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第28話・進路相談と将来設計

戦国奇聞!(せんごくキブン!) 第28話・進路相談と将来設計


 駿河で遭難した城西学院生徒を救出し、甲斐への帰路につく勘助一行であったが、鷹羽は胸を潰される思いであった。

 引き取った女生徒は痩せこけ、虚ろな目で表情が無く、近くに男性が来ると身を固くした。

 明らかにPTSD(心的外傷後ストレス障害)を負っている。

 何があったか喋ってくれないが、この時代の無法さを知っている鷹羽は、何をされたか 凡そ想像がついた。

 面識のある鷹羽からも(のが)れようとする彼女たちを見て、改めて保護を放棄した香山らへの怒りが沸き上がった。


 しかし問題は帰路のメンバーであった。

 鷹羽に勘助に教来石に忠信…むさ苦しいオッサンしかいない。

 男に対し恐怖心を持った女生徒をケアする女性スタッフが皆無である。(…帰りの事考えてなかったのかよ)

 そんな勘助たちを救ったのは吾介であった。

 正確には吾介の家族であった。

 勘助の従者として庵原館から出向していた吾介であったが、実は駿河に家族が居たのである。

 板垣屋敷に勘助を送り届けたら駿河に戻るつもりであった吾介だが、甲斐の城西屋敷が気に入り、家族を甲斐に迎える事を庵原忠胤(いはらただたね)に願い出ていたのだ。

 好々爺の忠胤は喜んで、色々土産を持たせ 吾助の女房「たね」と3男2女の子供たちを送り出した。

 結果、ころころと良く笑い 面倒見の良い「たね」さんが、4人の女生徒をケアしつつ、甲斐へ向かったのであった。


―――――――――

 ここは城西屋敷、鷹羽の部屋である。

 古澤と中畑に駿河での顛末を報告していたが、一番の議題は雪斎党(香山、藤堂)の件である。

 以前からぼんやりと危惧していた “歴史への干渉” を、やる気満々な(やから)が出現したのである。

 それも身内とも言える “城西学院” の教師であり、天下取りの誘いまで受けている。

 これは山本勘助や武田晴信など こちらの世界の人にいきなり相談できる話ではない。

 少なくとも鷹羽たち教師間では彼らの企みや野心、危険度を共有し、付き合い方(協調するのか、対決するのか)を決めておかねば、これから城西衆の進むべき方向がバラバラになってしまう。

 それは やっと手に入れた武田家からの信頼を失い、自分や生徒の安全を脅かす事を意味しているのだ。

 鷹羽から駿河での交渉経緯を聞き終わった中畑が唖然としつつ


「香山教頭ってルール命の堅物だと思ってたんですけど…完全なヴィラン(悪役)じゃないですか。

それに藤堂先生も、もっと まともな人だと思ってました」

「全くだ。 オレもあいつ等の話を聞いて言葉を失った…」


 古澤は頷きながら


「美月先生は付き合いが短いからね、あの人たちの本質は見えてなかったかもねぇ」

「…偉そうに。古澤だって付き合いの長さは中畑と大して変わんないだろ?」

「いえいえ、付き合いは年数ではないんですって、要は観察眼ですって」

「観察眼?お前、観察してたの?」

「教頭先生はですね、ルール命って訳じゃないんですよ。

生徒会から出された校則改革案には見向きもしなかったのに、次期PTA会長が校則改革を取り上げた瞬間に賛同って言うか、絶賛していたんですよ…実は。

まぁ理由は学内での権力維持の為、って噂でしたけど。

藤堂先生はですね、めっちゃギャンブル好きですよ。職員室では隠してましたけど、帰りの電車では競馬新聞みたいなの常備でしたから。

“狙えサヨナラ満塁ホームラン!” って口癖でしたもん」

「…そうなの?なら、キャラ変した訳じゃないんだ…付き合いの年数はオレが一番長いけど、ぜんっぜん 知らなかった…」


 古澤の話を聞き、鷹羽が唖然とする番であった。

 鷹羽の表情をチラ見した中畑が気を利かせ、


「しょうがないですよ…鷹羽先生は理系だから、人に興味が無いのは…」

「…慰めありがとう…でもそれ、教師としては致命的な気がする」

「あ…」


 気まずい沈黙を破り鷹羽が話を再開した。


「キャラ変だろうと本質だろうと、どっちでも良いんだが、藤堂先生の日本史知識とギャンブル好きの組み合わせは、こっちの世界では かなり危ない気がするんだ。

口振りからは天下取れるのは当然、みたいな感じがしたんだが…

歴史に強い中畑に聞きくけど、藤堂先生が何を狙ってるのか、当たりが付くか?」

「わたし、歴女だって言ったけど、歴史に強い訳じゃないんです…真田幸綱様と真田一族とその周辺…みたいな狭~い所しか、知らないんです。

だから、藤堂先生が何を狙っているのかは、サッパリ…ごめんなさい…」

「そうか…別に謝る必要はないよ。 何か思いついたら教えてくれ…」

「あっ、僕、思い付いたんですけど…言っていいですか?」

「ん?意見はオープンだ。聞かせてくれ」

「専門の藤堂先生ほどは詳しくは無いですけど、僕らだって学生時代に日本史は学んでいる訳ですよ!」

「…まぁそうだけど?」

「なら、僕らが知っている知識で先手を打てるんじゃないでしょうか!」

「…ちょっと何言ってるか判らないが…具体的にどう 先手を打つんだ?」

「えーと、戦国時代を終わらせたのは誰でしたっけ?」


 自分の知識に自信のない鷹羽は中畑に視線を送り、促された美月が答えた。


「全国制覇したのは、豊臣秀吉 ですね」


 古澤は嬉しそうに手を打って


「そう、それ、ヒデヨシ! だから うち等が…例えば、鷹羽先生が向こうより先に “トヨトミヒデヨシ” を名乗ってしまえばいいんです」 (どや!)

「?…やっぱり何言ってるか判らないんだが」

「ですからぁヒデヨシが天下取るのは歴史的必然なんでしょ?だったら藤堂先生が気付く前にこっちがヒデヨシになってしまえば、天下は後からついてくるでしょう!」 (再びどや!)

 

「…お前、本気で」

 “言ってんのか?” と聞こうとした鷹羽は、迷いの無いキラキラした古澤の瞳で理解した。

 “わー本気なんだぁ” と思考停止し言葉を呑む鷹羽であった。


 隣の中畑は古澤の確信に満ちた物言いに流され、


「お、おぉ、なるほど…」


 その声にハッと我に返る鷹羽。


「いやいや中畑、なるほど じゃないから。君たち随分前に話た “多次元宇宙” とか覚えて…いないよなぁ」

「私は鷹羽先生より晴信さんに名乗って貰った方が説得力あると思うな!

あっ でも、徳川家康の方が究極じゃないかなぁ。それなら真田幸綱様に名乗って貰っちゃおう!」

「おっなるほど。 じゃ僕は ショウトクタイシ 名乗っちゃおうかなぁ!」

 

 鷹羽は暴走しだした二人に手を突き出し


「ストップ! やめい、ふたりとも。

なんで なりたい人選手権 になってるんだ。

…古澤先生、貴重なご意見 ありがとうございました。

ただ不採用だ。 確証は無いが、名前が歴史を作るんじゃなくて、歴史を作った者の名が残るんだと思う。たぶん。

…観点を変えよう。今川家がやりそうな事を考えてみよう。

そう言えば 中畑、今川って強いのか?」

「えーとですね…今川義元は強かったみたいですよ。上洛途中で信長にやられちゃったのは、大番狂わせって言われたから、周りも想定外だったみたいなので…織田より強いって評価でしょうね…」

「え?美月先生、今川は信長と絡むの?」

「え?古澤先生は桶狭間の戦いって、知らないんですか?」

「エ…いやだなぁ、知ってますよ桶狭間。 ただ 今川と信長が絡んでいるってのは知らなかっただけで…」

「…それは知らないって言うんですよ、普通」


 鷹羽は眉間を揉みながら二人の会話を止めた。


「中畑先生、ありがとう。オレ達では藤堂先生には(かな)わないのが良く判ったから もういいよ…

えーと、議題を変えよう。香山教頭からの誘い、駿河に合流する案 については、どう思うかな?

駿河の方が海もあり、裕福な感じだし、勘助さんの叔父さんは良い人だ…」


 安定性を求め、駿河移住に賛成する意見もあるのでは…とも思っていたが、古澤が即答した。


「有り得ないでしょ!甲斐での人間関係が出来ているのに。

それに僕、実は 教頭 大っ嫌いなんです」

「…説得力はスゴイあるけど、もう少し色んな観点から…」


 中畑も古澤の意見に盛んに頷きながら


「私も嫌です。駿河から取り返した子たちを見れば判ります。雪斎とかいう坊主、ロクなもんじゃないです」

「…反論する訳じゃないけど、色んな可能性をだな…」

「じゃあ 鷹羽先生は駿河に行きたいんですか?」

「いや、全然 そんな事は言っていない…ただ、これからの安全保障なんかを考えると、重大な進路決断な訳だし…充分に検討して納得できる理由が…」

「甲斐を推すのは幸綱様が居るから、駿河が嫌なのは教頭が居るから、です!

充分な理由じゃないですか。

鷹羽先生は女の直感を信じればいいんです!」

「…ハイ」


 と、言う事で  城西衆の進路相談は終了した。


―――――――――

 城西屋敷、応接室である。

 武田晴信向けに最重要事項の報告が行われている。

 武田家首脳への報告は勘助や甘利忠信から一通り済んでいるのだが、雪斎党(香山&藤堂)とのやり取りは未来人 鷹羽しか理解しておらず、また報告されても内容を理解できる人間は限られる。

 そこで城西衆の秘密を知る者、晴信と駒井への報告が 別途 城西屋敷で行われるのだ。

 雪斎党関連で鷹羽に対し晴信から核心的質問が飛んだ。


「…で大輔、その香山と申す者は、いったい何の教授なのじゃ?」

「専門は英語…遠く南蛮のそのまた先の国の言葉の教師です。 今の所 こちらの世界では全く役に立たない知識です。

が、その者の能力はそこでは無く、人の意見をまとめると見せて、自分の思う方向に誘導する力ですね。

調整力というか丸め込み力と言うか…」

「ふむ、勘助の様な者じゃな…」 


 勘助が思わず嫌な顔をしたが、晴信はそれに気づかず質問を続けた


「では藤堂とか申す者は?」

「…日本史、…国史っていうんですかね、この国の歴史の教師です。

…そして天下取りを狙っています」

「ほぉ、それはおもしろいの。…天下の趨勢、そして我らの行う事を前もって知って居る訳じゃな?

そして天下取りか…ハハ、その様な物 最近では腕に覚えがある武芸者でも口にして居るがな。

…歴史の知識であるか。成程、儂が平氏の世に行けたとして、清盛入道相手に頼朝公を出し抜き 天下が取れるか?と言う事か…おもしろいの。

…したが大輔、其方(そなた)も国史を知って居るのじゃろう?儂に天下を取らせるのは簡単か?」

「…いやぁ、私にはそこまで歴史の知識はありませんので、当てにならないですね」

「ふふ、正直者じゃな。

儂も唐天竺の歴史書は色々読んで居る。そこで気付いたのは 人は時が経っても大して変わらぬ と言う事じゃ。

こうして大輔と語り、五百年の時が経っても、人は神に成らぬ事が判り、その考えは確かになった。

その藤堂とかは人であろう? それに雪斎党は己が力では “飛丸” を作れなかったのであろう?

その程度の力ならば、左程に恐れる事もなかろう」


 晴信は最近蓄えだした髭を撫でながら言葉を終えた。

 その言葉に改めて、なるほど…と、鷹羽は納得した。

 知識があっても技術がなければ夢想と変わらない事は良く判っていた。

 香山たちが自分にアプローチして来たのも、科学の “技術” を欲しての事なのだ。

 そして技術が無いと判断された人間がどうなるか、明らかだ。

 駿河合流の提案には乗らない と言う城西衆の決断は、絶対の正解なのだ。


 さて “であるならば” と鷹羽は考えた。

 駿河合流しないと言う鷹羽たちの決断は、いづれ 今川と何らかの対立が起きる事を意味した。

 そして現在の国力は 駿河 > 甲斐 である事は明白であり、まともにぶつかれば武田は大ダメージであろう。

 とすれば、早くビュンビュン丸を上回る兵器か、明確な抑止力を用意しなければならない…

 もはや “歴史への干渉” などは気にしていられない。

 そこまで考えを巡らせた時、いつも沈着冷静な駒井が横手から声をあげた。


「されど御屋形様、雪斎殿が目をかけているとすれば、彼等は侮れない力があると思って居らねば、判断を誤まりますぞ。 そうであろう、軍師殿?」

「左様! 我らの城西衆と同じく、彼らも先の世の知恵を持って居る。闇雲に恐れる事はありませんが、警戒は怠れぬ奴柄(やつがら)ではありますな。

まずは十郎兵衛殿に雪斎党への監視を強くして貰わねばならんでしょう」

「なれば、遠からぬ将来に向け、国内では何をなすべきと思われるか?」


 鷹羽は “わっすげー、今 考えてた事だ!心 読まれた? 駒井さん異能者?” と驚嘆した。

 彼の眼には駒井が メガネのフレームをクイッと上げる、テレパスに見えた。 (いや、皆考える事は一緒だから…)

 そして駒井の問いかけに勘助が用意していた様に、すらすらとリクエスを出し始めた。 (…この二人、やってんなぁ)


「されば 飛丸の増産、雷玉製造の再開、竜弾に続く砲弾の開発が早急じゃ。

さすれば、今川が飛丸を作っても(こしらえようとも) おいそれとは追い付かれぬであろう。

それと…伝令が事 もう少し 何とかならんかのぉ大輔…」

「ふぇ?デンレーってなんでしたっけ?」

「此度の駿河行き、先般の信濃と佐久での(いくさ)、いづれも連絡が付かぬで難儀した。

伝言を運ぶ透波(すっぱ)()を上げたと、十郎兵衛殿が申しておった。

城西衆の知恵で何とかならんか?」

「はぁなるほど、通信手段ですね…ちょっと考えさせてください…」


 勘助の話終わりを待ち、駒井が続ける。


「鷹羽殿、(それがし)からも宜しいかな?

領民学校と仕官学校、教授が足りんのだ。教授を教える場所を作らねばと思うが、相談できるか?

それと、新たに支配地となった諏訪、高遠からの訴訟が多いのだが、こちらと流儀が違い、仲裁が効かぬ。

何か知恵は無いか?」

「はぁなるほど、教育制度に司法制度ですね。…これはちょっと、厄介だなぁ、時間下さい…」


 鷹羽はいきなりの依頼にあたふたしながら、懐から紙を取り出し 三菱鉛筆ならぬ武田菱印の鉛筆でメモを取る。

 余談であるが、この武田菱鉛筆は城西衆の春日君、大林君発案で実用化に成功した一品であり、軍事バランスへの影響が少ない 遠い西国での販売を念頭に、量産を計画中である。

 …話を戻し応接室を見ると、晴信が勢いよく手を振りだした。リクエストする気 満々である。


「大輔、儂からも よいか?

釜無川(かまなしがわ)を抑え込む知恵は無いか。ただでさえ土地が瘦せておるのに、毎年の大水(おおみず)で田畑が流されて領民が泣いて居る。

国を()ますにはこれをどうにかせねばならぬが、良き手立てが思いつかぬ…」

「はぁなるほど、治水ですね。…これは大きいな…ちょっと考えさせてください…て、無理、いきなり全部は無理!

うち等は多少知識はありますが、普通の人間ですから、それも割とキャパ小さいんで、限界です」


 勘助と駒井、そして晴信が顔を見合わせた。

 そして晴信がニッコリ笑い、鷹羽に声を掛けた。


「左様な事、良く知って居る(よおしっておる)。先も申したでは無いか、五百年経っても、人であったと。

何も城西衆だけでどうにかせよ とは申しておらん。

お主の知恵を皆で形にするのじゃ。 

 “我、人を使うに(あら)ず。その(わざ)を使うにあり” と思って居る(おもうておる)

それに大輔、お主が申したでは無いか、 “人は石垣、人は城” であろう?」


 晴信の言葉に思わず胸が熱くなる鷹羽である。

 “今川 何為者(なにするものぞ)” とその熱い胸に誓ったのである。

 “絶対、負けねぇ!”


(あれ…鷹羽先生、そう言うキャラだっけ?)


第28話・進路相談と将来設計 完


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