。


(ぐう)せよ と言われても、見た通りの小さき山村、何の おもてなし も出来ませぬで…そうじゃ、ここのつい 目と鼻の先に、先だって雪斎様が開山したばかりの寺が御座います。 そちらでしたらこの様な形ばかりの(やしろ)と違い、馳走していただけると思います。是非、そちらに…」

「!禰宜様、今 なんと? 雪斎禅師が新たに寺を建てたと?」

「は?はいはい、左様で御座いますが…何か?」


 幸綱と神平は思わず顔を見合わせた。 …怪しい、怪しすぎる。

 幸綱は強張る顔を無理やりほぐし、却って怪しい笑顔になりつつ


「…禰宜様、我等は別に腹も減って居らんで、ここで十分じゃ。

…そうか、雪斎様はまた、寺を開きなされたか、頭が下がるのう。…して、それはいつ頃のことじゃ?」

「そうさなぁ、半年ほど前じゃったかのぉ…。村にも何も知らせが来なか(こなんじゃ)ったで、気付いたのはそれ位じゃ」

「ほぉ、されば禰宜様も、その寺には入られた事は無いのかな?」

「実はそうなのじゃ、何やら物々しいと言うか、寺のくせに人を寄せ付けぬと言うか…あ、悪口では無いぞ…わしゃ、知らんぞ。

…招かれて居らんで、行っても居らん。それだけの事じゃ。

…巫女様は寿桂尼様の手形をお持ちじゃで、訪ねればもてなしてくれる筈じゃ」

「あ、いやいや禰宜様が何を申されたかは忘れましたでご安心を…では、訪ねて見まするか。

して、寺の名前などはご存じか?」

「うむ、その程度は…確か、ひめたるが ある と書いて “秘在寺(ひざいじ)” と申したかな…」

「!?!」


―――――――――

 幸綱はお世話すると張り切る禰宜(じいさま)をなだめ、丁寧に礼を言い帰って貰った。

 思いも拠らない方角からトンデモナイ情報が降ってきたのだ。

 少々興奮気味に(やしろ)内で作戦会議を開く幸綱たちである。

 笑う様な怒る様な表情で神平が口火を切る。


「こりゃなんじゃ幸綱殿。 “秘在寺” じゃと…ここで隠し事して居るぞ と申しておるのか?」

「…その様な阿保な事、雪斎ともあろう人が…まさか であろう?」 (※1)


 古澤が今一判っていない感じで確認する。


「えっと、その “秘在寺” に紗綾ちゃんが居るって事です…か?」

「そうじゃ!否そうでは無い! それを揉めて居るのじゃろうが!」

「あぁ、ですよねぇ、良かった…追い付いた。 で、どっちなんです?」

「じゃからぁ、はっきりせんのじゃて…」

「あの、私も参加していいですか? 私はそこに紗綾ちゃん居ると思うんですよねぇ。雪斎さんってお坊さんでしょ?やっぱり隠し事は良心が痛むんですよ…で、つい ポロッとそんな名前付けちゃう…てね」

「あぁ美月殿、雪斎様は冷徹な軍師でもあるのじゃ。 その様な阿保な訳が…」


 喧々諤々である。

 坂井がおずおずと手を挙げ、大人たちの口を止めた。


「さっきも言ったけどさ、その “秘在寺” に乗り込んで見ればいいんじゃないの。津渡野(つどの)と違って、川 渡らなくて良いんでしょ。 なら、隠れて行けるじゃん」

「…成程、(もっと)もじゃ。幸綱殿、そろそろ辺りも暗く(くろう)なって参った。見て来るか…」

「じゃ、俺も」


 と立ち上がろうとする坂井を慌てて止める幸綱である。


「ここは手慣れた儂と神平殿で探ってくるで、城西衆はこちらで待って居れ」

「でも、紗綾を見付けるのは、俺の方が確実だし、紗綾を安心させるのも俺が居ないと無理っしょ?」


 坂井の意見具申を受け、幸綱と神平は顔を見合わせた。

 あれこれ天秤にかけた上で神平が真剣な表情で坂井に言って聞かせた。


「確かに忠殿を連れて行った方が早い…刻もよし、付いて参れ。

したが勝手な事はスルでないぞ、儂の言う事は必ず聞くのじゃぞ」


 正体の知れぬ雪斎党ではあるが、いつまでも手を(こまね)いている訳にはいかない。

 外は暮れなずむ逢魔が刻だ。風景に紛れ、様子を窺うには良い時刻である。

 禰宜(じいさま)の話ではここから 目と鼻の先、まずは  “秘在寺” に何が在るかだけ、探りに行くのだ。

 と、言うところで 話を引っ張るようで申し訳ないが紙面が尽きた。

 (はや)る心で次号を待て。


 ※1:秘在寺なんて言う怪しげな寺、作り話と思ってるであろう?しかし、なんと実在するのだ。嘘だと思ったらググってご覧。


戦国奇聞!(せんごくキブン!) 第36話・追跡 完



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